イギリスのEU離脱は今回の買収にどう影響したか

孫正義氏(以下、孫):じゃ質問にお答えしたいと思います。

司会者:まずロンドン会場にいらっしゃる方のご質問を先にお受けしてから、その後に電話会議にて日本のみなさまからの質疑応答の時間とさせていただきます。

記者1:テレビ東京ワールドビジネスサテライトのトヨシマと申します。先ほど英語の会見で、あくまでポンド安、EU離脱は関係ないというふうにおっしゃったかと思うんですけれども、買収金額の根拠となっている136円台というポンドレートはかなり円に対して割安なレートだと思うんですが、今回のポンド安によってどれぐらい安く買えたというふうに孫社長思っていらっしゃいますでしょうか。

また、今回ARMが製造拠点を持っていないということ、つまり今後EUからイギリスが離脱しても関税などの問題が発生しないということは、買収する上において1つの判断材料になったとお考えでしょうか。

:実はですね、今回のBrexitは私の今回の買収の意思決定のなかで、0.1パーセントもそこは頭になかった。現にこのBrexitの後にポンド安が表れておりますけれども、しかし同じ時期にですね、ARMの株価はポンドで15パーセント値上がりしてるんです。

このBrexitのなかで値上がりした主要なレベルの企業という意味で言えば、ARMは際立って珍しい会社でありまして、15パーセント株価は値上がりしてるんです。

ですから為替によるポンド安と、株価の値上がりと、両方足し合わせると実は、ドルで見ると、値引きはなにもなかったし、値上がりもなかった。つまりニュートラルであったということですね。

ですから、Brexitのポンド安は、特段ARMには今回まったく当てはまっていないという事実があります。

記者1:ポンドレートはかなり、今、円高は日本企業が海外企業を買収するチャンスだという見方がありますけれども、孫社長としては今回どのぐらい割安で買えたという認識なんでしょう。

:いや、今言いましたように割安では買えていない。ニュートラルだと。ポンドが何パーセント今回安くなったんですかね。Brexitで15パーセント前後ポンドが安くなって、ARMの株価は15パーセント値上がりしてますから、差し引きすると、実はフラットだということで、我々にとってポンド安は実は今回関係なかったと。

あくまでも、IoTによるパラダイムシフトが今やってくると、そのタイミングで我々は意思決定したと。

実は、もうさらに一言言うとですね、その手前にはソフトバンクは十分な現金がなかったということですね。たまたまアリババの株式による資金調達、一部売却による資金調達と、Supercellの売却という意思決定が重なって、ソフトバンクに資金的な余裕が十分できたのがこの時期だということです。

ユニクロの柳井氏も「絶対いくべきだ」

記者1:製造拠点を持たないという点についてはどうでしょう。

:製造拠点を持たないという意味では、Brexitはマイナスにもプラスにも両方関係ないということですね。

記者2:日経ビジネスのエビタニと申します。今の質問と逆になるかもしれないんですが、買収金額が高すぎるのではないかという質問に対してはどうお考えでしょうかというのが1つと、もう1つは今回ARMを買収することで、今までARMを導入しているほかの通信会社、これまでの取引関係になにかしら影響が出てくる可能性はないのでしょうか。

:ARMは、ソフトバンクにとっては3.3兆円というのは、今までのソフトバンクの歴史のなかでは一番大きな金額ですけれども、株式市場でついている値段に約40パーセント、43パーセントぐらいのプレミアムを払うというのは、ある見方によっては高いと言えるかもしれませんね。

でもそれは過去の利益に対するマルティプルであってですね、あるいはプレミアムであって、これからARMが得るであろう将来の成長余力ということで言えば、今から5年後10年後に振り返ってみて今回の投資を考えると、5年後10年後から見た今日現在の価格というのは、「非常に安く買えた」と人々に理解してもらえるんじゃないかと。

これは10年前に我々がボーダフォン・ジャパンを2兆円弱のお金で買いましたけれども、その当時高いと多くの人は思いましたけれども、今思ってみれば非常に安い買い物だったと。同じように今回のARMも、今から10年後に人々は「ああ、あの時にいい安い買い物ができたね」と僕は思ってもらえると思います。

記者2:社内では反対はなかったんですか。

:社内では大体大きな投資をするときにはほとんどみんな反対です。

僕がアリババに投資した時もボーダフォン・ジャパンした時も、最初の言い始めたすぐは、ほとんどの人が反対です。ソフトバンクの過去の35年間の歴史で、いつもそうです。

だけど、いろいろ話し合ってるうちに、買収のプロセスが進み始めた時には、実はほとんどの人が賛成に変わっている。それは僕が熱心に説明するからと。で、理屈を納得したという場合もあれば、「あんなにあの人がワーワー言うから仕方ない」と言って渋々理解している場合と、いろんなケースがあると思うんですよ。

でも少なくとも、今現在はソフトバンクの経営陣は全員エキサイティングだと思ってると私は思いますね。

ちなみにソフトバンクの取締役会で言えば、柳井(正)さんは投資する時とか意思決定する時にほとんど反対するんですね。ユニクロの柳井さん。

だけど、ボーダフォン・ジャパンする時は「絶対いくべきだ」と賛成してくれましたし。今回のARMの件も「絶対いくべきだ」ということで、非常に強く賛成してくれてます。

アリババのジャック・マーも非常に強く賛成してますし。今回、少なくとも今現在は全会一致で取締役会の賛同を得てます。

ニケシュ・アローラ氏の関わりは?

記者2:退任されてしまいましたけれど、ニケシュ・アローラさんはこの件に関してはなにか関わってらっしゃったんですか?

:最終的な意思決定は、この2週間で実は行ったんですね。はじめてARMに正式にこの買収の件でアプローチしたのは2週間前です。

トルコでテロがあって、そのあとクーデターがあって、ちょうどその間の平穏無事な時に、トルコにARMの会長がヨットで休暇をとって地中海でセーリングしてた時に、僕が電話をして「会いたい」ということで、「じゃあ近くの港に立ち寄る」と。

トルコのマーマリスというところの港町のヨットハーバーに立ち寄って。そこのレストランで彼と僕は会いまして。そこで初めて僕はプロポーズしたと。

ですから、この2週間で正式のアプローチとデューディリジェンスと交渉が全部行われたと。これは、そういう意味ではニケシュが退任したあとなんですね。その前にはおぼろげながらの一般的な議論は少しありましたけれども、我々が腹を決めたのはほんのこの2週間のできごとですね。

記者2:先ほどのもう1つの質問の取引先との関係は?

:ソフトバンクは今までチップを一切作ってないし買ってもないと。そういう意味では、ARMの取引先はチップメーカーですから。ARMの取引先のチップメーカーとはなんら我々は競合するものがないということで、そういう意味では完全な中立だと思ってます。

その隣の方。

ARM側がソフトバンクを選んだ理由

記者3:朝日新聞のテラニシと申します。今日ARMの方がいらっしゃらないので、うかがいたいんですけれども。そういう非常に魅力的な会社で、逆にARM側がソフトバンクさんをパートナーに選んだ理由というのは、孫社長のほうからなにか聞かれていらっしゃいますでしょうか?

それともう1つ確認。今日(フィリップ・)ハモンド財務大臣と会われたということで、(テリーザ・)メイ首相とはとくに電話とかで話されたりしたということは?

:まず、ARMにはいろんなステークホルダーがいますけれども。ARMの今までの既存の株主、それからARMの経営陣、そしてARMのお客さん、いろんなステークホルダーがいますけれども。

ARMの株主に対しては、今回現金で十分なプレミアムを払って、というオファーですから。これはARMの株主総会で、ARMの現在の株主のみなさんが投票することによって意思を表明するというかたちになりますね。ですから、それはまだ聞いてみないとわからない。投票の時期まではわからないという部分があります。

その株主のみなさんに対して、ARMの取締役会が提案をするわけですけれども。今回ARMの取締役会は全会一致で、既存の株主にこの買収案件に応じることを提案する、ということで全会一致の賛同を得たと。

というのは、株主に対しても十分なメリットを提供できる価格が今回オファーされたということであります。

次にARMの経営陣ですけれども。ARMに対して、今まで上場会社として、これからやってくるパラダイム・シフトのIoTのところに、彼らはもっと積極的に技術者だとか、研究開発に積極的投資をしたいと思っていたけれども、上場してるからなかなかこれが、やっぱり利益も考慮しなきゃいけないので、積極的投資がしづらいということを聞きました。

これが上場廃止して、100パーセントprivatizeすれば、少なくともこの数年間の先行投資をひるまずに積極的に行えるということで、経営陣としては非常にありがたいと。機関投資家の株主は、金銭的な利益を得る目的として投資をしますけれども。我々はもっと長期な戦略的投資家として、彼ら経営陣をサポートできるという意味で、彼らは歓迎してくれたということですね。

さらに、社員から見れば、これは初めて今日の午後ケンブリッジのARMの本社に行って、ARMのその他の経営陣と、マネージメントと話を初めて話をするんですけれども。彼らにとってみれば、我々が今後5年間でイギリスにおける雇用を2倍に増やすということを正式にコミットすると。法的コミットするという方向で我々は今ことを進めようとしていますので。

ということは、エンジニアをもっと増やせるということを意味してるわけです。それが確約されると。ということは、彼にとっては先行投資を、エンジニアをしっかりやれると、投資を行えるということなので、きっと歓迎されると私は信じてます。

またお客さんからすると、我々は中立な立場で技術開発にもっと投資をしますので、お客さんにとっても、直接のお客さんがチップメーカー、さらにその先にエンドユーザーがいるわけですけれども、我々は多くの新しい技術を提供するということで、貢献できると感じてます。

次に、ハモンド財務大臣とは今日直接会いましたし、昨晩、日本から飛行機で飛び立つ直前にハモンド大臣、その直前にメイ首相と電話で直接僕が話をしました。1対1でですね。

両者ともに、これはイギリス対する積極的な投資であり、イギリスで雇用を増やすということであり、ARMのブランドも本社もすべてイギリスに残して、既存の組織体系をそのまま残すことは、イギリスに対する強い新任である、ということで非常に歓迎できるというふうに私が直接聞きました。そういう意味では歓迎されてると私も喜んでます。

よろしいですか。じゃあ、その次。

10年前からARMを迎え入れたいと思っていた

記者4:日本経済新聞のキダと申します。今回のリリースでは、英国への投資の拡大を協調されていますけれども、ARMのビジネス自体はサンノゼとか、最近はデザインセンターを台湾につくったりとか、お客さんはむしろシリコンバレーであったりとか、アジアにいると思うんですけれども。そういった地域での投資に対する考え方はどうなんでしょうか、というのが1点です。

もう1点は、今回の買収交渉をもつきっかけとなったのはなにか? 例えばキャッシュが入る見通しが立ったから、これまでずっと狙ってたARMを買いたいという意思が強まったのか。あるいはARM自身がパートナーを探していたというふうな、なんかそういうきっかけがあったのか。お互いが結びつくきっかけになったなにかできごとがあれば、そこを教えていただけると助かります。

:まずきっかけですけれども。ARMからアプローチがあったのではなくて、あくまでも我々が先にARMに一方的に提案をしたと、プロポーズしたということであります。

これはもう10年ぐらい前から、ARM対して非常に僕は強い関心をもってて。いつか、いつの日か、我々に資金的な余裕ができたならば、ARMを我々グループに迎え入れたいという漠然とした思いは、この10年間ずっと持ち続けておりました。

iPhoneだとかAndroidフォンのなかに入ってるのはARMであるということが、iPhoneの最初の製品の時から、ARMベースのデザインのチップが入っていましたので、これはもうARMは、間違いなくこれからやってくるであろうモバイルインターネットの中心になるということは僕はもうその時点から確信してました。

さらにAndroidも、ARMベースのチップに対するオペレーティングシステムだということで、この2社がARMベースのデザインをスマホで採用したということは、間違いなくスマホの世界は、つまりモバイルインターネットの世界は、ARM中心になると僕は10年前から自分のなかでは確信してたと。

まだiPhoneが出てから10年経ってませんけども、僕がスティーブ・ジョブズとiPhoneの発表前から、つまり僕がボーダフォン・ジャパンを買収する直前に、スティーブ・ジョブズと話をした時には、すでにモバイルインターネットの話をしていましたし、任天堂だとかその他に入っているのもこのARMベースだということで、これをずっと思い続けていた。

ただ、一番直近のきっかけは、手元に十分な現金が潤沢に揃ったというのがつい最近だったということと、モバイルインターネットがやってくるというこのいくつかのことが重なったというのが一番の意思決定の理由です。

その前の質問はなんでしたか? あ、イギリス以外ね。

ARMは約4,000名の社員がいますけれども、約半分。1,680人ぐらいはイギリス。とくにエンジニアの中心はイギリスにあります。ですから一番多くエンジニアが固まっている本拠地がイギリスなので、そこをさらに強化するというのが一番いいと思っています。

ただし、ARMはすでに最近中国だとかシリコンバレーだとかオースティンだとか、台湾とかにも開発拠点を持ってますんで、それらはそれらでこれからも強化していく。

イギリスを倍にするからといってほかの国を減らすのではなくて、ほかの国も増やす。トータルで増やす。トータルでARMのエンジニアを増やしていくけれども、とくにイギリスは倍増させるというのが今回の意思決定です。