実は象に近いマナティの生態

ハンク・グリーン氏:海牛ともいわれるマナティですが、一目見るとジュゴンと近縁である3種のマナティがいて、またアザラシやセイウチの親戚と思うかもしれません。しかし実のところマナティは象や、小さいですがずんぐり型のハイラックスに最も近いのです。

だいたいはひれ足に爪があり、大昔の陸上生物の名残だといえます。

彼らは熱帯地域の浅い沿岸水域や河川に住んでいて、とても孤独な船乗りがイモイモした灰色のマナティを魚尾のあるイカした女性と見間違えたことにより、古き人魚伝説が誕生したのではないかと考える歴史学者もいます。

しかし人魚伝説の由来が正しくなかったとしても、マナティには生きていくうえでの特別な順応能力が備わっていました。その能力がなければ、海牛といわれるまでには至らなかったでしょう。

その1つに、彼らは新しい歯を生えさせ続ける必要があります。マナティは草食系で食物である水草や塩気があり淡水植物を食べます。それも量が尋常ではなく、体長3メートルの体重500キロある巨漢を維持するため、他の大きな菜食主義動物のように食べます。この優しき大きな生物はそうやってほとんどの時間を狩猟生活に費やします。

水草類はカロリーに欠けるので、体重を維持するためには体重の10パーセントにあたる50キロの食物を食べなければならないのです。そして彼らが口にする水草類はほとんどが不快な音を発する砂で味付けされたもので、絶えず歯をすり減らしながら食べ続けていなければなりません。

幸いにも新しい歯が生え続けるので、生涯歯を失う心配はありません。歯が前の方まできて食べ物を噛んですり減っていけば次第に抜け落ち、いわゆる「行進臼歯」が奥の方からゆっくりと前の方まで押し出されるようになっています。

このタイプは多換歯性といわれ、哺乳類では珍しいとされています。マナティ、カンガルー、そして象のみがその特徴を持っています。マナティには捕食できる動物がなく、食物を口に入れて1日中ムシャムシャしながら、なんとかこの貧しい食生活を続けられるのです。

マナティの体毛はすごい

しかし彼らにとって冷えは大敵です。この荒削りな食生活をするために彼らの大規模な消化器官が使われるのですが、体の大部分はとてもデリケートで低代謝です。ずんぐりでぜい肉ののった体型に見えるのですが、実際のところは他の水生哺乳動物に比べマナティは低脂肪なのです。

ある意味ではこの貧しい食生活が関係しているのですが、温水環境が体を十分に温めてくれるので余分な体毛がなくても生きていけます。なおかつ体を温存できる耐性がなく、冷水に対して敏感で季節による温度変化の影響も受けるのです。

マナティは単独行動型ではありますが、寒い季節にはパワープラント近くの温水や温かい水が流れる場所で群れをなします。

しかし、2010年に発生したフロリダの寒波により何百匹ものフロリダマナティが大量に死を遂げましたが、生きていくための温度に達しないときもあります。

人間との関わりの深い浅瀬に集結している傾向にあるのも、船との衝突事故死を避けるためでしょう。しかし海調査を通して、マナティにはかなりの強みがあることもわかりました。それが彼らの体毛です。

禿げているように見えるかもしれませんが、実はマナティには少しながら体毛が生えており、量がない分それがかえって利点になることがあるのです。

彼らの体毛は厚くて触覚機能があり、その一つひとつに脳の感覚皮質に繋がる神経伝達系が張り巡らされています。あなたが飼っている猫のひげのように、この触毛には周囲の物体を察知する能力があります。

人間以外の哺乳類にはこのような特殊化した体毛が頭は顔に散在しているのですが、マナティには体全体に生えています。生物学者いわく、3,000本以上の体毛のために浅瀬で暗い水の中でもしっかり進むことができ、動きや振動も感知することができるとのことです。

さらに2,000本の顔ひげが生えており、採餌中でも食物を感じ取り捕えることができるようです。採餌活動のため上唇の左右側は象の鼻先のように独立して動かすことができ、水生植物を探り当てるのに寄与しています。

もしもあなたのすぐ近くにマナティが生息しているのであれば、もっと注目してみてください。そして愛らしい海の癒し系であるマナティを、かわいがってあげてください。