金メダルを獲ったからといって、すべて偉いわけではない

浜田敬子氏(以下、浜田):では、最後のテーマに移りたいと思うんですが、先ほども「個人はみんな違う」とお話がありました。みなさんが何を組織に求めてるか、大事にしたい価値観もバラバラの中で、それでもチームの最大化するための今のリーダーは、どういう人がふさわしいのか。そういうことを、最後にお話していただきたいと思います。

みなさんからもキーワードとして出ているんですが、これまでの「リーダー」の形容詞についていたキーワード、例えば「強いリーダーシップ」「決断力」「積極性」が最近はちょっと変わってきています。

「弱いリーダーのほうがいい」とか「共感方リーダーシップ」とか、もっと言えば「自信のないリーダーのほうがうまくいく」とか、今の時代のリーダーシップにつくキーワードが変わってきてるなと思います。

私が井上さんのインタビューで拝見したのは、「どうしてそういったリーダーになったんですか?」と聞かれた時に、「僕は別に特別能力があると思わなかったから」という言葉でした。。

「いやいや。金メダル取られたでしょ」と思いましたが、自分自身が代表になってオリンピックに出て金メダルで取れば、人間誰しも「自分のやり方が正しい」と思ってしまうと思うんですね。

にもかかわらず、、井上さんは「自分は大したことないんだ」と謙虚にリーダーという仕事に向き合われた。どういうふうにしてご自分でリーダーシップを作ってらっしゃったんですか?

井上康生氏(以下、井上):リーダーシップをどう作っていたか。非常に難しい質問だなと思います。先ほど「金メダル取ったのに」と話されてたと思いますが、その部分においては、自分自身の自信になったり誇りは持ってるんです。

でも、代表監督という仕事に金メダルがどう当てはまるかを考えなければ、何の意味もないので。金メダルを取ったからすべて偉いのか、すべて分かってるのかというと、そうではない。私の中では、これが根底にあったと思います。

現役引退後の2年間の英国留学で感じた「伸びしろ」

井上:実は現役が終わったあとの2年間の英国留学の時に、「自分って無学だし、無力だな」というのをすごく感じたんですよ。いろんなことを知らないし、日本のこともいまひとつわかってない。また、世界のことも知らないなという気持ちになったんです。オリンピックチャンピオンだけど、たかがイチ人間としては知れてるなと。

でも、すごくポジティブな人間なので、「その分だけ伸びしろがあるな。ここからもっと学んでいったり、自分が努力していけば成長できるな」と思ったので、その影響はすごくあったかなと思います。

現役が終わって、そのまま監督や指導者の仕事にボーンと入っていた時には、その感覚が磨かれたかどうかはわからないですよ。わからないんですけど、疑問なところはあるかなとは思っています。

そういう気持ちが自分自身の中であるのであれば、いろんな方々に協力していただく中で、最強・最高のチームを作っていければいいんじゃないかと思います。

じゃあ、チーム組織を作っていく中で必要かというと、自分にない能力を持ってる人をどう集めていくか。ここをすごく重要にしていきながら、かたち作りさせていただいた部分があったので、その観点も持っていたかなとは思います。

リーダーとして大事にしていたのは、統制じゃなくて「統率力」。これは、イコール柔軟性や多様性にもつながっていく言葉だと思ってるんですが、ここをどう待つかを意識した上で、現場に立たさせてもらったところがあったかなと思います。

浜田:先ほど言った「アンラーン」という言葉を、自然にやられていたということですね。自分の成功体験を1回手放さないと、どうしても人は(過去の成功体験に)依拠してしまうと言われているんです。もしかしたら、英国留学の時が期間だったのかもしれないですね。

井上:いわば先生方というか、自分自身の上の方々の助言が、私にとってはすごく大きかったんですよ。現役が終わったあとって、一種の英才教育じゃないですけど、海外に行って一回自分自身を見つめ直してくる。そこからまた、次なる違うステージで活躍するように準備をしておけと。人間においても、一回溜める時期も必要だから。

その方も決して押し付けるわけじゃなくて、「(行ってみたら)どうだ?」と環境を振っていただいたんです。最終的には自分自身も「いいな」と決めた上で、進んでいった部分はあったんです。

私自身も、上の先生方の影響をものすごく受けた一人でもあるので、今後組織を作っていく中で、バランスを考えた上でやっていくことは大事かなと思ってます。

リーダーに求められる、過去の栄光を捨てられるかどうか

浜田:私がいろんな経営者の方にインタビューする時に、「この方はなんでこんなフラットなんだろう?」「なぜこの組織は、なぜダイバーシティに富んでるんだろう?」と思う時って、経営者やリーダーの方が1回マイノリティになる経験されているんです。一番は、海外に行くことですね。日本人としてマイノリティになる。

男性が多いので、日本の中にいると絶対にマジョリティです。だから日本人男性って、ある種の特権性がある。

でも、マイノリティの立場になると人は自然とアンラーンするとお申し、謙虚になるし、いろんな人の力を借りている。だから、リーダーになる時に人を属性で見ないことがけっこう徹底されてるなと思うんですね。羊一さん、今の康生さんのお話を聞かれていかがですか?

伊藤:本当にそのとおりだと思います。逆にそういう経験がないと、人間って弱いからついついそこに安住しちゃう。というか、一度得た栄光から変わりたくないからね。

浜田:手放すのが難しいんですよね。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):どっちかというと、栄光をホールドしたい。それはある意味、日本の会社のシニアの方たちが持っているものに近いと言えば近いのかもしれない。だからそこを捨てられるかどうか(がポイントです)。英国留学は、何を考えて留学されたんですか?

井上:1つは語学(の習得)です。5歳の時から柔道を始めて、現役で30歳までずっとやっていたんですが、「次なるステージを進むにあたって、社会をもっと知るべきだ」と先生からいろんなお話をいただいて、「ああ、そのとおりだな」って思いました。あとは、人脈作りもあります。

もう1つ(先生から)お話していただいたのは、「日本から見る世界観と、世界から見る日本観はぜんぜん違うぞ」と。それも含めた上でいろんなことを感じてこいと言われて、「おもしろそうだな。楽しそうだな」と思って、行かせてもらったのがきっかけでした。

伊藤:「行かない」という選択肢もある中で、「おもしろそうだな」と思えた。これで終わるんじゃなくて、やはり先があったわけですよね。

井上:そうだと思います。

仕事の先の「自分自身がどうありたいのか」を考える

井上:私も1つ質問したかったのは、企業においてミッション・ビジョン・バリューがあると。しかしながら、もう1つ考えていかなきゃいけないのは、自分自身の仕事観や人生観をどう考えるか。我々って、もっとこれを見つめてもいいのかなと思うところがあります。

伊藤:絶対にそうですよ。

井上:現役時代にずっと突っ走ってた部分があったので、留学中の2年間の時期は少し余裕ができて、そういうもの(自分自身の仕事観・人生観)を見つめる時間を設けさせてもらったんですよね。そこで「自分は今後こういう道に行きたいな」とか「もし自分自身がこうなったら」と思ったんです。

伊藤:なるほどね。

井上:全日本監督になったのは、ロンドンオリンピックで結果が出なかったからなので、実は突然の打診だったんです。でも勝手ながら、留学期間中に「もし自分が代表監督だったら」みたいな感じで作っていたものを、当てはめることが出てきたんですよね。

伊藤:なるほどね。

浜田:へえ。

井上:言い方がちょっと雑かもしれませんが、余裕を持ったり、下積みみたいな時代を経験することは、力をつけていく上では大事じゃないかなと思うし、私は大事だったなとい感じていますね。

伊藤:当然、企業がやっていくところもあるけど、企業って意志があるわけじゃないし、個人の集まりじゃないですか。若かろうがシニアだろうが、個人一人ひとりが「僕はこうしたい」「私はこうしたい」「だから学びに行こう」と考える。「こうしたい」っていう軸がすべてだと思いますよね。

井上:仕事に対する変化をつけていくことに関しては、私自身何も悪いことではないんじゃないかなと思うんですが、その先の「自分自身がどうありたいのか」を考える。

ここ(の考え方)をしっかりと持った上で、いろんなものチャレンジしていくほうが、より効率的にいろんなものを生み出していけるのかなと思います。人生そう簡単なものではないことは大前提なんですが、そのように思うところはありますね。

「個で勝つ」ではなく「チームで勝つ」

伊藤:そうですよね。僕も日々ヤフーでずっと言っているのは「リード・ザ・セルフ(Lead the Self)」。自分自身をリードしろ、これがリーダーシップの原点だと言ってます。

過去を振り返り、今大事にしてる思いを知り、未来に思いを馳せて行動する。行動したら、また見えてくる。本当に簡単ではないですが、おっしゃるとおり、これを繰り返す。これが、亡くなる時に「ああ、できたかな」と思えたら最高ですよね。

浜田:秋元さんは、自分自身のキャリアを大事にしたい人たちが集まっている組織を束ねる立場ですよね。先ほど「違う人たちと対話をする」ともおっしゃってましたが、リーダーとしてふだんから大事にしてることや、「これはやらないようにしよう」と決めていることありますか?

秋元里奈氏(以下、秋元):お二人の話、本当に共感しながら聞いていました。まず、全能感を捨てることはすごく意識してますね。企業という塊の中にいると、どうしてもリーダーや経営者って批判を受けづらいというか、周りからフィードバックを得られづらい。なので、ついつい全能感持ってしったり、何でもできるような気がしてしまう。

でもその中で、自分ができないことを正しく認識する。メタ認知をちゃんとして、自分はどこができて、どこが苦手なのかを常に客観視し続けることは意識してますね。

「個で勝つ」ではなく「チームで勝つ」でいうと、経営に関しては経営のチームで勝てばいいので。(多様な人を)チームで集めるとおっしゃってましたけど、「自分の得意はここ。足りないところはじゃあこの人に」「自分はここが苦手だからタッチしない」とか。

自分が得意なところに時間を使えるように、自分の中にも自己開示していく。自分の中に閉じ込めておくと、周りもどこまでやっていいかわからないので、「自分はここが得意・苦手」というのを開示して、みんなが動きやすいようにしていくことはすごく意識してます。

さっき羊一さんも「循環する」とおっしゃってましたけど、1年単位とかで変わってきたりもするので、常に最新の自分の状態をあらためて認知し直すことは意識しています。

浜田:そしてリーダーとしては、メンバーに対してそれを開示していく。何を考えているかをオープンにしていく、ということですね。

秋元:そうですね。「最近はこういうこと考えて、こういう価値観があることに気づきました。なので自分はこういう判断をしがちだと思います」というのは、積極的にリアルタイムで共有するようにしていますね。

新しいことを始めるには「志を立てる」こと

浜田:羊一さん。今、いろんなリーダーのタイプが出てきました。でも、今すでにリーダーである方は、特に日本の場合は中高年男性が多いわけです。この方たちが、どうすれば明日から「違うリーダーシップ」を意識できるのか。アドバイスがあったらぜひ。

伊藤:今の話でみんな共通してるのは、客観視を通じてバイアスや先入観を捨てる。自分に足りない部分を認識して、足りない部分を外から取り入れる。そうすると自然とダイバーシティになっていくんですが、言うは易しで実行するのはめちゃめちゃ大変です。

浜田:そうなんです。自分の中の意識を改革するって、一番難しいんですよね。

伊藤:1つ大事なのは、マイノリティを知ってみるとか、一生懸命対話をしてみること。だけど、「わざわざマイノリティを体験したくないよね」ということになってしまう。突き詰めると、「あなたは人生の中で何がしたいですか?」という問いを、問い続けることに尽きるのかな。

そうしたら、できてないことがわかるんです。僕がやりたい世界なんて、全能感を捨てないと実現できない。言うのは易しなんだけど、客観視するって大事です。「それができないから困ってるんだろう」と言われるのを承知の上で、やはり必要なのは「志を立てる」です。

「志」と言うと、20歳とかの若者は「そのとおりだね」っていう感じがするけど、40歳でも、50歳でも、60歳でも、70歳でも、「志を持っていいじゃん」という部分を解放するのはけっこう大事なことかもしれないですよね。60歳で(志を)持つって、いいじゃん。

浜田:「60歳だからできない」ではなく、また新しい志を持つということですよね。

伊藤:このあいだシリコンバレーに行って、それは絶対できると思いました。TechCrunchの創業者の方が「今、Web3でこんなんやってんだよね」と楽しそうにしゃべっているわけですよ。Fitbitを作られた熊谷(芳太郎)さんはもう80歳近いんだけど「俺、今はこういうの今作ってんだよね」って、Oura Ringを作っていたり。

シニアは志を持っちゃいけないんじゃなくて、もう子どもみたいにワクワク楽しくやろう。さらに何が大事かっていうと、志の前にとにかく夢を語ろうよと。しゃべることがけっこう大事なんじゃないかなと思いますね。

「エイジ・ダイバーシティ」は日本の可能性を活かしきれていない原因

浜田:ありがとうございます。まだまだ議論を続けたいところなんですが、お時間が来てしまいました。最後にみなさんから一言ずつ、今日見ていらっしゃる方にメッセージをいただきたいと思います。

「ここが言い足りなかったな」でもいいですし、リーダーシップでもチーム作りに関してでも、エイジ・ダイバーシティを進めていくにはこうしたらいいんじゃないかということを、一言ずついただけたらと思っておりますが、誰からいきましょうか。

みなさん、ちょっと考えている感じですよね(笑)。じゃあ、こういう時は羊一さんからお願いします。口火を切ってもらって。

伊藤:今、シナプスがプツプツ回っていて、紹介するのに時間かかるんですが。よくよく考えてみたら、「シニア、シニア」みたいなことを言ってきたけど、日本社会が生み出してきたものってけっこう強くて、日本にはすごい可能性がたぶんまだまだある。だけど、活かしきれてないところがありまくっている。

その(原因の)1つに、やはりエイジ・ダイバーシティがあるなという感じました。「FREE FLAT FUN」というTシャツを着てるんですが、これ、最後のために用意していたみたいです。

(会場笑)

伊藤:解き放って、フラットになって楽しくしゃべる。かたちじゃなくて、みんなで盛り上がっていく考え方を持ついくことが、あらためてすごく大事なんだなと思いますね。

きれいごとではなくて、何がそういうことを阻むのかっていうのは、これからも追求していきたいなと思います。フラットにたくさんしゃべることで、いろんなことが解決していくんじゃないかなって思いました。

浜田:シニアの人が楽しそうに働いたら、絶対に若い人にも希望ですよね。

伊藤:そうですよね。

組織は、経営者の写し鏡

浜田:今、日本の若い人たちのアンケートを見ると、日本には希望を感じてる人が少ないです。「自分たちがどういうふうになっていくんだろう」という時に、今のシニアを見たら、苦しそうに働いてる人が多いからかなと思うんですね。

伊藤:そうなんですよ。

浜田:そういう意味でも、シニアの人が「まだ何かができる」と言って新しい夢を追い続けていると、若い人たちは「自分たちもまだいける」ってなりますよね。

伊藤:そうそう。次の世代に対する手本でもあるから、「楽しそうにしよう」って誘いたいですよね。

浜田:トリは康生さんにしてプレッシャーを与えます(笑)。じゃあ、秋元さんから。

秋元:いろいろなお話を聞いて、自分自身の体験をすごく振り返ってました。まだまだ100人ぐらいの組織ではあるんですが、組織ってすごく経営者の写し鏡だなと思っていて。

自分が自信ない時はチームも自信なくなったり、自分がフラットでいると自然とフラットになっていく。経営者という観点で言えば、「自分自身がどうあるか」が組織の課題に直面して結びついてるので、自分自身と向き合い続けるのはすごく大事だなと、あらためて感じました。

年代間ギャップとか、ジェンダーギャップもあったりすると思うんですが、それ以上に「個性」のほうが強いというか、個人個人の違いのほうが大きいので。

それこそ「上の世代でも夢を持ってチャレンジしてるは人いるよね」という話がありましたが、年代とかのバイアスを取り除いて個と向き合い続けることを、自分自身もあらためて意識したいなって思いました。ありがとうございます。

時に大事なのは「やるからにはポジティブに」の楽観的思考

浜田:今日はありがとうございました。それでは井上さん、お願いします。

井上:最悪の展開ですよ。

(会場笑)

浜田:いやいや。

井上:短い時間ではありましたが、今日はこういう場に参加させてもらって、本当に学びが多かったなと感じ、非常にうれしく思ったところです。これから先、まずは自分自身を考えた上でも、常に生きがいとかやりがいを感じながら生きていきたいなと思いました。

これは私だけじゃなくて、本当にすべての方々に共通する部分じゃないかなと思うところがありますので、ぜひともそれぞれの立場のもとで、自分自身がどう生きていきたいのかと(考えてみてください)。

ネガティブなことを考えていく中で、いろんなものを切り開いていくことももちろんありますが、やるからにはポジティブに、時には楽観的な思考がすごく大事なんじゃないかなと思います。

そういう気持ちも大事にしていきながら、いろんなものに携わっていただきたいなと思います。私もこれからこういう場に出る時には、Tシャツで来ることもも心がけます。

浜田:ぜひ次回から。もう注目です。

井上:でも、スーツ好きなんで。

(会場笑)

井上:両方使いこなしたいと思います。ありがとうございました。

浜田:本当にみなさん、今日はありがとうございました。