各制作チームが社内でライバル争いをしていた時代

宮田大介氏(以下、宮田):スクウェアさんの中でもライバル争いというか、『FF』チームと『サガ』チームのそれぞれが「見るなよ、見るなよ」という感じで、工夫し合っていたという話を聞きました。

亀岡慎一氏(以下、亀岡):そうですね。でも、楽しかったです。『FF』チームはグラフィックもプログラマーもトップの人が集まっていたので、拡縮機能が使えるモード7とかを上手く使っていました。飛空艇の飛行シーンとかですね。『サガ』チームは雪原や砂漠を移動した後に足跡が残るシステムを考えたり、他のチームはみんな「うわ、すげぇ!」とか盛り上がってました。

『聖剣』もいろいろ駆使してやっていて。モード7のフラミーの飛行シーンとかも、あそこにさらに空を入れたのは『聖剣』が初めてだったんじゃないかなと思うんです。社外よりも社内で、各チームが本当に競い合ってましたね。

宮田:なるほど(笑)。けっこう激しい争いというか、それが逆に刺激になっていたんですか。

亀岡:あれはすごかったです。

宮田:みんなのレベルがどんどん上がっていったということですよね。

亀岡:ええ。それも作っていたのは大学生みたいな連中でしたから。

宮田:(笑)。当時は、いい意味での競い合いがすごくあったんですね。

亀岡:本当に楽しい時代でしたね。

「変なところに凝ってました」、『聖剣3』の開発秘話

宮田:『聖剣』は、『FF』や『サガ』とはぜんぜん違った淡い色使いのテイストでやられていましたよね。

亀岡:ゲームのシステムもキャラクターのサイズもぜんぜん違いましたし、コマンドロープレだと縮尺の違う背景の上にキャラクターを乗せるので、ハッキリ黒枠で囲って目立たせるのですが、聖剣は縮尺が同じ背景の上をちょこまかと動き回るので。

宮田:なるほど。

亀岡:あとは場面もすごく変わったりするので、その背景に溶けないように。でも、あんまり浮いてるのも……ということで、いろいろ工夫したような気がしますね。

宮田:亀岡さん自身も(当時はスクウェアに)入って間もない時期だと思います。キャラクターのアニメーションで関わって、走るキャラクターのモーションはかなり画期的な発明で、初めて(ゲーム内でキャラクターを)ちゃんと走らせた。

亀岡:そう思うんですけどね。『聖剣2』の時はまったくのド素人で何もわからなかったので、いろいろ後悔してるところがあるんですが、『2』をやってスーパーファミコンのスペックや見せ方がわかってきて、『3』では他のやつらが驚くようなアニメをしてやろうと思って。

歩きも2パターンの使い回しなんですが、前に進む時の引き足と前に出す足を別モーションにして。でもそんなに容量はないので、足のところだけキャラを書き換えたりとかしてましたね。

あとは、立体感を出したかったのでパースをつけたかったんですよ。『聖剣2』では完全に横でキャラの絵を描いてたんですが、『3』ではちょっと上から見た、つむじが見えるようなパースで。背景にもすごく合わせてもらってやったんですが、パースをつけちゃうと止まると顔が見えないんですよ。

宮田:なるほど。

亀岡:だから、止まりの時はズルして横からにして。歩き出すとパースがついて、ちゃんと背景に違和感のないように。変なところに凝ってましたね。

顔だけではなく「歩き方」も変え、キャラクターに個性を生む

宮田:なるほど。これはぜひ、『聖剣伝説3』をあらためて見ていただきたいです。

亀岡:今じゃもう3Dだから、普通にカメラを変えればできちゃうことなんですけどね(笑)。あの時にドットで表現するのはなかなか。

宮田:(笑)。確かにそうですね。すごくぬるぬると動いてた印象があります。走ってるシーンは前のめりで違和感がなかったんですが、そういった裏技で表現してたんですね。

亀岡:『3』ではキャラも全部変えたかったんですよ。個性を歩きで出したくって。普通だったら顔だけをすり替えて歩くパターンは同じだったんだけど、『聖剣3』では歩き方でキャラクターの個性を出してやろうと思って。デュランは戦士っぽい歩き方ですが、ホークアイはしゃなり、しゃなりとした歩き方にしました。

宮田:シーフ的な。

亀岡:シーフなのでそういう歩き方で。ケヴィンは獣人らしく、ガスン、ガスンって。

宮田:獣として。

亀岡:そうそう。だから、全部歩き方を変えましたね。

宮田:子どもだったのでそんなに気にしてなかったですが、今言われると確かに。『FF』や『サガ』もそうですが、他のタイトルではキャラのモーションとかも本当に同じで。

亀岡:まあね。コマンドロープレはキャラクターのサイズも小さく(歩き方を)変えてもそんなに見栄えが変わらないので、顔だけ変えてだいたい同じようなパターンを使ってました。

宮田:確かに。でもそれがあったからか、『聖剣3』のキャラクターをいまだに愛されているファンが多かったりしますものね。

亀岡:あれでずいぶん命が吹き込まれたんじゃないかな、と思ってるんですけどね。

宮田:リースもいまだに人気だったりしますものね。

亀岡:そうですね。あの頃はブラウン管だったのでまたいろいろ今と違うんですが……長くなるからやめときましょうか。このくらいにしておきましょう。

宮田:そうですね(笑)。たぶんこの話だけで1時間はいけちゃうんじゃないかなと思うので、次に進んでいきましょうか。

『レジェマナ』製作時は「どのチームにも尖ってる人が多かった」

宮田:1999年に入りまして、『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』の時期です。「セオリー無視! 圧倒的に揉めながら作った『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』が屈指の名作に」というタイトルなんですが、『LEGEND OF MANA』の制作は大変だったという話を聞いています。

亀岡:大変というか、本当に尖ったクリエイターが集まっていたんですよね。そこら中で揉めながら作ってたんですよ。

宮田:逆に、一番自分の好きに作れた(時期だった)んですかね。

亀岡:キャラクターのトップをやらせてもらっていて、背景のトップがうちの津田(幸治)だったんです。「黄色を混ぜたようなセピアっぽい映像にしようよ」と2人でいろいろ話していて、そこらへんは決まってたんですが、他の人がなかなか納得しなかったり。

デザイナー同士もいろいろ。でも、デザイナーはそんなにもぶつかってもなかったかな。プログラマー同士やプランナーは、がんがん毎日のようにやり合ってましたね。

たぶんあの頃って、下手をすると(ゲームが)作れなくなっちゃうんですよ。今はプログラマーが途中で抜けちゃっても完成できたりするんですが、あの頃はちょっと大変なプログラム言語を使ってた時代で、作り方を間違えたりすると完成できないことがあり得ちゃうんです。

だから、プログラマーも真剣で必死ですよね。大風呂敷を広げられない、でもいいものは作りたいし……ということで、喧々諤々と。

宮田:企画としてはどんどん新しいチャレンジをしていきたいし、みたいな。

亀岡:「もっといろんなことをやりたい、あんなことをやりたい」って言うけど、プログラマー的には「どうやるんだ、これ」って。ガンガンぶつかってましたね。

宮田:なるほど。『LEGEND OF MANA』は屈指の名作で、今もファンが多いタイトルだと思います。

亀岡:ありがたいですよね。

宮田:セオリー的にはいいタイトルというか、みんなの気持ちが一緒になって走り切るところがあったりするんですが、実は現場的にはそんな感じではなかったんですよね。

亀岡:そうですね。『レジェマナ』に限らず、あの頃はどのチームにも尖ってる人が多かったんです。みんな、頭のどこかに自分の作りたいものが明確にあったので、ゲーム制作を単なる仕事と割り切っている人はあんまりいなかったんですよね。それをやり抜くためには、ぶつかったり戦わないといけないので(笑)。

宮田:そうですよね。

亀岡:ガンガン戦ってましたね。

熱い衝突が生まれることによって、いい作品が生まれた時代

宮田:ガシガシやられてる方もいると思うんですが、今の開発だとどうしても衝突を避ける傾向もあったりするじゃないですか。

亀岡:そうですね。

宮田:ゲーム開発で1つのものを集団で作るとなると、そこまでガシガシやったほうがむしろいいタイトルが生まれるのかもしれないという、1つのいい例なのかなと思います。

亀岡:時代のせいもあるかもしれないですけどね。

宮田:(笑)。

亀岡:あの時代だったから、そういうやり方でどんどんいいものに昇華していった。今だったら、やりたいこともないのにただ構図的にぶつかって、ぐちゃぐちゃになって終わっちゃったりするのかもしれないですけどね。

宮田:なるほどですね。

亀岡:でも『レジェマナ』は、あのぶつかりが良かったんだなと思いますね。

宮田:話が飛んじゃうんですが、今のブラウニーズさんの中での制作って、けっこうみなさんぶつかられるんですか?

亀岡:そんなにぶつからないですね。『レジェマナ』の時のぶつかりとかを見てると、今は平和ですよね。

宮田:逆に亀岡さん的には、「もっとぶつかってもいいんじゃないか」というところがあったんですかね?

亀岡:どうなんでしょうね。でも、コンプライアンス的にいろいろね。

宮田:(笑)。

亀岡:パワハラだなんだとか、そういうことになっちゃうのかもしれないですが。

宮田:ものづくりの熱い熱量がぶつかっていく中で、1つのいい方向に向かうことはあるとは思うので、なかなか難しい問題ですね。

亀岡:あの頃は、本当に熱い時代でしたよ。

宮田:ありがとうございます。

宮崎駿氏の作品に対する「負けたくねえな」という思い

宮田:前半戦終了のところで、いったん小休憩として「ヒストリークイズ」を挟ませていただければと思っております。これはSEがあるんですよね。

司会者:あります。

宮田:じゃあ、それでは問題です。「じゃじゃん!」っていうのが、たぶん入ってるんですかね。

司会者:入ってます。

宮田:(笑)。「当時、『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』をはじめとしたファンタジー作品の世界観を作る上で、亀岡さんが影響されたアニメ映画がある」ということですが、それは何だったかでしょうか? というヒストリークイズです。

「こうじゃないか」という答えがもしあれば、どんどんコメントに書いていってもらいたいと思います。今、オフラインで見ている方で、「これじゃないかな」と思われる方はいらっしゃいますか?(笑)。ヒントがないので超難しいんですが。

亀岡:『レジェマナ』の時代は、いろんな人たちが(このアニメ映画に)影響されていましたよ。

宮田:『聖剣伝説』のタイトルのイメージと近いものですかね? それともぜんぜん関係ない?

亀岡:僕はどっちかと言うとアニメが得意というか、スクウェア社内でもアニメを見て動きを見てましたよね。

宮田:「動きがすごいな」というタイトルですかね。

亀岡:良い動きを見ると「なんとかこれを少ないパターン数でゲームに落としたいな」とか。

宮田:1999年なので、当時は完全にリアルタイムではないですよね。

亀岡:そういうわけじゃないです。もっと過去に見て、ずっと頭に張り付いてるような。

宮田:コメントでは「ディズニー系?」とか来てます。

亀岡:僕はディズニーはあんまり見ないんですよ(笑)。劇中の途中で踊られたり歌われちゃうと、現実に戻されちゃうので。

宮田:(笑)。「ジブリ」って書いてる方がけっこう多いですね。

亀岡:おぉ、まぁそうですよね。みんな影響を受けてますからね。

宮田:タイトルから感じる部分もけっこうあるんですかね。『ラピュタ』と書いている方もいらっしゃいます。じゃあ、もう答えを言っちゃいますか。

その通りで、『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』などのジブリ作品からかなり影響を受けられたということです。具体的にはどこらへんを参考にされたんですか?

亀岡:具体的にどこを取り入れたかと言われるとあんまりピンと来ないですが、「これを超えたいな」と思って。さっき言ったように、キャラクター全員の歩き方を変えたり。ジブリ作品というか、宮崎(駿)さんも「子どもと大人が一緒に歩いている時に同じ歩数で歩くのはおかしい」と言って、子どもはちょっと遅れて歩いたりするんですよね。

宮田:ありましたね。

亀岡:動物でも同じような手法を使ってるんですが、そういうところから(『聖剣伝説3では)6人の主人公たちも全員歩き方を変えようとか。参考にしたというより、「負けたくねえな」ということかもしれないですね。

宮田:(笑)。ライバル的な。

亀岡:駿先生がライバルだったんですかね。

アニメの1つの良さは、実写にはない奇妙な動きができること

宮田:最初に見た時は衝撃でしたか?

亀岡:気付いてない人は気付いてないんだろうなと思ったけど、やっぱり僕は「あ、すげえことをやってるな」と気付いちゃったので。コストを考えたら、絶対に同じ移動をしたほうが楽なので。

宮田:漫画家をやられていたので、「いずれは漫画もアニメにしたい」というところがあったんですかね。

亀岡:そうですね。

宮田:アニメにする想定した時に、(スタジオジブリの)レベルの高さや一つひとつのこだわりに影響を受けたんですかね。

亀岡:そうですね。他の作品もそうですが、あの頃のアニメ作品にはすごく影響を受けてましたね。

宮田:なるほど。実写映画よりも、やっぱりアニメ映画に……。

亀岡:そうですね。実写を参考にしているところもあったと思うんですが、アニメって実際にはない動きなんです。見たことない動きをしている変な動きのモンスターとかって、ずっと頭にこびりついてますね。

宮田:そこらへんが『聖剣』のタイトルとかに反映されて。

亀岡:影響を受けている部分が、何かしら入ってると思いますよ。

宮田:そうですよね。フラミーとかもけっこういろいろありますものね。ありがとうございます。ちょっと時間ももう30分を……。

亀岡:もうオーバーしてますか?

司会者:まだオーバーはしてないです。

宮田:大丈夫だそうです。

亀岡:もっと話しておけばよかった。

宮田:(笑)。逆に後半が余ったら、振り返っていきましょう。

亀岡:そうですね。