村本氏「人が作ったものは、なくなっても仕方がない」

藤田晋氏(以下、藤田):ちょっと、質問を変えてもいいですか? UUUMといったYouTuberのプロダクションのような事業をやっている会社の方などがネット界隈では増えたり、YouTubeはもちろん、MixChannelやTwitter、といったネットメディア発で有名人が生まれてきたりしています。

逆にCDが売れなくなってきているということも起こっています。芸人さんも昔のようないい時代じゃないことも、聞きました。そういった、出演者の仕事が今後どう変わっていくのか。そもそも、どこからスターが出てくるのか。

有名になりたい人は、今でもいっぱいいると思いますが、タレント業とか歌手業、俳優業といった業種はそもそも有望なのか。

村本大輔氏(以下、村本):例えば『すべらない話』『アメトーーク!』などの番組あるじゃないですか。そういうものでも今、出演してもそれほど人気が出なかったりするんです。『すべらない話』は放送したばかりのころは1位をとればけっこう売れたりしましたけれど。『M‐1』もそうです。最初の方で優勝した人たちはけっこう報われています。

出演した番組などは、自分たちが作ったものではないです。人が作ったものをやっている以上は、それがなくなってしまっても仕方がないかなと思ったりしますね。

『M-1』を見ていて、今年は銀シャリが優勝しました。関西だと視聴率が20パーセントだったと言っていました。すごいなと思いつつ、どこか寂しい雰囲気もありますよね。町の銭湯じゃないですが、そういったものがなくなって、スーパー銭湯とかいろんなものばかりになってしまうのかなと。

以前、(明石家)さんまさんが「3ヶ月に1回、タレントがどんどん入れ替わったりする」とおっしゃっていたのを聞いた記憶があります。確かに、吉本のタレントでもパッと出ていた人はすぐに見かけなくなったり、入れ替わりが激しかったりします。それでも芸能界でうまくやっていこうとする人は、その流れのなかで流されることもあります。結局、自分がなにをやりたいかなんですよね。

キングコングの西野(亮廣)なんて「ひな壇に出ない」と言っていて、最初はすごく叩かれていましたし、嫌われて、番組からも「なんなんだ、あいつ!」と言われていたんです。それをずっと貫き通した結果、自分の描いた絵が話題になって「ひな壇に出なくてもおもしろいな」と、『行列のできる法律相談所』などに出るようになったり。彼の周りが、また回り始めているんですね。

秋元先生が先ほど言っていた、時計の針を合わせるとちょっと遅れるという話があったじゃないですか。今売れているものを目指すと、数秒遅れるから、結局は二番煎じ、三番煎じになる。芸人として、芸能人として大きくくくったもので生きようとするより「自分はなにをしたいか」を考えて、それでたまたまテレビに出られたらラッキーくらいな感覚で、僕は思っているんです。

藤田:テレビ以外のメディアの重要度は、変わってきてるんでしょうか?

村本:芸人にも、2パターンあります。中川家さんが言っていたのは、テレビは宣伝で、舞台が本職。テレビに出て、そこからお客さんを連れてくるから舞台に出るんだと言っていたんです。なんでもかんでも出たいわけじゃない。舞台で漫才やりたいという芸人もいます。

逆に、漫才をやってテレビタレントになって、もう舞台に戻ってこれなくなった芸人も、けっこういます。例えば、急に学園祭とかで漫才やるとなったときに、今売れてるはずの人がダダすべりで、ぜんぜんダメだったりするんですよね。たぶん、もう戻ってこれなくなっている。テレビの中だけでしか生きていくしかない人もいる。

だから、ちゃんと自分の居場所を見つけながら、テレビに出ている。いろいろ……芸人によって違うんですよね。

ネットはいろんな人を見つける力が強い

藤田:テレビにずっと出ている人が、昔からの大御所の人が多くなってきているような気がしています。あと、スターが新たに出づらくなってきている気がするんですけど。

村本:これは、秋元先生に聞きたいです。僕もそう思っているんですよ。やはり、さんまさん、ダウンタウンさんは、いわゆるピラミッドの頂上あたりにいます。例えば、紳助師匠が引退された後、その枠に今田(耕司)さんや東野(幸治)さんがパッと上がったじゃないですか。結果、番組をやっていらっしゃるじゃないですか。

引退など、そういうことでもないかぎり、大きくパンと変わることがなさそうじゃないですか。僕が150歳くらいになるまで待たないとダメなんじゃないかと思うときもあります。それじゃあ、ちょっと違う道に行くくらいしかないのかなとか。

これも、結局は人の結果を真似しようとしているから、決して追いつくことがないという気がしています。このあたり、どうですか? スターについて。

秋元康氏(以下、秋元):それだけテレビが、老若男女から支持されていて、みんなが同じ時間にテレビを見ている。そこに、昔で言えば大橋巨泉さんといった名司会者がメジャーだったわけですよね。

その流れで、ひょうきん族から(ビート)たけしさんやさんまさんなど「みんなが知っている」がスターの条件だったんです。認知と人気が一致していたんですよね。でも今は「この分野の人しか知らない」「でも圧倒的に人気がある」「この人のものなら全部ほしい、全部見に行きたい」となっている。

とはいえ、この流れは昔からあるんですよね。声優さんなどがそうです。30年くらい前に声優さんのコンサート構成や演出をやっていたんですが、あの当時、麻上洋子さんなど、いろんな人たちがいました。アニメのなかで人気があるキャラクターの声をやっていた人たちは、実はすごく支持されていた。これは当時からあったんです。

今、ネットなどを通じて、トータルで見たら「そんなに知らない人」が出てきたんじゃないかなと思うんです。でも、そのほうが長続きしそうな気がしますよね。

大多亮氏(以下、大多):テレビには以前、人気者というかスターを見つけてくる力がありました。秋元さんにとっても、とんねるずさんはもともと新人でしたよね。うちでいうと、『ドリフの全員集合』という燦然と輝く土曜の夜8時枠に対して、裏で『ひょうきん族』を始めました。ここでたけしさんやさんまさんが出てくるんです。

要するに、そのときはまったく売れていない人を「おもしろい!」というだけで見つけてきて、いろんなコントをやってもらう。そして最後に『8時だョ!全員集合』を抜くことになる。これが、テレビを作っている醍醐味で、楽しくてしょうがないんですね。

僕も、立派な脚本家や俳優さんが出てくれないから、トレンディドラマでは若い脚本家や俳優さんを集めて作るしかなかった。だから、常にゲリラ戦が展開されていて、そこからメジャーになっていく流れというのがあります。

そのメジャーがゲリラに破られる歴史をやっている間は、テレビは強いと思っています。この循環がなくなると、やはりテレビの活力は失われてくるかもしれない。今、テレビよりもネットのほうがいろんな人を見つけてくる力が強いのかなと、話を聞いていて思いました。

家庭用ホームビデオの登場からスターが生まれていない

村本:売れている人と話しているとき「いや、俺らの時代はもう少なかったからな」と言うんですよ。売れることを目指している人数が少なかったから、と言うんですね。

例えば、僕みたいな性格悪い芸人だとしたら、ほかにも似たような芸人が何パターンかいたりするんですよね。女芸人のなかにも体張る女芸人がいたりして、パターンを選べるようになってきている。

これには、テレビに近いところがどこかあるんじゃないかと思っていて。「少なかったから強かった世代」の人が、テレビとともにやっている気がします。そうではない?

秋元:僕が、大きく視聴者が変わったなと一番思ったのは、『夕やけニャンニャン』というおニャン子クラブの番組があったんですが、夕方の関東ローカルにも関わらず、初めは関東でしか見られなかったんです。だから、当時出始めたばかりのビデオデッキで録画したものを親戚に送ってもらって、地方の人がご覧になっていたくらいでした。

『夕やけニャンニャン』の前に『オールナイトフジ』という、素人の女子大生を土曜日の深夜に出した番組を作ったんだけど、そのときから素人がテレビに出るっていうことに、違和感がなくなっていたんですよ。なぜかというと、それは家庭用ホームビデオの普及とともにある。

僕らの世代は、電気屋さんの前に置かれているビデオカメラの前を通り過ぎて、「お、写ってる、写ってる」とか行ったり来たりしていたんです。なにかしなきゃいけない、なにか芸をする、だから歌手は歌が上手い。

でも、家庭用ホームビデオがある世代は、テレビカメラが自分を見ててもなにもしないんですよ。なにもしなくていい。家庭用ホームビデオが出て「誰でも映っていいんだ」と言われた時代からスターも生まれていないし、境界線のようなものがなくなってきたんですよ。

僕は当時、家で台本を書いていたんです。そのときに見ていた『夕やけニャンニャン』で、国生(さゆり)か誰かが「今日は新田恵利ちゃんは、期末テストのためお休みです」と言ったんですよ。そんな、なめてる番組ないでしょう。

だって、昔の芸能人は、早退や遅刻、欠席して、ギリギリの出席日数で仕事をやっていました。それなのに、あっさりと「新田恵利ちゃんは、期末テストのためお休みです」、そんななめた感じが、たぶんあのころから変わってきたんですよね。

大多:別にフジテレビの自慢をしたいわけじゃないんですが。秋元さんが作られた素人文化、ひょうきん族が作った「アドリブOK」のような笑い。フジテレビには、価値観を変えることでテレビを変えるメカニズムが強烈にあったと思うんですよね。

だから、やはりゼロから1をやらないといけない。秋元さんが、なぜそんなにあのころ『夕やけニャンニャン』やオールナイターズに熱狂したのか。たぶんそういうものがいいと思ったし、圧倒的に好きだったんだんですよね、そういう番組の感じが。

だから、AbemaTVは徹底的になにかブランディングしないといけない。なんでもやります、あれもありますだと、今のようなゼロから1にはならないんじゃないですかね。

藤田:……あと5分くらいしかなくなってしまいました。そろそろ締めに入らないといけないと思っていたんですが。

村本:AbemaTVの今後について、なにか考えていらっしゃるんですか?

藤田:これからですね。とりあえずあらゆるコンテンツを揃えてスタートしたので。

村本:ああ、なるほど。