JASRACに立入検査の衝撃

三野明洋氏(以下、三野):実際、2006年の秋からいろんな出来事がありましたが、公正取引委員会に「こういう問題がありますよ」って持ち込んでも、なかなかドアが硬いんですよ。

実は公取っていうのは、1日に何件もそういう持ち込みがあって。だいたい門前払いですね。「それは自分たちで解決してください」ってことなんですけど。半年ぐらい通ったんです。

何度も通って、公正取引委員会に「こんな問題があるんだ」「何とかしてくれ」と。こういう提訴をしたなかで、最後に公正取引委員会が「これは確かに問題がある」ということを認めていただいて。で、そこからは我々はなにもできないです。

高橋健太郎氏(以下、高橋):公取がいきなりJASRAC行って、また書類を運びだして。

三野:立入検査?

高橋:立入検査。あれは衝撃でしたね。

三野:あれは2008年の4月23日かな。(そういう出来事が)ありまして。ちょうどその日、僕は北京にいたんです。出張していて、北京にいて。事前に知らされるということは当然、一切ないので。いきなり降ってわく。

それで、北京にいたら電話がかかってきて「いや、大変だ。今日、JASRACに立入検査が入ったんだ」と。立入検査って言われた途端に思い浮かぶ、黒服来てゾロゾロ、ゾロゾロたくさん並んで、段ボール箱持って。あのパターンありますよね。

「うわっ、すげえな!」って話になったんだけど。北京にいたんで、ニュースも見られないんですよ。「どうなってんの」って全然わからなかったんだけど、後で聞いたらやっぱりその通りで。

段ボールに資料入れて、持ってっちゃったんですね。パソコンも全部持ってかれたし、個人のスケジュール帳も持っていかれたっていうことで。もう大変だったらしいんですね。だけど僕は北京にいたんで、全然そんな状況わかんないんですけど。

高橋:JASRACにも衝撃が走った。

最高裁判決の持つ意味とは

それで、公正取引委員会がまず1回、JASRACに対して「参入妨害がある」と認定したんですね。それに対してJASRACが異議を唱えて、取消になり、それに対して三野さんが、さらに取消の取消を求める裁判を起こしました。裁判を起こしたのは何年ですか?

三野:2012年です。

高橋:2012年。そっから3年かかって、今年の4月に最終的な判決が出て。これによって何がどうなるのか。「イーライセンスと一緒に放送権もJASRACから移そう」と思っていたavexが「だったら……」ということで、このビジネスを更に大きく統合して、一つ新しい業界のかたちに進もうとしてるのはわかるんですけども。

ただ、あの最高裁判決が、どうしてそこまでavexを突き動かす意味を持つのかっていうことが、僕でもちょっとピンとこない。

三野:別に最高裁の判決がすべてではないです。そもそも、その案件と「管理事業法」っていうのができて、我々が新規に参入して。ところが規制緩和っていうのは、法律だけ改正できれば全部が解決するっていう問題じゃないんです。

例えば第二電電ができたときも「ラストワンマイルと言って、最後の回線どうするのか」とか色々ありましたよね。それから宅急便。今まで親書を運ぶのは郵政省しかできなかった。規制改革というのは、まず法律改正なんですけど、その後に起こってるいろんな壁を壊さないと、なかなか簡単にはできないですよ。

高橋:そうですね。ヤマトのメール便とかなくなっちゃいましたもんね。親書が送れないんでね。

イーライセンスの柔軟性

三野:ですから我々も、2001年に法律改正されて2002年の4月1日から複数管理事業が始まったんですけど、そっからとにかく一個一個、周りにある壁を破って行かないとビジネスにならないんですよ。そういうふうにやってきた最後の段階が、この包括契約ですね。

包括契約だけが問題じゃないです。その前に色々ある問題を解決してきたことが、結果としてビジネスを拡大できる要素になってるんです。

avexは、新しいトライアルには積極的ですので。新しい音楽を作り、新しい使い方を作る。BeeTVがそうだと思いますけど。ほかのレコード会社がやってないことをやっていく。これがavexの考え方のベーシックなんです。そうなってくると、新しい使い方に対応できる著作権管理システムが必要なんです。

ところがJASRACは社団法人ですし、歴史が長いですし、大きな所帯なので、新しい使い方に対して、すみやかにかたちを整えるってなかなかできないんですよ。

なので、イーライセンスみたいに後から参入して新しいものに対して、どんどん。例えば「Youtubeができる」と、googleと一番最初に話して、新しい使い方の仕組みを提案したんですよ。提案して、新しい使い方に対応できる著作権の使い方を定義する。こういうことは我々の得意技なので。

そういうとこを見てたavexからすると、「ここと組んだら自分たちの新しいやり方にあった著作権管理システムを提供してくれるんじゃないか」って。彼らのニーズですね、一番わかりやすい。

それから、JASRACの場合、テレビCMになって、同じ曲がテレビドラマに使われると、どっちかがなかなかプロモーションとして認めてもらえない仕組みになってるんですよ。

我々は早期に「ダブルタイアップも使っていいですよ」「トリプルタイアップも使っていいですよ」。実は大塚愛さんの曲は、テレビドラマの主題歌、CM、映画のテーマ曲。3つタイアップだったんですね。

これってなかなかJASRACの著作権管理上、難しい。でもうちはそれに対して速やかに、「じゃあこれやるならこういう使い方でいいですよ」っていう仕組みを作っているんで。となると「JASRACよりもイーライセンスのほうが使いやすい」って、こうなるわけですね。

「著作権者は管理事務所を選べる」

高橋:そこに至る一歩一歩、一つ一つ突き崩していくというか。それはこの本にも書かれてますし、それに対して三野さんは何をどうアプローチして一歩進めた、跳ね返されたというのは2月以降の講座でやっていこうと(注:著作権とコンテンツビジネスを徹底研究する『やらまいか魂学』講座、2月下旬スタート予定)。

三野:そうですね。ただ、その講座もそうなんだけど、これのもっと前に実は2000年の1月21日に、著作権審議会の報告っていう、競争政策の報告書が出てるんですよ。

ここに実は、著作権とか関係してくるよりもっと前にある基本的な考え方っていうのが出てくるんですね。それまでの時代の独占的な管理ではなくて、競争することによって「著作権者は著作権管理事業者を選べる」っていう新しい仕組みが報告書に書いてあるんです。

それを理解していただくのが、多分その後の著作権の管理方法、それから著作権法の改正、いろんなことに全部影響してるんで。今回の講座ではそこをスタートにしたい。

高橋:なるほど。2000年に書かれた青写真が、15年かけてある程度、現実になると。

三野:そうですね。土壌は整ってるわけですね。

10パーセントをすでに見据える

高橋:今のところ、450万曲に対して10万曲がAMPから移る。これが実際10パーセント、20パーセント、30パーセント……になってきたと。

三野:だから450万曲といっても、そのなかの大半は海外楽曲なので、ちょっと対象にするのはおかしいですね。国内楽曲っていうと、今だいたい250万曲ぐらいあると。これが対象なんだけど、これを対象とするのは、また変なんですよ。

なぜかっていうと、何十年前の曲が今どのくらい使用者にとって意味があるかって言われたら疑問ですよね。我々が管理している楽曲は、新しいヒットチューンですので。

去年でいうとSEKAI NO OWARI、ONE OK ROCK、ゴールデンボンバー。それから『妖怪ウォッチ』の関連作品、もちろんavex作品含め、そのほかにボーカロイドでいうと『千本桜』など……、管理させていただいています。

avexでいうと、もちろん浜崎さん、大塚さんも管理させていただいてるんですけど、TRFが最高なんですね。実はJASRACが全部管理していた。それが3年前に、当社に全曲移行していただいたんですよ。

そしたら、その直後にDVDが出たんですね、ダンスエクササイズが。これが爆発的に売れて。100万枚単位のDVDの売上が出たんです。我々からすると、移行しただけで徴収額が爆発的に増えてるんですね。

例えば、こういうことが起こりうると。曲数だけではなくて、「今使っていただきやすい作品をどれだけ揃えられるか」っていうことが、著作権管理事業者の場合はビジネスとして大きいですね。

高橋:avexはだいたい業界シェア17パーセントですから、曲数でいうとパーセンテージは小さいけども、実際に徴収額で言ったらはるかに大きいですね。

三野:そうですね。今のavexだけでも圧倒的なシェアになってますので、そこが周りに協力していただければ。10パーセントは。

高橋:じゃあ、10パーセントはすでに見えている、と。

三野:そうですね。

制作協力:VoXT