旧来型の仕事を続ける司法書士は仕事がなくなる

司会:続きまして、司法書士の荻野先生より、お仕事についてご説明お願いします。

荻野恭弘氏(以下、荻野):「司法書士のお仕事」ということで。一番メインになるものが、登記。家を買ったり、会社を作ったり、そういった時の登記というのがお仕事になっております。

ただ、昨今ですね。先ほど多田先生のお話もありましたように、新型の司法書士も出ておりまして。旧型というと、さされてしまうので(笑)。旧型とは言いませんけれども。年配の方々と、それから、若い方々は、思考も考え方も何もかも違う。

旧来型の方々の仕事は、正直申し上げて、減っています。なくなっています。特徴的なのはですね、非常にこう役職の高い地位を占めていらっしゃった方々でも、最近は結構仕事がなくて、何だかわかりませんが新聞に載ったりします。

これは恐らく、こんなことを言うと、今日は関係者の方も見ているということで、はっきり言いますけれども、昔ながらの仕事をしていると、仕事がなくなっていく。

これは、当たり前のことでございまして、登記ですね。事務手続きに特化している方々は、厳しい状態に置かれている。

かたや、新型の司法書士さん。私も、司法書士業、二十数年になりますので、どちらかと言うと古いほうに入ってしまうんですけれども。

先ほどお話したとおり、私はグループそのものが、全体で400名くらいおりますが、司法書士部門で、だいたい30名。コンサルティング志向をずっと入社してから目指しておりますので、私は、通常の司法書士の業務はあまりしていない。ただ、新型の司法書士の方々は、間違いなくそういう業務に乗り込んでこられてますし、やってます。

いまだにファックスだけでやりとりをする司法書士も

荻野:2000年頃、介護保険ができた時に、いわゆる成年後見制度っていうのができまして、あの分野におきましては、弁護士さんと並んで、司法書士さんもがんばってやってらっしゃると。第三者の後見人っていうのはですね、引き受けて、一般の方の財産管理をすると。

そういったものとかを皮切りに、「変わりつつある」「変わっていこう」というのが若い司法書士さんの今の姿だと思います。

そこで出てきますのが、先ほど浦野社長のほうからもありましたように、1人ではできないという。やっぱり、組織化する、法人化する。弁護士法人、司法書士法人。法人化するということもありますし、それとあとさらに、得意分野を持っている第三者とつながる。

ここをですね、電話とファックスでできるんでしょうか? というと、なかなか難しいものがありますので、非常に司法書士業界にとっても、大きな変革を意味するのではないかな、と思っております。

とにかく、社内でつながる、社外とつながる、顧客とつながる、ということが、司法書士は苦手でしょうがない。

ファックスで止まっているんですね。メールも嫌いだと。特に、お付き合いしているのは銀行さんなんで、銀行さんがメールとかでやり取りしてくれないところも多いんですね。

そうすると、ファックスとか電話と。そういう時代では生き残れないというのが、今後の司法書士だと思っております。

そんなことで、従来型の先生もいらっしゃるし、新型の方もいらっしゃる。いずれにしても、IT化はかなり遅れていると思われますので、そこが非常に大きな鍵だと思ってます。

私からは以上でございます。

司会:荻野先生、ありがとうございました。

行政書士の業務は人工知能と相性が良い

司会:それでは最後に、行政書士の山内先生から、お仕事についてご説明お願いします。

山内聡氏(以下、山内): 行政書士の仕事ということなんですが。

先ほど申し上げたように 、僕は一般的な行政書士を代表していないので、むしろ教えてほしいくらいの感じです。

行政書士っていうのは、基本的には、官公庁に出す書類であったり、事実証明と言われるような内容証明郵便とか。そういったものを扱うものです。

いろんな事情によって、弁護士さんができる範囲であったり、あるいは、司法書士さんがやる登記の範囲っていうのは、基本的にできないので、弁護士さんの仕事の補集合の中で、しかも、司法書士さんの仕事の補集合っていう形で。

範囲は広いんですけれども、いろんなものがありすぎて、なかなか普通の人が行政書士と聞いて、ピンとくるものっていうのはないと思います。

e-Gov。電子政府のe-Govというサイトを総務省がやっていて、そちらに申請手続きであるとか、届出に関する全ての情報を集めた部分が検索できる場所があるんですね。

そちらは、恐らく、行政書士がほとんどできる手続きなんですけれども。一旦クローラーを回して、ピピっと収集したところ、だいたい20,000件くらいの申請、手続きがありました。

そうすると、行政書士でも、全然知らない分野がどうしても10,000万件のうち、9,900件くらいは、全く知らない手続きなので。

基本的にはバラバラというか、行政書士の中でできる範囲っていうのは、かなりバラバラになっています。

たくさんの仕事があるんですが、やることっていうのは、定型的な書類、事実を文章に起こして、証明をもらう。役所に提出して、補正かけられて、また出し直すとか。そういう、あんまり人間のやることじゃないような仕事、っていうのが多いですね。

そういう定型的な仕事に関しては、さっきも申し上げたように、僕の知らないところで、親切な小人がやってくれたらいいな、とか思うんですけれども。

そういう点で、行政書士っていうのが、よく「代書屋」と言われるんですが、現状だと、ほとんどそれに近い状態となっています。

ある意味、定型化しやすい分野ですので、人工知能だったり、アルゴリズムと一番相性がいい分野かなと考えています。僕のほうからはこのくらいです。

司会:山内先生、ありがとうございました。

人工知能が人間を超えるのはもはや時間の問題

司会:それでは、いよいよここから、「今後人工知能によって、法律専門家の仕事が奪われるのか? どうなっていくのか?」という点について、ご意見を伺っていきたいと思います。

まずは、荒木先生から、工学の研究者の観点から、今後どうなっていくのかについて、お話をお聞かせくださいますでしょうか。

荒木健治氏(以下、荒木):「人工知能で専門家の仕事が奪われるのか?」っていう質問に対する答えですが、奪われます。

(会場笑)

まず、結論はそこです。

なぜ、奪われると言えるのかというと、昨今、この人工知能のブームの火付け役は、「ディープラーニング(Deep Learning)」という新たなニューラルネットが開発されたということで。

何が違うかと言うと、従来のニューラルネット、人工知能はですね、初期値として、どのような観点を見るかということを、与えなければならなかったんですね。

「顔が似ている」と言った時に、「目を見る」「鼻を見る」「口を見る」というパラメーターを与えなければいけなかったのが、ディープラーニングは、その変数を与えなくてもいいんですね。だから、何も設定しなくても、自動的に賢くなっていきます。ここが、全く違うんですね。

そうすると、無限に学習が進むので、原理的にはどこまでも賢くなるというのが、「超人工知能」と言われているものです。

ひとつの例としまして有名なのが、「Youtubeの動画を1週間見せまして、それで猫の概念を自動的に獲得した」ということで、16,000個のCPUを接続してやっているわけですが、人間の脳は、100兆の神経細胞を持っているので、まだまだ下等ではあるんですけれども、かなり進歩したということが言えます。

Googleとか有名な企業が、ディープラーニングの専門家を抱え込んでいるという状況になっております。先ほどの、「人間の仕事を奪うか?」ということについて言いますと、これまでも争奪戦はあったわけです。

うちの学生は、就職活動をものすごくやっています。企業が優秀な人材を雇用するのは当たり前のことですね。人間同士だと、誰も文句言わないですね。ところが、人工知能だと、突然言うわけですよ。人間同士だと奪っているんですよね。誰かが入れば、誰かが落ちるわけですから。だから、企業にとって、優秀な人材を採用するのは死活問題で、当たり前のことなんですよ。

人間より優秀であれば、人工知能は当然採用されます。能力から言いますと、人間は生物的進化なので、100万年以上かかるわけです。でも、人工知能は一瞬のうちに進化できるので、人工知能が人間を超えるのは、もはや時間の問題というふうに我々は考えてます。

人工知能の開発は止められない

荒木:すでにこれまでも、記憶力や知識の優位性、インターネットに直結されていますから、そこではもう人工知能が勝っていたんです。ところが、人間のほうが知識の質、知能の柔軟性、これで勝っていたので、かろうじてプライドを保っていたという状況だったわけです。

ところが、その知識の質とか、柔軟性までも、人工知能が勝ってしまうということで、そうすると、人間のプライドはどこにあるのか? ということになって、いろいろ問題が今起きているということですね。人間だけがわかっている部分がなくなることが、人間にとっては恐ろしいということなんですね。

私、こんなセンセーショナルなこといっぱい言っていますけど、少なくとも現時点では、人工知能にははるかに勝っているわけです。

現在の段階で、これが宇宙人が来て、宇宙人が人間より優秀だという場合と、大きな違いなんですね。現時点では、まだ下等ですから、どうでもできるんです。人工知能をどう進化させるかということを含めて考えないと。

イギリスの理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士は先日「超人工知能は開発してはいけない」と。「人類は滅ぼされるので止めたほうがいい」って言ったんですけども。

私は、それは不可能だと思っています。「人類全体で、進化を止めましょう」と言ったとします。たった1人の天才的なハッカーが超人工知能を開発してしまえば終わりなんですよね。それは、もう誰にも止められないわけで。

今、人工知能をどう開発するかによって、鉄腕アトムの未来になるか、ターミネーターの未来になるか、『ターミネーター ジェニシス』がもうすぐ公開されますが、どちらの世界になるかにかかっていると思っています。

動物園に人類が展示される世界がやってくる!?

荒木:どんなようなことをすればよいかというと、「ロボットリニューアル」という分野がありまして、私も研究しているんですけれども、ロボットに道徳回路を付けまして、ロボットが意識を持つ時に、必ず道徳回路を持たないといけない、ということで、外すと自我もなくなる、というような仕組みを巧妙に仕掛けておきまして、将来人工知能が人間を超えた時に、良い人間になると。良い人工知能になると。自動的に。

というような技術を開発しようとしています。これは、原子力が結局、放射能除去装置を開発する前に、原子力爆弾とか、原子力発電を開発してしまったので、今すごく困っているわけですよね。だから、そういうような安全装置を開発しない段階で超人工知能を作ることはダメだというふうに考えております。

超人工知能を作るメリットは非常に多くてですね。人間より優秀ですから、地球温暖化や電気のコントロール、天変地異の予測、全ての病気を完治させる、永遠の命、宇宙への移住が始まるとかですね。人類ができなかった課題を次々解いていくというふうに考えられます。

その時人間は何をするかというと、「何をしたい」と超人工知能に頼むだけです。あとは、余暇です。皆さん、余暇を過ごしてください、ということです。

ターミネーターの世界は嫌なので、超人工知能の暴走を止めることができるような仕組みを今考えるということです。もし、失敗すれば、多分将来、下等動物として、人類は動物園で展示されて、超人工知能が人類を鑑賞するという世界になってしまうと考えています。以上です。

司会:荒木先生、ありがとうございました。

専門家には知識を独占すべきという間違った考えがある

司会:将来的には、人工知能が完全に仕事を奪ってしまう、というお話でしたが。次に、法律の専門家の実務者としての立場から、本件についてご意見を伺いたいと思います。多田先生、よろしくお願いします。

多田猛氏(以下、多田):荒木先生の「奪われる」というお話で泣きそうになって、もう……。

(会場笑)

廃業して、別の仕事考えようかなって……。今、頭の中を巡らせて……。30年くらいは何とか勝てそうな雰囲気ですね、何かね(笑)。なので、もうちょっとがんばろうかなと思うんですが。

「人工知能によって、弁護士の仕事が奪われるか?」って、私は、ITに関しては完全に専門外なんでわからないんですが、私が準備してきた回答としては、「半分はYESで、半分はNOなんじゃないかな」っていう予測を立ててきました。

最近、仕事していて感じるんですけれども、ほとんどの知識はググれば出てくるんです。弁護士の仕事っていうのは。

例えば、こういう相談があります。離婚で財産分与しますよね。妻に半分分けるとか。それで、「退職金は入るんですか?」とか、そういう質問があった時に、「離婚 退職金 財産分与」だけでググれば、だいたい答えは出てくるんですよね。

時々、僕だって見る時あるし、下手すると「知恵袋」を見たりすることもあって。ちゃんと裏付け取りますけどね、六法開いて(笑)。そういうような時代なんです。

心配なのは、間違った見解が出ている時がある。ブログですとか、知恵袋でも間違ったことがある。そういう意味では、「正しい知識で導く」という専門家の役割は、一定は残されているのかなと思います。

Nicogoryさんが目指しているプラットフォームができてしまえば、僕はできるべきだと思っているのですが、ITが正しい情報を提供するようになると、そういう仕事もいらなくなってくるわけですよね。

市民の方々は、そういうことを調べて、ある程度は解決できる。「これは、好ましいことですか? 好ましくないことですか?」と言えば、当然好ましいわけですよね。

さっき私が申し上げた、古い弁護士たちは反対するかもしれないですが、どうしてそういう人たちは……。

ITというと、ITアレルギーを感じる弁護士の先生方、結構多いんですよね。この世界。本当に法律業界って遅れていて、未だに裁判所では、ファックスで送らないと認められない。メールで送るというのは、違法なんですよね。そういう非常に遅れた世界。

「どうしてなのかな?」って考えると、やっぱり「専門家というものは、知識を独占すべきだ」「知識というのは専門家の手にあるものだ」という、そういう間違った考え、古い考えがあるんじゃないのかな。

知識を切り売りして、商売してきた旧来型の先生方というのは、IT化時代の中では、淘汰されていくのではないかと、僕は思っています。

人工知能の進化で弁護士に残される仕事とは

多田:そうすると、「弁護士に残される仕事とは、一体何が残っていくんだろう?」というと、さっき申し上げた「交渉術」なんかは、知識だけではやっていけないのかなと思います。

例えば、こんな例がありました。ある男性が依頼者なんですけれども、自分の奥さんが不倫をされてしまったと。不倫相手の男に慰謝料を請求したいと。「ふざけるな!」と。

その男性と会いますと、交渉するわけですけど、その時に、依頼者の方が僕に言ったことは、「ホテルに行っただろ!」と、何となくそう思っているんですね。「『ラブホテルに行っただろ!』ってことを質問してもらえませんか?」というようなことを言われたんですけど。

その後、「その男性はどんな性格かな?」とか、いろいろ聞いた結果、「多分、その男性は否定するでしょうね」と。「ホテルに行きましたか?」って聞いても、「行きました」って言う人はいないですよね。

泥棒に、「お前、盗んだもの返せ!」って言っても、「わかりました」って言って返す人いないのと同じなんです。

そうすると、「こういう質問どうですか?」と提案して、実際やったんですけど。「あなたが、何月頃に行ったホテルのアメニティグッズというのが、家から出てきましたけど、あなたそこで何をしていたんですか?」というと、「いや、ホテルでは何もやっていない」ポロっと出ちゃったんです。

「ホテルで何もやっていない」「ホテルに行った」ということを認めちゃったわけです。その証言を録音していますから、一気に有利になって交渉が進んでいくと。

こういうことって、いわゆる「誘導尋問」っていうんですけど、こういうことはなかなか人工知能では今のところではできない。でも、荒木先生の話を聞くと、誘導尋問も多分ITは将来できるようになるでしょうね。そうすると、いよいよ我々撤退かな、という気がしますけど。いろいろとそういうような仕事が残されている。

弁護士数はむしろ増える

多田:あとは、裁判ですね。裁判というのは、さすがにITの部分だけではできないだろう、というところだと思います。

そうすると、今の話をまとめると、IT化して弁護士の仕事は完全には奪われないけれども、減るんじゃないかという危機感は感じると思います。

ところが、私が思うのは、「IT化しても弁護士の仕事は減らない、むしろNOです、増えると思っています」。例えば、手続き的なところっていうのが、一番私も法人作って厄介だったんですね。例えば、定款作ったり、議事録みたいなの作ったり、保険の手続きをしたりとか。そういうのが一番嫌でした。

そういうところは、ITでワンストップ的に本来できてしまう仕事です。ですから、例えば、そういうところはもう、うちの事務所に来ていただいても、ITで全部できちゃいますよと。そうすれば、ものすごい安い値段でできるわけですよね。

あとは、例えば、契約書のチェックだとか、難しい契約交渉だとか、新しいビジネスを始める時の枠組みを考えるとか、そういういわゆるクリエイティブな仕事っていうのは、一緒にやっていけるような仕事なんじゃないかと思います。

今までのベンチャー企業の人が、早い段階、アーリーステージで弁護士を顧問にするってことは、実はほとんどなかったんです。

司法書士さん、行政書士さんは、手続き的に最初必要だから頼んだり、税理士さんも頼むけど、弁護士っていうのはどうしてもトラブルがあったり、裁判になってから、っていうようなイメージだったんですけど。

それはどうしてかと言うと、敷居の高さ、値段の高さ。一番大きいのは、私とかが提案しているような仕事も、「弁護士がやってもらえるんだ」ということに気づいてない、知らなかった、っていうことなんですね。

知ってもらえば、「実は、こういうことできるんですよ」ってことは、わかってもらえるんじゃないかなと。我々は、そういう手続き的なこともやるし、クリエイティブなこともやりますよ、と。

そういう人々のニーズを発掘できるというところが、IT化をすることのメリットなんじゃないかな、と思っています。

日本では企業内弁護士は1,300人しかいない

多田:さらに、「大局観」とか、「コミュニケーション能力」という話を最初に申し上げましたが、そういう観点からすれば、弁護士が活躍できる分野というのは、まだまだ広がっています。

例えば、国際案件ですかね、中小企業や零細企業でも、どんどんアジアを中心にビジネスをしています。海外案件というと、昔はいわゆる大手渉外事務所で、ものすごく高いフィーを払わないと頼めなかった、というところを、今後、敷居の低い弁護士が増えていけば、「コミュニケーション能力、英語能力とか、現地とのネットワークを駆使して、海外案件を気軽に取り扱っていけますよ」という弁護士は増えるはず。まだまだニーズはあるはずです。

あとは、組織内ですね。組織内弁護士。企業の中で働く。資格を持っているんだけれど、インハウスとして働く人たち。自治体とか、省庁とかで働く人たち。

これはもう、海外に比べて、日本は圧倒的に少ないです。日本では、企業に勤めている弁護士が、現在のところ、統計では1,300人しかいないと言われています。

私が、ある会社、これはHP社という会社から聞いた情報なんですけれども、その会社では、全世界に弁護士の資格を持っている社員、従業員が1,000人いると。1つの会社ですよ。

1つの会社で、1,000人いるのにもかかわらず、日本では、国内全体で、まだ1,000人ちょっとしか組織内弁護士がいない。これは、非常に遅れていますよね。

組織内部だからこそ、その知識を活かして、組織内でコミュニケーションを取って、そしてコンプライアンス、ガバナンスをしっかり整える、そういう弁護士のニーズはまだまだあるのかな、と思っています。

日本の歴代総理大臣に弁護士がいないのは実は危ないこと

多田:もうひとつ考えられるのは政治の分野でして。例えば、今、オバマ大統領とかそうですけど、元々弁護士でしたよね。アメリカの歴代の大統領を見ると、実は40パーセント以上がロイヤーなんですよね。

日本の総理大臣はどうかと言うと、今まで弁護士資格を持った人は1人もいません。これって、よく考えたら、ものすごく恐ろしいことでして。

国会の仕事って何かって言うと、まさに「立法」。立法って何ですか? 法律を作るわけなんですよね。「その法律を作る仕事に法律家がいない」っていうのは、実は、ものすごく怖いことなんですよね。

だから、今の日本でいろいろ国会でも議論していますけど、憲法も知らずにわけもわからん法律を作る国会議員がのさばっとると(笑)。まさに、弊害の表れなんじゃないかと。こんなところまで言うと、ヤバいような気がするので、この辺にしておきますけど。

(会場笑)

アメリカでは、議員一人ひとりに政策秘書としてロイヤーがいるにもかかわらず、日本では付いていない。これは、「法治国家と言えるんでしょうか?」というような問題提起があります。

こういった、国際案件であるとか、インハウス、立法、これらの仕事に共通しているのが、やはりコミュニケーション能力です。

ひとつはコミュニケーション能力。それから、クリエイティブな創造力です。そういう新しい力が要求される分野では、知識の有無とは関係なく、ITでは決して淘汰されない仕事なのではないかと、今のところ私は思っています。

というわけで、本題に戻って、「人工知能によって弁護士の仕事が奪われるのか?」という質問に対して、私が「半分YES、半分NO」と申し上げたのは、従来型の法廷を中心とした知識を切り売りするようなお仕事をする、そして敷居が高い、偉そうにしている弁護士の方々が、僕は淘汰されていくのかなと思います。

ITだけじゃなくて、ITの副次的効果として、例えば、司法書士さん、行政書士さんなどの隣接士業との垣根は、僕は今後どんどんなくなっていくと思うんですね。

一方で、クリエイティブな発想とか、大局観、コミュニケーション能力などを持ってITをむしろ駆使して、うまく利用しながら、ITにできないサービスを提供する弁護士、そういう弁護士は生き残るどころか、仕事はもっと増えていくのではないかなと思っています。

今日、荒木先生のお話を聞いて、「ヤバい、もうちょっと危機感を持たないといけない!」と思いましたので、よりそういう能力を高めていければいいかな、と思っています。

司会:多田先生、ありがとうございました。IT化によって、減る仕事もあれば、むしろ増える仕事もあるというお話でした。

制作協力:VoXT