地元住民とのコミュニケーションを大切にするアソビシステム

柴田玲氏(以下、柴田):ぜひ梅澤さんや中川さんに、渋谷という言葉の響きの価値、今客観的にどういう価値を持ってるのかっていうのを、ちょっとお伺いしてみたいです。

梅澤高明氏(以下、梅澤):じゃあ、中川さん。

中川悠介氏(以下、中川):僕はもう本当、高校生の頃から渋谷で遊んでたんで、街の魅力ってすごくあるな、と。ちょうど渋谷系の音楽が流行った全盛期だったんで。後、街の名前を超えて1つのカルチャーを作り出すキーワードみたいなイメージがあって。

もちろん渋谷自体にも(そうした力が)あると思うんですけど、1つの何かを作り出すためのヒントがある言葉なのかなとすごく思っていて。

渋谷系の音楽が流行った後に、渋谷のギャルっていう言葉ができてギャルたちのブームが生まれたりとか。本当にいろんな演出がある中で必ず「渋谷」の言葉はあり続けると思うんで。1つ、そういうキーワードなのかなって思ってます。

伏谷博之氏(以下、伏谷):なんかアソビシステムって、海外に向けてKAWAiiカルチャーを発信したり、きゃりーぱみゅぱみゅがいたりっていうイメージなんですが。

実際、アソビシステムって地元の商店街の皆さんとすごくコミュニケーションとったりとか、住んでる方々ともいろいろ接点持って、原宿を盛り上げようとしてるじゃないですか。その辺の意図っていうのは。

中川:そうですね、さっきの文脈で言うと、住んでいた住民ではないぶん、やっぱりそこの街の人たちとちゃんとコミュニケーションとっていかないと、ハレーション起こっちゃうなと思っていて。

何回も長谷部さんに一緒に謝りに行ってもらったりもしたんですけど(笑)。地元の商店街に怒られたり、(ルールを)乱しちゃったりとかして、でもやっぱりそこに向き合っていくことがすごく大事だなって。

歴史ある場所で何かやらせてもらう時って、そこへのリスペクトもちゃんと持って、次のステップ、次のことを作っていかないと、やっぱり張りぼてで、ブームで終わっちゃうと思っていて。

僕らはカルチャーっていうものを作りたいとすごく思ってるので、そういう時にリスペクトをちゃんと持ちつつ、「ここはこうなんだから、ここは聞いておこう」みたいに、ちゃんと自分たちで考えていかないと、いいことって作れないなというふうに考えています。

ロサンゼルスと原宿を繋いで

伏谷:なるほど。今原宿でアソビシステムが作ってるカルチャーのスタイルっていうのは、シスターストリートとして、海外で展開するみたいなこともされていて。

中川:ロサンゼルスのメルローズのほうと(提携して)。やっぱり原宿の商店街って世界で1番だなって僕自身も思っていて、商店街の人たちもみんな生き生きしてるし、会合にいろいろ出させてもらうと、なんか楽しそうだし、元気もあって、活気もあって、ただの商店街じゃないなって。これが会社になったらすごいなって思ったりするくらいだったんで。

そういう人たちと、メルローズっていう世界のファッションストリートとを繋いで、何か新しいことができたらいいなとすごく思っていて。それも当時の区長さんとか皆さんに協力してもらって、調印式とかもして。

それから今年はロサンゼルスで原宿のインディーズのショップを持って行って、フリマに参加したりとか、メルローズのフリマの中でファッションショーやったりとか、そういうのをしたんですけど、来年はもっともっといろんな取り組みができたらいいなと思っています。

音楽とファッションがシンクロしてきた、80年代からの渋谷の様相

伏谷:なるほど、分かりました。じゃあ梅澤さん、どうぞ。

梅澤:渋谷といえば、やっぱりストリートカルチャー、カウンターカルチャーですね。僕、実は70年代後半から渋谷ウロウロしてて。

伏谷:ライブハウスはやっぱり出てたんですか、渋谷の。

梅澤:渋谷の屋根裏とかクロコダイルとか。当時あった渋谷のライブハウスは全部出てました。根城にしてたのが、クロコダイルか、新宿のLOFTだったんですけど。

伏谷:レベッカとかと対バンしてた。

梅澤:G-Schmittというインディーズのバンドでした。80年代の半ばに、9枚くらいレコード出して、ツアーして、みたいな生活を送ってました。

80年代はまだそんな感じで、結構インディーズっぽいものもいろいろ残ってて。90年代は渋谷系に変わって。だいぶテイストも変わったし、メジャーになったけど、でもやっぱりまだストリート発だったんですね。

ファッションも一緒で、109が一時期バーンといきましたけど。その前から、裏通りに1軒しかないような妙なファッションのショップがいろいろあって。

やっぱりそういうのが入れ代わり立ち代わり出てくることで、渋谷がファッションの情報発信源となっていた。渋谷発のものがだんだん他の街にも広がって、メジャーなブランドがその流れをピックアップして新しいスタイルができて、みたいなのをずっと見てきたから。

そういう意味でここしばらく、特に109がちょっと元気なくなった後、渋谷からエッジのあるものが出てきてないような。一方の原宿はいまも完全にイケイケなんだけど。渋谷から新しいファッションや音楽が出てきてないのは、結構同じ時期な気がするんですよね。

そこが1番のキーワードで、公園通りが栄えようが栄えまいが、僕にとっては割とどうでもいいんだけど。でも公園通りの裏側にある、例えばCANDYみたいな店が、もっとボコボコ出てくると、僕はやっぱり、あ、渋谷だなって感じますね。

それがあれば、実は表通りも栄えてくるんだと思うんですよね。もう1回渋谷をリメイクしたいなって感じですね。

渋谷と原宿を結び、両方のファッションを展開していく

伏谷:梅澤さんがちらっと、ファッションミュージアム構想、語ってらっしゃいましたね。それができることによって、渋谷がおもしろくなるっていうのは、どういうふうにお考えですか?

梅澤:やっぱり渋谷ってファッションの街だっていうのを、もう1回打ち出す。渋谷的なストリートファッションと、原宿的なストリートファッションを両方見せつつ、今までの東京のファッションの流れを見せます、と。

それをやっていけば、やっぱり渋谷って、本当にいろんな意味で文化発信基地だったってことは明らかになる。それを見ながら、これからの渋谷のカルチャー、ファッションって何なんだっていう議論が、若い人たちの間で始まるといいなって思うんです。

だから、インバウンドのための場所でもあるんだけど、クリエーターのための場所でもある。特に若いクリエーターたちが、これから自分は渋谷で何やってやろうか、と考える刺激を得られるような場所があるといいなと思って。それを作るなら、やっぱり渋谷から原宿の間だよねと思うわけです。

最後に長谷部氏に問う、渋谷ダイバーシティ構想

伏谷:わかりました。ありがとうございます。それでは時間もだいぶ迫ってきたんですが。長谷部さんを迎えて、ひとつ聞いておかなきゃいけないのは、ダイバーシティの取り組みだと思うんです。

昨日からハチ公がレインボーカラーですよね。タスキかけて同性パートナーシップ条例、実際、稼働し始めたということなんですけれども。ただそのLGBTも、もちろんあるんですけれども、長谷部さんの中で、LGBTもそうだし、高齢者もそうだし、障害者のみなさんもそうかもしれないし、外国人もそうかもしれない。

というところで、渋谷の懐の深さのところを見せたい、みたいな感じを受けるんですが、ダイバーシティの構想に関してはいかがですか。

長谷部健氏(以下、長谷部):渋谷の1番の強みは、もちろんファッションもいろいろあるんですけれども、やっぱりもっと大きくいうと、多様性だと思うんですよ。

いろんな人たちがいて、肌色も違えば、国籍も違えば、性別だって、あらゆるジャンルの人がいて、その人たちが生き生きと暮らせる、遊びに来れるっていうのが、やっぱり渋谷の今、強みだと思うし。

でも海外に目を向けると、先進都市といわれてるところは、もうちょい渋谷よりも進んでいる印象が実はあります、悔しいけど。

だけど、今まで日本一みたいなこととかを言ってんだけど、できたら図々しいけど本当に世界一だ、と。就任の時に宣言したのが、ロンドン、パリ、ニューヨーク、渋谷区と言われる街作りをしたい。それは今でも本当にそう思ってて。

伏谷:それは舛添さん的には大丈夫?

長谷部:大丈夫でした(笑)。会って話しましたけど。すごいおもしろがってて。やっぱり特にクリエイティブの面でいうと、渋谷周辺が引っ張るべき東京ということが当然あって。LGBTについても、当然みんな慣れてないだけの話で、普通にいるんですよ。

だから、その人たちがもっと生き生きと出てきて欲しいし、どっちかっていったら感度が優れてる人がやっぱ多くて、その渋谷のカルチャー作りっていう面でも大変活躍してもらえるとも思ってます。

心のバリアフリーを実現し、街の景色を変えていきたい

街の課題って、さっき言ったように、障害者を含めてあったりもするんですよ。でも、例えばバリアフリーって、道路作ってバリアフリー作ってっていうことはもちろんやりますし、大分できてるんですよね。渋谷駅も今不便かもしれないけれども、あの工事が完成した時にはもっとそういう面でよくなりますから。

そういったハードな面もできるけど、やっぱり大切なのは心のバリアフリーとかくさい言葉になっちゃうけど、そこだと思うんです。LGBTもそうですけど、マイノリティの問題じゃなくて、マジョリティの僕らの意識の変化が求められていると思うんです。そういったところを渋谷が率先してやっていく。それをクリエイティブに解決していく。

例えば、来週からは障害者へのメッセージのイベントで、中川君たちにも手伝ってってもらいますけど、福祉っていうと皆「車椅子なんか乗りたくないなー」とか、「義足なんてやだな」って思うけど、すごいのがあるんですよ、今。

もちろん、そうならないに越したことはないけど、例えばあと5年ぐらいしたら、義足を考えてる人たち用のがあるんですけど、重いものを運ぶ時に、腕にパワースーツみたいなものをガシャンガシャンって付けると楽に運べるようになるとか。

もしかしたら、佐川急便とか、ヤマト運輸とか、ああいう人たちが普通にそういうのをつけてる時代が来ると思うんです。だから、決してネガに捉えず、機能拡張っていう面で捉えたりとか、義足が格好いいみたいな。

例えばパラリンピックで言うと、こないだの幅跳びすごかったですよね。ああやって、健常者って言われる人たちとの境目がなくなってきてるんで、そういうことを渋谷で。

もっと言ったら、条例や法律だけでは景色は変わらないんで。大切なのは街の景色を変えていくことですから。そうやって具現化していく、具体化していくっていうことをどんどんやりたいなあと思っています。

ライフスタイルマガジン「yes」創刊の経験から、長谷部氏に期待

柴田:絵として見せていきたい?

長谷部:そうですね。LGBTのことで言うと、みんな頭では分かってるんですよね。差別しちゃいけないって。だけど慣れてないだけで、テレビに出てる人たちしかイメージしないけど、そんなことなくて、普通に一人ひとりいるわけですよね。

だから、そういったことに慣れていく必要があるから、慣れればこれ解決する話なんですよ。頭ではわかってるけど、心でわかるために、そういった具体的なものに触れてもらう、見てもらうっていうことが必要かなって思います。

伏谷:ちょっと豆トピックなんですけど、私がタワーレコードにいた時、2004年ぐらいに、すべての価値観にyesと言おうっていう、『yes』っていうLGBTマガジンを創刊したんですね。当時賛否あったんです、特にLGBTの方々に。商業誌に自分たちを利用する、みたいなことが。

ただ、その時出してよかったなと僕が思うのは、その頃、実はゲイとかそういったものを扱ってるマガジンっていうのは、トーハン、日販さんでは、アダルトのコーナーにしか置けなくなってたんです。

『yes』はLGBTマガジンっていう新しい括りの中で、『BRUTUS』を買うように、LGBTの人たちがライススタイルマガジンを買って、という。LGBTの世界のいろんな人たちが、リーバイスの社長が出てくれたりとかもあったんですがそういった感じで読んでもらえたらなっていうふうに作ったんですよね。

そしたら、初めて地元の本屋で、こそこそしないで自分たちのライフスタイルマガジンを買えましたっていう投書がきたんです。

長谷部:素晴らしい。

伏谷:すごく感動して、出してよかったなっていうのがあってですね。それをさらに長谷部さんがどんどん進めてらっしゃるっていうのを、非常に心強く見させていただいているっていう感じなんですね。

多様性から新たな文化を生み出して。女性や外国人も活躍できる街へ

柴田:さっきちょっとおっしゃった「(海外の先進都市は)やっぱり悔しいけど進んでる」ってというのは、もっとそれが目に見える形で具現化されてるんですか?

長谷部:そうですよね。手を繋いで男同士で歩いてたり、そこに子供がいたりとか。それはロンドン、パリ、ニューヨークは少なくともそういう部分は進んでるし。

他民族国家の部分、日本は単独とは言わないですけど。そういった混ざり合ってることに慣れてる人たちっていうのは、やっぱりそういうところに寛容だと思うし、混ざり合うことから生まれるカウンターカルチャーとかも、またどんどん開いていく感じがありますよね。

梅澤:多様性は文化にとって本当に大事です。色々な違うものが混ざったり、融合したりすることで、新しいものが出てくるんで。だから、やっぱりいろんな人がいるところからしか、新しいおもしろいことは出てこない。

そういう意味では、ダイバーシティのキーワードであれば、当たり前のトピックですけど、やっぱり女性と外国人についてもプッシュして欲しいですね。

渋谷発の、ものすごくイケてる女性の起業家がどんどん出てくるとか。それから、せっかく東京都が外国人のアントレプレナーを迎え入れましょうって言ってるので、そんなコミュニティがどんどん渋谷の中にできてくるとか。それも合わせてお願いします、長谷部さん。

柴田:そうですね。だから大人の女性も入れて欲しいというのは、私のリクエストですね。ちょっとやっぱり外れちゃうんですよね。最近渋谷が自分の生活にないなっていうの、もしかして年齢のせいかなとか。

伏谷:いやいや、そんなことないですよ。

長谷部:エリアによると思うんですよ。駅の中心とかセンター街はさすがにね。俺もセンター街とか、もうちょっと(笑)。

伏谷:ちょっとって(笑)。

長谷部:楽しい場所ですよ(笑)。どっちかっていったら、飲む場所はそこよりも自分の年齢に合ったところ、その周辺に行くし。

大切なのはハーモニー、それが日本人のよさ

実はこの国って、慣れ始めたら多様性には非常におおらかな国のはずなんですよ。区長になった時に、明治神宮に挨拶に行って、宮司さんに言われたことが非常に素晴らしいな、ありがたいなと思ったんですけど。

明治神宮はやっぱり神道だから。LGBTが選挙の争点になっちゃったんで、お騒がせしましたって気分もちょっとあったんだけど。問い合わせ、いっぱいきたらしいんですよ。「神宮として、これは認めちゃいけないんじゃないか。明治神宮もあるし、渋谷区」って。

でも、「私は全部つき返しました」って。やっぱり八百万の神だし、こういう変化をしながらこの街はずっと発展してきてて、明治神宮は100年、ここに来て、この街は大きくいいふうにずっと変わってきているのを習いました。ただ、守るべき所は守り、先輩たちに尊敬を払いながら変化をしてきてるから、この街はいいんですって言ってくれて。

さらに、「大事にしてほしい言葉はハーモニーです」って。調和、ハーモニーです。「それが実は、神道含めて皆が大事にしていかなきゃいけないことなんです。そこが日本人のよさです」って言い切ってくれて、ああ、すごいいい話聞いたって。自分の中のモヤモヤした部分が取れたし。

そういう土壌がずっとあるはずなんで、やっぱりこういった、最初の変化には戸惑うけど、それに慣れさえすると、またそこにクリエイティビティさが発揮されて、さらにバージョンアップしてマイナーチェンジしていくっていうのが、やっぱり僕らの強みでもあると思うんで。そういうことを感じましたね、その時。

伏谷:なるほど。

使命感を持った人が集まり、未来の渋谷を作っていく

司会:はい、すみません。お話は非常に興味深く尽きないんですが、ここでお時間が参りましたので、ここでスペシャルセッション、簡単に一言いただいて。

伏谷:おそらく今日のセッションで何か結果をまとめるとかいうことではないと思うんです。街作りに関しては、本当にいろんな意見を喧々諤々しながらみんなでやっていく、コミュニティでやっていくっていうのがすごく大事だと思います。

昨日、たまたま中川さん関連のインタビュー受けて、「アソビシステムって何でこんなに世界に向けて頑張れてるんですかね」って聞かれて。パッションの熱の量が半端じゃないよねっていう話をしたら、インタビュアーの人が「いや、でも情熱の強い人はいっぱいいるじゃないですか。伏谷さんもそうですよね?」って。

「彼らの何が、ほかの情熱の強い人と違うんですかね?」って聞かれたんで、「誰に言われたわけでもないけれども、継続できる人なんじゃないのかな?」って話をしたんです。

例えばアソビシステムだったら、きゃりーさんがブレイクする何年も前から、ずっと同じような活動をしてきてるのを、僕も見させていただいてるんで、彼らの本質は全然変わってないんですよね。

今日、お三方の話を改めて聞いて、何か分からないけど勝手な使命感がありますよね、お三方とも(笑)。

だから、誰に頼まれたわけでもないし、勝手な勘違いかもしれないけど、とにかく使命感を持った人っていうのが未来を作っていくのかなあと。多分、私も含めて……っていうオチでよろしいでしょうか?(笑)

司会:はい、ありがとうございます!

伏谷:ご清聴ありがとうございました。

全員:ありがとうございました。

(会場拍手)

制作協力:VoXT