“実は大学の同級生”な2人の対談

工藤拓真氏(以下、工藤):「本音茶会じっくりブランディング学」。この番組は、業界や業種を超えて生活者を魅了する、ブランドづくりに本気で挑まれるプロフェッショナルの方々と、Voicyさんが構える和室でブランディングについてじっくりじっくり深掘るトーク番組です。

こんばんは。ブランディングディレクターの工藤拓真です。今日のゲストは、映像ディレクターの上出遼平さんです。上出さん、ようこそ。こちらは渋谷のVoicyさんの和室でございます。

上出遼平氏(以下、上出):よろしくお願いします。おしゃれ。

工藤:意外に囁くようなボイスから入ってくる。

上出:そうなんですよ。

工藤:(笑)。

上出:こっちのほうが耳に優しい。

工藤:耳に優しい。ポッドキャストもたくさんされていますもんね。

上出:馬鹿にしてるじゃない。

工藤:してないよ(笑)。

上出:悪い癖です(笑)。

工藤:(笑)。ぜんぜん馬鹿にしていない。今日はこんなテンションでやっていきます。よろしくお願いします。

上出:お願いします。

工藤:まずは簡単に上出さんのプロフィールをご紹介させていただきます。1989年東京生まれ、その後は東京大学に……。

上出:違いますよ。

工藤:ごめんなさい(笑)。勘違いしました。

上出:違いますよ。同級生じゃないですか。

工藤:そうなんですよ(笑)。同級生という話をしようとしたら、なぜか「東京大学」って。

上出:上げないでくださいよ。

工藤:申し訳ありません。ぜんぜん違いました。

上出:ぜんぜん違います。

工藤:僕らはまったく同じタイミングで早稲田大学法学部に入学し、卒業しています。

上出:同級生。

工藤:同級生トークということで、こんなテンションでやらせていただいておりますが(笑)。

上出:リラックス。

代表作は『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズ

工藤:だけど、大学時代はまったくご縁がなく。

上出:どこにいらしたんですか?

工藤:8号館にいましたよ。107号室、大教室。

上出:大教室にいらっしゃいました?

工藤:いました、いました。

上出:僕は基本的に一番前に座っていたんですが。

工藤:一番前はないけど、3、4番目に座って真面目に勉強していました。

上出:本当ですか。じゃあ、本当に近いところに。

工藤:なのに、ぜんぜん出会うことなく今に至っておりましたが、つい最近お仕事をご一緒させていただいたり。

上出:ありがとうございます。

工藤:そのご縁で今日は来ていただいているわけですが、大学卒業後にテレビ東京さんに入社されて、いろんな企画(をされてきました)。一番最初の職種って……?

上出:最初から制作局に配属されて、いわゆるバラエティ番組のアシスタントディレクターから始めて、ずっとそのまま。

工藤:ADさん。なるほど。2017年にスタートした『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズがテレビで流れました。メディアで言うと、今はNetflixさんやいろんなところでも見れたりする。あとはポットキャストもあって。

上出:あとは、文章の書籍と漫画。

工藤:すごいですね。本当に全メディアでこの企画がバーッと伸びていると。

上出:確かに。

工藤:2017年にスタートなので、スタート自体はもう5年以上前ですね。

上出:もうあっという間です。

上出氏の「思考の断片」を探る

工藤:その作品(『ハイパーハードボイルドグルメリポート』)でいろんな展開が広がったのちに、いろんな作品を制作されました。2022年6月に(テレビ東京を)退社されて、現在はご自身の会社でさまざまな作品を手掛けられていらっしゃいます。当然、東京でもご活躍されていますが、ニューヨークでも。

上出:そうですね。生活の拠点をニューヨークにしたってだけです。まだ向こうで何をやっているというわけでもないですが。

工藤:(笑)。そんなことはないと思います。

上出:暮らしがそこにあるというだけです。

工藤:作品に関わっていらっしゃるということですが、この番組は僕がもともと広告畑だったこともあり、ふだんは広告クリエーターの方々や、事業会社でマーケティングをされていたり「いろんな事業を作ってきました」という、いわゆるビジネスパーソンと言われる方々にお話をうかがう機会が多くて。

上出:ぜんぜん違いますね。

工藤:いえいえ(笑)。ぜんぜん違うことはない。違わないんですが。

上出:そうですか?

工藤:映像やテレビの世界の方は、初めてお話をうかがいます。今日は、上出さんが作品を作られる時にどんな思いのもとで作られていらっしゃるのか、多くの方に届ける時にどんなことを考えていらっしゃるのか、思考の断片をもっといろいろ深掘りできればなと思っております。

タイトルに「ブランディング」と入っているんですが、別に「ザ・広告の話」ということではなくて。それこそ『ハイパーハードボイルドグルメリポート』というブランドをいろんなところに展開されたと思うので、そういう視点で聞ければなと思っております。

上出:なるほど。開陳します。

工藤:いいんですか(笑)? すべてを開陳していただけると。

上出:本日は全開陳で。

工藤:この場で全開陳いただけるんですか(笑)。ありがとうございます。ちょうどニューヨークにご帰国される前日ということで。

上出:そうなんですよ。もう疲れ切っています。

工藤:(笑)。すべてを東京に置いていっていただければと。

上出:じゃあ、ここで。

工藤:お願いします。

上出:お願いします。

上出氏が推薦する本、1冊目は『メメント・モリ』

工藤:毎回恒例ですが、「秘訣は何ですか?」という聞き方をしちゃうと、どうしても鉄板エピソードになってしまいます。なのでそうではなく、「影響を与えた3作品を教えてください」と、特に本をうかがっているんですが、上出さんからすごい3冊が。

今度(著書の)ご出版もあるということで、ご自身の本も含めて3冊ご推薦いただきました。これ、本当に僕もたまたま読んだことあるものだったんです。

上出:そうでしたか。

工藤:ぜひご紹介いただければと思うんですが、まずは上出さんからタイトルをそれぞれ教えていただいてもよろしいですか。

上出:1冊目が『メメント・モリ』。藤原新也さんの本ですね。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』も朝日新聞出版から出ているので、何か思いがあるんです。これは藤原新也さんがインド……だけではなかったっけな? 版を重ねるたびに(写真が)ちょっと変わったりするんです。

工藤:写真がどんどん変わっていますよね。

上出:そうなんですよ。写真が変わっていて。僕が持っているのはハードカバーのやつなんですが。『メメント・モリ』とは「死を思え」という意味なんですが、とにかくいろんな人間たちの死の現場が写真と言葉で(載っています)。

工藤:けっこうセンセーショナルなものも入っていたりする作品ですよね。

上出:そう。『メメント・モリ』ですね。

工藤:ありがとうございます。

何度も読み返しているという『不道徳教育講座』

工藤:続きまして。

上出:次は三島由紀夫さんの『不道徳教育講座』。角川文庫。

工藤:また渋いのが来ましたね。

上出:僕はこれがすごく好きで何度も読んでいるんですが、今パッと見て「内容を1個も覚えていないな」と思って。

工藤:(笑)。1個も?

上出:1個も。

工藤:染み渡り過ぎて1個も入っていない。

上出:そうそう。本がゲシュタルト崩壊しているというか。

工藤:(笑)。読み込み過ぎて、自分なのか本なのか、本なのか自分なのか。

上出:境界線がなくなっちゃっているので、僕が『不道徳教育講座』であるということになっていますね。

工藤:なるほど。この1冊を挙げられた時に、僕はたまたまある方から「これをトイレにおいて毎日読んだほうがいい」と言われて。

上出:ええ!

工藤:一時期トイレに置いて毎日読んでいたんですよ。

上出:汚いやつだ。

工藤:汚い。ごめんなさい。

上出:大丈夫、大丈夫。

工藤:なので、文体とかも含めて(体に)入っている感覚があるんですが、確かにそう言われて読むと、上出臭が半端ない。

上出:マジですか。やはり血となり肉となったんでしょうね。

工藤:なっているかもしれないですね。

上出:どなたがそんなことをおすすめされたんですか?

工藤:ある写真を撮っている方です。

上出:へえ。それは犯罪者だから名前を言えないとか、そういうことじゃなくて?

工藤:いえいえ(笑)。前職関係です。

上出:なるほど。承知しました。

工藤:三島由紀夫が、作品作りにどういう影響を与えているのかを深掘りできればと思います。

フィクションとノンフィクションの境界線

工藤:そして最後の1冊がこちら。

上出:上出遼平さんの『歩山録』。

工藤:『歩山録(ぶざんろく)』ですね。表紙、どぎついですね。

上出:表紙、ほぼお任せで作ってもらったんです。

工藤:そうなんですね。作品のイメージに合わせて。

上出:そうです。今、最も引っ張りだこだと思うんですが、川名潤さんという装丁家です。すごくかっこいい表紙。

工藤:めっちゃ格好いい。(ジャンルは)小説になるんですかね。

上出:「初小説」と言っていただくんですが、また僕の中で「小説の定義って何だろう?」みたいなことが始まっちゃって。

工藤:面倒くさいですね(笑)。

上出:面倒くさい。前の(『ハイパーハードボイルドグルメリポート』)がノンフィクションで、これがフィクション。だけど、前の作品の中にもフィクションでありうる部分はあるし、この中にもノンフィクションの部分が多分に含まれるし、何を言うてんねんと。

工藤:(笑)。「どっちや」という。

上出:「簡単に線を引くな」ということで揉めています。

工藤:今現在も売り出し方、プロモーションについて(笑)。

上出:まったく揉めていないです。

工藤:(笑)。なるほど。ありがとうございます。リスナーの方々が聞いていただく時には書店に並んでいると思うので、ぜひと思います。ありがとうございます。

上出氏が「死」と向き合うきっかけになった“ある言葉”

工藤:魅力的な3冊を入り口に、作品づくりのお話をいろいろできればと思います。まず『メメント・モリ』は、これはどういうきっかけで(読まれたんですか)?

上出:学生時代に、朝日新聞の紙面か何かで写真を見たんだと思います。「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」という象徴的な言葉と一緒に、ガンジス川の中州に人間の遺体があって、その足を犬が咥えているというやつがあったんです。それがバゴーンと入ってきちゃったのがきっかけだったと思いますね。

「ニンゲンは犬に食われるほど自由」という言葉の段階で、自分の中のいろんなことが壊されたような感じがあって。そのあたりから、「死」について初めて考えるようになりました。

工藤:それが学生の時なんですね。

上出:そうですね。それで、すぐ『メメント・モリ』を買いに行って。

工藤:(手元にある書籍を見ながら)これね。

上出:それ、それ。すごいですよ。

工藤:パッと見ただけじゃ、人形っぽくすら見えちゃうというか。

上出:我々からすると現実的じゃないかもしれないけど、すごいですよね。

工藤:藤原さんは写真家という顔もあって、文章も書かれていると。

上出:そうなんですよ、かなり憧れますね。写真を撮って、文章を書いて、飯を食っていくみたいなやり口は理想形です。

工藤:そうなんですね。