脳を騙して「VR酔い」を軽減

マイケル・アランダ氏:VR(仮想現実)はこれからますます一般的になり、多くの人が映画やゲームといったデジタルの世界に没入していくことでしょう。一方で、「VR酔い」と呼ばれる症状に陥る人も増えると思われます。

VR酔いは乗り物酔いとほぼ同じ症状、つまりフラつき、頭痛、吐き気を催します。乗り物酔いもVR酔いも、脳が認識した動きと実際の体の動きにズレが生じると起こります。また、VRならではの問題もあるため、技術者はなんとか解決しようと努力しています。

VR酔いは大抵、技術が追いついていないために起こります。例えば自分が頭を動かすと、VR上でもコンピュータは画面を動かしますが、これが遅延なく即座に起きなければVR酔いにはなりません。

また、画面の再描画も、リフレッシュレート(1秒間に画面を書き換える回数)が十分でなければチラついているように感じるでしょう。

VRを開発している各社ともに、工夫を凝らしてこうした問題に取り組んでいます。

しかし今のところ、脳と五感が受け取る情報とのズレのために、多くの人がVR酔いになってしまいます。

そこでメイヨー・クリニック(ミネソタ州にある著名な総合病院)の研究者たちは、体が動いていると脳に錯覚させる技術を開発しました。

通常、平衡感覚は、内耳にある前庭器官のゼリー状の部位や有毛細胞の動きを検知し、神経を通してその情報を脳へと伝えます。しかし前庭電気刺激というこの技術は、頭につけた電極から微量の電気を送り、VR上での動きに合わせた信号を神経に伝えるのです。

要は脳を騙すわけですね。脳は実際に動いていると感じるため、この技術を使えばVR酔いはかなり軽減されるようです。

VRに足りないのは「鼻」だった?

一方でもっと簡単な解決法を考える研究者もいます。コロンビア大学が考えだした方法は、VR上で素早い動きが起こった時には、視界に映す映像を小さくするというものです。乗り物酔いになった時に遠くを見るようにすればマシになる、というのに似ていますね。

視界の端の近い物体は、遠くのものや目の前にある物体より早く動くように感じます。そこで視界の端の物体を微妙に見づらくすることで、VR上の映像を違和感なく見せるのです。

ほかにもパデュー大学では、VR上に大きな「鼻」を画面下中央に配置することがいいのではと考えました。

パッと見ただけではなんのためにあるかわかりませんが、現実世界の視界と同じ場所に鼻が見えることで、VR上でも違和感をなくせるのではと考えたのです。

さらに、スメル・オ・ビジョン (映像に合わせて香りも感じさせる仕組み) に備えるためでもあります。

こうした技術はまだ駆け出しのため、VR酔いになった人全員に効果が期待できるようになるには、まだまだ研究が必要です。しかしあと少しすれば、VR上で宇宙船に乗って銀河を飛び回っても吐きそうにならなくて済みますよ。