「お金目当て」は、当たっても続かない

伊佐山:僕は逆にベンチャーに投資をしていた立場なので、必ず質問項目としてはベンチャーの経営者に「なんでこれ始めたの?」という話を当然するんですけれど。最終的に失敗したベンチャーと成功したベンチャーを私の見た範囲で考えると、やっぱり振り返ると「なんとなく流行りだから、お金儲けできそうだから」と言って飛びついたベンチャー経営というのは瞬間的に儲かっても長続きしなくて、結果的に投資も失敗している事例が多いんじゃないかなっていう反省は多少あります。

ただVCってやっぱり人間なので流行ったジャンルに張らないと格好がつかないんじゃないかといって追いかけるところがあるわけですよ。先に乗っていればいいんですけど、どこでブームが終わるか分からないので結構痛い目を見るということもあるんですよ。

一方まさに柴田さんじゃないんですけど、「普段の生活をしていて、こういう問題を解決するためにこのベンチャーを始めたんだ」というタイプ。ある意味ウブで聞こえはいいですけど全然ビジネスにはならそうだったりするんですよね。だけど結局そういう人って長続きして、解決しようとしているミッションを「そうだね」と思っている人がいる限り、お金がどこからか降りてきてその事業が継続して、最後はそれが大きなビジネスモデルになって、ちゃんとした会社になるという道を経ている会社というのが多くて。

やっぱり出だしの「何でこれをやるんですか」というきっかけが、皆当然お金の欲とか名誉欲とかあっておかしくないと思うんですけれども、でもそれを選んだ一番の理由が、自分が抱えたストレスなり問題なりを解決したいから。

「社会のこういう問題を解決したいから」とか「自分の周りのグチャグチャのコードを無くしたいから」とか、そういう意外と些細な問題を解決することが結局は大きなビジネスに繋がっていて。GoogleとかFacebookやAmazonを倒そうとかいうことを考えた瞬間に憂鬱になっちゃいますよね。「そんなんムリじゃん」って言われて終わりなんで。

柴田:でもFacebookも、マーク・ザッカーバーグが学生名簿を、2004年のハーバードで紙だったのをおかしいと思って作ったわけですよね。でも2006年当時に投資家だった人に聞くと、学生向けのSNSに絶対に誰も投資したくないですよね。金持ってないじゃないですか。皆暇つぶししてるわけですよね、チャットして。これに誰がどう投資するんだって話だったわけですよね。

でも彼はそこから学生という壁をとっぱらって一個ずつ広げていったじゃないですか。だからその辺って分からないですよね。本当にそのコアな想いのところを掴めるか掴めないかというところが本当に難しいところだと思うんですけれど。

藤田:柴田さんのご意見によるとソリューションを発見することと、かつそれが「自分が一番できる」ということも一番大事だということですか。問題を発見するだけではなくて、それを解決する力が自分にあるかどうか、あるいは自分がそれをやるべきかどうか。

柴田:理想的には、自分が見つけた問題、すごくニッチな問題でもいいんですけれど、その問題に関しては誰よりも知ってて誰よりも上手に解決できるほうがいいですよね。それが皆ができちゃうことだと、スケールしないじゃないですか。競争に勝てないので。何かしら自分のユニークな強みが活かせるようなところを見つけるほうがいいのかなという気がします。

日本ベンチャーの"橋渡し"ができるタイミングがきた

藤田:ここからはフリートークということで、お互いに質問を……。

伊佐山:丸投げだ(笑) 

柴田:伊佐山さん、何でWiLを始めようと思ったというか、何でVCを辞めようと思ったんですか? もっと居ようと思ったら居られたと思いますし。

伊佐山:いくつか理由があるんですけど一つは、僕は昔から10年一区切りと考えていて、10年毎に自分のやってきたことを見直して、スイッチする必要があるならスイッチしようということでやってきたんですよね。30のときにはまさに業界を変えてベンチャーキャピタルの業界に入って、40のときにWiLっていう、ある意味「年齢での節目」を意識していたというのもあります。

もう一個は、アメリカでベンチャーキャピタルやってたわけだから、アメリカの企業を支援しているわけじゃないですか、10年間。毎回僕の中で、どこかに投資してすごく若い従業員3人のところが200人になったとか、一緒になって体験しているわけですけれど、当事者意識というのがどっか欠けていたんですよね。最後どっか抜けられるじゃないですか。

調子のいいところは僕も一緒に会社に毎日行って「俺も一緒に手伝っているんだよ」という充実した気持ち、錯覚に陥ってるんだけども、会社がヤバくなったときは逃げられるわけですよ。だけど当事者からすれば、「あいつは調子がいいときだけ一緒に居て」となるわけですよ。逆に言うとそれは僕にとってもストレスだったわけですよ。

僕は当事者ではない。僕が居たベンチャーファンドも別に僕が作ったファンドではない。パートナーで共同経営者みたいな立場でやらしてもらったけれども、それはディクソンという人間が立ち上げたファンドに僕が参加して、アジア戦略というのを一つの足として支えていたということなので。これを0からやるのはやっぱり大変だけど自分にはもう一回必要なんじゃないかなという思いがあったんですよね。

三つ目は、日本人って正直、10年前はこういうイベントに来てもかなり差を感じてたんですよ。一人とんがった人がいても、ベンチャーのチームとしてアメリカに連れて来たら、僕が毎日ガイドやってもたぶん勝てないだろうなということがあったんですけど。

最近はけっこう優秀な人が何人か集まって、ある程度のIT企業で経験を積んだ人が「やめてやる」と、アメリカでいうとシリアルアントレプレナーみたいのも増えてきたので。 これはもしかしたら日本とアメリカの橋渡しという活動をすると完全にパッシングされていた日本のベンチャー事業というのを、もう一回加速させることができるんじゃないかなと。

これは僕の勝手な思い込みなんですけど。これをやるには今の組織ではできないんで、それに特化した会社を創るしかないということで飛び出して。「10年目の節目だし」と、これは自分の言い訳として。「もういいかな、次は新しいチャレンジを少なくとも10年はやろう」ということでスパッと切ってやったということがありますね。

柴田:10年スパンで見れるってすごいですね。僕は10年後何してるか分からないなあ。

伊佐山:僕の中では10年ぐらい同じことをできなかったら一人前になれないかなというのがあって。アメリカ人って1年や2年で転職ポンポンして知ったかぶりする人がいっぱいいるじゃないですか。それはないと思ってて。僕はもっと時間がかかる人なので、10年やらないと、一通りイロハからけっこう難しい応用問題まで解けるようにならないと思っていたので、10年というのが一区切りとしてあって。それは人生で言えば20代、30代、40代、50代、60代の5回くらいは新しいものにトライできるかなって僕の中では思っているんですよね。

アジア勢の中でも存在感の薄い日本

伊佐山:僕は柴田さんに聞きたいのは、色んなビザの問題とか免許とれない問題とかあったと思うんですけど、今はビジネスを立ち上げてアメリカに住んでて、まだやっぱりアメリカって外人に冷たいなと思うことってあるんですか? もう住まれて何年か経ってますけど。

柴田:いや、シリコンバレーってすごく移民に優しいですよね。だからあまり無いですね。特に何でもいいんですけど、一旦スキルとか認められると何人かとかあまり関係ないですよね。ただ一番寂しいなと思ってるのは、日本人が少ないですよね。この間韓国料理食べに行ったんですよ。皆韓国語喋っているんですよね、シリコンバレーのレストランの中で。でも日本食を食べに行っても、日本人があんまり居なかったりするじゃないですか。寂しいですよね。

伊佐山:それも聞こうと思っていて、現場でやっていると、アジア人というと韓国人はサムスンがすごく華やかにやっているというのがあるし、インド人も相変わらず多いし、アジア人はすごい多いから。確かにシリコンバレーって人種とかバックグラウンド問わず優秀な人はフラットに使えるというのはあるんですけど。アジアの中のライバルとしてプレッシャーを感じるかなと思って。日本人もっと頑張らなきゃいけないみたいな。

柴田:いやそれは全然思いますよ。圧倒的に少ないので。逆に言うとすごいチャンスだと思うんですけど。韓国に関して言うと国のGDPが日本の半分ぐらいですよね。そうすると本当にでかくなろうと思うと、最初からグローバルに行くしかないというのがあって。

アメリカの良い大学に入れるための専門の高校があるらしいじゃないですか。英語で教育して、アメリカの大学を受験させるための高校があると聞きますよね。日本ではちょっと考えにくいですよね。韓国の人が日本の人よりはるかに優秀かというと、それは別に同じだと思うので。

日本人のほうが人口が倍いたら倍ぐらい活躍していても本来いいわけじゃないですか。でもそうなっていないというのは、政策だったりあるいは民間だったり、そういうところがちょっとずつ負けてるのかなという気がしますよね。

日本の良さを伝えていくことが必要

柴田:あとは、アメリカに住んでいる韓国人が、韓国に対する愛国心がないかというとそんなこと全然なくて。僕はまだ恩返しする余裕が正直ないのであまり日本に何もできていないんですけれど。一区切りついたらきちんと日本の役に立つようなことをしたいと思いますし。

特に僕らはいわゆる移民一世なので、そういう人たちからすると母国の存在は非常に大きいと思うので。どんどんもっと積極的に日本からエース級を出すようにしたほうがいいんじゃないかなと個人的には思いますけどね。日本のためにもですね。

伊佐山:少なくとも日本の食とか文化は評価が上がっているわけじゃないですか、世界的にも。でもそういうのが意外とプレゼンテーションでうまくいっていないというか。遠慮しすぎてるというか。

柴田:ラーメンが日本食だっていうことを分かっている人が意外といないかもしれないですね。

伊佐山:人によっては寿司も中国人が作っているんじゃないかと思っている人もいて。違うんだけど、そういうこともあるぐらいなので。日本人は意外と国としてのマーケティングも下手だし。実際に入っている人も、駐在の数を見ると絶対数は多いように見えるんですけど存在感が無いんですよね。

そこはもしかしたら引きすぎちゃっているのかもしれないなと。もっともっと積極的に出ていけば、世界の中での日本の位置づけや、日本の技術の良さであったり、文化の良さ、食の良さというのは、もっと知らしめることができるはずだと思いますよね。

スマートじゃなくてもいい まずは始めてみる

藤田:ありがとうございます。では最後となりましたので、「これから起業を目指してるぞ、シリコンバレーにチャレンジしたいぞ」と思っている方に向けて一言メッセージを、あるいはアドバイスをいただけたらと思います。

柴田:やっぱり起業するというのは、する前もした後も大変だと思うし、失うものも大きいと思うので、ぜひ人生の最低でも数年間をかけても良いと思えるような解決すべき問題をまず見つけていただいて、そこに全力で取り組んでいただくのがいいのかなと思います。そうすれば道が必ず拓けるはずです。

伊佐山:僕の場合は、日本人ってすごく「スマートに物事をやりたい」と思っている国民性もあるしすごく慎重だと思うんですね、ほかの国よりも。今の大企業の動き方でも必ずシステムを完璧にしてからでないと市場に出さない。Googleみたいにベータ・ベータ・ベータで行くという発想が少ない。

これは人間の考え方も同じで、一般化したくないんですけれど、やっぱりどうしても考えすぎちゃう。「シリコンバレーに行くのはこれとこれのスキルがあって、こういう人脈ができて、このくらいお金がないといけない」という、けっこう理屈で考えている人が多いんですけれど。

でも今の時代飛行機代だって安いわけだし、行けば行くで、少ないんですけれども我々のような人間もいるわけだし。英語がちょっとできれば路頭に迷うこともないわけなので、まず行動して現場に行ってみて、いかにシリコンバレーの起業家の環境というものが厳しいものか、逆にやり甲斐があるのかというのを感じた上で、自分がどういうことをやるべきかというのを動きながら考えるようなスタンスで、もっともっと外に出て行って欲しいなと。

あんまり国内で色んな人に意見を聞いて、「それができるタイミングを待っているんだ」というのは、そのタイミングは多分来ないと思うんですよね。だからもっと早く外に出て、早く自分の世界を広げていって、世界でもできることがあるんだということを知って欲しいなというふうに思います。

藤田:ありがとうございました。今回のセッションは「シリコンバレー・スタートアップ最前線」ということで、柴田さん、伊佐山さん、ありがとうございました。