ピース・又吉直樹『火花』が芥川賞を受賞

司会:芥川賞の又吉直樹さんの記者会見をはじめます。では、又吉さん最初の一言、なにかご感想をお願いします。

又吉直樹氏(以下、又吉):すごくびっくりしたんですけど、とにかく嬉しいです。

司会:それでは質疑応答にうつらせていただきます。

記者:毎日のナガオカと申します。まず受賞おめでとうございます。今回、芥川賞受賞ということなんですけれども、敬愛してやまない太宰治先生が欲しくて仕方がなかった芥川賞を受賞された、これについてどう思われるのか?

もうひとつは今回、芥川賞を受賞されて、これだけ沢山の人が、マスコミがきていて、おそらく明日からずっと注目されると思います。その中で今後、又吉さんの作品を読んで文学の世界に入っていきたいと、つまり太宰に憧れたように入っていきたいと思われる方があらわれると思いますが、そういった方へのメッセージ、2つお願いできますでしょうか?

又吉:ぼく、小説を読み始めたのが芥川と太宰だったので、太宰が芥川賞をとれなくて色々と川端康成に手紙書いたとかきいていたんですけれど、そういう状況と今とで時代も違うしわからないんですけれども、いつもテレビで太宰好きとか勝手なことを言って、すごくたまに申し訳ない気持ちになって、テレビで勝手に言ったときはちゃんと三鷹のほうにお墓参りに行くようにしていて、今月は2、3回行ったんですけれど。

(会場笑)

僕の小説を読んでというよりも、面白い小説が本当にたくさんあるので、好き嫌いがありますからね、僕の小説で全然合わない人も他の人の小説が面白くて、何か書きたいとかなる人もいると思うので、僕のを読んで合わへんかったから、小説読むの止めようってなるのだけは、その責任だけは皆で背負っていきたいというか、それは僕でジャッジしないでほしいです。

ひとり目で読んでいただけるのは嬉しいですけれども、100冊読んだら、絶対本が好きになると思うんですね。最初の2~3冊のときは難しくて、わからないやつもあるんですけれど、100冊読んだら絶対好きになると思うので、そこまで頑張ってもらいたいですね。

芥川龍之介は僕みたいな髪型は嫌いだと思う

記者:テレビ朝日『モーニングバード』のハラモトと申します。まずは、おめでとうございます。いま金屏風の前に座っていらっしゃるのですが、又吉さんの作品のなかにこういったセリフがあります。「万事整った環境になぜ僕達は呼ばれたのだろうか」という言葉があるんですけれども、いま金屏風の前に座っていらっしゃる、整った環境にいるご自分のお気持ちをお聞かせいただいてもいいですか?

又吉:なんか嘘みたいな感じですけど、似合っていますかね、金屏風。

記者:少し戸惑っていらっしゃるように見えるんですが……。

又吉:なかなかこれだけ緊張することはないですね。

記者:そして今回ダブル受賞ということですが、この辺りはどう思いますか?

又吉:すごく嬉しいです。先ほど羽田さんがいろんなところで『火花』を紹介していただいて、やっぱりプロの作家さんが偏見なしに扱っていただけることはすごく嬉しいことですね。

記者:最後にもう1点だけよろしいでしょうか? 先ほども芥川龍之介にあこがれて小説を読み始め、小説家になられたということをおっしゃられてたんですけど、もしこの受賞を芥川龍之介がきいたら、どんな言葉をかけてもらいたいと思いますか?

又吉:芥川はおそらく僕みたいな髪型のやつが嫌いだと思うんですね。

(会場笑)

なんかベートーベンのことを天才ぶってるって書いてた説があって、それがすごい印象深いんですよね。僕はベートーベンはあれで良いと思っていたので、顔の表情と髪型作ってるなと、それくらいすごい、厳しい一面を持っている。でも言われてみるとそうなのかなと思わせる説得力がある方なので、おそらく僕のこの髪型も「嘘つけ」って。又吉のこの感じを、お前(狙って)やってるんちゃうかということを言われそうな気がします。

記者:褒めてもらう自信はいかがでしょう?

又吉:いやいや、それはないですね。

芥川賞受賞の自信はゼロだった

記者:朝日新聞のゴトウと申します。この度はおめでとうございます。吉本興業からはじめて、お笑いの世界からの、作品自体が芸人さんの世界を描いた一面があると思うんですけれども、お兄さんとか師匠とかが又吉さんにもいっぱいいらっしゃるわけで、そういう方々から又吉さんは先生と呼ばれることもあるのかしらとか思うんですけれども、その辺りはなにかご自身で考えてらっしゃることとか、先輩にどういうふうに報告しようかなっていうのがあれば教えていただきたいかなと。

又吉:皆さん僕のことをふざけて先生って呼ぶことはあると思うんですけれども、本気で先生って呼ぼうとしているのは相方の綾部だけだと思うので、その辺は安心しているんですけれど。いろんな先輩が声をかけてくださって、「読んだで」とか言ってくださるので、それには本当に感謝しています。

記者:デイリースポーツですけれども、今後これを受賞してしまったことで、芸人としてちょっとやりにくくなるとか不都合が生じるようなことがないのかな、と。

又吉:注目していただくのは芸人にとってありがたいことなので、不都合は今のところ感じていないのと、コンビでやっているので、不都合はないと思います。

記者:綾部さんとは受賞された後でコミュニケーションはとられたんですか?

又吉:綾部はいま仕事中みたいで、コメントはくださったみたいで。くださったってなんか敬語使ってしまいましたけれども(笑)。一応いただきました。

記者:又吉さんおめでとうございます。フジテレビ『とくダネ!』のヒラノと申します。芥川賞ということで、ノミネートされた辺りから多少の自信というものはいかがだったんでしょうか?

又吉:候補にしていただけるという連絡をもらった時にすごい驚いたのと、嬉しかったのと、呼んでいただけるんだということで、正直、自信はなかったですね。

記者:多少はどうですか?

又吉:いや、なかったですね。

記者:ゼロ?

又吉:ゼロでしたね。ゼロですとは言っていたんですけれども、今日とかは朝から緊張したりしていたので、もしかしたらどこかには期待していた部分があったのかもしれないです。

記者:作品を書き始めて、書く前とそして書いた後で、ご自身でお気持ちの部分で変わったこと、生活も変わったということがあったら教えていただけますか?

又吉:小説を書く前はすごく怯えてもいたんですけれど、急に書きたくなって書いたんですけれど、書いているときはすごく楽しかったですね。面白いんだなというか、広い表現というか、色んなことができるなあ、と感じました。

生活の面では小説にすごい注目していただいて、色んなところに取り上げていただいて、街歩いていても『火花』読みましたよとか声をかけてくださる方が多いので、今までの死神、死神って言われていた感じとちょっと変わったかなという感じですね。

(会場笑)

記者:これからそうすると、お笑いと作家という部分では、比重はどのような形にしていけたらとお思いですか?

又吉:今まで通り芸人100でやって、それ以外の時間で書くっていうのをずっとやってきたので、その姿勢は崩さないようにしようと思っています。

記者:それはどうしてですか?

又吉:それが一番どちらにとっても良いと思ってるんですよね。今まで毎月ライブをやっているんですけれど、そこで生まれてきたものとか気づくこととか、お笑いで表現できへんこととか、コントにできへんこととか、それはそのまま小説にはならないんですけど、どこかに残ってて、それが文章を書くときの1歩目になることが多いので、すごく必要なことなんです。

記者:じゃあ、次はもう書きたいなというものがどこかにあったりするんでしょうか?

又吉:書きたいなという気持ちは本当にありますね。けっこうな時間、僕らふたりで喋っていますね(笑)。

記者:すみません、ありがとうございました。

小説『火花』を書いたきっかけ

記者:ニコニコのタカハシです。受賞おめでとうございます。まずニコニコ動画をご存知でしょうか?

又吉:あ、知っています。

記者:ありがとうございます。では、今生放送を拝見している視聴者の方から寄せられた質問を代読したいと思います。岩手県30代の男性他かなり多数の人から寄せられているんですけれども、作品を書こうと思ったのはいつ頃で、それはきっかけとしては何があったのでしょうか?

又吉:小説を書いてみませんかっていう声をかけていただいたのが大きい理由としてありますね。あとは急にテンションが上がったというか、例えが難しいんですけれども、ジャッキーチェンの映画を見た翌日に階段を走りながらかけ上がりたい衝動に駆られることってあるじゃないですか。あの感じなんですよね。ちょうど西加奈子さんの『サラバ』を読んで、ちょうど無敵になったような気持ちが湧いてきて、書けたっていうのはあります。

記者:ありがとうございます。奇しくも西加奈子さんは『サラバ』で前回直木賞を受賞されているんですけれども、何かコメント等があれば。

又吉:本当に『サラバ』は面白い作品で、大好きな作品です。

お笑い・文学を盛り上げていきたい

記者:新文化通信社のナリアイと申します。受賞おめでとうございます。今回の初出の文学界を大増刷に結びつけ、そして単行本においても10万、20万という初版、現在聞くところによると64万部というところまで行っていると聞きました。今回の受賞の効果で、ミリオンも狙えるところにあるんじゃないかと思うんですが、その100万部というところについて何かイメージとかがあれば。

又吉:小説を書いているときはもちろんそんなイメージはなくて、とりあえず作品に向き合って書いていたんですけれど、書き終わるとせっかく書いたので色んな方に読んでもらいたいっていうのがあるので、どんどん読んでもらって、さっきも言ったんですけど、僕のを読んでそれから別のやつを読んで本が好きな人が増えたら、また楽しくなるなと思いますね。

『火花』は若手芸人のことにもふれているので、劇場にすごく多くの芸人がいるので劇場にも来てもらって、全体的にお笑いとか文学とか、音楽とか演劇もそうですけど、そういうのがどんどん盛り上がっていけばいいなと思っています。

記者:共同通信のウエノです。この度はおめでとうございます。又吉さんのお笑いのほうは話す芸で、小説のほうは書く芸で、話す芸と書く芸という違いはあると思うんですが、又吉さんが表現者としてそれぞれで感じている自由なところと不自由なところを教えていただけないでしょうか?

又吉:お笑いで不自由なことって何でしょうね。お笑いにも割と何やってもいいというのはあるんですけれど、めちゃめちゃ子どもみたいなことを言うと、自分が2人とか3人に瞬間的になれたりとか、そういうことができたらめちゃくちゃ幅が広がるなという部分があって、人間なので自分の体と声で、これでやるしかないっていうのがライブでいうとありますね。

映像でいうともしかしたらそういうのもできるかもしれないので、そんなに不自由はないのかなと言いつつも、どうなんですかね。言うたらあかんこととか、人によって感じ方が違うので、そこは両方そうですよね。小説もやっぱり同じものを書くんですけど、読む人は皆違うので、それはそれぞれ。

お笑いの場合はお客さんが笑ってへんなと思ったら、すぐにやり方変えたり、いま誰も笑ってませんけれど。小説の場合は変えられませんからね。書いてもうたものがそのまま読まれるので、そこの違いはあるなと思います。

幼少期、自分は異常だと思っていた

記者:朝日新聞のイタガキと申します。以前取材させていただいたときに、小さい頃に自分の頭のなかで独り言があふれてしまって、自分は異常なんじゃないかと思ってたとおっしゃっていたかと思います。

先ほど芸人も続けていくというお話があったかと思うんですが、ライブとかもしながら、どこかで(頭の中に)残っているものが文章を書く第一歩となるとおっしゃったんですが、その残っているものというものは、自分のなかで頭の中で独り言になってしまうことと、何か関係があるんでしょうか?

又吉:その独り言というか、1人で考えていることとですか?

記者:はい。考えて人にも言わなかったこととか、自分のなかでおさえられなくなったことと、書くことというのは何かリンクしているのでしょうか?

又吉:そうですね、割と近いですね。散歩しながらとか、走ったりしているときとかに頭のなかにいろいろ言葉が浮かんでくるんですが、それは何でもないようなことなんですが、そこから文章を書いたりすることはよくありますね。

司会:それでは、よろしいでしょうか? みなさんまだご質問したいと思いますが、これくらいにしたいと思います。

最後に何かひと言、又吉さんございますでしょうか?

又吉:はい。本当にたくさん集まっていただいてありがとうございます。まだお読みでない方がいらっしゃいましたら、ぜひ読んでみてください。ありがとうございました。