日本の学校教育の課題

竹村詠美氏(以下、竹村):尾原さんありがとうございます。それでは、苫野さんにもお戻りいただいて、ここから35分ほどお二人でお話ししていただく時間をとりたいと思います。

うちの子どももマインクラフトで世界中の子どもと遊んでいるので、最後の例も非常にそうだよなと思いました。

まず最初にお伺いしたいのが、尾原さんの最後のスライドで、『社会課題×教育無料革命×オープンイノベーション』という話があったと思うのですが、今の日本の学校教育の状況を見ていると、社会課題が大切だと大人が思っていても、大人も含めてかもしれないですけど、なかなかそこに関心を持つ人が少なかったり。

「いい教育を受けたいんだったらやっぱり塾に行かなきゃいけないよね」とか、「無料じゃなくてお金を払わないといい教育が受けられない」という話が、特に都会だとあったり。

あとはオープンイノベーションに関しても、今までだと学校は若干閉鎖的なところがあったかなと思うので、今この3つの要素がすべて変わっていけるチャンスにあるのかなと思うのですが。

ぜひ苫野さんと尾原さんにその3つの要素が変わっていくためにどういったことが動いていくといいのか、学校の立場でも社会の立場でも保護者の立場でもいいんですけれども、少しお話しいただいてもよろしいですか? 

尾原和啓氏(以下、尾原):そうですね。ぜひ苫野先生からお伺いしたいですね。

教育の基本は「信頼して・任せて・待って・支える」

苫野一徳氏(以下、苫野):はい。いやー尾原さんのお話、本当におもしろくて。私がずっと言っていたような、「学びの個別化・協同化・プロジェクト化の融合」というビジョンに対して、尾原さんは「こんなふうに実現できるんですよ」とアイデアをごまんと出してくださる。

さて、そのための切り口という話なんですけど、これは言うまでもなく、まずはマインドセットが最大の問題です。けれども、そのマインドセットをどう耕すかなんですよね。

今は本当に1つのチャンスで、というのは、教育の基本中の基本は、いつも言っていることなんですが、「信頼して・任せて・待って・支える」なんです。けっして、言われたことを言われたとおりにさせるとか、決められたことを決められたとおりにできるようにさせるとかではなくて。

いかにその子どもたちが自分の力を発揮できるかという。そのためには、教師や大人が、信頼して、任せて、待って、支える必要がある。

でも、日本はどうしても、子どもを言うとおりにコントロールしようとする傾向が強い。これにはいろいろと理由があって。「なぜこんなに同質性の高い学校になったんですか?」というご質問もあったので、また後でお話しできたらと思うんですけれども。

一言だけ言うと、ある種の成功パラドックスがあるんですね。つまり、同質性の高い教室空間に子どもたちを入れ込み、言うとおりにコントロールするという教育モデルが、ある意味でうまくいっちゃったんですよね。

尾原:そうですね。

先生の役割は、「探究者」を支えるサポーター

苫野:だから、マインドセットを転換することが非常に難しい。でも、今回のコロナ下では、先生が常に子どもたちのコントローラーを握っていることができなくなった。

だからこの期に、例えば子どもたちが自由な時間を大いに活用して、ものすごい探究活動をしてしまったり。(先生や大人に)そういうものにたくさん出会っていただきたい。自分のコントロールのきかないところですごいことをし始めた子どもたちにもたくさん出会ってほしいし、出会えると思っているんですよ。

そうすると、「ああ、自分がコントローラーを握っているよりも、子どもたちにそれを委ねて、自分たちが頼れるサポーターになる、協同探究者になる。それが大事なことだし、すごく手応えのあることだな」と、多くの大人が気づけると思うんですね。そうしたら、もうかつてに戻ることができなくなる。

教師として、子どもたちに言われたとおりにさせる喜びって、実はそんなに大きくないはずなんです。子どもたちが、自分の想像を超えたところですごい探究者になっていくところを目の当たりにしちゃうと、もう後に戻れない。

こういった経験値がじわりじわりと広がっていくというのが、今我々が目指すべきことではないかなと思っています。

竹村:ありがとうございます。実は家庭にも同じことが言えるのかなとお話を伺って思ったんですが、どうしてもわりと不安な声として寄せられるのが、今は休校が長引いてしまって、「授業が遅れているのが大丈夫か、どうやってキャッチアップするのか」というところにどうしても目が行きがちになってしまうところがあると思うんですね。

このチャンスに、インドアでいながらもお子さんが何か夢中になれるものを見つけることに関して、尾原さん、ヒントはありますでしょうか? 

子どもがコンフォートゾーンから一歩踏み出す瞬間

尾原:何か夢中になるものって、まず大前提として、こっちが押しつけるものじゃないですよね。だから、やっぱり社会課題に、教育の無料革命、オープンイノベーションという話があったときに、最初に大事なことは社会課題だろうが、自分が何を探求したいんだろうか。探求したいことにどう出会えるかという偶発性を待つぐらいしか、僕たちって基本的にはできなくて。

例えば、さっき言ったグリーンスクールのプリスクールのミッションは「We are proud of your stepping out of your comfort zone.」なんですね。特に日本は先代の方々がものすごくがんばってくださったおかげで、僕たちはコンフォートゾーンの中で生き続けてこられるようになった。

「昨日の生活が明日も続くだろう、明後日も続くだろう」という前提条件の中で、僕たちは変わらない快適な生活を送れていた。それに対して、やはり新しいことを始めるのは何か不安だし、辛いことも多い。

そういうときに、子どもにはコンフォートゾーンから一歩出る瞬間があって。一歩出た瞬間を褒めるわけではなく、指導するわけでもなく、「proud of(誇りに思う)」なんですよね。あなたと私は一体で誇りに思うという気持ちをどうやって作るかが大事で。

ただ、もっと大事なことって、じゃあ子どもはつらい気持ちでコンフォートゾーンを出ているかというとそんなことはなくて。実は好奇心という言葉がすごく大事で、やっぱり好奇心って「奇妙なものが好きな心」ですよね。

好奇心を持ち、好きなものを見つける

尾原:新しい変化がいっぱい起きていれば、子どもってどこかで奇妙なものを追いかける生き物ですから。そうすると何か奇妙なものが心に引っかかって、蝶々を見て追いかけていたら、ふだん行かないような外に出ていたということっていっぱいあるわけですよね。

だから何か子どもが夢中になる始めたきっかけを、さっき言われたように「信じて待つ」だし。もっと言うと、子どもだとそのときに、ついついトラックが多いような道路に出ちゃうかもしれないから、そこはガードレールを作っておいてあげて。

子どもが自発的にそっち(危険な道路)に行きにくいようにすることだったり、じゃあ蝶々を追いかけるためには交通標識も学ばなければならないんだね、ということに気づけば、子どもは今度はYouTubeでいくらでも交通標識を学びますし。

大事なことは、やはり好奇心に喉を乾かすことなんですよね。大事なものができれば、大事なものを守りたいと思うから、守りたいことができたら、そこが壊れないように社会課題を解決しようというふうに変わってくる。

だから、言い方は悪いんですけど「バリ島っておいしい」んですよ。めちゃくちゃ綺麗な自然があるから、好きになっちゃうんですよ。そこにいる自然、そこにいる犬。

そうすると、その自然を守りたい、その自然を守るためには観光に依存しなきゃいけない。観光に依存しちゃうと自然を壊すかもしれないという自由のトレードオフに気づくという順番にあれば、自然と協働が発生するんですよね。

だから順番は、あくまで好きなものを作る。好きなものを作るというのは、奇妙なものが好きという(好奇心によって)、自然と自分のコンフォートゾーンを一歩出歩いてしまうことにつながる。それを信じて待つことが、僕は一番大事だと個人的には思いますけどね。

自分の時間を奪われると、好奇心がなくなってしまう

苫野:「今こそ夢中になれることや好奇心を満たせることを」というお話、私も「このコロナの時期だからこそ」という話をすると、必ず「夢中になれることがない」とか「好奇心を持てない」という言葉が返ってくるんですけど。

この記事は無料会員登録で続きをお読み頂けます

既に会員登録がお済みの方はログインして下さい。

登録することで、本サービスにおける利用規約プライバシーポリシーに同意するものとします。

SNSで会員登録

メールアドレスで会員登録

パスワードは6文字以上の文字列である必要があります。