ポケモンの大ヒットを心理学的に見ると

ハンク・グリーン氏:毎日、科学者たちは人間の考え方をより理解するために働いています。2016年の間に、心理学に関する大きなニュースがいくつか発表されました。

例えば7月には『Pokémon GO』が全世界で大流行しました。きっとあなたもうんざりするほどそのことを見聞きし、あなた自身も今頃は自分のスマホにダウンロードした『Pokémon GO』をアンインストールしていることでしょう。

念のため説明しておくと、『Pokémon GO』とはスマホのゲームで、現実の技術とGPSを組み合わせているため、プレーヤーは自分の近所を歩き回って、現実世界でポケモンを捕まえられるというわけです。

これが発表された始めの1週間のダウンロード数は、歴史上のほかのどのiPhone アプリよりも多かったのです。ですから『Pokémon GO』が特別であったというのはハッキリとわかります。しかし、なにが特別だったというのでしょうか。

心理学者が研究をするにはこのゲームはまだ新しすぎましたが、過去の研究結果からさまざまなゲームが、本当に我々の脳の興味を引くということはわかっています。多くの若い成人にとって、クラシックゲームのリブートは「懐かしい気持ち」にさせられます。それは悲しいという感情のようですが、心理学的に見るとそれは実際にはよい感情なのです。

「懐かしい気持ち」は人に、ポケモンカードをトレードしていた時や公園で友達と遊んでいた記憶などの、過去の楽しかった時間を思い出させることにより、楽観的傾向と社会のつながりを増強させます。

また、いうまでもなく、『Pokémon GO』はプレーヤーの外出を促します。運動は精神的健康において重要で、コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンを下げ、エンドルフィンの放出により気分を良くしてくれます。

しかもこのゲームはやりがいがあります。新しいポケモンを捕まえてレベルアップすることは、デジタルの褒美ではありますが、それでも嬉しいことですし、頻繁にあるものなので、人を夢中にさせるのです。

なぜ多くの人がプレーを辞めてしまったかというのはまだわかりませんが、きっとレベルアップのスピードが落ちたり、新しいポケモンを見つけることが少なくなったりして、達成感がなくなってきたからでしょう。または、スマホの電池の減りが早く、ポケモン以外のことにスマホが必要であることに気がついたからかもしれません。

「fMRI」はデタラメだった?

もう1つのニュースは、去年の春、科学者たちはいくつかの脳の研究がコンピュータの問題に深刻な影響を受けている可能性があるということを発表しました。「fMRI」と呼ばれる「機能的核磁気共鳴断層画像法」は、脳内に異物を入れたりすることなく、電磁を用いて脳の働きを安全に測る技術のことです。それは血流の量を図ることにより行われます。

ある脳の部位が活発になっているとき、それらのニューロンが刺激やタスクに反応するとき、酸素が必要になるため、その部分の血流が増えます。研究者はfMRIのデータ分析や、血流の量が多いかどうかを見るとき、コンピュータプログラムに頼っています。何年かの間、科学のコミュニティの間で、このコンピュータプログラムに問題があるのではないかということが話題に上りました。

そして5月に、予期しているよりもさらに正確でない結果が出ているかもしれないという論文が発表されました。幾人かの科学者たちはfMRI分析の人気のソフトウェアプログラムで約500の統制された対象のfMRIデータをテストすることにしました。

通常、疑陽性率は約5パーセントであるべき、つまり、5パーセントの確率で、脳内で実際に変化が起きていない時にソフトウェアが脳内で活動に変化があったと判断することがあるということです。代わりの分析方法を使った時、科学者たちは高い疑陽性率が出ることを発見し、それは時に70パーセントの確率まで上がったのです。つまり、そのソフトウェアは人工的に結果の有意性を誇張していたのです。

このニュースは多くのヘッドラインに少し大げさに取り上げられてしまいました。ヘッドラインは「過去15年のfMRIデータはデタラメだ」というようなことを言っていましたが、すべてのfMRI研究が、問題のある特定の種類の分析を用いていたわけではありません。

いくつかの過去のfMRIの研究は、もし特定のプログラムと分析方法がもちいられていたならば、再確認する必要があるということなのです。とくに結果に有意性がなかった場合です。これによりfMRIが終わってしまうわけではありません。

この情報により、プログラマーは将来のためによりよいソフトウェアをデザインすることができますし、科学者たちは自分のデータを最新の分析法により簡単に再チェックするよう励まされるのです。

“男性的行為”の心理的悪影響

最後に、去年の年末にある科学者たちは、男性的な規範を支持する人たちで、とくに性差別に加担している人たちは、そうでない人たちに比べて、精神面での健康状態がよくないということを発見しました。

この分析は11月に大きな論争を巻き起こす論文を発表しました。これは78件の研究結果と約2万人の男性参加者に基づくものでした。研究者たちは、伝統的に男性的であるとされる行為に注目しました。それには、支配、暴力、そして地位の追求が含まれます。

そしてそのような種類の基準に強い執着があるかないかを尋ねることにより、精神的健康状態や心理カウンセリングを進んで受け入れるかどうかを予期することができるというのです。とくに3つの傾向が、精神的健康状態によくない影響を与えるということを発見しました。独立独行、性的乱行の追求、女性に力で勝つことの3つです。

これらの行為を強く評価する男性たちは、性差別の態度と非常に繋がりが強く、彼らは社会的活動において難しい傾向があり、そうでない男性と比べて心理的にストレスを感じていることがわかったのです。

これは理屈が通っていると言えるでしょう。独立独行を基準とした価値観を持っているなら、社会や人と相互につながる文化において孤立してしまい、必要な時に人に助けを求めにくくしてしまいます。

その反対で、「プレイボーイ」とも言われる、乱れた性関係を好み、女性を力で服従させたいと思っている人たちは、社会的人間関係において深刻な問題を抱えかねません。このような態度を保ち続けるならば、自分を孤立させ、孤立は精神的健康状態に悪い影響を与えてしまうのです。

伝統的に男性的であるとされる行為、例えば「男は感情を表に出さない」といった価値観に縛られている男性は、精神健康面での治療を求めることが少ないと言えます。

この点で注意しておきたいのは、この研究にも限度があるということです。この研究はこれらの行動と精神健康の関連についてのことを基準としており、原因と影響を分析するための変動を研究したわけではありません。参加者も英語圏の人だけに限られていましたし、そのほとんどがアメリカの白人男性でした。

ですから違うグループ、例えば女性たちや英語圏以外のグループにおいて、このような価値観を持つことがどのような影響を与えるかどうかはわかっていません。

「プレイボーイ」や独立独行がネガティブに分析されていますが、ほかの伝統的に男性的とされる行為、例えば、仕事を優先させる、沢山リスクを負うことなどは、精神健康においての悪影響があるとはされていません。それにこれらの研究者たちは男性的行為の1セットしかみていませんから、「あまり男性的でない」とか、「女性的」である場合の精神的健康状態についてはなにも述べていません。

このような弱点があるものの、この分析は、心理学者が私たちの生活における、性別による価値やルールに関してより良い理解をするべきであるということに焦点を当てています。

ですから2016年は色々な意味でワイルドな年で、私たちが心理学について学んだこともその1つでした。これらすべての研究は将来心理学者がさらに学べるように資金を集めており、これから発信する心理学のチャンネル「SciShow Psych!」でさらなる知識を共有するのを楽しみにしています。