グローバルから日本を見たときの危機感

彌野泰弘氏(以下、彌野):ほかになにかグローバル企業、または外資系のメリットはありますか?

戸田武志氏(以下、戸田):先ほどの話と近いんですけど、普通にしてると、地球に70億人がいるなかで、自分がどんだけユニークなのかってことをなかなか気づかずに生きてしまうんですよね。

このセミナーは今、100人ぐらいの方に聞いていただいている状態だと思うんですけど、ほとんど同じような教育を受けて育ってきたんだと思います。

それで、「要は、外資って何が違うのかな?」ってお題をいただいたときに考えてたんですけど。お金の出し手が違いますって話なんですよね。

例えば、僕がいたところだと、アメリカの人たちが一番、極端な話、儲ける状態をどう作っていくのかということのなかでOne of AsiaがあってJapanがある、みたいな世界だと思っています。

そこのオブジェクティブというか、達しなきゃいけないところが違ってくると、「僕らの日本ってどういうふうに見えてるんだっけ?」とか、「アジアってどういうふうに見えてるんだっけ?」というと、極端な話、「どんどん日本に使うお金を減らして、チャイナに突っ込みましょうよ」となっています。世界中を見てれば……申し訳ないけど、当たり前のことだと思っていて。

そういう日本の人にとっては耳の痛い情報って、普通に生活してるとテレビつけても別に教えてくれないので。

それが超生々しく「戸田さんとこのbudgetカットなんです。なぜならこっちのほうがgrowしてるからしょうがないよね」って言われると、「Oh. I see.」と言うしかないというか(笑)。今、笑っていいところですよ、はい。

(会場笑)

彌野:けっこう国としては笑えない状況ですよね。僕も、国別の該当ビジネスの成長率ベースで見ると、シンガポールとかASEAN諸国が全部グリーンで、日本だけが真っ赤みたいなことが起こってきて、そうなると主な投資対象はそっちになるので。

今、日本は総じて「ミルキング」 に近いんですよね。「 ミルキング」というのは、いわゆるビジネスとしてはキープしておきたいけど、あんまり投資したくないという。これは大きな課題かなとは思いますけどね。

日本のテクノロジーへの誤解

東後澄人氏(以下、東後):世界の中での位置づけを見る機会としてはよかったなと思っています。

Googleで中小企業向けのマーケティングをしていたというお話をしましたが、日本で中小企業の方々向けにFAXでダイレクトメールを送るキャンペーンをやろうって話をしたんですね。なぜなら、日本の中小企業の方々ってFAXを重要なコミュニケーションツールとして使っているので。

それをアメリカにいる同じロールの人に「これやろうと思うんだよね」って話をしたら、「なんでそんなことをやるんだ?」と(笑)。「日本はテクノロジーが進んでる国じゃないか。FAXを使ってる人はほとんどいないだろう」って本気で言われたんですよ。

「いや、そうじゃないんだ」というのを説明しながら「やっぱり、これぐらい国によってギャップがあるんだな」とか「日本のマーケットの特徴ってこういうところにあるんだな」みたいなことを客観的に見ることができるのは、すごい重要な機会だったなという気がしますね。

彌野:日本にいるときって、毎日の生活のなかで、自分が日本人という意識を持ちながら生活する人ってほぼいないと思うんですけど。海外に出ると、すぐに自分が日本人だという意識が高まるんですよね。

どうしても日本にいると、日本国内の目線で考えてしまうというか。海外に出た瞬間に、さっき戸田さんが言ったみたいに、「これ、日本じゃ起こんないよな」とか、日本と比較することが起こるので、そういう比較対象が生まれるということで目線が上がるというのは、もう1つグローバル企業で勤めていることのメリットかと思います。

ベンチャーでもグローバル企業はあるので、必ずしもベンチャー対外資の比較というわけじゃないと思いますけど、ありますよね。

外資系ならではの難しさ

じゃあ、逆に「外資ってやっぱりめんどうくさいよな」とか……我々はみんな外資を辞めてきているので(笑)。「若干、外資がめんどくさいな」とか「よくないな」というところをいきましょうか? なにかありますか?

東後:調整が大変ですよね。やっぱりグローバルカンパニーなので、グローバル組織をうまくマネジメントしようとしたら、ある程度カルチャー面でも事業面でもグローバルな統一感が大事になってきます。マネジメントの立場からすると、そこが揃っているとやりやすいはずなので。

逆に、各国のチームの視点からすると、その調整でなにかしら問題が発生するとか、コミュニケーションロスがあるとか、そういうのは外資ならではの難しさなのかもしれないですね。

彌野:コミュニケーションコストもたぶん何種類かあって、組織が大きいから話さなきゃいけないというのもあるし。さっき戸田さんが言ったように、他の国の人間とリソースの取り合いになって。

インド人と中国人と日本人が戦ったときに、押しの強さ・弱さはあるし。そもそも英語が得意じゃないことで「お前、何言ってるの?」みたいな話になったりする。いろんなコミュニケーションコストがかかってきますよね。

目標の数字に到達したか否かがすべて

戸田:僕、別に「やだな」ってことはないんです。辞めさせていただいたときも、本当に「ありがとうございました」と。これは本当です。

実は、ちょっと口惜しいなというところがあって。それは何なのかというと、例えば自分は今、日本に住んでいて、そこのコミュニティとか、そこの経済のなかでお仕事させていただいていると。

彼らはどうしても、基本的には日本をリソースの使い道の1つとして考えているので。日本とかここのコミュニティの社会変革をしてやるぜってどこまで言ってるのかといったら、もちろん想いはあると思うんですけど。

そこをほんまに自分が先頭に立ってできるのかというと、ちょっと難しいなと感じる瞬間は正直ありました。

彌野:そうですね。総じて外資にとっての日本は支社なので、「ヘッドクォーターが作ったものをうまく売ってね」というのが1つのミッションであり、やはり0→1で何かを作るということはまあ難しい。

一部サブブランドを日本から作るということはできるんですけど。基本的にはグローバルで商品があって、それを「何月何日に出すから、そこを日本で最大化せい」みたいなのが多いかな。

事業目標を毎年立てるんですけど。昨対比107パーセントと106パーセントの1パーセントの差で、平気で2〜3週間話し合ったりしますからね。「誤差だろう」みたいなことをやり続けるってことはある。

なぜなら、その数字にいったか・いってないかがすべてだったりするので。そういった数字へのシビアさはあるかなとは思いますね。

グローバル企業の経営者との距離

坂本祥二氏(以下、坂本):あと、個人的に思うのは経営への遠さですね。外資系企業の日本法人の社長さんとか、スキルセット的にもすごいんですけど、本当の会社の経営者というよりはリージョンヘッドみたいな感じだと思います。グローバルのマネジメントからは遠いんですよね。

しかも、私のような一従業員という立場は、そのさらに底なので、もう何階層も上にいかないと本当の経営者と接することがない。たまに来日したときに会って、「こんなことやりたいんです」って伝えることはできますが、やっぱりなんか遠いんですよね。

彌野:僕もP&Gに9年いましたけど、A.G. Lafleyという当時のグローバルCEOに会ったのは、9年間で1回だけですもんね。しかも、会ったんじゃなくて「見た」というレベルの。彼の講演をありがたく聞くという、それだけで(笑)。

ただやっぱり、日本のベンチャー行けば、それは当然、社長さんにも会えたりということが、日常的にありますけど。なかなか、A.G.Lafleyに会うというのはグローバル企業の支社の一部としてはないかなというのはありますよね。

外資系の“カタカナ語”は嫌われる?

ほかにここだけは抑えておきたい、外資あるある、ネガティブエリアってありますか?

戸田:あれじゃないですか。ルー大柴みたいな。カタカナでめっちゃしゃべっちゃってる(笑)。何を言ってるか……。いや、これけっこうリアルで。

僕は、外資にいたときに奥さんと結婚したんですけど。結婚式の打ち合わせとか行くじゃないですか。それで、「俺はこんな感じでしたいんや!」って熱弁するんですよね。

終わったあとにタバコを吸うんですけど。一服して帰ってきたら、コーディネーターの方が嫁はんに「旦那さん、あんな一生懸命しゃべってたけど、正直ぜんぜん何言ってるかわかりませんでした」って言ってるところを見ちゃって。

(会場笑)

嫁がまたひどいのが「いや、私もふだん半分ぐらいしかわかってないから大丈夫ですよ」って。いや、本当に「結婚」って日本語で言ってよかったなと思って。

(会場笑)

彌野:会社では普通に必要だからしゃべってるけど。外に出たときにものすごく変なクセが付いてるっていうのはたしかに。

このあと話を聞きますけど、ベンチャーに転職したあとも、異星人っぽく見えるんですね。やたらカタカナ多い、なんか気取ってるように見えたりもするし。そういう意識はないんだけど、そう育てられちゃっただけなんです。