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社会人として優秀な人は、定年後は落ちこぼれに? 引退後に待ち受ける「10万時間」の過ごし方

社会人として優秀な人は、定年後は落ちこぼれに? 引退後に待ち受ける「10万時間」の過ごし方

2017年6月28日、銀座の複合商業施設GINZA PLACEにて、「銀座から世界へ、つくる人と共につくろう!」をキャッチコピーに、連続トークイベント「パノラマトーク」が開催されました。第4回となる今回のテーマは「地域の『唯一無二』どうやってつくるの?」。コミュニティーデザイナーの山崎亮氏と、文化人類学者で環境運動家の辻信一氏が、これからの日本におけるローカリゼーションの重要性について熱い議論を繰り広げました。

シリーズ
パノラマトーク#04 「地域の『唯一無二』どうやってつくるの?」
2017年6月28日のログ
スピーカー
文化人類学者/明治学院大学 国際学部 教授 辻信一 氏
studio-L代表/東北芸術工科大学 教授 山崎亮 氏

経済に飲み込まれた現代

辻信一 氏(以下、辻) 僕、(作家の)高橋源一郎さんの同僚なんですね。 山崎亮 氏(以下、山崎) 大学の?  そうそう。そして、あるとき、たまたまパーティで隣にいて、「なにやってるの?」ってお互いに話してて。彼が僕に聞いたから、僕は「最近、“弱さ”というのがテーマなんです」と言った。この『弱虫でいいんだよ』という本がありますけど。

山崎 ちくまプリマー新書。中高生向けですよね?  そうそう。弱さと言ったら、彼が「ええっ、まさに今、それが自分のテーマだ」と言いだした。それは自分の幼いお子さんが病気になって、ほとんどこれは重い障がい。生き残っても重い障がいを持つことになるような、そういう危機に直面した直後だったんです。 山崎 なるほど。  それで「2人でじゃあ一緒になにかやろうか」と、弱さの研究というのをやった。 山崎 弱さの研究? いいテーマですね。  3年間やったんですよ。ほそぼそと2人だけで。 山崎 2人だけで(笑)。  そのあと本を作った。それが『弱さの思想』。 山崎 対談本。  そう。さっきの『降りる思想』といい、僕、発想がだいたい下を向いてるんです。スローとかスモールとか。まあローカルもそうですよね。やっぱり弱さのことをやっていると、障がいのことがどうしても目の前にくる。 これもさっきの話で言えば、近代的な思想、あるいは勝ち負け、競争の思想です。例えば、現代の資本主義は、まさに「誰が勝つか?」という話です。1人が勝ったらだいたい9人ぐらいは負けるけど、みんな誰もが勝てると思って必死になって、とにかく戦い続ける。そういう仕組みになっているわけです。障がい者というのは、基本的にそこから外れているというか、外されている。 一方で、もちろん平等の思想や、差別をしちゃいけないという思想を僕らは持っているけど、いわゆる経済を中心にした社会、昔は経済って社会の一部だった。 これを昔の、例えばカール・ポランニーなんていう人は「経済が社会の中に埋め込まれていた時代だ」って言うんです。 山崎 いい表現ですね。  人間の歴史は常にそうで、経済というのは社会のほんの一側面なんです。社会から飛び出したりできない。 ところが、ほんの200〜300年前ぐらいです。産業革命で、だんだん経済が社会から自らを解き放っていき、どんどん自由になっていく。少なくともそういう幻想を持つようになる。その前は、もちろん経済は基本的に全部ローカルです。みなさんご存じですよね? 経済の本質はローカルなんです。ローカルを離れた経済というのはどこにもなかったわけです。 だから、例えば200人の村だったら、すぐにわかるわけです。自分が人よりもがっちり取っちゃったら、誰かがへこんじゃうわけ。 山崎 バレる。わかりやすいですね。  あるいは、自分がちょっと取りすぎちゃったりすると、次の年にへこんじゃう。例えば、松茸。見つけたからってバーっと採れば、来年どころか、もしかしたら、もうそれっきりになるかもしれない。すごくわかりやすいわけです。 だから、自分が生きていく営みの全体の中に経済がちゃんと埋め込まれている。それがだんだん地域から自立して出ていっちゃう。 これは埋め込まれていることの反対で、英語でディスエンベディット、床を離れるという意味の「離床(りしょう)する」という言葉が使われる。だんだん地域から離床して、そして自然界からも離床して、まるで経済は自然界の一部ではないかのように思いこみ始める。 その結末が今の環境破壊です。つまり、永久に自然界からいろんなものを取り経済が成長できると思っている。都合が悪くなると、経済学は「外部」という言葉を使うんです。「でも、環境問題が……」って言うと、「あ、それ、すいません、外部です」と言う。 山崎 外部なんだ。ひどいな(笑)。  ひどいんだよね。都合の悪いことは外へ出しておいて、それでみんな数学なんかで計算して成り立っちゃっている。経済学って本当に困ったもんだなと、僕は思う。 山崎 (笑)。

弱さこそが人間の進化

 とにかく、そうやってだんだん経済が社会を逆に飲み込んでいく。今、本当に経済様様でしょ?  僕たちがどうやって生きたらいいかは、経済学者におうかがいを立てなきゃいけないみたいな時代になっている。 そうすると、経済、そして競争主義のなかで、どうにもわからないことが出てくるわけです。というのは、いろんな弱さをもつ人たちっているわけです。それは障がい者もそう。障がい者のことを見ていると、だんだんこれは他人事じゃないなということがすぐにわかってくる。 というのは、だいたい赤ちゃんが産まれたときに何時間もそこらにほったらかしにしただけでも死んじゃうわけです。そんな動物いないですよ。馬なんか、生まれて20〜30分したらちゃんと立って走り始める。その点、決定的な弱さを抱え込むことによって、人間は人間になっている。 あと、年を取る。だんだん老化していって、いろんなことができなくなったりして、そして最後には死んでいくわけです。そして、しょっちゅう病気をしたりね。 そうすると、僕らは一生を通じて弱さとつきあいながら生きていく。だからこそ、人間にとって重要なのが、家族だったと思うし、コミュニティだったと思うんです。 そういう、でこぼこに、なんとか折り合いをつけながら生きる仕組みを、人間は、だんだん進化とともに身につけていった。 逆に言えば、むしろ逆に弱さを得たことが人間の進化です。人間が人間になる決定的なポイントだったとさえ考えられる。そうすると、弱さというものはとても重要なことになってくるんじゃないかと思うんです。 コミュニティをデザインする。コミュニティをもう1回作り直していこうとするときに、やっぱりこういうことに戻っていかなきゃいけない。大都会で学んだ「勝ち負けがすべて」みたいな競争一辺倒みたいなのを家庭やコミュニティに持ち込んだら大変なことになります。 山崎 大変ね。そう思います。

我々の人生は10万時間

 これからコミュニティがいよいよ光り輝いていく。実は大都会の中だって(同じ)。コミュニティというと、なんとなく田舎のことを思いがちだけど、そうじゃないです。 山崎 ですね。  この大都会の中にどうやって人間のコミュニティ、あるいは、人間のコミューナルな側面を生き返らせていくか。どうですか?  大都会の中のプロジェクト。 山崎 ありますよ。  どんなのが? 山崎 大都会のプロジェクトは例えば、東京でも墨田区だったり。いくつかでやるんです。その時によく示しているのが「10万時間」という図なんです。ワークショップをやるときによく地域の方々に見てもらいますけど、とくに都会の人に「これ見てくれ」って言うんです。 01 我々、20歳ぐらいから働くじゃないですか。労働が始まると、今だったら20歳から65歳まで働く。1日8時間労働。16時間、24時間。最後の16から24は睡眠なので、だいたいみんな寝ているわけです。20歳から65歳ぐらいまで、週に5日間、1日8時間働くと、全部で、だいたい10万時間なんです。だから、みなさんは人生のなかで10万時間働くことになる。 大都会は、だいたいこういう価値観で進んでいて、このとき重要なのは、素早く、効率的、正確、効果的、経済的、緻密。こういうことが大事になるんです。 じゃあ、この時間に生きる人間で、これができない人はなんて呼ばれるか? これは「落ちこぼれ」と呼ばれるんです。あるいは、定義によっては、ここが障がい者と呼ばれる定義になるかもしれません。社会的にね。 でも僕らは、この10万時間だけ生きてるわけではなくて、65歳以上のそのあとの90歳までだいたい生きちゃうような時代です。その時代、1日16時間、家庭や地域で生きる時間が残っているんです。これは週5日ではなくて7日です。65歳から90歳まで全部生きるとすると、どれぐらい時間あるかというと、10万時間なんです。 つまり、みなさんが20歳の頃から65歳で定年するまで、ずーっと働いてきた全労働時間と同じだけの時間をまだ持ってるんです。65歳から。 02 その時間に大切になってくる価値観はちょっと違っていて、失敗が多いとか、そこそこ、わずらわしい、遅い、試行錯誤、こんなことが重要になります。

「弱さ」という強さ

山崎 さっきの紐を引っ張ったけど紐だけ抜けるとか、「じゃあどうすんねん?」とか、みんなが対等になるとか、それぞれに役割が生まれるとか、そういうことって遅さのなかや、試行錯誤のなかに入ってくる。これがあると手に入るのは、信頼関係、つながり、人々の役割、健康、こういうものが手に入ってきます。 たまに、我々が地域でワークショップやってるときに、プリプリ怒っているおじさんとかがいたりする。「9時からワークショップをやるって言ってただろ。もう時間過ぎてる」とか、「まちづくりはなぜ歩みがこんなに鈍いんだ。もっと効率的に進めたらどうだ」みたいなことを言う人がいる。それで、地域のおばちゃんたちが笑っているわけです。「あの人、なんかもう口ばっかりやからなあ」みたいな。  あっちは「強さ」の強さだね。こっちは「弱さ」の強さ。 山崎 強さによる強さ、弱さの強さなんです。まさにそうですね。地域は「弱さ」の強さというのがすごく重要になってくる。だから「強さ」の強さを地域に持ち込まれちゃうと、さっきおっしゃったみたいに、本当に大変。さっきのぷりぷり怒ってるおじさんとかは、ワークショップ終わるとすぐ名刺交換に来たりするんです。  (笑)。 山崎 「ワークショップで名刺交換とかいるかな?」と思うんですけど、もらうと「●●商事元部長」とかいう名刺もらったりするわけですよ。「この名刺、意味あるかな?」とか思うんです。 すいませんね(笑)。だけど、「元部長」がいるかって問題なんですよ。「元部長の名刺……なんのために作らはったんだろう? この人」と。だから、なんかそういうことじゃないと思う。 つまり、地域の時間のほうに「すばやく」「効率的「正確」みたいな価値観を持ち込まれちゃうと、そっちが落ちこぼれと呼ばざるをえないです。 こっちはそんなことをやられちゃって、1人がリーダーになってグイと進めたら、みんなただ「やってくれはるやん」となるし、その人倒れたら地域活動が止まることになっちゃうので、そんなことやってほしくないんです。 もっと、よろよろといってほしいんです。いろいろぶつかりながら結束力を高めて、みんなに役割が与えられて、うまくいったら全員で喜ぶみたいな感覚がほしいのに、「私に任せれば全部こういうふうに効率的に進められます」なんて言っちゃうと、「ちょい、やめてください」という気持ちになる。

  
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