目的を明確化すれば「ぶら下がり」は防げる

青野慶久氏:あと、よくこれも言われるのですが「ルールを作ったら、ぶら下がる人がでてきませんか?」と。例えば、在宅勤務の制度を作りました。みんなが在宅勤務の制度を使って「え、明日、在宅勤務してほしくないんだよな」と思っても、「何を言うんですか? 在宅勤務の制度があるのに、私が使って何が悪いんですか? ルールがあるじゃないですか」などと言われると、ちょっと嫌な感じですよね。

何がおかしいのか、という話なのですね。それは、ルールはあるけど目的が欠けている状態ということになります。何のためのルールなのかということをはっきりさせておかないと、ぶら下がることになってしまいます。

サイボウズにおいて、この目的は最初にお話した通り、チームワークあふれる社会を創ることです。そのためにいいグループウェアを作り、それをたくさんの人に使ってもらうこと、これが僕たちの目的なのです。いかなる制度も、その目的に沿って使われなければ意味がない。

在宅勤務制度があるのは何のため? この理念を実現するために使ってください。あなたの個人的な都合によって使わないでください。この目的に沿って使ってくれるのであればOKですと。もちろん、それがあなたのためになっていればもっとOK。でも、この組織の目的に沿って使わないのであれば、もうそんな制度は廃止しますと、そのように伝えています。

そうすると、みんなも目的を理解して使うようになる。そして目的からそれた使い方をするような人がいると、お互いに指摘し合う。「それはおかしくないか?」、「おまえの都合のために使ってないか?」ということになるのですね。

これを言っていると、変な制度ができまして、営業の人がよく外回りをしていると空き時間ができるじゃないですか。それで、空き時間にドトールやスターバックスなどに行って、仕事をするのですよ。そのときに「コーヒー代を出せ」と言うわけです。「はあ?」ですよね。「アホか」、「なんでおまえが飲んだコーヒー代払わなあかんねん」、「俺、自分で買っとるがな」と。それが、うまいこと言うのですね。

「青野さん、僕は営業マンとして、いかなる空き時間も、理念のために活動したいと思っております。グループウェアを少しでも多くの人に使ってもらうために、空き時間もがんばって働きたいと思っています。そのためには、環境のいいところで僕は働きたい。そうすれば、もっと成果が出る。だから、このコーヒー代というのはいい投資です」。そういわれると「お、うまいこと言うな」ということになりますね。

そこで、このコーヒー代補助制度というのが今できまして、これ、営業のメンバーが使えるわけですが、ある意味、社内で内勤しているメンバーは使えないわけです。コーヒー代を、自分で払わないといけないわけです。そこにまさに差が出てしまうのですが、不公平感がないのはなぜかというと、ちゃんと目的があるからですね。

「営業のメンバーが空き時間を使ってね、自分が作ったソフトを少しでも売ってくれるためにがんばるんや」とそう思えば、これ、営業のコーヒー代も認められるということになります。ただ、こないだこれで問題が起きまして。この制度を使って、サンドイッチを食った奴がいたのですね。

(会場笑)

「それ、いらんだろ!」と、「それ、目的的におかしくないか?」というようなね。それはあえなく経理に却下されていましたが、そういうことです。目的がはっきりしていると、その辺りも判断しやすいということになります。

子育て体験から生まれた「チーム制マネジメント」

そうはいっても、会社の中で風土を変えていくのは大変ということで、私も育児休暇にチャレンジしてみました。先ほどお話しましたように、私はどちらかというと古い人間で、育児などはしたくなかったのですが、一応、社長が率先垂範しようということで、いろいろとチャレンジしました。

そうすると、やっぱりいろいろな気付きもありますよね。これ、本当に働きながら子育てをする人は大変だなということを、身をもって知ります。3人目が一昨年生まれたのですが、3人もいるとかなり大変です。

上2人がまだ保育園だったので、一番下の子を妻がみてくれて、上2人を僕がみようということになりまして。朝、保育園に送りに行きますし、4時半までに迎えに行かないといけませんから、4時に退社して、もうダッシュで保育園に行くということをやっていました。

そうすると、やっぱり会社の雰囲気が変わってきますよね。なにしろ、会社の中で一番の社長が、4時になったら「お迎え行きまーす!」と飛び出していきますから、その後、5時や5時半に帰るお母さんは余裕ですよね。「私も帰ります」というような感じですよ。

それまでは、申し訳なさそうに「すいません」と言っていたのが、「あ、この会社はあの感じでええんや」という、「子育て優先でええんや」といったような。こうした風土に変わると、またまたサイボウズに魅力を感じて人が集まってくるということになります。

それで私も4時まで勤務という、制限のある戦いをやっていたわけですが、そこで気付いたのは、「やっぱこれ、1人で仕事やってたらあかんな」ということですね。4時に帰ると、4時半に来たメールに、当たり前ですが答えられないのですよ。自分のメールを誰かと共有しておかないといけない。

私の仕事情報をできるだけメンバーと共有して、お互いに助け合って仕事をしていかないと、仕事に差し支えるということがわかった。そこでチーム制にするという必要がありました。

ですから最近は、社内でも新人研修からチームを組ませてチーム制にさせていたり、それから仕事の情報もできるだけグループウェアに開示して、共有してもらっています。日報もそうですが、はい。

人と会ったらコンタクト履歴を残してもらったり、営業案件であれば案件管理をしてもらったり、もうとにかく自分の持っている仕事の情報をできるだけチームの人と共有してもらう。そうすることによって、この制限がある人でも活動に参加できるようになる。

石垣のようなイメージでしょうかね。大きい石、ちっちゃい石がありますが、あれを個人制にすると、ほぼ役に立ちません。でも、組み合わせると、なんとかこう安定した土台が作れる。そうした感じのチーム制のマネジメントに、これからは変えていく必要があるのだろうと思います。

日本の少子高齢化をどうするか

そういうことで、あと残り10分ぐらいですので、最後は社会問題についてお話をして終わりたいと思います。私も働き方の多様化を進める中で、また家事育児に取り組む中で、いろいろな学びがありました。

一番驚いたのがこれですね。少子高齢化という、すごいことが起きていますよね。私は第2次ベビーブーマーのところにいるのですが、そのときには同世代が、男100万人、女100万人、計200万人もいたわけですよ。

ところが、今はもう50万人弱しかいないわけです。赤ちゃん人口はこの40年で半減したということになります。日本全体の人口があまり減っていないので気付いていませんが、赤ちゃん人口がものすごい勢いで減っているということになります。

しかもバッドニュースとしては、第2次ベビーブーマーの女性、人数の多かった女性が40代に突入しています。ということは、出産が難しい年齢に突入したということです。放っておくと、この勢いでもう1回赤ちゃんが減っていく。もう1回40年後には半減している、そういうことが簡単に予想できるわけです。「これはまずいぞ」ということですね。

高齢者が増えるわりに、働く人、若者が増えませんから、社会保険料が、収入が増えない代わりに、給付が増えて、借金がどんどん増える。非常に当たり前のことが起きていて、今、もう国は「2025年がヤバいぞ」というようなことを言っている。

この少子高齢化というのを、他の国はどうやっているのだろうと思ったら、意外とうまいことをやっている国がありまして。この出生率が2を切った後、スウェーデン、アメリカ、フランス、イギリスあたりは、グイーッとがんばって2ぐらいまでに戻しているわけですね。

これがボーっとしてる国が、グイーッとさらに下がって1.5を切り、1.3や1.4に低迷している。これがドイツ、日本、イタリアと、なぜか戦敗国になるというわけですが……(笑)、不思議ですね。こういうことが起きている。

つまり、これにはやり方があるのですよね。やり方はあるのですが、できていないということになります。対処できていないのが、今の日本ということになると思います。

イクボス化は国家的最重要課題

例えばこれは、夫の家事育児と第2子誕生の相関関係を表したものです。1人目の子供が生まれたときに夫が家事育児をまったくしない家庭は、第2子が生まれる確率が10パーセントを切る。ところが、夫がまあまあ家事育児をすると、7割ぐらいの確率で第2子が生まれる。こういうことがわかっています。

つまり、夫が長時間労働をやめて家事育児に参加すると、それだけで出生率が上がるということがわかるのですが、でも、やっぱり日本人は長時間労働が大好きで「長時間働かないと儲からない」などと言って長時間働いて、さらに市場は縮小していくという、こうした悪循環に入っているように思います。

これを政治や企業のリーダーが気付いて対処をしてくれればいいのですが、残念ながら、そのリーダーたちは家庭を顧みずに働いた人が多く、家庭を顧みずに働いた人がこの地位に就いている場合が多いので、これがまた悪循環で、問題を理解していない人が、今の実権を握っていると。

ですから、ぜひ次の世代にこのやり方を引きずらないように、イクボス化するというのが、今、国家的な最重要課題ではないかと思います。次の世代に同じことやらせない、ということですね。まさに私が抱えている葛藤のような、僕は職場で燃え尽きるほど働きたいのですが、次の世代の人にそれをやらせてはいけないという、そうした感じです。

それを伝えていこうと思いまして、テレビや雑誌でもできるだけ発言をするようにしています。たくさん取り上げてくださるようになってきました。それからムービーも作りました。これは3年前に女優の西田尚美さんを使って、ワーキングマザーがいかに大変かという動画を作りました。ワイドショーで3回も取り上げられ、160万回以上再生されるということも起きています。

そうすると、グローバルからの取材も増えてまいりまして、デンマークやスウェーデンといった、いわゆる働き方先進国と言われるような国も、サイボウズに注目してくださっています。

会社から追い出されるだけの働き方改革ではつまらない

そんなことばかり言っていますと、日本でもだいぶ話を聞いてくれるようになりまして、いろんな省庁のプロジェクトに呼ばれるようになってきました。

そうすると昨年の夏ぐらいから、安部総理が「働き方改革だ」と言い出しまして、それまでは「金融緩めて株価上げてゴーだ」と言っていた人が、……これ、どこかに記録が残ったりするのでしょうか? ちょっと差し引いて書いておいてもらいたいのですが……まあ、こう言っていた人がですね「働き方改革だ」と言っている。

当時、安部さんはすごく強かったので……また嫌がることを言ったな(笑)。ここからの動きが早くて、電通を叩くということが起きましたね。電通の働かせすぎの1件で、社長が辞任するということが起きたりしています。そこから、随分社会の空気が変わってきました。

ただ、この働き方改革というのが、私たちが持っているような働き方の多様化ではなく、単に残業削減になってしまっているということが、非常に残念なところです。この電通の社長のように辞めさせられたくないから、とにかく従業員の残業はさせないように会社から追い出すし、パソコンも取り上げるし、会社の電気消しちゃうしというような、こういうことが今起きているように思います。

そこでちょっと問題意識を持ちまして、サイボウズが今年20年ということもあり、「働き方改革、楽しくないのはなぜだろう」という、こうした企画を立ち上げました。楽しければ本当はいいのですが、なんだか会社から追い出されるだけでつまらないという、そうしたことが起きている。

そこでこのことに注目していただこうと思い、先週の水曜日に……日経新聞に一面広告を出しました。「働き方改革に関するお詫び」というのを出しまして、「すいません、サイボウズの伝え方が悪かったので、この動画を見てください」という、この『アリとキリギリス』の動画を作りました。

まさに働く象徴のアリと働かない象徴のキリギリスが、この働き方にどう取り組むのかという、おもしろいアニメがありますので、もしよろしければ、「サイボウズ アリキリ」で検索して観てみてください。

働き方の多様化こそが日本を変える

時間になりましたので、最後にまとめます。今、私たちが向かわなければいけないのは、一律だったものを多様にしていくということだと思います。個性がバラバラでよく、それを組み合わせてマネジメントする。そして、全体でうまくいくようにマネジメントしていく。こうしたマネジメントスタイルに切り替えていくことが、一番大事なのではないかと思います。

つまり、自分と違う考え方の人を見たときに、「なんでおまえは俺と考え方が違うんだ」と攻撃するのではなく、「俺と違うから、組み合わせるとうまくいくかもね」というような、こうした発想から自分と違う人を見られるかどうか、このようなパラダイムシフトが求められているように思います。

今日、ちょっと話足りなかったところは、本にも書きましたので、もしよろしければAmazonで検索をしてみてください。

チームのことだけ、考えた。―――サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか

おそらく在庫の山になっていると思いますので。……嘘です、けっこう売れています。

(会場笑)

もしよろしければ、読んでみてください。

ちょっと最後に、またまとめで終わりにします。この働き方改革で大事なことは、多様化だと思っています。多様化をすることで、100人いれば100人ともがモチベーションを上げることができるようになります。ただ、それをやろうと思いましたら、制度を作るだけではなくて、ツールと風土も併せて変えていく必要があります。ツールをそろえないといけない。風土も変える。

それをやっていくときに、このマネジメントのスタイルを個人制ではなくてチーム制にしていく、石垣性にしていく、これが大事です。そして、この働き方の多様化をうまく進めると、おそらく今、日本で問題になっている少子化の問題を解決することにもつながるので、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

ぜひ今日お話を聞いてくださったみなさんに、変える覚悟、変わる覚悟を持って、一緒に日本を動かしていければと思います。以上で私のプレゼンテーションを終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)