痴漢にあう星の下に生まれた人は一生被害にあう?

前濱:今、アンケートを読んでいて思ったんですけど、「女性のほうが、男性より肉体的に強い社会になれば、痴漢はなくなるんじゃないですか?」という意見があって、これは、たぶん抵抗できる的な意味合いかと思うんですけど。

痴漢の被害にあったときに、警察の方に言われたのが、「見た目じゃない。痴漢にあう人は、かわいいから、綺麗だから、セクシーだから、痴漢にあうわけじゃない。そうじゃなくて、そういう星の下に生まれた人は、おばさんになっても、一生、被害に会い続ける」と警察に言われたんです。

小川:呪いみたいな。

田房:なにそれ。すごいこと言うね。

前濱:そういう星の下に生まれちゃった人は、それを受け入れて生きて行きなさい。それでどうやってうまく生きていくか。

田房:どういうアドバイスだよ。おまえらがつかまえろよ。

(会場笑)

小川:なにを根拠にしているのかが……。

田房:「つかまえられなくてすみません」と、最初に謝れよという話ですよね。

前濱:だから、ビジュアルや体格的なものじゃないんだろうなと、私は思っているので、たぶん肉体的にマッチョで、すごく強くなっても、来る人は来るんじゃないかな。

小川:男性でも自分より体格の小さい人から被害にあった話はあるから。

前濱:難しいですよね。

支配している男たちの報酬となる「女」

田房:私の妄想に次ぐ妄想の中では、痴漢とかと関係なく、社会的に、女の人が家庭に入って、男の世話をするというのは、未だにあるじゃないですか。それは大前提としてあって、そこから、私は発生していると思うんですよ。

1回、夫に家事をほとんどやってもらった1週間があって、そのときに不思議な体験をしたんです。家の中で、今までの感覚と違うの。お金払ったら、自分の世話を全部してもらえるって、親に世話されているのともまた違って、とても支配感覚がわいてきたんですよ。

この話をするのは初めてなんだけど、その1週間のあいだに井の頭線に乗ったら、変な気持ちになってきて、隣に、私と同じくらいの背の小さい、若い男の子が立っていたの。それに対して妄想してしまったの。「この男の子に、私が声をかけたらどうなるかな?」と考えちゃって。

これはたぶん、私の本当の気持ちじゃなくて、そういう支配する感覚が刺激されて、夫をまず支配して、自分の子どもを支配しているから、もっといけるんじゃないか。ロマンとかに近い。やれることができたら、次、これもできるんじゃないかという変な自信がつくのと、似ていたんです。

この話はとても伝えるのが難しいので、今、話しても大丈夫かなというくらいなんだけど(笑)。男の人たちも社会で酷使されているじゃない。でも、働け働けで、おまえら、女子どもを養う立場なんだと、ずっと育てられてきて、そのように生きなきゃいけないじゃん。

そういうときに、報酬として「女」というのがあると思うんですよね。女を与える。キャバクラとかさ。それは社会のシステムの中で働いている男には、そういうものが必要だといって、あてがわれている感じがして。

それが当たり前になっていると、電車の中でも支配感覚がわいてくるんじゃないかなと、思ったんですよ。肉体的に強くなればいいかという話なんだけど、私はジェンダー感というか社会的地位、立場が……。

小川:社会構造的に、そこが変わらないと。

田房:そこまで変わらないと、なくならないのかなと思っています。大逆転するとしたら、そこまでいかないとないのかな。

女性問題に向き合わない男たち

小川:アンケートに書いてあったものです。「昨日、このイベントに彼氏を誘ったら、貴様、俺を啓蒙してやろうというのか、という感じで怒られた」。

田房:すごいね。でも、わかるよ。もう、男の人たちも、「女を守らないといけない」というのと「俺はやってない」というのが、ぐちゃぐちゃになって、数秒ごとに違うことを言うんですよ。「お前は気をつけろ!」と言いながら、「俺は違う!」と言って、パニクっちゃうんですよ、男の人のほうが。

(会場笑)

小川:「男の性欲はすごいんだ!」と言いながら、「でも、やっぱりあいつらは異常者だから、俺たちが」と。

田房:その辺は、個人で正していっても、無理なんですよね。自分の夫とか彼氏を矯正するのは、50年くらいかければできるけど、それで成果はたった1人だからね。そこから社会がどう変わるのかが難しすぎる。

小川:被害にあったことを恋人とかに言うと、「どんまい」の一言で済まされるとか。「どんまい」くらいならいいけど、逆に怒られるとかいうのは。「お前が誘ったんだろう!」と。

痴漢被害者の実際の割合は?

前濱:こうやってアンケートを見ていると、8割9割方、「そういう被害にあったことがある」にチェックがついていますよね。これは「ない」とつけた人は、本当にないのか気づいてないのか、どっちなんだろう?

田房:本当にない人もいると思う。話しているうちに、「あったことあるわ」という人は多いですよね。

小川:そうですね。話しているうちに、「思い出したけど、自転車ですれ違った人にお尻をさわられたことがある」とか「卑猥なことを言われたことがある」とか。

これが「性的被害を今までに受けたことがありますか?」という調査を、中学生、高校生、大学生に行った調査なんですよね。痴漢被害のところを黄色にしているんですけど、99年、2005年、2011年、それぞれ6年ごとに取っていて、一番新しいのが2011年で、99年に大学生女子の痴漢被害が56.2パーセント。

私、99年に大学に入ったのですが、この時期はとても多かったのかなと、この調査を見て、ちらっと思ったりして。今は、ちょっと減ってきてはいる。この調査によると。

田房:さっきの『それでもボクはやってない』とかが、こういう数字に影響するのは、とてもあると思います。こういうアンケートでも言いづらくなっちゃうとか。

小川:「さわられたと思うなんて自意識過剰だろ」という意見があると、言えないですよね。

前濱:私も、言ったこと、何回あるかな、くらい記憶がなくて、私の友達も警察に言ったとかはないので、この数字はどこまで正確なんだろうと、とても思います。

日曜の朝からたれ流されるオジサンの意見

田房:日曜日の朝にやっている『ワイドナショー』(フジテレビ系)という、松ちゃんがやっているワイドショー、あの番組、本当にすごいなと毎回思う。オジサンの意見が、ちゃんと伝わってくるというか。

このあいだ、どこかで司法試験を教えていた教授のニュースで、司法試験の問題をつくっている教授が、自分の大学の教え子に答を教えていたという。そういう好意があったから教えていたというニュースだったんですよ。(注:2015年5月の司法試験で、司法試験考査委員だった明治大学法科大学院の青柳幸一元教授が、自身の作成した試験問題を、同大学院を修了した女性受験者に漏洩させた事件)。

それで、その女の子は5年くらい司法試験を受けられないペナルティを受けたんだけど、そのニュースをやっているときに、松ちゃんや長嶋一茂が「なんていっても、昭和のオジサンってこういうことがあるんですよ」というような話に持っていくんですよね。

ああいうのが、ずっとテレビで流れているから、そうはいっても、その本音は一番前面に出てきちゃいけないことじゃないですか、本当は。それは、ロフトプラスワンとかで話すことだと思うんだよ。

それが日曜日の10時に流れているんですよ、今、日本で。それは本当におかしすぎると思いますね。そういう話じゃないじゃん。「オジサンはそういう下心がある生き物です」という話じゃないじゃん。問題の答を教えているんだから。甘いんですよ、オッサン同士が。

小川:「わかるわかる」みたいな。

前濱:「あるある」みたいな。

田房:ねえよ!

小川:松本人志さんは、「女性専用車両に乗っているのはブスばっか」と言っちゃっていましたね。そういうことを言う大人がいる一方で、「痴漢被害は、おまえら自分で防げよ」という人たちもいるじゃないですか。どうしろというの?

田房:一方で、「痴漢をするやつは異常者で、俺は違います」という3つを、ずっと繰り返していますね。

エンタメをからめて人の心に入っていく

前濱:このイベントをお誘いいただいたときも、テーマが「痴漢」となると、小川さんと田房さんは、このイベントを通して、なにを伝えるのが目標なんだろう? というのが、まず始めにあったんですね。

痴漢を防ぐ対策までを見通してイベントを打つのか、それともとりあえず、いろんな人に知ってもらいたいという意思でやるのかが、始めとても気になって、聞いてみたところどっちもやってくことが必要だからこそ、一緒にやっていきたいと言っていたんですけど。

田房:私の場合は、具体的な対策ないんですよ、今。「こういうふうにすればいいから、こうしましょう」と、世の中に対して言えないんです。

まだ、そこまで全然いってなくて、まずは、そういうのに関心がある人と会ってしゃべりたい、しかないですね、今のところ。私は2012年くらいは、マジで話す人がいなかった。みんな、嫌がるからさ。

冤罪反対派しか来ないから、地獄だったんですよ。そのときは、マック赤坂が都知事選に出ていて、私も本当に出ようと思った。

(会場笑)

田房:マック赤坂のような格好をして、新宿や渋谷で、1人で「痴漢はこういうことなんです」と言おうかというくらい、思いつめていたんですよ。でも、それじゃあだめだなと思って、マック赤坂みたいにしても、逆に印象がおかしくなっちゃうから、慎重にいこうと思って。

自分の活動は、自分のできる範囲でしかできないから、私は漫画を描いたりするしかできないし。小川さんのやり方は本当にちゃんとデータを取るし、綿密に調べてライターとして本当にすごいなと思うから。

自分がやっていると、自分が足りないところをサポートしてくれる人が増えていくから、これでいいんだなというのは、最近思っています。マック赤坂みたいに都知事選に出なくてよかったなという。

(会場笑)

小川:私も記事を書いていても、記事を読んでくれるのは結局真面目な人だけだし、一番読んでほしい女子中高大学生まで伝わらないのかなというのがとてもあって。エンタメをからめて語るのが大事だとおっしゃったじゃないですか。本当におっしゃるとおりだなと思って。

田房:怒っているだけだと、聞いてくれないですよね。

小川:そうなんです(笑)。

田房:怒られるって嫌じゃないですか。知らない話題なのに、「おまえ、なんで知らないんだよ」と言われると、すごく嫌じゃん。その人が知らないのはしょうがないから、そこから、どうやってその人の心に入っていくかを考えるしかないんだよね。