ソーシャルはやらないが、メールは使うという人が多い

田端信太郎氏:LINEとしましては、私達として、ソーシャルメディアだと積極的に主張したことはございません。

なぜかといいますと、LINEというのはパブリックなコミュニケーションを取るというよりは、元々知っている友人、知人同士でクローズなコミュニケーションを取るためのアプリなのだと基本的に認識していまして、そのためには不特定多数に自分の意見を発信したり、自分の言いたいことを言ったりという形のアプリではないんですね。

どちらかと言いますと本質的にはもともと、docomo.ne.jpとか、ezweb.ne.jpという、携帯電話会社さんが提供しているメールアドレスがあったと思うんですけれども、そういったところでですね。

いわゆるガラケー時代のコミュニケーションを取られていたニーズが、スマートフォンに移行するために我々のLINEに来てくれたというのが実態かなと思っていまして。

元々ですね、実はスマートフォンの前から、皆さん携帯メールを送る件数、回数のほうが電話をする回数よりずっとずっと多かったじゃありませんか。

でも総務省の主導でですね、モバイルナンバーポータビリティという形で、携帯番号が会社をまたいで持ち込めるようになったんですよ。ソフトバンクさんからドコモさんへ、ドコモさんからソフトバンクさんへ。

ところが携帯メールについては、ノーケアでした。携帯電話の引っ越しをすると、これが自分の携帯メアドですっていう形で友人、知人等に一斉通知したりするんですけれども、そういったようなメール、皆さん見たことあると思います。

LINEが普及するようになってから、激減したんではないでしょうか。ひとたびLINEで繋がっていれば、携帯電話会社というものを全く意識する必要ないんですね。海外転勤になって海外の携帯電話会社と契約しようが、普通にスマートフォン、アンドロイドやiPhone使っていれば、そのままLINEに引き継げるわけです。

つまりLINEがもたらしたのは、携帯電話と、携帯電話上で最も使われてきたアプリの1つ、メッセージ自体を紐付いてたんですけど、分離してあまりにも非常に広く使えるようになった。

だから実情ソーシャルはやらないけれども、メールは使うという人達、非常に多いんです。そういった人達が数千万人単位でいて、そこに刺さっていくからLINEは5千万人に使っていただけると、そんなふうに思っています。

クローズドなコミュニケーションだから出来ること

ちょっと違う言い方をしますと、いわゆるTwitterの中でですね、特にアルバイト店員のおふざけ写真問題っていうのがありましたけれども、LINEの中でもいろんな写真、我々としても見てないですけれども、飛び交っていると思います。

Twitterのほうがですね、ひとつひとつの写真にURLが張り付いて、外から、2ちゃんねるから晒されたり、検索に引っかかったりする可能性っていうのは、LINEの個別の発言にはありません。

特に女性の方に多いんですけれども、自分が良く知らない人から、自分が何を食べてるとか、誰と何を話しているとか、そういうことを見られること自体気持ち悪いという。LINEの中であれば、まずですね、外部に晒される危険性が無いですね。

だから非常にリラックスして自分の言いたいこと、あるいは共有したい写真とかを共有することが出来るっていうことが、非常に増えているんじゃないのかなあと思っています。

無視されるのが当たり前になってしまった広告

そんな環境なんですけれども、そんなメディア環境のLINEを企業さんの立場で使っていただく。先ほどから申しているようなところは、今日のメインテーマなんですけれども、今企業が発信するマーケティング・コミュニケーションは無視されて当たり前っていう状況になっていますね。

例えばなんですけれども、これはメールマガジンの開封率です。アメリカの有名なリサーチ会社なんですけれども、いまや、2008年から今年ですね、徐々に下がってきてるんですけれども、90%の企業から発信されているメールは開けられてすらいません。

皆様もおそらく日々マーケティングのためにメールを送っているかもしれませんけれども、開封率自体がどんどん下がってきています。おそらくガラケー時代にdocomo.ne.jpとか、ezweb.ne.jpのメアドを空メールでいろいろ集めたと思うんです。非常にコストをかけて、1アドレス吸い上げるとか。

今お持ちかもしれないですけれども、ほとんど無関心になってきているんです。いろんな形でフィルターにして跳ね返される。フィルタリングされたらそもそも見られてない、あるいは届いていない。そういった形で集めていたものが、もう無視されていますよね。無視されている以上は無意味で、持っていないのも同然なわけです。

これは今メールのことを申しましたけれども、PCのバナー広告自体の平均的なクリック率というのもどんどん下がっていってます。

これは加藤レオさんという売れるネット広告社という会社を創業されている社長の方で、ダイレクトマーケティングの業界で非常に有名な方なんですけれども、その方のブログから、とあるポータルサイトのバナーの平均的なクリック率なんですけれども。

今やもう0.19%。0.19%っていうのは結構良いほうだと思います。つまりミスクリックも含めてこうなので、バナー広告だろうが、いまや無視されているということが当たり前のことなんです。

録画視聴率をカウントしないのはおかしい

じゃあなぜ、こんなふうに無視されるようになったのかっていうことなんですけれども、あるいはさっきから言っているテレビも含めて無視されるようになってきています。なぜなのかと。

例えばこのインターネットが出来てからの10年、15年何が変わったかというと、インターネット以外でもですね、ハードディスクレコーダーの普及率なんですけれども、2002年は約2割でした。ところが2013年には8割になっています。10年前、15年前はハードディスクレコーダーは無いのが普通。が、いまやあって当たり前になりました。

これはですね、例えばテレビのCMの業界なんかでいまだに録画視聴率について、これまでは全く視聴率にビジネスモデルとしてはカウント外で、やっていなかったんですね。

今はやっぱそれで良いのかという議論が沸々としてて、やっと今そこが立ち上がろうとしていますけれども、録画されているものに関しては、なかったことにされているんです。臭いものに蓋じゃないですけれども、見ないようにしようというのが本音なんじゃないかと思います。

ニュートラルなリサーチとして、NHKの中でもですね、生活時間調査。NHKさんは全国民がどんなふうに時間を使ってるのかを5年おきに調査されてるんですけれども。

平日にビデオを見た人が、例えば2005年と2010年、これなんです。土曜日、日曜日と出ている。ビデオを見た人の率が、どんどん上がっていくんですね。2005年、2010年のリサーチで。

見た人を分母にして、見た人が平均的に何分見ているかっていうところも2005年、2010年で上がってるんですけれども、言い方を変えますと、ハードディスクレコーダーが出てきたおかげで、かつてのVHSとかビデオテープとかよりも、録画して見ることの使い勝手がはるかに良くなりました。

結果、ビデオを見るっていうこと自体をしている人の比率、あるいは使われている時間が確実に増えています。つまり、この2005年から2010年、あるいは2015年はもっとだと思うんですけれども、録り溜めておいてですね、録画しておいて、週末とかに特にテレビを見るっていうこと自体は極めて一般的な行動になっています。

おそらく皆さんも何度かやったことがあると思います。極めて一般的な行動になっています。

ところがさっき言ったようにテレビの業界なんかは、録画していることはいまだになかったことになっているんです。これは試験的にビデオリサーチが調べたんですけれども、例えばドラマなんかで言いますと半分近くが録画されているんですよね。

消費者はもうコントロールできない

例えばなんですけれども、金曜ロードショーという日テレさんの非常に有名な枠があります。金曜ロードショーで流れるのは当然土日の直前ですから、自動車メーカーさんから言えば週末の試乗会に来てほしいところですね。ハウスメーカーさんから言えばモデルルームに来てほしい。そういった思いで企業が容易に流すわけです。

ところが金曜ロードショーは典型なんですけれども、ジブリの映画とか流れたときに、僕なんか子どもがいるから特になんですけれども、そのタイミングで見るか。見ません。その土日のためにと思っているんですが、一週間後とかに「パパ、この前のジブリ見ようよ」って言って見るんです。

何回か見るんですが、我が家のテレビの中ではいまだにエコカー減税急げ! とかいう杉ちゃんのCMが流れているジブリの『となりのトトロ』とか流れまくっているんですけれども(笑)。

非常に広告費用、効果としては勿体無いわけです。もう何回も見てるけど行く頃にはそのフェア終わってるんじゃないかと。テレビの中ではですね、どのスポットCMをどこに流すかっていうことが非常にせめぎあうような、広告代理店も含めてすったもんだする大争奪なんですけれども。

実は深夜番組だろうが俺は7時にご飯食べながら見たいとか、テレビの番組ごとに決めること自体が無意味になっているんです。つまり今どうなっているかというと、消費者は鳥かごから羽ばたいた鳥のように。

実は私、石川県出身の田舎者で、中学2年まで民放2局しかありませんでした。ところが今石川県の中学生の手元にスマートフォンがあれば、どれだけの選択肢のコンテンツを見る自由があるかと。

もう鳥かごから羽ばたいた鳥のようになっているんですね。その自由はスマートフォンか、ハードディスクレコーダーのようなテクノロジーがもたらしているわけです。だから見たくないものを、無料メディアなんで広告主さんのご都合に付き合って見てくださいっていうことが、もはや無理なんです。

消費者をコントロールしようと思わない。コントロール出来ません。消費者をコントロールする権利はありません。

そんな中で、じゃあなぜLINEがというところなんですが、最大の特徴としてはやはり、今日のテーマですけれど、無視されない。無視されないから認知してもらえて、結果的に人に動いてもらえる。そんなふうに思っております。

LINEのスタンプは無視されない

じゃあなぜ改めて、LINEの企業スタンプが無視されないのか、ということでございます。私ももう40歳近くてですね、結婚してからLINEの技術をやっているんで、そんなスリリングな内容の恋愛話はないんですけれども。

今の若い男女とか、大学生とかですと、このLINEの中でいろんな男女の出会いっていうのがあるわけなんですね。例えば合コンであればLINEで相談して、なんか微妙かなって思ってたけどLINEの誘い方が上手いとデートに行っちゃうとか、ちょっといろんなドラマが繰り広げられているんです、日々の中で。

すみません、しつこいですけど、個別のトークの内容は我々は見てないです。容易に想像がつくわけですし、実際リサーチに裏付けられているところです。

もうすぐバレンタインデーですが、例えば若い男女がはじめてデートに行きました。楽しく横浜でデートします。品川まで帰ってきました。そこで家が違う方面なので電車が別れます。今日楽しかったねーっていう形で、会話をLINEとかでするわけです。

お互いですね、付き合おうかな、良いふうだなと男が思っている。脈がありそうかなと。そんな状況で、このロッテさんのコアラのマーチのラブっていうスタンプが女性から男性に送られてきたとしましょう。その男性の気持ちを皆さん想像してください。

これはある意味ですね、今このスポンサードスタンプって、ある程度の価格を頂いている枠なんです。ロッテさんが出している。ここに広告代理店さんのマージンの何%だとかですね、誰部長の決済だとか、いろんな大人の力学がうごめいているわけなんですけれども。

ただ皆さん待ってください。そんな大人の力学が込められてるかもしれないですが、そこで若い男女が良いムードになってLINEとかで会話して、これが送られてきた瞬間を想像してください。これ広告枠ですよ?

広告とコミュニケーションの融合

僕もライブドアにいたときに営業をしてました。皆さんも、ポータルサイトのトップページにポップアップしてくる広告を見たことがあると思います。あるいはYouTube。僕YouTube大好きなんですけれども、YouTubeで急に5秒差し込まれたり、30秒無理やり見せつけられる広告とかもあると思います。どうですか。正直うざいなと思うじゃないですか。

これ(スタンプ)もどうですか。これもいきなりぴゅっと出てきたら、うざいなと。LINE空気読めよと。今良い感じに話してたのにうぜえ広告入れやがってとなると思いますか。まず思われない自信があります。

なぜか。これを送っているのはLINE株式会社が勝手に送っているわけでも、ロッテさんが勝手に送っているわけでも、広告代理店さんが勝手に送っているわけでもなくて、その自分が今、良いかなと思っている女性がある気持ちを込めて送ってきているわけなんですね。

つまり、LINEの広告モデルのスタンプというのは、広告枠にありながら、コミュニケーションと広告が渾然一体になって融合しているわけです。いまや嫌いな子どもにですね、ニンジン食べなさい、栄養あるから食べなさいとそのまま言ったって食べないじゃないですか。

それをフードプロセッサーにかけて、ミンチ肉とすり合わせてハンバーグにして食べさせるような形で、広告を広告だとそのまま出したところで無視されちゃうんですね。だから広告とコミュニケーションを渾然一体にしないといけないんです。

そういった結果何がもたらされるかと言いますと、もちろんLINEのスタンプも無視することはできます。ただLINEの中でスタンプを無視することは、広告モデルと言えども、友だちを無視することになるんですよ。

ここにちょうどですね、マーケティング的に見たLINEの特性があるんじゃないかなあと、そんなふうに思っています。

制作協力:VoXT