代表2人の人間味あるエピソード

日向諒氏(以下、日向):日向と申します。今日は僭越ながらモデレーターをさせていただきます。

僕の簡単な自己紹介ですが、もともとAnyPayという会社で大野さんと一緒に仕事をしていたのですが、今回LayerXのほうにジョインさせてもらっています。今は福島さんと2人でやっていて、ちょっと中立的な立場からいろいろとお話が聞ければと思います。

ちょっと雰囲気も硬そうなので、アイスブレイク的なところからいろいろ伺いたいと思うのですが、福島さんと大野さんは僕から見てもあまり人間味がないというか(笑)。ちょっと硬いイメージがあります。なので、趣味などをおうかがいしたいと思います。福島さんは今週土日に何をしていましたか?

福島良典氏(以下、福島):今週の土日は新潟に行っていました。知り合いが馬主をやっているんですけれど、一緒にその馬を見に行って、競馬をしていました。

日向:勝ちました?

福島:大敗しました(笑)。

(会場笑)

福島:難しかったです。500円だけ勝ったんですが、それ以外で負けたので、トータルで言うと相当なマイナスでした。

(会場笑)

日向:ありがとうございます。では、大野さんは土日に何をされていたんですか?

大野紗和子氏(以下、大野):いとこの家の双子がフランス人と日本人のハーフなんですけれど、ちょうど今日本に来ているので、この土日は一緒に遊んでいました。趣味全般で言うと、歌が上手くはないんですけれど、オフィスのメンバーでバンドをやっています。

ミッドタウンに入居すると、1年に1回、入居企業がビルボードでライブができる日がありまして。私たちは去年引っ越して、今年の2月に1回目として出たんですよ。そこでちょっと味をしめて、次の2月にも出たいなと思っていて。(会場を指して)2人ぐらいそこにバンドメンバーもいるんですが、そういうことをやっていました。

日向:なるほど。じゃあ、ぜひ音楽好きを採用したいですね。

大野:そうですね。いろんなポジションが空いているので(笑)。

Anypayが共同代表になった理由

日向:ありがとうございます。それでは事業の話というか、さわりになってしまうんですが。お2人とも代表交代があったと思います。

大野さんは前任の木村さんから代表を引き継いで、福島さんはどちらかというと今回は竹谷さんにGunosyの代表を任せてLayerXを立ち上げるということだと思います。それぞれの簡単な経緯や背景をちょっとおうかがいできればなと思います。じゃあ、大野さんから。

大野:そうですね。みなさんご存知かと思いますけれど、今回もともとGunosyの代表でもあった木村から代表を引き継いで、payment事業を見ている井上と、ブロックチェーンその他新規事業隆起を見ている私の共同代表というかたちになりました。

木村はシンガポールの代表をやるのですが、木村が事業に関わらないということではありません。

大きな方向性などを話をしているのですが、たぶん木村からのメッセージとしては、より現場でいろいろ仕切って速くやりながら、どんどん事業を前に進めていって欲しいというメッセージなのかなと受け取っています。それは代表だけではなく、組織全般がそうだなと思っています。

やっぱり機動的に新しくどんどん取り組んでいかなければいけないのがスタートアップなので、代表というレベル、事業というレベルでもそうだし、その中でのいろんな部署でもそうだし、それをできるだけチャレンジする。そして成果を出す人に権限も与えるなら、組織として機動的に動いていきたいなと思っています。

ブロックチェーンはネット誕生以来、20年ぶりのチャンス

福島:Gunosy社のところでいくと、まさに僕はブロックチェーンに集中するための配置転換をやったという感じですね。もともと竹谷と僕も共同代表というかたちで、前回の任期から僕が新規事業、竹谷が既存事業というところで見ていました。実際にメディアのところでいくと、ある程度の競争も終わってルール化もされてきています。

今後どんどん新規メディアを増やしていきますが、どちらかというとオペレーディブな部分とか、彼の管轄でいうマーケティングのところとか、広告の部分の勝負になってくるだろうなと思っています。

もう1つは、僕も共同代表でやっていて、当然、代表のまま新規事業をやるという選択肢もあったんですけれど、やっぱり全社を見る限りは、じゃあ、メディアのKPIはどうするんだとか、どれぐらいのリソース配分でやるんだとか、採用の部分とか、かなり事業の把握に集中力が必要なんですね。

これは経営をしている方や事業をやっている方だとすごくわかるんですけれど、複数のことを1人でやるのはかなりの集中力を要します。そういった中でブロックチェーンをどういう変化だと思っているのかというと、「20年ぶりに訪れた大チャンス」だと思っているんですね。

インターネット以来のものすごい大きな波だと思っています。その中で、僕自身は実はインターネットの誕生というものを起業家として迎えられなかったんですね。なぜならインターネットが誕生した頃僕は小学生だったので、そもそも起業するチャンスもなかったんです。

ただし、インターネットで大きくなった会社は、ほとんどが95年から98年ぐらいの間に生まれているんですね。それ以外で大きくなった会社は、かなり突発的な事情でしかないんですよ。

中途半端なリソース配分では、もう勝てない

僕が起業した時は2012年ですが、モバイルインターネットがPCインターネットの次の波でした。このモバイルインターネットの波で大きくなった会社も2009から2012年の間で集中しているんですね。

それ以降は生まれていないし、それ以前にも生まれていないです。それでブロックチェーンはどうかと言うと、実は2013年から2015年ぐらいの間に創業ないしは立ち上がっているプロジェクトが、今かなり支配的な地位にいるんですね。

こうなった時に、もうこれがブロックチェーンにかけるラストチャンスだと思っているんです。世の中だとこれからブロックチェーンだと言っているんですが、僕の感覚だともうラストチャンスです。最後の窓が今開いているか開いてないかギリギリのところです。

ブロックチェーンというのは世界中のグローバルな天才が、今もう120パーセントとか200パーセントとかで人生を賭けてやっているという中で、複数の事業を見ながら、中途半端なリソースの張り方だともう勝てないなと思うんです。

なので、実際に2年ぐらい前から僕は新規のものを見ようと準備はしていたんですけど、それをいよいよ実行する時が来たなということで、今回のタイミングでLayerXという会社をつくって僕がそこに専念します。竹谷は引き続きメディアや機械学習の領域のビジネスを拡大していく役割を担っていくという考えでやっております。

世界に先駆けて仮想通貨に関する法律が施行された日本

日向:ありがとうございます。ちょっと事業の内容に突っ込んでいこうかなと思います。

いろいろおうかがいしたいのですが、先ほど福島さんから、ブロックチェーンは世界ではすごく伸びているというお話がありましたが、日本ではまだまだ伸びてないなという肌感だと思います。実際に日本の現状をお2人はどう捉えているのでしょうか。大野さんからおうかがいしてもいいですか?

大野:日本のブロックチェーンの現状ですが、もともと去年から事業をやっていて、海外の方と話すと、「日本はすごくブロックチェーンの進んでいる国だね」と言われることが多かったんですよ。それを意外に思われる方も多いかもしれないですが、何でそう言われていたかと言うと、世界に先駆けて仮想通貨に関する法律ができて施行されたことがあるためなんですね。

あと、実は日本円とビットコインの交換の額は、世界の他の通貨とのペアというのがけっこう多くて、ビットコインだったりイーサだったり、そういう仮想通貨の資産を持っている人がけっこう多いということで、海外からそういうことが言われてきました。

実際にそれは本当のところで、けっこう日本は取引所を中心として、投資という意味でのビットコインやイーサといった仮想通貨への投資は進んできていると思うんです。そういう意味では、けっこう注目はあったのかなと思います。

一般の方も、ビットコインという言葉は地元のおばちゃんでも知っているくらいに普及しました。ただ、一方で課題感として思っているのは実利用、ユーティリティとしてのブロックチェーンを使ったサービスの普及ですね。

あとは、さっき福島さんからもありましたけれども、そもそも他のプロジェクトが一般的に利用していくような、新しいブロックチェーンの開発や、規格を世の中に対してつくっていくようなところは、まだあまり進んでいないところも多いのかなと思っています。

トークンプラットフォームのサービスに対する規制

大野:そこに関して、じゃあ何が必要なのかと言うと、いくつかの視点があると思いますが、1つはよく言われる法整備の部分みたいなことがあると思います。まず、ブロックチェーンのトークンを使ったプラットフォームのサービスは、全部取引所と同じぐらい厳しく規制されなければいけないのかということですね。

ブロックチェーン以外の世界で考えれば、証券と株の取引所とチケット交換のプラットフォームは同じなのかということです。実際はそうではないわけですから、そうしたところがやっぱり実利用に合ったリーズナブルな制度になっていかなければいけないと思います。

あとは、みなさん確定申告で苦労された方もいるかもしれないですけれど、そういった会計の部分など、ルールはあると思います。ただ、それだけでもないなとも思っていて、実際にこれからブロックチェーンを元にしたサービスが普及していくためには、これもいくつかあると思いますが、1つは中身が何なのかということですよね。

さっき福島さんがおっしゃっていたみたいに、リアルの世界で既に存在しているので、その課題があるものを、より確実に透明性をもって早く、というかたちでブロックチェーンにできることになるのか。それともリアルの世界で行われていなかったような、価値のトークン化みたいなものが生まれていくのか。そういうものがあるのか、そこでしかありえないことがあるのか、というのは思いますね。

あとはやっぱり期日の部分ですね。結局、いちいちトークンを送るのに時間が掛かるとか、手数料が掛かりすぎるとか、あとクロスチェーンと言われるものですが、チェーン間の交換が上手くいかないなどの課題もあります。

そういった技術的な部分が進んでいって、ブロックチェーンがもっと使いやすくなれば、マイクロペイメントと呼ばれるような少額の支払いにも利用されるかもしれません。そんなふうに技術によって解決されることもあると思います。

あと3つ目としては、やっぱりUIとかUXの改善がアプリケーションのレベルで必要だと思います。MyEtherWalletなどを、ICOの投資家の方はすごく使っていると思います。もちろんそれはありがたいものではありますが、そういうテッキーなインターフェイスを、たとえば女子高生が使って仮想通貨の残高が管理できるかというと、そうではないですよね。

だから、やっぱり普及に向けていくためには、一般の人でも使えるようなUIやUXというところが課題になってくると思います。まとめると、日本ではまだまだ投機が多いですが、私たちは長い目で見ていく必要があるということです。

法整備や技術という下地、あとはその上に生まれてくるコンテンツというものも含めて、ブロックチェーンには、一般の人に使われていく可能性がすごくあると思います。そこをこれから期待したいなと思っていますね。

どういう機能があるのかで法整備の内容が変わる

日向:ちなみに海外の法整備では、進んでいる国とか、ここはちゃんとしているなと思うところとか、参考にできるようなところはあったりしますか?

大野:そうですね。そこはおもしろくて、ブロックチェーンのエリアの法整備は、1年ごとにというか数ヶ月ごとに、どんどん変わって新しいニュースが出てくるんですよ。なので、私たちもキャッチアップするように努めています。

まず大きな変化で言うと、去年DAOがアメリカで「これは有価証券ですよね」みたいな話が出て、それはけっこう大きな衝撃だったと思うんですね。それまでブロックチェーンの世界では、別に何をやってもありで無法地帯みたいな時もあったんです。

けれど、その辺は流れとして、結局ブロックチェーンだからではなくて、そこがどういう機能を実際に持っているのかという中身で判断するというのが、けっこう海外だと大きな流れになってきました。

なので、有価証券や株みたいなものをブロックチェーンに持ってきたものは株として見る。そうではなく、例えばキャラクターみたいなコンテンツだったら、それはデジタルアセットとして見ていこうというのは、けっこうあると思います。

ただ、アメリカは世界の中でも有価証券として見るような範囲が広くて、けっこうコンサバティブなところがあると思います。一方でシンガポールなどは、トークンであっても有価証券みたいな性質なのか、それともデジタルアセットなのか、通貨なのかを中身によって分類していこうという動きがあります。

なので、個人的には実利用に合っている方針、枠組みになっていくと思っています。ただ本当に国ごとに多彩です。けっこう東ヨーロッパの国などは、税金もそうですし、法整備も合わせて仮想通貨にすごくフレンドリーな仕組みを出していて、それを世界に向けてアピールしているところがすごく多いですね。

エストニアも「国家としてのICOを計画してます」みたいな話を出していたりしますし、あとベラルーシなどもそうですね。結局、国の資源がすごく豊かじゃなくても、そういったブロックチェーンに対する積極的な姿勢を見せることで、良い技術者がどんどん集まっていったり、新しい産業が生まれていったりする。そういう可能性もあるんじゃないかと思っています。

インフラの整っていない国で盛り上がるブロックチェーン

日向:なるほど。ありがとうございます。それに関連して福島さんに聞きたいことがあります。大野さんからけっこう法律とか会計面の話が出たのですが、今度は技術寄りのところから、日本はどうなのかみたいなところをおうかがいできればと思います。

先ほど話にあったライトニングネットワークの技術だとBlockstreamが開発頑張ってます。とか、インターオペラビリティーの問題だとCosmosが頑張ってます。みたいな話があると思うんですが、日本はどうでしょうか?

福島:そうですね。日本の一番の不幸は、取引所が盛り上がりすぎてしまったことかなと思っています。実は取引所というのはブロックチェーンにあまり関係がないんですよ。もちろん自分の持っている資産を最後は書き込んでいるんですけれど、とはいえ、ほとんどがデータベース上でやりとりされている。ただの取引みたいな感じで、そこがブロックチェーンだと思われてしまったんですね。

そして日本ではプロジェクトがほぼないという状態です。ただ僕もいろんなミートアップなどに行って、向こう(海外)のプロジェクトと話すのですが、日本のエンジニアが海外の人に負けているかというと、もちろん超トップクラスでは負けているんですけれど、ポテンシャルでは決して負けていないと思います。

やっぱりブロックチェーンで盛り上がっている国は、日本みたいではない国、つまりインフラが整っていない国なんです。日本では、みなさんけっこう中央を信頼していますよね。 日本の政府は比較的信頼に足ることをやっていると思うんですよね。一方で、情報の開示というのはほぼしないじゃないですか。

それこそ海外、 vitalikやTelegramが生まれたロシアなど、そういった旧共産圏の国とかだと、実際にビットコインが盛り上がった時、中央をまったく信頼していないが故に、システムによってどう信頼を担保するかとか、プロトコルによってどうその信頼を担保するかとかがめちゃくちゃ考えられているんですよね。

ギリシャ危機とか、アルゼンチンのハイパーインフレの時とか、中国のキャピタルフライトの規制とか、そういう中央に対する信頼のなさによって技術が発展してきたところがあるんです。なので、日本はそういう人材が出やすい土壌ではないんですね。

ブロックチェーンのような新しいところで良いエンジニアが出てくる条件という話だと、やっぱり僕はチャンスが人を育てると思っているので、そういうチャンスの中でいろいろ頭で考えて、どんどんプロジェクトを生み出していくこと。そこが一番足りていないのかなと思うんです。

ブロックチェーンでおもしろいプロジェクトが出ている国を見ると、やっぱりイスラエルとかロシアとか、今まで中心ではなかった国というか、そういうところから出てきているんです。

それに対して、今シンガポールとかUSとかが、ものすごく賢く対応してきています。今後どうなるか、みたいな大人の勝負になってきたなというのが、ここ数年の感じです。やっぱり技術だし、僕はそこまでアンチ政府やアンチ中央みたいな思想を持っていないんですけれど、そういう強いイデオロギーから出てきている革新だなというのはありますよね。

ブロックチェーンが「なくていい」ことを考える

日向:なるほど。そういう意味では、たぶん法整備とか技術面とかがこれからどんどん育っていくとは思いますね。ただ、正直まだ手触り感がないというか。今後どの領域からブロックチェーンがもっと活用されて広がっていくんでしょうか。お2人の意見を聞きたいと思います。

大野さんはどうですか? ブロックチェーンに対して、最初にここから置き換わると思うところや、どうしたら使われるようになる、みたいなことはありますか?

大野:そうですね。まずブロックチェーンがなくていいことは何なのか、というのがあると思います。今、たとえマイクロペイメントに適するほど、トランザクションが速くも安くもなくても、既にブロックチェーンのメリットを活かしやすいところがあると思うんですね。そこで私が考えているのは、透明性がないということです。

1つはトランスペアレンシー(透明度)、2つ目はトレイサビリティ(追跡可能性)が低いことで、記録を追いかけたいのに追いかけづらいところがあります。3つ目は、実際に経済圏やコミュニティに価値を提供している人と、そこからの経済的なメリットを受け取ることのバランスが上手くいっていないことですね。これが世の中にはけっこう沢山あります。

例えばいくつか事例を挙げると、今までFacebookの話とか、けっこう話題になりましたよね。今までは自分自身の個人情報や自分が無償でする行動に、実は価値があるということを意識しづらかったと思うんですね。

実は企業側がそれをビジネスに活かしているわけなので本当は価値があるけれど、それをきちんと自分で報酬として受け取ったほうがいいよね、というようなプロジェクトはブロックチェーンの上にあったりするんです。

例えば自分の情報を共有してその代わりにトークンをもらうとか、自分が行動する、中身をレビューするとかですね。それによってトークンを受け取る。

そういう今まで価値化されてこなかったものの価値化が進んでくると思います。

他にも例えばアートの領域で、若くてまだ有名じゃないようなアーティストの方が作品をつくって、それを目利きするみたいな人がいますよね。

数万円で買い取られるかもしれないですけれど、それを転売してすごく有名になったら、いきなり数億円で売れたりするわけですよね。そうすると実はコンテンツをつくった人が最初にいるんだけれど、作品がどういうふうに流通していくかは見えないんです。将来それにすごく大きな価値が付いても、最初に生み出した人のところに後で付いた価値が共有されないということがあります。

そういうことが、日本も含めていろんな業界でたくさんあるんです。そういう経済圏のバランスの悪さをブロックチェーンで解決していくことが、これからいろんなところで起きていくと思います。そして私もそれを手伝っていきたいと思います。

トークンはセルフガバナンスする存在である

あと、私たちはICOアドバイザリーをやっているので、ICOという文脈から1つお話したいことがあります。先ほど申し上げたように、ICOの世界というのはユーティリティートークンと言われるようなものがほとんどだったんです。これから新しくゲームつくるから、これを買っておいてくれたら将来ゲームに使えるよ、みたいなトークンですね。

では、それに対する価値がどういうふうに決まるのかというと、価値の評価はすごく難しくて、バリエーションをどうするのかがすごく大変だったんです。どちらかというと人気とか期待感とか、将来使う人が多くなりそうだよね、だからセカンダリーに上場したらすごく高くなるんじゃないか。そういう世界だったんですね。

ですが、それとはまた別のところで、さっきもDAOの話が出ましたが、DAOは有価証券であるという話がありました。有価証券であるということは世界のコンセンサスになってきているということなんです。

有価証券であっても、そういう新しい有価証券があってもいいじゃないかというかたちで、最近セキュリティトークンオファリング(STO)と呼ばれるICOの中の配当を行ったりして、もうちょっと経済的な裏付けがあるようなトークンがつくられています。なので、それをリアルの世界のアセットとどう紐づけていくかみたいな世界が出てくると思います。

じゃあ、もともと株みたいにいろんな種類の証券があるものを、わざわざブロックチェーンでやって何がいいのかという話もありますが、私がトークンの説明でおもしろいと思っているものは、トークンはセルフガバナンスする存在であるという説明なんです。

それがすごく好きなんですけれど、紙の株券があったとして、じゃあ、その株券を持っている人は何ができるのか。例えば株主総会に出られて議決権があります、配当が受け取れます、みたいなものは株券にいくら書いてあっても自動的には起きないですよね。

そのルールを記した契約書や実際に配当を行う機関みたいなものがそこにあって、そういうのがぜんぶセットで、株等システムをつくっているわけですね。だから、さっき福島さんがおっしゃったような、中央を信頼する、信頼する誰かがやってくれる、そういうことでなければいけないんです。

だけどトークンのおもしろいところは、トークンというものに、実際にどういう条件で契約が執行されるか、これを持っている人は何ができるかという契約のルールが、スマートコントラクトの存在によってセットで存在していることなんです。

だから、トークンというのはセルフガバナンスする存在であって、それを外側で担保してくれる人がいなくても動く。これを使っていくことで、元の株券にはなかったようなものが、ブロックチェーン上で実行できるんです。

では、それで何ができるかというと、例えば会社の概念を生み出すことができるんです。ブロックチェーン上で調達をして配当も配って利益を出して、そこでユーザーからの支払いも受け取ってサービスを提供する。誰かが存在しなくても最初に決めたルール通りにそれが動くという、共同体としての会社みたいなものも生まれていくと思うんです。

それに、何かそういうものを媒介する存在としての新しいセキュリティートークンみたいなものが今後伸びていくんじゃないかなと思っています。

新しい信用創造がブロックチェーンの真価

日向:ありがとうございます。じゃあ福島さんどうですか?

福島:そうですね。話したいことがたくさんあるのですが、今まさにLayerXで仕込んでいるプロジェクトがブロックチェーンのメインストリームだと思っています。なかなか言いづらいことがあるんですけれど、広義な意味で、やっぱり金融が変わると思います。

ブロックチェーンで価値の移転と価値の流動性を出すことだと思っているので、とにかく今まで金融と思っていなかったものも、すべて金融として扱われるという革新が起こると思っています。なのでユーザーからすると手触り感がないというか、わからないところで起こる変化なんですよね。

ただユーザー側が最後に得られるものとしては、例えばより安い手数料でマッチングできるとか、今までその金融システムがなかったら存在しなかった商品というのが、より多く供給されることがあると思います。

Drivezy(ドライブジー)がすごく良い例だと思うのですが、車がある種の公共財みたいに動いているわけですよね。みんなが共有できる。それに対して資本を出す人がいるかいないかというところで、その資本、車を供給することの価値というのが、一番わかりやすい配当というかたちで示されました。

そこに投資したい人はたくさんいて、そうなった時に、インドにある車の数はたぶん増えていると思うんですよ。これは消費者が便益を得ていますよね。でもすごくわかりづらい。そういう話の変化が起こるのかなと思います。

僕はブロックチェーンのところでいくと、なぜブロックチェーンを使うのかがすごく大事だと思っているんです。法定通貨や、今の仕組みで回っているようなところにブロックチェーンを持ち込んでもまったく上手くいかないと思っています。

ブロックチェーンの技術的というか、根本的なところは何かというと、トランスペアレント、つまり透明性と非改ざん性を、少なくともデータ上では第三者の権威もなしに証明できることなんです。

これは新しい信用創造ですよね。台帳を使った信用創造というのが世の中のどういうところにあるんだろうとか、ちょっと抽象的な話ですが、そういうところに対する金融の手段として、まず間違いなく最初に普及していくんだろうなと思っています。

日向:なるほど。株式にコードをかけるみたいなところなどは、けっこうおもしろいなと思っています。金融のところは、わりと変えやすいみたいなこともありますよね。

福島:さっきの(ブロックチェーンで会社としての機能が)自動執行されるみたいなことがすごく良いですよね。極論で言うと、例えば新興国に投資したい時やお金を貸す時、一番困るのがどうやって取り立てようか、ということじゃないですか。

やっぱりそれによってものすごくデフォルト率が変わったりするんですよ。例えばデジタル上の資産でお金を貸すことができて、返済が強制執行できるとするなら、それはどういう投資商品なのかとか、そういう考え方がこれから生まれてくるんじゃないかなと思っています。

千差万別なセキュリティトークンのかたち

日向:なるほど。ちなみに大野さん的に、DrivezyみたいなSTOは世の中にけっこう増えていると思いますか?

大野:そうですね。今年に入ってから、それもこの数ヶ月とか、如実に波を感じますね。Drivezyみたいにアセットのキャッシュフローをちゃんとトークンにしましたというものもあれば、未上場の会社の株のようなかたちで会社の利益をトークンにしましたというものもあって、いろんなパターンがあると思います。

最近でもeスクーターみたいなものの会社が、調達を大きくSTOでやっていて、すごく注目されてきていますね。おもしろいのは、やっぱり今までのICOはテックの世界の人が投資をしているとか、個人みたいなニュアンスが強かったんですが、これからはわりと既存の金融に投資していたような人たちも、セキュリティトークンという片割れが出てくると興味を示してきているのかなと思います。

だから金融に対してブロックチェーンが入っていく部分で、すごく土壌を広げていくんじゃないかなと思っています。さっきの福島さんの絡みでいうと、やっぱり一口にセキュリティトークンと言っても、裏側が何なのかによって、関わってくるリーガルやビジネスの仕組み、必要とされるプロトコルが違ってくると思うんですよね。

結局、これは金の価格に連動するようなコインテスなのか、それともこれは不動産の所有権を表すようなことなのか、さっきみたいに車の利益を持つ権利を表しているのか、というように、セキュリティトークンというのは本当に千差万別なんですよ。

それを1つひとつそのビジネスと合わせて、どうブロックチェーンと繋げていくのか。そして調達事業にとって価値があって、投資する側にとっても魅力があるものにどう仕立てていくのか。そこが腕の見せ所だと思っています。それをビジネスやリーガル、テックを組み合わせて、どれだけ先進的におもしろいことをやって、実際に世の中に出していけるのか。それがまさにAnyPayでやっていきたいことだと思っています。

日向:なるほど。これがさっき言っていた開発中というやつですね。

大野:はい。

ブロックチェーンに120%リソースを割きたい人に来てほしい

日向:今回は採用イベントなので、お2人から、今後AnyPayはこういう方向でやっていきたい、それに紐付いてこういう人が来てくれたらうれしい、みたいなことをお願いします。逆にLayerXは今立ち上げの時だと思うので、こういう事業をやっていくので、今こういう人材が欲しいなみたいな、求められる人材像を簡単にいただければと思います。

福島:そうですね。一番来て欲しいと思うのは、今の会社にいてブロックチェーンの仕事をフルタイムでできるのだろうかという疑問を感じている人ですね。つまり永続して仕事をするというのは、ちゃんとキャッシュフローのあるビジネスをつくって、それが世の中にリンクしていて、だからこそフルタイムでできて、そこに技術的・ビジネス的なノウハウが貯まっていくことだと思うんです。

LayerXは、そこを世の中で一番真剣に考えている会社だと僕は思っています。ブロックチェーンやりますと言うと、みなさんビジネス化するのは遠い将来なのかなと思っているかもしれないですが、僕はけっこう短期間でしっかりとかたちにしたいと思っているんです。

そういう中で、「自分の会社はブロックチェーンやりますと言っているけれど、なんか外向けに言っているだけなんじゃないの?」みたいに感じる瞬間はありませんか? それで業務時間の20パーセントを使っていいから、何かやっていいよとか、そういうのは僕は全部まやかしだと思っているんですよね。かけるというのは、120パーセントのリソースをかけるに足る仕事をつくることです。

それが市場の成長とともに世の中に必要とされていくとか、絶対になくてはならないインフラになっていく。そこに貯まっていく技術的知識が本質ですよね。YahooもGoogleもFacebookもAmazonも、最初は本屋とか大学生のSNSだったように見えるかもしれないですけど、今インターネットで大きくなっている会社は全部そういう会社なんですよ。

一番本質的なところにポジショニングした会社というのは、信じられないぐらいノウハウとかビジネスとか、世の中にとっておもしろいことを提供できるというのを、僕はこの10年ぐらいずっと見てきたので、LayerXはそういう会社にしたいなと思っています。

なのでブロックチェーンに本気で取り組みたいとか、好奇心がすごくありますとか、グローバルに仕事をしたいですとか、技術で世の中に価値を提供していきたいとか、根本的にはブロックチェーンが好きでたまらなくて、100パーセントずっと調べ物をしていて、ずっとそのことだけやっていたいという人にぜひ来て欲しいなと思います。

Fintechとブロックチェーンをかけ合わせた新たな枠組み

日向:ありがとうございます。AnyPayのほうをお願いします。

大野:はい。AnyPayは去年からICOの事業をやっているんですが、それをさらにスケールさせていくかたちで、Fintech x ブロックチェーンという切り口を考えています。実際にどうブロックチェーンのビジネスをFintechの世界に応用して、世の中の新しい規格というか枠組みを私たちが提案していくか、ということをやっていきたいと思っています。

ブロックチェーンといっても、いろんなレイヤーがあると思います。私たちは新しいチェーン自体をつくりますという話よりは、先ほどあったようにプロトコルのレイヤー以上のところ、あとはアプリケーションの部分というものを考えています。

いかにしてFintechという世界で、実際にブロックチェーンを使い、新しい価値をトークン化して、それを流動化していくことを生み出していくか。それを、ビジネスとテックが一緒になって引き続きやっていきたいと思っています。

なので、ブロックチェーンに詳しいエンジニアの方で、とくにビジネスと接しながら、何か新しいトークンの可能性を考えたいという方はもちろん来ていただきたいと思います。

そして、今までブロックチェーンに対してかわいさやおしゃれさは感じられなかったかもしれないですが、そういうイメージを変えられるようなインターフェイスを考えたいというデザイナーの方や、アプリのエンジニアの方もすごく求めています。そういう方たちと一緒に、ビジネス側として、実際に世の中にインパクトを出すプロジェクトをやりたいというビジネスの方も求めています。

私自身はやっぱりテクノロジーもすごく好きなんです。実際にやったことでどんな人が喜んで、どういう肌触り感があり、結果があるのかというのがすごく好きなんですよ。例えばさっきのDrivezyでいうと、一緒にICOのプロジェクトをやったことで、現地にも行ったりしたのですが、こんなに車が増えて実際に乗っている人がいるというところまでは見届けられるわけです。

でも、そのためにはトークンの設計や技術が必要です。オンラインで起きていくことと、実際に目の前で起きていくことの両方を体験できるので、そういうことを一緒にやりたいという方がいらっしゃったら、ぜひ来ていただけるとうれしいなと思っています。

国によるルールの違いに合わせたサービス作り

日向:ありがとうございます。じゃあ、質疑応答をお願いします。ご質問がある方がいれば、お2人にどうぞ。

質問者A:大野さんに質問が2点あります。例えばゲームのギャンブルのような、ポーカールールみたいなものがあったりすると思うのですが、ああいうルールの厳しい国とかやさしい国とかがあったりするじゃないですか。それはどこがやさしくて、どこが厳しいか教えていただけるとありがたいです。

(会場笑)

質問者A:(サービスを)つくるほうとして、例えば僕が海外のルールのやさしい国でつくるとします。そしてどこか厳しい国に入国した瞬間に捕まる可能性があるかもしれない。

(会場笑)

質問者A:そうしたらオープンにしていく意味があまりなくて。今はホワイトペーパーを公開する時にお金が集まるから実名を公開するメリットがあるけれど、サトシ・ナカモトになれば、別に実名を公開するメリットはないと思っています。そのあたりで、つくる人の匿名性は上がっていくと思いますか? ちょっと好奇心的な質問なんですが、2つお願いします。

大野:なるほど、難しいですね。法律が優しい、厳しいみたいなことで言うと、いろんな種類がたぶんあると思っています。1つはさっきあったみたいに、サービスをつくったりトークンをつくったりする時に、どういうライセンスを取らないといけないかに対して、国によって定義の幅が広い狭いみたいな話があると思うんですね。

あとは税金面みたいなところで、実際にそこで収益が上がった時に、どういう課税がされるかというのがけっこう大きなポイントだと思います。

サービスのかたちは、どのユーザにリーチしたいかで決まる

一般的にどの国がやりやすいみたいなことは言いづらいですけれど、1つポイントとして私がお伝えできることは、みなさん事業をやる国に注目しがちなんですけれど、実は法律はそこじゃないんですね。

どの国にいるユーザー、どの国にいる投資家に対してマーケティングをして、その人にサービスを提供するかという話なんですよ。だから、例えばシンガポール、例えばケイマンで事業をやっていくとしても、日本人の投資家に向けてマーケティングをするなら日本の法律に合わなければいけないので、結局どのユーザーにリーチしたいかで決まります。

だから会社がある場所だけではないんですね。そういった厳しさもある中で、実名を公開する理由はありますか、みたいな話が出ましたが、それで言うと、ICOに限らないですけれど、ブロックチェーンを使ったプロジェクトで何を実現したいかによるのかなと思うんです。

例えば、ほとんどのICOが集めた資金を何に使うかというと、それによって、トークン数よりも沢山のエンジニアを雇って、オフィスも雇って、実際に事業をやってビジネスを実現していくんですね。

なので、それを目的とするなら、結局どこかで実社会と結びつかないといけないですよね。ただお金を集めるだけなら、ブロックチェーン上やオンライン上だけでいいと思いますが、本当に世の中に価値を出していくことを目的にするのなら、やっぱりどこかで実社会という存在と結びつかないといけない。

だとすると、いつまでも匿名でやることは難しいのかもしれないと思います。ですが、自分の新しい考えをオンライン上に公開していくとか、そういったことだけを目的にしていくのなら、もちろん実在の社会と切り離してやっていくこともできると思います。

もっと先を言うと、そもそも実際の戸籍とか、そういうものと分かれた社会として、その上だけでブロックチェーン上の戸籍みたいなものがあって、そこで会社をつくれるような世の中もできてくるのかもしれないなと、私は内心思っているんです。

上手くまとまらなくて難しいですが、目の前で実際のビジネスとしての場所を考えたい場合は、あまり実在の自分を晒してできないことをやらないほうがいいのかもしれないなと思います。

日向:ありがとうございます。この後懇親会があるので、その時にお2人もいますし、他のAnyPayのメンバーとLayerXのメンバーもいるので、どんどん話しかけて聞いてもらえればと思います。パネルディスカッションは、時間の関係で一旦ここで締めさせていただきます。

司会者:お三方、どうもありがとうございました。

(会場拍手)