死にはさまざまな選択肢がある

ハンク・グリーン氏:誰もがいずれは死にます。これは残念なことですが、人間の身体が動かなくなったときのことを深く考える哲学や宗教を持つのは避けられないことです。しかしあなたが葬儀屋でない限り、死後にあなたの血や肉に何が起こり、どのくらいのシミができるのか、わからないでしょう。

燃えつくされるのか、埋められるのか、凍らされるのか、医学生が吐き気を抑えながら研究に使うのか、はたまた博物館で展示されるのか。今日では一旦死ぬと実に沢山の選択肢があります。

アメリカの葬儀屋業界は200億ドル(約2,450億円)規模のビジネスになっています。ジャズ葬や、水葬、礼砲など沢山の選択肢があります。

伝統によって単純に栄誉あることとされる選択肢もあれば、世界がみなさんの死体によって受ける影響が最小になるようにデザインされたものもあります。違法なものもあれば、気持ち悪いものもありますね。

人は死んだ後どうなるか

死体とは生物学的には、心臓が止まると同時に細胞も酸素を受け取ることを止め、死に至ることを言います。脳細胞が最初に死にますが、肌や骨の細胞は数日間生きながらえることができます。

血液は死体の下側に集まり死斑ができ、数時間後に死後硬直が起こり、突然筋肉が硬くなります。24時間以内にすべての体内温度が失われ、死体冷(Algar mortis)と呼ばれる段階に入ります。ヴォルデモート卿の呪いの名前みたいですね。

バクテリアをどっさり積んだ膵臓の酵素が、空腹状態の器官が他の器官に広がる前にそれ自身を消化し始めます。身体の部位は、バクテリアが強烈なガスを発するのとともに臭いを放ち、ふくれてきます。

さきほども言ったように、終末期の選択肢は実に沢山あります。素早く死体を埋めていた時代は、病気の蔓延を防いだり、遺族の目に死体が触れないようにしたりするためだったんですね。

多くのネアンデルタール人の埋葬地が考古学者によって発見されています。これらはネアンデルタール人にとっても死体を儀式的に葬ることが重要であったことを示唆しています。

死体を空気に触れさせたままただ横たえて覆うのは、腐敗をすすめるには良いやり方です。これは言ってみれば究極の堆肥ですが、多くの国において都市化による人口増加のなかで、埋葬はより複雑さを増しています。

主流である西洋の埋葬は、資源集中的になっており、豪華なアーチ形の棺に防腐処置された死体を収めたりしていますが、これはタイムリーな腐敗ではなく、地中のスペースを多く取ってしまいます。

防腐処置の歴史

死体を保存しようとするのはまったく新しいことではなく、エジプト人は塩のパウダーや樹脂を使って数世紀前にミイラ化を完成させました。またエジプトの気候は自然に乾燥させるのにも適しています。

内戦の時代に兵士の死体を送還するために開発された近代の防腐処置法は、ミイラ化とは異なります。主な理由は、無期限に死体を保存するわけではないから、またひどい化学物質を沢山使うからです。

防腐処置の液体はホルムアルデヒド、メンソールやその他の溶剤を含みます。これらが細胞のタンパク質の形を変えることにより、バクテリアのエサではなくなるのでバクテリアは生きていけなくなります。

アメリカの共同墓地単体では、300万リットル以上の防腐処置の液体が使われているとされています。それだけでなく、9万トンの鋼鉄や、160万トンのコンクリート、7万1千平方メートルの硬材が毎年使われていると見積もられています。

たとえこれらが使われていなくても、50センチメートル以上の深さであれば酸素の恩恵なしに腐敗が進行していきます。このプロセスは嫌気性の消化で、二酸化炭素や水を放出する代わりに、死体をメタンの中の泥のようなものに変えていきます。

火葬をした後に残るもの

いわゆる自然埋葬とはイギリスで始まりました。化学物質やコンクリートなどを使わず、その代わりに白い布や生分解性の棺で包むんです。そうやって自然な腐敗を促します。

みなさんの身体が地中に数十年残るという考え方が現れたのは、宗教的な見方からではありません。身体は灰になったり砂利になったりしますからね。

有史以前から人は火葬をしてきました。ヒンドゥー教に権限が与えられていましたが、近代最初の火葬場はイギリスやアメリカでは1800年代後半まで発見されませんでした。

火葬用の積みまきは、無事を祈って炎の矢を日の入時のボートに放ちます。近代文化はプロセスの基準化と殺菌の方法を発見してきました。今日では死体は火葬されるまで冷蔵保存されます。フランネルの棺に入れられ、1,000度にも達する火葬炉に送られるんです。

このジェットエンジンの様な炎は、最終的には骨がぼろぼろになるのに十分なほど強くなります。このプロセス全体で普通は3時間ほどかかり、残るのは1〜4キログラムほどです。

今日では41パーセントのアメリカ人が火葬か土葬を選びます。火葬の方が安くて宗教的なアピールになるからですね。しかし環境面を考慮すると、伝統的な土葬の方が優れています。死体を確保する物理的なスペースは必要ありませんが、驚くべきことにその炎はダイオキシンや塩酸、二酸化炭素のような混合物を排出するんです。

イギリスでは、水銀流出の16パーセントが火葬によって蒸発した歯科材だとされています。またアメリカの1年間の火葬は、地球と月を80回以上往復するのと同じぐらいのエネルギーを必要とすると見積もられています。

それと引き換えに遺体を灰にすると、親族の区画に収めたり、そのまま保存したり、お気に入りの場所に撒いたり、沢山の選択肢を持つことが出来るんですね。

伝説的なジャーナリストのハンター・S・トンプソンは、灰を花火に詰めて大砲で打ち上げました。またみなさんの灰で鉛筆を作ってくれる会社もあります。平均的な人間の身体からは、鉛筆240本分の黒鉛を採取することが出来るんです。

猛烈な炎と圧力によってダイアモンドにすることだって出来ます。先祖伝来の宝石に新たな価値を生み出せますね。

溶かすタイプの埋葬方法もある

遺体を埋めたり焼いたりする話をしてきましたが、溶かすことだって出来ます。アルカリ加水分解は、遺体を溶かすためにものすごい量のアルカリ性の液体を使います。

これは病気の家畜を安全に処理するために長年使われてきました。この過程で、遺体はシルクの袋に包まれて、カゴに入れられます。

水と水酸化カリウムで満たされ、液体洗剤でよく使われる苛性アルカリ溶液を入れます。これはとても重要な材料です。それから180℃まで熱します。この腐食性の混合物が遺体を溶かすまでおよそ3時間かかります。正確に言えば、アミノ酸や砂糖、塩で出来た緑がかった茶色のオイリーなジュースになります。

残ったリン酸カルシウムの骨は手でも粉々に砕けて、どこでも好きなところに埋葬することができます。この行程全体で使われるエネルギーは、火葬よりもかなり少ないです。温室効果ガスもないし、水銀の蒸発もありません。伝統的な土葬のように多くの資源も必要ありません。

今のところこの慣習は一握りの国でしか合法になっていませんが、ミネソタ州のメイヨー・クリニックの廃棄ドナーの身体などに使われています。もし緑色のどろっとした液体の処理が上手く出来れば、土葬や火葬の代替方法としての活用が期待されています。

液体窒素を使った埋葬方法が実験中

もしかしたらみなさんは炎よりも氷のアイデアの方がお好みかもしれませんね。そんな方には最近出て来たプロメッションという方法がおすすめです。中学校の理科の授業を覚えてますか? 先生が液体窒素でバナナやバラを凍らせて粉々にして、びっくりした記憶があるかもしれませんね。

実はそれがプロメッションの行程の半分ぐらいなんです。プロメッションはスウェーデンの生物学者によって開発されたものです。遺体を液体窒素の入った大きな桶に入れるところから始まります。

これによって遺体はもろくなり、ゆるい振動が与えられて徐々にぼろぼろになっていきます。それから特殊なバキュームが残ったものを吸い取りますが、その残りは元の身体よりも50〜70パーセント軽くなります。

歯科材や整形されたおしり、サイボーグみたいな膝が除かれ、残ったものは生分解性の棺に入れられて、細い墓穴に安置されます。ここから好気性のバクテリアが働き始め、1年ほどで残ったものを混合物に変えてしまいます。

スウェーデンのプロメッサという会社がこれを豚で実験していますが、人間ではまだ実証されていません。

遺体となってもまだ役立てることはあるので、科学や教育のために使って欲しいと思うかもしれませんね。今のところ保存遺体は医学における解剖の研究に使うことが出来ます。

または永遠に保存され、「人体の不思議展(Body worlds)」のように博物館に展示されたければ、プラスティネーションについて調べてみてください。これは1980年代にドイツの考古学者によって開発された方法です。遺体の水分と脂肪分を、シリコンなどのプラスチックに置き換えて保存可能にするんです。臭いや腐敗もなく、スリラーのダンスの様なポーズを取らせることも可能です。

燃やす、埋める、凍らせる、液体にする、プラスチックにして遺体を展示するなど、今日ではいろんな選択肢があります。もし持続的にエコな方法を取りたければ、死を通して優先順位を拡張することができますね。