人間社会から計算機自然へ

大谷ノブ彦氏:メディアアーティストの落合陽一先生になります。大学の助教授だけではなく、雑誌、TV、ラジオなどメディア露出も多く、マルチで活躍されております。また国内でもグッドデザイン賞や経済産業省での賞などを獲得。さらに世界でも、欧州最大のVRの祭典で2017年まで4年連続5回受賞など、名だたる賞を日本、世界問わず受賞し大活躍の落合先生でございます。そんな落合先生の今回の講義テーマは「人間社会から計算機自然へ」です。それでは落合陽一先生、よろしくお願いします。

(会場拍手)

落合陽一氏:よろしくお願いします。こんにちは、落合です。みなさん、大学生の人ですか? それとも社会人の方ですか?

(会場挙手)

あぁ、半々くらい、あとは20代って感じですか?

僕が好きな小説にジェームス・バリーという人の『ピーターパン』という小説がありますが、読んだことありますか? 読んだことある人?

(会場挙手)

いない? 意外といない。

この前、女子高生向けに講演したら、意外と7割くらい読んだことあるって言われて、びっくりしたんですけどね。

その中に出てくるセリフの一つに「All the world is made of faith, and trust, and pixie dust.」というセリフがあります。みなさん「Faith」と「Trust」の違いって、学校で習ったことあります?

「Faith」は内にあるなにか。「信仰」や「信頼」と訳したりしますが、「Faith」も「Trust」も信頼なんです。「Faith」が内なるなにかで、「Trust」が外在するなにか、証拠がつけられるなにかです。つまり、自分の中になにかを信じることと、自分の外になにかを信じる、これは極めて感覚的な話なんです。

あと「pixie dust」は魔法という意味。つまり「認知できるもの」と「認知できないもの」があって、認知できるものは内在性があるものと外在性があるものでできている。ピーターパンが言うにしては、だいぶ深いセリフなんですよ。

なんで僕が「pixie dust」が好きかというと、僕の博論のテーマは「どうやったら人間は、今後ディスプレイやオーディオデバイスみたいな目で見えるもの、耳で聞こえるもの以上の解像度を使って、人間に対して新しく表現できるか」だからです。これが僕が東大のころ専攻していたテーマでした。そんなことをずっとやっている人間です。

人間のセンサーで捉えられぬものをいかに使うか

人間の感覚解像度は、例えばですが、あそこに超音波があるんだけど、人間には見えないんですよ。超音波って人間の耳には聞こえないし、人間の目にも見えないから内なる信頼も外からの信頼もないものなんです。

我々のセンサーでは捉えられないものを使って、どうやったら我々が見えるものやカタチになるものを作れるかが、今でもすごく興味あって、そんなことばっかりしています。例えば、これは磁場を使っていないんですけど、全部勝手に動いているように見えるでしょ?

そんな風にこの世の中のものを人間が変わっている横で、勝手に動かせるか? それが、僕が博士時代にやっていたテーマ。それから研究室を作って、ずっとこのテーマは継続してやっています。人間が見えるものと、人間が感じないものを、どうやって使っていくかに、すごく興味があるんです。

僕はピーターパンという小説が大好きなので、大体ウィキペディアからピーターパン症候群とか引っ張ってくるんですよ。「ピーターパンは未熟でナルシズムに走る傾向をもっている。自己中心的で無責任で、反抗的で依存症で怒りやすい」とか言われるわけです。人間的に最悪のレッテルを貼られているわけですけど、2回強調しますが、ポイントはこの人たちがどうやってあぶりだされるかということです。

「ゆえに、その人物の価値観を、大人の見識が支配する世間一般の常識や法律がないがしろにしてしまうこともあり、社会生活の適応の困難になりやすく、必然的に孤立してしまうことが多い」と言われている。まあ、確かに同じところに並べて学校生活を送れと言われたら、ああいうタイプの人間って、そんな簡単に適応できない。今の世の中ではピーターパンは死ぬんですよね。

みなさん、『人間の大地』は読んだことあります? 『人間の大地』に「虐殺されたモーツアルト」という単語が出てくるんですけど、モーツアルトはあそこで虐殺されるし、ピーターパンはあそこで死ぬんです。

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