次々とイノベーティブな商品を作り出す、日清食品

青野慶久氏(以下、青野):それでは2人目のゲストをお招きいたしましょうか。2人目のゲストは、日清食品ホールディングスCIO/グループ情報責任者の成田敏博さんです。大きな拍手でお迎えください。

(会場拍手)

成田敏博氏(以下、成田):よろしくお願いします。

青野:よろしくお願いします、どうぞおかけくださいませ。今日はちょっとわがままを言いまして、これを用意してもらったんですよ(笑)。

成田:わ、ありがとうございます(笑)。

青野:ちょっと前置きをお話ししないとわからないですけど、私はめちゃくちゃ日清食品さんを愛用しています。みなさんも、やっぱりカップヌードルとかどん兵衛をよく知っておられると思うんですけど。実はこのカレーメシ、めちゃくちゃおいしいんですよ。個人的に宣伝したいがために、今日持ってきました。

すごいですよね。お湯を入れて5分してかき混ぜたら、カレーライスとはまた違うんですけど、めちゃくちゃおいしいカレーご飯が食べられるというものでね。イノベーティブな製品をたくさん作っておられるなと思って、持ってまいりました。これ、あとで私がいただきますので(笑)。

成田:ありがとうございます。愉しんでいただけると嬉しいです(笑)。

3年前に本格化した、日清食品のデジタル化推進

青野:どうもありがとうございます、よろしくお願いします。本当にイノベーティブで、おもしろい会社ですよね。よろしければ、成田さんの自己紹介と、日清食品さんでされてきたDXについて、少しご紹介いただけませんでしょうか?

成田敏博氏(以下、成田):はい、承知しました。成田敏博と申しまして、今から約20年ほど前にアクセンチュアに入社して、13年ほど主に公共サービスに対してコンサルティングなどを行っていました。今から9年前に株式会社ディー・エヌ・エーに入社をして、その後メルカリを経て、日清食品に入社をしたのはちょうど2年前になります。

簡単に日清食品をご紹介いたしますと、設立は今から70年ほど前で、創業者の安藤百福さんの息子さんの宏基さんと、そのお孫さんの徳隆さんの2名が代表をしております。

企業規模は、従業員数が1万5,000人弱、連結の会社数が60社強。売上収益、営業利益は、5,000億円と利益のほうが550億円程度になります。事業は、即席麺「カップヌードル」ですとか「チキンラーメン」。あとは、先ほど青野社長からご紹介いただきました「カレーメシ」ですね。

青野:覚えて帰ってくださいね、みなさん。

成田:(笑)。ありがとうございます。(それらが)主力の事業です。あとは低温、冷凍チルドや、乳製品を中心とした飲料事業も手掛けております。また、お菓子の分野では、シリアルやポテトチップス、「湖池屋」は日清食品ホールディングスのグループ会社になります。

こちらをご覧になられたことがある方もいらっしゃるかなと思うんですけれども。今から3年前に日清食品が、デジタルを活用して従来の働き方をどんどん変えていこうと、トップダウンで社内に号令がかかった時のビジュアルです。

右側にはデジタルで武装した侍が構えていまして、少しわかりづらいんですけれども、後ろには弊社のキャラクターである「ひよこちゃん」がサイボーグ化されたかたちで、3パターンほど出ています。

左下には、マイルストーンがいくつか書かれています。「2019年 脱・紙文化元年」「2020年 エブリデイテレワーク」といったことが書かれています。これが作られたのは今から3年前の2018年なので、翌年からはこれまでの紙を使った業務を抜本的に変えていこうですとか。

当然コロナ禍は誰も予想できていなかった状態なので、2020年の東京オリンピックに向けて、毎日でもテレワークができるよう整えていこうとしていました。結果的にコロナ禍をもって実現されたというかたちになります。

ルーチンワーク50%削減、完全無人ラインの成立を目指す

成田:現在は2023年に「ルーチンワークを50パーセント削減しよう」と。その削減した工数で、よりクリエイティブな業務にあてていこうといったことを掲げて、全社的にデジタル化に取り組んでいます。

あとは、2025年には「完全無人ラインの成立」といったところを掲げています。このタイミングでできるかどうかわからないといったものを、あえてタイムラインを切って社内に開示をして、進めていく。

私自身、入社してこのビジュアルを見て、「非常におもしろい会社だな」と思ったのを覚えております。

kintoneでペーパーレスとハンコレスを推進

青野:じゃあ、それまではけっこう紙も残っていたんですね。

成田:いや、もうすごく残っていました。基本、業務を行う上では「紙」というかたちだったので。そのあたりを変えるのは、かなり社内でもエネルギーが必要だったようです。

私が入社した2年前にはある程度減ってはいたんですけれども、決裁書や申請書類でまだけっこう紙が残っていました。コロナ禍がきて、紙があるとなかなか業務を進められなくなり、「どうしようか?」といったところで、非常に力になってくれたのがkintoneですね。

青野:なるほど。コロナ禍で、もう一気にペーパーレスしちゃった感じですね。

成田:そうですね。完全にペーパーレス化を進める上では、コロナ禍自体は完全に追い風になりましたね。

青野:上手ですね。

成田:あとは、「NISSIN Business X formation」の略なんですけれども、「NBX」という言葉が社内で言われております。左側はビジネスモデル自体の変革、人事やマーケティング、営業、サプライチェーンマネジメントの分野。

あるいは右側では、効率化による労働生産性の向上といったところが掲げられていて。ツールの最大活用ですとか、ペーパーレス/ハンコレスといったところに、kintoneが非常に効果的だったというふうに思っています。

こちらは、日清食品が全社的に進めている、いわゆるビジネストランスフォーメーションの取り組みです。日清食品の特色は、どこか特定の部門が主導しているわけではなくて、各々の部門が自分たちの業務をデジタルでどう解決していくのかを、それぞれ進めているところです。

逆に言うと、各部門がやっていることを、他の部門があまりまだわかっていないところがありました。「それじゃよくないだろう」と、全社横断で管理していくことを議論し始めている段階です。

「デジタル化やろうぜ」という空気が生まれた背景

青野:なるほど、おもしろい。突っ込ませていただいていいですか? そんなに簡単にうまくいかないと思うんですね。言っても食品メーカーさんなわけじゃないですか。

そうすると、もちろん食品を作って売るところが一番偉くて、デジタル化するのはちょっとおまけであるし、普通はそんなことに自分は関わりたくないというマインドの会社さんが多いと思うんですけど。

なぜ、みなさん「デジタル化やろうぜ」という空気になっておられるんですか?

成田:私も入社してけっこう意外でした。食品の製造、開発をする部門以外に関しても、デジタルを活用して今までの業務をどんどん変えていこうよと、トップマネジメント自体がこういうビジュアルをもって社内に広く発信していた。

なので、「今までのやり方ってもしかしたら変えていく必要があるんじゃないかな」「デジタルを活用するにはどういうふうにしたらいいんじゃないかな」と、社員のみなさんが課題意識を持っている状態でした。そうなっていたのは、やはりトップから明確な指令が出ていたからだと思います。

入社して非常に思ったのは、デジタル化が進んでいるところもあれば、紙が多く残っていてまだまだそうでないところもある。ただ、それに対して、どんどんデジタルを活用していかなければいけないという、いわばすごく強い風が吹いてるなということは非常に感じましたね。

新しい取り組みへの「部署間の温度差」にどう対応したか?

青野:トップが号令をかけて、「デジタル化やるぞ」と言っても、温度差が出てきますよね。スキル不足もあると、さらに格差がついたり。「あの部門いいよな」と、だんだん分断や対立は起きないんですか?

成田:やっぱり格差はあってですね。例えば、kintoneを導入したのは今から1年半前です。日清食品グループの場合は、IT部門が作るだけではなくて、それこそ現場の総務部門や人事部門、あとは製品開発をするような部門が、それぞれkintoneを実際に開発をしてくれているんですが。

やっぱり各部門に温度差がありました。「自分たちで手を動かすのはちょっと……」というところもあれば、「自分たちにやらせてくれるんだったらぜひやりたいよ」といったところもあって。

その温度差も、他の部門がやっているのを見ていると、だんだん埋まっていくんですよね。「隣の部門やってるじゃん」「それで業務改善されてるじゃん」というのを見ると、「自分たちもやらなきゃいけないのかな」「やってみようかな」というふうに変わっていきましたね。

青野:やっぱり、最初に手を挙げてくれたところに学んでもらって、成功してもらって、それをまたフラッグシップに見せていく。それでまた次の人を巻き込んでいく。こんな感じですかね?

成田:そうですね、おっしゃるとおりです。

青野:うまいですね。

日清食品のシステム選びの4つの観点

成田:今から1年半前にkintoneを導入させていただいた時に、当然他のシステムもいくつか見ていて、どういった観点で選んだかというポイントを4つあげています。

まず、レスポンスを含めたユーザビリティが高いこと。特にシステムに関しては、今後ますますユーザビリティやUXが求められると思いましたので、まずユーザーが使いやすいシステムかどうかにかなりのこだわりをもって、いくつかのシステムを見ていました。

2番目は、モバイルでの利用に適していること。日清食品がパソコンだけではなくて、モバイルも使って業務をやっていきたいという思いを、以前から持ってくれていたので、それに適したものであるかどうかというところです。私自身も、先ほども講演をうかがいながら、モバイルで承認したりしていたんですけど(笑)。

青野:裏で承認されて(笑)。すごいですね。

成田:あとは、クラウドネイティブなサービスであること。先ほどのProduct Keynoteの中でも青野さんがおっしゃっていましたけど、やっぱりツール自体がつながっていて、一緒に連携していくような世界観のパーツになると想定したので、オープンなAPIを備えていること。

あと、もともとオンプレ型でサーバーを導入して、ライセンスを買うような形態のものだと、クラウド的なサービスにした時に、若干動きがスムーズでないところがありました。実際、6つのシステムを触りながら比較・検討した時に、もともとクラウドとして展開しているサービスのほうが使い勝手がいいんじゃないかなと思いました。

社内のユーザーに味方になってもらうためにこだわったこと

青野:そうしますと、ユーザーにとっての使い勝手にかなり重きを置かれていて。それは私たちもそうありたいなと思ってやっているので、選んでいただいて大変うれしいです。逆に、どうして自分たちのメンバーのユーザビリティにこだわられたんですか? 「ここが大事だ」と思われたその背景にはどういうことがあったんですか?

成田:やっぱり機能として同じようなシステムは、いくつか持てるとは思うんですけれども。ユーザーが触ってみて、「あっ、これ使いやすいな」「使ってみたいな」と思ってもらえるシステムでないと、どんどん広めていくのは難しいと思ったんですよね。

我々も当然、別に社内のシステムでなくても、スマホでいろいろなアプリを使ったりすると思うんですけれども。同じ機能を持っていたとしても、レスポンスが早かったりワンクリックで操作できるようなユーザビリティがあるかで、サービスを選ぶと思うんです。

今後はますます、社内システムにもそういう要素が出てくるなと思いましたので、ユーザビリティにはかなりこだわりをもって進めていました。

青野:なるほど。ユーザビリティを押さえておかないと、全社展開する時に「これがわからない」と、だんだん反対勢力が大きくなっていくような。ここを乗り越えるためにもこだわられたということですね。

成田:そうですね。やはりユーザーに味方になってもらいたいので。

青野:なるほど。成田さん自身も、先ほどちょっと裏でお話しした時に、相当kintoneに触られたと聞きました。

成田:私自身も相当システム開発をやっていて、一時期は、社内で一番kintone開発をしていたのは私だったと思うんですね。

未経験者でもシステム開発ができるから「楽しい」

青野:自ら触って使って、学ばれたことをまた伝えていったイメージですか?

成田:そうですね。私自身がシステム開発をしていたので、kintoneができること、あるいは制約事項でできないことの肌触り感を知っています。それを社内のITのメンバーにも言いますし、業務部門に広げる時にも「こういうツールだから」「こういう制約があるから」と、自分の言葉で説明できたのは、後から振り返ると非常によかったなと思っています。

青野:なるほど、おもしろいですね。成田さんはプロですけれども、言ったら素人のみなさんが触っていかれる中で、いいことってありますか? なかなかハードルを越えられないとか、越えた時にどんな世界が広がるんだろうと思うんですけど。やっぱり、みんなの目の色が変わってきたりするものですか?

成田:最初から「自分でこれは触れるな」「触りたい」というメンバーもいますが、もちろん、みんながみんなそうではなくて。「IT部門をやってくれるんだったら、やってもらいたいけど」という人も多いんですけれども。

そういう方の要望を聞きながら、kintoneの画面を見ながらその場で直していきました。「ここにこういう項目が欲しくて」「ここのレイアウトこう変えてほしい」という要望をその場で叶えられると、「あれ、けっこう簡単なんじゃないの?」とみんなが思い始めるんです。

「これ、自分たちでもやれる?」と聞いてきたらしめたもので、「できますよ」と話をします。いくつかの制約事項は説明した上で、「ここをこう操作したら、あなたでもできるので、やってみませんか?」と言うと、けっこうみんなおもしろがるんですよね。

「楽しい」と言ってくれるメンバーも多くて、やはりそういったところから徐々に広がっていきました、

青野:「楽しい」ってうれしいですね。システム開発で楽しいって、めずらしい。

成田:そうですね。法務部の司法書士をしている女性が、「えっ、こんな簡単にできるんですか。楽しい」と言っているので、どんどんやっていこうという感じで。もちろん、その方は今まで、ユーザーとしてしかシステムの操作をしたことがなかったんですけれども。裏側を触ってみると、「自分でもこんなことできるんだ」と、非常に驚きながらやってくれていましたね。

デジタル化による「社内のカオス」をコントロールするのはIT部門

青野:システム開発でなかなか「楽しい」というコメントは出ないですんもんね。kintoneのユーザーさんは、そういう意味では女性の方がけっこう多いんですよね。

システム開発は男性のイメージが強いんですけど、システム開発に目覚める女性の方が増えるといいなと思っています。日清さんの中でもそういう傾向はありますか?

成田:非常にありますね。女性で開発される方も非常に多いです。

青野:うれしいですね。みんなが温まってきたのはいいことだと思うんですけど、当然次の課題があると思うんですよ。「あれがやりたい」とか「これがやりたい」とか。もしくは、技術的にちょっと難しいことにチャレンジするといった、次のステップはどういうふうに用意されてるんですか?

成田:そうですね。今投影しているのが、弊社のkintone導入の推進体制です。プレイヤーとして業務部門と、真ん中にIT部門、そのIT部門を支えるために、外部人材とITベンダーの方々がいらっしゃいます。

主役は、業務部門の方々です。彼らは業務要件を整理して、「こういうシステムを作りたい」といったところを定義してくれます。その上で、システム開発をするのも業務部門の方々。

彼らは実際に作ったものに対して、ユーザーへのコミュニケーションをしてくれています。「いつリリースするよ」とか、必要に応じて説明会を開いたりマニュアルを展開したり、ユーザーからの問い合わせに答える。基本的に前面に立って、そういったことをすべてやってくれます。

当然、彼らは最初はなかなか手が動かないところもあるので、「どうしたらいい?」という相談がIT部門にきて、それに対してアドバイスしています。

IT部門は全社で使うシステム環境を提供し、開発のアドバイスをするのと、ガバナンスのコントロールですね。やはり使い始めると少なからずカオスになります。どんどんカオスになっていくので、きっちりしすぎずゆるくガバナンスをとって、カオスになりすぎないようにするのがIT部門の役回りです。

今の弊社も、カオスがいろんなところに見えるんですが、逆に言うと、まだなんとか目の届く範囲でのカオスにとどめているところですね。

システム内製開発のガバナンスは、多少ゆるいほうが拡大しやすい

青野:おもしろいですね。ガバナンスは、大規模でkintoneを入れた時に、多くの方が直面する問題だと思いますが、成田さんはゆるすぎずきつすぎずということで、どんなバランス感で、どんなところを見ながらガバナンスを効かしておられるんですか?

成田:どういう程度でガバナンスを効かせていくのがいいのかは、導入当時に非常に迷っていましたが、そこで外部人材の方々にアドバイスをいただきました。

6年前にkintoneを導入されて、非常に活用されている星野リゾートの中核の方に参画いただきました。星野リゾートさんがkintoneを導入してきた過程の成功事例と失敗事例。「こんなことをしたらうまくいかなかった」「こんな状態になってしまった」というお話をうかがって、それを元にうまく落とし穴に入らないように、合間を縫って進めたり。

あとは1年ほど前にできた、kintoneを利用されている会社さん同士でのコミュニティで「ガバナンスを効かせるんだとしたら、がっちりいくのがいいか、ゆるくいくのがいいか」というところを、みなさんの意見を聞きながら考えました。

結論として私は、ゆるくやるほうが社内の展開がスムーズだし、本当にカオスに陥らずになんとか踏みとどまれるんじゃないかなと思ったんです。それでゆるくやる選択肢をとって、今まできていますね。

システム内製開発時の“カオスあるある”を防げたポイント

青野:これはなかなか勇気のいることだと思うんですが、あえてカオスを受け入れていくと。

成田:ただ、カオスを受け入れないとkintoneのよさが出ないんですよね。

青野:あえて、ちょっとみんなが勝手に作っているぐらいのほうがよさが出てくるという。

成田:そうですね。現場は課題や業務要件といった、実地のところを持っているので、そこはあまり縛りすぎない。ある程度ゆるい枠組みの中で、迅速に形にしていってもらうほうが、浸透しやすいかなと思いました。

青野:なるほど。そうすると現場でやりながら、ある意味、問題が顕在化できるわけですね。先ほど成田さんは「目が届く」とおっしゃいましたけど、「こんなところにこんな問題があるんだ」と気づけば、アドバイスしてあげることもできる。

でも確かに、最初から規制をかけてしまうと助けに行くこともできませんもんね。そんな感覚ですか?

成田:はい。よく聞くカオスでは、どこで誰が作ったのか、誰が管理者なのかもわからない「野良アプリ」がたくさんできてしまう、というものがあるんですけれども。

実際に稼働する前に、本番稼働アプリ一覧に登録して、「いつから、誰が使っていて、どういう用途のアプリなのか」を、全社のユーザーがみんな見られるようにして、野良アプリが生まれないようにしています。

あと、マスタが複数林立してしまう問題もよく聞きます。それは確かに、なかなか恐ろしい話なので、そうならないように「こういったマスタがあるんだよ」というのを共有して、同じようなものを作らないとか。そういうポイントを押さえて、「あとは自由にやって」という感じですね。

外部のITベンダーを入れているのに、開発は一切依頼しない

青野:なるほど。やっぱりポイントがあるんですね。外部の方も連携したり、共有しながら、みなさんの知恵として蓄えておられる。おもしろいですね。ITベンダーは、どうやって使っておられるんですか?

成田:弊社はアールスリーインスティテュートさんにご支援いただいているんですが、開発は一切していただいていないんです。あくまで手を動かすのは日清食品のメンバーなので、「詰まったり、わからないことがあったら教えてください」とお話をしています。

基本的にはチャットで質問や回答のやりとりをして、解消していく。わからないところがあれば、Web会議で画面を共有しながら、「ここをこうしたいんですけど、どうすればできますか?」とうかがって、その場で解決をしていくようなかたちです。

青野:ITベンダーなのに、作ってもらわない!?

成田:そうなんですよ。開発環境のアカウントすら持ってもらっていないんです。

青野:うわっ! それは作りようがない。作る権限じゃなくて、教えてもらう相手としてITベンダーと付き合うという。今日、アールスリーさんはいらっしゃいます? もし担当の方がいらっしゃったら、ちょっとお話をうかがってみたいですけど。

なるほど、その発想はなかったですね。先ほどだと、まさに内製化と伴走SIのイメージですね。ただ、わからないことはやっぱり教えてもらわないといけないから。

「できないこと」を教えてもらえれば、時間の無駄がなくなる

青野:ああ、いらっしゃった! ありがとうございます。アールスリーインスティテュートの築山さんです、大きな拍手でお迎えください。ちょっとカオス感が出てきましたね。築山さんはすごい格好されていますけど(笑)。一昨年の「kintone hack」にも登壇されました。よろしくお願いいたします。

築山春木氏(以下、築山):よろしくお願いします。

青野:お願いします。ありがとうございます、おかけください。ベンダーなのに作らせてくれないというのは、けっこうジレンマじゃないですか?

築山:……すみません、ちょっと走ってきて息が切れちゃって(笑)。

一同:(笑)。

青野:不思議な関係ですよね。

築山:そうですね。成田さんのお話を見ていたんですけど、確かに私たち1回も日清さんの画面にログインしたことはないですし、本当に何も作ってないですよね。

青野:作っていない。でも、時々お声はかかるわけですよね?

築山:そうですね。「ちょっとこれ、どういうふうに進めたらいい?」といったご質問をいただくこともありますし、進め方の手前でご質問いただくことも、両方ありますね。

青野:なるほど。質問としては、やっぱり幅広に受けられるようにしておくということですね。

築山:そうですね。たぶん以前成田さんにも、「できないことを教えていただけるのがすごくうれしい」と言っていただいたんですよ。できないことを延々と探すのって、すごく時間の無駄じゃないですか。「これはkintoneではちょっと無理があるから、やめたほうがいいですよ」といったコミュニケーションをけっこううまく使っていただいてたりはしますね。

欲しいのは、質問に即答できるレベルの高いエンジニアのサポート

青野:成田さんからすると、できる・できないの技術の見極めなどを教えてもらえるところにすごくバリューがあるんですか?

成田:おっしゃるとおりです。基本は自分たちでやりたいんですよ。ただ、自分たちにできないことがあるので、本当に知見のある方にやり方を教えていただいて、次回以降は自分たちでやれるようにしていくところが重要です。

ブラックボックスを作りたくないので、あくまでノウハウを迅速に提供していただきたいとお話ししていました。基本的には「聞いたら即答してください」ということですね(笑)。逆に言うと、即答できるようなスキルの高いエンジニアの方をアサインしてくださいと。

青野:なるほど(笑)。

成田:とはいえ、「即答できなかったとしても、一両日中ぐらいには回答がほしいです」とお話ししています。当然、即答していただけないこともあるので、社内に持ち帰っていただいて、基本その日のうちに連絡をいただけます。

これによって、やはり非常に生産的に進めることができます。往々にしてあるのが、「じゃあ次の定例会までにご用意します」と。次の定例会になったら、「すみません、ちょっとまだ確認しているので、次回に」というのがすごく嫌なんです。

「自走したい」という顧客の要望に合わせた提案

青野:おもしろいですね。ITベンダーが作らないで楽ができるのかと思ったら、大間違いで、実はお客さんの悩みごとに即答できるくらいスキルを上げておかないと、バリューを認めてもらえない。

築山:そうですね。成田さんがおっしゃっていたように、私たちも最初に「自走したい」という話をうかがっていたので、私たちもその要件を満たす方法をいくつか提示させていただくことが多かったです。

「これはシステム的にはシンプルなんだけれども、自走しづらいかもしれないです。社内で引き継ぎされる時には向かないかもしれないけど、このほうがテクニカルにはスマートです」と。「でも自走されるんだったら、もう1つの選択肢のほうがテクニカルにはスマートではないけれど引き継ぎはしやすいので、どちらか選んでください」というコミュニケーションはけっこう多いですね。

成田:話を聞いていて、この案出しがもうけっこうしびれるんですけれども。私たちのメンバーが「こういうことをしたいです」と言ったことに対して、築山さんが案1、案2、案3を丁寧に出して、それぞれ説明してくださるんです。

「それぞれこういう制約がある」とか、「今後こうなっていくので、それも考慮して決定するべき」。あと、ちゃんと落としどころを示してくれるんですよね。「こういう考えだったらこっちがいいかもしれないですが、総合的に考えると、おそらく案2がベストだと思います」とおっしゃっていただける。我々メンバーも非常に判断しやすいです。

青野:すごい。さすがハックチャンピオン。

築山:ありがとうございます(笑)。

伴走型SIが最初に聞くのは「まずはゴールを教えてください」

青野:やっぱり成田さんの中に、「こういうシステムを作りたい」「できる・できない」だけではなくて、その後に自走できるシステムだということも、大事な要件の1つに入っているんですね。

成田:おっしゃるとおりですね。

青野:動きゃいいって話じゃないと。その後、自分たちが持ち帰って自走できるかどうかだと。そこが重要なバリューになってるわけですね。

築山:そうですね。私たちも今、伴走型という表現でお手伝いさせていただくんですけど。伴走型では、最初に「まずはゴールを教えてください」というお話をするんですよね。

システムのゴールももちろんですが、例えば成田さんのところであれば、やっぱり「自走したい」と。「過去にこういう課題があったから、kintoneの導入では自走を大切にしたいんです」というお話があったので、私たちもそれに合わせた回答を心がけていますね。

青野:私、ちょっと認識が甘かったですね。この伴走型SIはそういう意味なんですね。

30分調べて分からなかったら、ITベンダーに聞く

成田:あとは、実際にサポートをしていただいていない時にもメリットがあります。基本的には自分たちでやっていて、「これはできるかな? できないかな?」ということを調べる場合に、どれくらい時間をかけていいかわからないじゃないですか。

ただ、後ろにアールスリーさんがいてくださるので、「30分調べてもわからなかったら、もう聞こう」と言っています。2時間、3時間調べるのを節約させていただいている。後ろにいていただけるのは非常に安心感があって、調べることのコストは、もう一定まで使わないというメリットがあります。

実はアールスリーさんにはお話ししてないんですけれども。我々がそういった安心感を持って社内でやれているのは、伴走型SIのメリットの1つかなと思っています。

青野:おもしろいですね。

築山:本当にうまく使っていただいてますね。

青野:でも「大変や」と思いました。だって、成田さんが30分パーっと調べてわからないことが降ってくるわけじゃないですか。それを迅速に打ち返せるだけのスキルレベル。

あとは、成田さんが考えておられるバリューの優先順位ですよね。自走できることが大事だったり、時間がかかりすぎるのはよくないねということを理解した上で、「できる・できない」以外のバリューを返さないといけない。このへんが伴走型SIの大事なところなんでしょうね。

築山:システムを請け負って作るのとはまた別の知見も必要になる気はしますね。

今後のビジョンは、データをつなげて活用すること

青野:おもしろいです、ありがとうございます。お話ししている間に時間になってしまいましたので、よろしければ最後に、成田さんの今後のビジョンをお聞かせいただけないしょうか?

成田:弊社内でさらにデジタル化を進めていく上で、現場の自分たちが手を動かせるkintoneのようなツールは非常に強力です。ただ、現時点でもやはり社内に差があるのは間違いないので、もっと広めていく余地があるのかなと思っています。大きく軌道に乗ってはいますので、ある程度は時間の問題なのかなと思っているんですけれども。

例えば、以前は紙やエクセルだったものがkintoneに登録されているので、そこにデータが蓄積される。あとは、先ほどのお話のように、kintoneがいろんなシステムやツールと連携していることが、グループウェアとしての魅力の1つだと思いますので。

いろいろなツールとデータを連携して、そのデータを活用していくところにアクセルを踏み込んでいきたいですね。ここ数年では、データをつなげて活用するところを進めていきたいなと思っています。

青野:すごいですね。この成田さんのスピードについていくのは大変ですね。

築山:そうですね。後ろから追いかけながらというか、追い抜くぐらいの勢いで。

青野:伴走型なんだけど、成田さんのほうが先走っちゃうのかもしれませんね。

築山:負けないようにしないといけないと思ってます。

青野:ありがとうございます。すばらしい関係、すばらしいお話ありがとうございました。お二人に大きな拍手をお送りください。どうもありがとうございました!

成田:ありがとうございました。

築山:ありがとうございました。

(会場拍手)

カオスを受け入れ、問題を改善していく勇気

青野:どうもありがとうございました。おもしろいですよね。この伴走型SIの話も、自分でもとても新鮮でした。カオスを受け入れ、その中から新しい問題の芽を見つけて改善していけるんだ、という勇気をすごく強く感じました。

それでは、Product keynoteを締めさせていただきたいと思います。これで終わりになりますけれども、Cybozu Daysのメインは、展示エリアです。今回は過去最大の72社のパートナーのみなさまが展示してくださっています。

その中には、こういった内製化を支援するサービスをたくさん出展いただいていますし、伴走型SIの事業をされているパートナーさんの展示もたくさんあります。ぜひお声がけいただきまして、みなさまで交流を図って、よりよいシステム開発に取り組んでいただければと思います。

それでは、こちらでProduct keynoteは終わらせていただきます。「LOVE YOUR CHAOS」で、カオスを愛してがんばっていきましょう。どうもありがとうございました。