萌の仮面をかぶった哲学系アニメ

山田玲司氏(以下、山田):まあ、ひとことでざっくり言います。2つあって、この作品を俺はどう思うのかっていうのと、なんでウケたのかっていうのの2つ。

久世孝臣氏(以下、久世):良いですね。

山田:やっぱりこれはあれですよ、萌の仮面をかぶった哲学系アニメでしょ。これは哲学系アニメだと思うんですよ。

山田:そしてこれを支えてるのは、下に書いてるんですけど、「圧倒的な疲れ」です! 日本人の。

(会場笑)

山田:もうね、俺はね、批判したらいかんわこれは。

久世:そうですよね。

山田:俺みたいなバブル世代がなに言っても、ふざけんなって感じだよ。今の若い人がどんだけ疲れてるか? って話だよね。それを、仕事終わって、もしくは学校終わって、「はー疲れた」ってときに「うははー!」「たーのしー!」みたいな。「あー、助かった」みたいな。

久世:そう、めっちゃ元気になるんですよ。

山田:そういう役割を担ってる系っていう意味がすごく強くて。だから、「お前余計なこと言うんじゃねえぞ、俺のけものによお」みたいな(笑)。「殺すぞお前、よくわかってねえくせに」みたいな、そういう感じになるくらいサーバルちゃんを愛したくなるっていう。それはあるよね?

だろめおん氏(以下、だろめおん):僕ももうちょっと踏み込んでなんですけど。

山田:ありますか、お願いします。

だろめおん:あるんですよ、そういうアニメ。いっぱい。

山田:そうなんですよ。『けいおん!』とかもそうなんでしょ? 日常系。

だろめおん:基本的にそうなんですけど。要するに学校、会社から疲れて帰ってきて、深夜にアニメ見て。アニメ好きな人って基本的に、アニメって毎期20個とか30個とかあるわけじゃん。

山田:うんうん。

だろめおん:「これつまんねえな」とか「これ脚本が破綻してるな」「うわ、作画が崩壊してるわ」とかって言いながら見てるわけですよ。「これ切ったわ」とか。

山田:(笑)。

だろめおん:それで、深夜ですよ。深夜1時とか2時ですよ。絶対脳のどっかで、「俺って何やってんだろう」って思ってる。

山田:言っちゃった―!(笑)

(会場笑)

山田:いやいや、そうなんだよな。

あの頃の何かを思い出す

だろめおん:なってるんですよ。深夜にこれやってるって聞いたときに、例えば昼間のEテレでやってたら普通なんだけど、昼間のEテレでやってるようなのが深夜にやってるから、その瞬間に「何やってんだろう俺」がぐわーって拡大されるんですよ。なにそんなさ、アニメにケチつけて。

山田:明日だって仕事なのに(笑)。

だろめおん:俺だって小さいときに見てたのって、こういうのですっごいワクワクしたしっていう幼児性っていうかノスタルジーがぐわーって広がるっていう現象があって。それは最後のエンディングとかを含めてそういう効果があるっていうのと、感覚的には、深夜にテレビをつけたらたまたまビデオが再生されちゃって……。

山田:あの頃の何かが。

だろめおん:小学1年生とかの自分が突然流れてきて。

山田:はいはい! 出ました!

だろめおん:「わーい! 小学校すごく楽しかった!」って言ってるみたいなのが急に流れてきて。「え、ええ……」っていう。

山田:そうだよ、それそうなんだよね。

山田:いや、違う。俺本当はこれ流れ的にはあとで言おうと思ったんだけど、いまどらが言ってくれたから本当にそう思うんだけど。この国ってさ、昔は「学生時代が最高だったね」っつてさ、学生時代に流行った曲をずっとカラオケで歌うみたいなさ、そういう時代あんじゃん。それが段々だんだん戻ってって、小学生でもなくなり。俺ね、もしかして日本人が一番幸せでいれるのって、幼稚園に入った瞬間なんじゃないかって思って。

久世:瞬間?

山田:だから砂場とかで、ケンカとかヒエラルキーができる前。「わーい! たーのしー!」っていう、あのときの状況を再現してんだよ。ジャパリパークが。

久世:あー、なるほどね!

山田:そうそう、それを見ちゃうみたいな感覚だよね。

だろめおん:そうそう。

山田:あのときの感覚って。それくらい日本って、本当に言うとシステムとして破綻してんだよ。幼稚園の年中とか年長になった時点で、もうヒエラルキーができてるから。世界は地獄になりつつある、みたいな(笑)。

久世:(笑)。あれでも、幼稚園の年中?

山田:年中がもう、世界が暗黒になってきた、みたいな感じで。「どうする? 学校行くか行かないか」みたいなさ。あんな所に行くべきかみたいなさ。そういう阿呆みたいな国なんよ、この国。だからそこに1発カウンターいれて、「ここだよね、一番楽しかったのはね」って言われてる感じはあるよね。

だろめおん:そうそう。

久世:「ここだよね!」って。

山田玲司のマンガは厳しすぎる?

山田:だから俺よく覚えてんのはさ、ウエダにも言われたんだけど。「玲司さんの漫画はさ、厳しすぎんだよ」って。やったら言われる。俺は、厳しいんだよやっぱり。

(会場笑)

山田:漫画が。「立て―!」みたいな、だからちょっと『セッション』みたいな。だからあの監督の映画観てちょっとホっとすんのは、「行けよ! 血だらけになって立ち上がれよ!」みたいなノリに、「おおー!」みたいな。俺はそういう人間なんで。

あれ、着いてけないんだよ。もうそこのエネルギーまで残ってない状態がほどんどだから。俺が「お前らぜったいいけるはずだよ! どんな女とだって、寝れるぜ!」みたいな。「ふざけんなよ、お前の漫画なんか読まねえよ」ってなりがち。

久世:もう立てねえっつってんだろって。

山田:立てねえっつってんだろ俺はよ! 深夜アニメで救われてんだよバーカ!

久世:俺には猫耳が必要なんだよ!

山田:必要なんだよ! ジャパリパークに連れてってくれよってなってんだよ。

(会場笑)

山田:そうそう、それくらいなってんなって思って。『ざわざわ森のがんこちゃん』じゃ癒されないんだよ。ただの幼児向けだから。そこに、わかってるけどやってるんですよーって感じが入ってくるのが、大人の仕事やってるよね、このアニメはねって感じなんで。ちょっとおもしろいよなーとかって思って。

久世:哲学をエンターテイメントで入れてくるっていうのは、素晴らしいですよね。

山田:アニメって、哲学やりがちなのよ。エヴァが完全にそうだもんね。

だろめおん:そうですね。

山田:だから、その系譜だなと思う。あと俺ちょっと思ったんだけど、このあと血みどろになったらまどマギになるんじゃないの? だけど、ならない感じしてて。

だろめおん:まどマギは、わりと初期から血みどろです。

山田:あ、そうなんだ。俺だから、魔女っ子の話を社会風刺を込めてって、前にけっこう勧められて、見てなかったけど(笑)。ああいうかわいいもので、ちょっと深いものをやる、入れてくるっていう。

あれは時代的にダークサイドに落ちていく話に振ってたんだけど、これはいかない、匂わす、みたいなところのバランスでやろうとしてんだろうね。だからなかなかすごいよなとは思うよね。

けもフレの原点は鳥獣戯画?

山田:それで、萌の仮面をかぶった文学系、哲学系。それで、かわいいの向こうに心理や社会批判が入ってくると。でもこれ伝統的に、日本では得意なやつで。実は。宮沢賢治とかそうだし。

久世:ああ、なるほど。

山田:だから遡ると、これからそうですわ。

久世:鳥獣戯画ね。

山田:鳥獣戯画、鳥羽僧正からそうですわ。この伝統の果てにあるなっていうのがある。せっかくなので、クロニクルに入る前に。けものでおもしろかったのが。「すごーい!」と「たのしー!」じゃん。あれってやっぱ、デートのときに女の子に言ってもらいたい言葉だよね。

(会場笑)

山田:だからさ、この言葉を言ったらおちるって、本に書いたじゃん。「すごーい、こんなの初めて」「教えてください」って男は言われたいんだ、みたいなさ。そりゃあさ、「すごい」をあんだけ惜しみなく連発されるとさ、それは癒やし効果もありますよねって話。

久世:脳内麻薬が出てきますよね。

山田:脳内麻薬が。

動物マニアの心をくすぐるキャラクター配置

山田:あとね、主人公がサーバルっていうのがね、絶妙!

久世:えー、そうなんですか?

山田:つまり、オセロットでもなかった。それで、ヤマネコでもないんだよ。ネコでもなくヒョウでもなく、その間くらいっていうのが絶妙で。いっこ言うならば、動物マニアの心をくすぐるんだよ。

だろめおん:ああ―!

久世:「サーバル知ってる!」ってね。

山田:サーバル知ってるって、ハシビロコウ出てくるから。ハシビロコウは、上野動物にもいるけど。世界一不細工な鳥として有名だから。だからちょっと動物好きだったりものを知ってたら、ぜったい知ってんのがそこに入ってくる。

それで、超メジャーな動物でいかない。主人公もネコにしない。でも、ヒョウにしたら怖いんですよねえ(笑)。ヒョウ柄は。なんかヒョウ柄お姉さんのイメージがあって、食われそうなんで。ちょうど良いラインに、オセロットとか出てくるんだもんね。

久世:ちょっと出てきましたね。

山田:だからちょっと大きなネコっていう、ここを主人公にするっていうのは、めちゃくちゃ計算したなあっていう感じがして。ちょっとこれまたおもしろいよね。

久世:生き物好きの玲司さんからしても、この動物のチョイスはアリだなって思ったの?

山田:だからもう俺はペンギン好きだからさあ。

(会場笑)

山田:ペンギンアイドルでさあ、まあ真ん中にコウテイペンギン入れるでしょ、フンボルトこういうふうにするかあみたいなさ。

久世:(笑)。

山田:イワトビみたいなさ。そういう動物マニアの心をくすぐる、こいつ出すんだっていうのがね。だからね、いるよ。仲間が、スタッフの中に。俺の仲間が。

久世:玲司さんの仲間がいますね。

山田:俺のフレンズがいる。

(会場笑)

久世:そこまでマニアックじゃないですもんね。聞いたことあるけど知らないっていうくらいの。あんまり詳しくは知らないっていう。

ケモナーに目覚めたきっかけ

山田:そうだね。ただ、いるんだよ。動物好きっていっぱいいて。ちなみに、ここで聞いちゃおうか、どらに。ケモナーとしての君が大好きなキャラ、動物キャラはどれなのかなっていうのが。

だろめおん:この流れで良いですか?

山田:この流れで。

だろめおん:僕はそもそも、ケモナーの自覚なかったんですよ。

山田:オタク友達と一緒にしゃべると、どういうフェチがあんのみたいな話になるわけじゃないですか。俺はこういうのが好きだ、ああいうのが好きだみたいな。そう言ってるときに、俺はないなあと思ってたら、「いやいや、ケモナーでしょ」って。

山田:お前ケモナーだわ、確かに。

久世:周りから見てってこと?

山田:絵が、作風が。

だろめおん:本当だって気付いたら、動物っていうか、半獣人みたいなキャラばっかり漫画で描いてて。

久世:(笑)。

だろめおん:なんでだろうなんでだろうって振り返ると、昔好きだったアニメがいくつかあるんですけど。それに出てくる女の子で、1つはこれ、『チップアンドデール』に出てくる。

だろめおん:これは自分がファンアートで描いてるやつなんですけど。これは『チップアンドデール』のTVシリーズに出てくる、ガジェットっていう。

久世:すげえ、上手い。

山田:これさー! お前が好きなラングレー感ちょっとあるよね。

だろめおん:そうなんです、ちょっとあるんです。

久世:あ、ほんまや!

だろめおん:髪型一緒なんです、基本的に。それで、これがインターフェース。

山田:これそうだ! これでシンクロ率上げるんだ!

だろめおん:そうなんですそうなんです。

(会場笑)

久世:そんなお話でしたっけ?

山田:違った?

だろめおん:基本的にはチップとデールがこの子に好かれようと、人助けしながらあれこれするんですけど。この子は機械好きなんで、ずっと機械いじったり何か作ったりしてるっていう。

山田:またこれ、男の子はたまんないやつだ。

だろめおん:そうなんです。

山田:メカ好きの女の子はねえ、人気がありますよねえ。

だろめおん:もう1つは……。

山田:これはやばいやつですね、かなり。

だろめおん:これは僕が描いたわけじゃないんで、あんまりするとあれなんですけど。

山田:これ日本ではあんまり見たことないですよ。

だろめおん:キャティラック・キャッツっていうアニメなんですけど。車を捨てる、あの、『ブレイキング・バッド』でトゥコとやり取りする、取引する……車を廃棄してる……。

山田:あるね。

だろめおん:あんな感じのところで、野良猫がいっぱい住んでるんですよ。

久世:セクシーだなあ。

だろめおん:それで、こいつがボスなんですよ。

久世:こっちがボスか。

山田:アメリカ人っぽいな、この人!

だろめおん:車ガーって積んであっててっぺんに部屋があって、そこに手下の猫が、「おやびーん、大変ですぜー」つって、「どこどこでこんなことが起きてるでやんす」って。

山田:やんす(笑)。

だろめおん:英語なんですけど。ベッドで寝てるんですよ、こいつ。ベッドで寝てて、「おいおい何だって、しょうがない、俺が行くか」って言ったら、ベッドの後ろからこいつが、「何なの騒がしいわね」って出てくる。

山田:うわーお! アダルティ!

久世:ちょっとちょっと!

山田:マジすか!

久世:何してたんですかねえ?

山田:レッグウォーマーして(笑)。

久世:レッグウォーマーして、何してたんですかねえ?

だろめおん:まあこのあたりを見て育ったから、そうなのかなあと。

久世:思い出したら、性の目覚めはここらへんだったんですか。

だろめおん:だったのかなあっていう。

セルリアン=モノリス説

山田:ちなみにこのへんは、あれですか?

だろめおん:これは単純に、『けものフレンズ』について……。これとか『猿の惑星』とかあるんですけど。

山田:はいはい! おもしろいから言っちゃえよ、言ってよ。

だろめおん:基本的に……まだ僕は最新話をたぶん見てないんですけど。青い怪物みたいなのがいるじゃないですか、あれが何なのか。何だと思います?

久世:えー、ぜんぜんわかんない。あの青い怪物に関しては。

山田:セルリアン!

だろめおん:セルリアンって何なのかなって思ったときに、あれは、『2001年宇宙の旅』でいうモノリスかなと。

久世:セルリアンが?

だろめおん:ええ。モノリスって映画版だとただズーンってあるだけですけど。原作だと、あれがちょっとゲームっぽくなってるんですよ。画面が出てきて、それで的が出てくるんですよ。ひゅって。それで猿がそれに向かって石とか投げて、当てると、気持ちよくなる電波みたいなのを送って、猿が気持ちよくなるんですよ。

久世:へー!

だろめおん:外れると、痛がったりするんですよ。気持ち悪い電波を送られて。だから気持ちよくなりたいから、猿ががんばって的に当てようとするんですよ。それでそんなことを繰り返して、頭の良い猿とそうでない猿を分けていくんですよ。

久世:選別して。

だろめおん:ええ。それで結果的に頭が良いやつから、道具が使えるようになってくっていう展開があるんですけど。要するにセルリアンって、フレンズ化させるために、あれを倒すことができる人たちを、フレンズを選別して、進化を促進させてるんじゃないかなと。

久世:へー!

山田:淘汰のためのアイテム。

久世:なるほと! おもしろいなあ。

山田:そうなるとまた違うニュアンスに読めて、おもしろいことになるよねえ。

久世:あのセルリアンに関しては、考えることを放棄してました。敵なんだなあ、くらいで。

だろめおん:(笑)。

山田:俺は社会問題のメタファーに見えたけどね。

久世:社会問題のメタファー?

山田:そうするとどらの言ってることと通じるよね。それを解決する能力があるものが、残っていくっていうものだから。だから何にもないフラットな状態になって、問題ないと、ストレスで死にだすじゃない。生き物っていうのは。だから適度なストレス、問題っていうものを置いて、それをどうするのかっていうふうにも見えるしね。

久世:唯一の敵ですもんね。

山田:敵っていうか、ミッションに近いかな。

久世:ミッションなのか。だってあれ、死ぬことはないでしょ? わかんないけど。

久世:どう思います? でも「危険だよ、危険だよ」って言ってカバが助けに来てくれたりしてたからさ。あれにやられちゃうとどうなっちゃうのかなっていうのは、気になってはいたんですよね。

山田:まあね。カバ出てきた時点で「セクシー姉さん!」って脳みそ止まるようにできてるかもしれない。

久世:セクシー姉さん。

山田:カバこうしたかっていうのとか、カバって名前をそのままで言うんだとかね(笑)。みたいなそんなね、ツッコミが大変だよね。見てて。

久世:ツッコミが大変。

ワードの使い方に注目

だろめおん:あとはワードの使い方で。オカダさんも前回の放送で言ってた『宇宙の孤児』って。たしか宇宙船っていう言葉を使うんですけど、宇宙船っていうのは、うちらで言う世界みたいな言葉なんですよ。だから宇宙船の外に宇宙が広がってるっていうふうには、誰も思ってない。

山田:なるほどね。

久世:ああー、なるほど!

だろめおん:だからワードの使い方、この世界のワードの使い方っていうのがあるんで。「ジャパリパークだよ」って言ってるけど、あの外からあそこに遊びに来る人がいるっていう考え方はなくて。あれが世界っていう。だからジャパリパークって出てくると、うちらで言う世界っていうのと同じ意味で使ってるみたいなことが、ワード的にいろいろあるだろうなって。ワードの使い方を、ちょっと注目してほしいかなっていう。

久世:それはあるなあ。

だろめおん:フレンズっていうときと動物って言うときと、たまに分けてるときあるなとか。

久世:フレンズは自分が動物だったときのこと知ってますもんね。「私が動物だったときは」ってトキも言ってたし。「大きな翼はなくなったけど飛べるのよ」って言ってたから、フレンズは動物だったっていう自覚があるんだ、これどうなっていくのかなとかって思ってた。

山田:なんかそれ設定があって。最初のソーシャルゲームだっけ、ゲームのときと漫画の設定と。だから、お客さんが来るバージョンもあるらしいよね。

久世:そうなんですか?

だろめおん:そうなんだ。

山田:アニメのやつは完全にディストピアにふってて、お客さんいないみたいな。いろいろやりながらこれが1番良いんじゃねえのっていうのをアニメにしてるらしいけどね。