企業が真剣になり始めた

安藤哲也氏(以下、安藤):塚越さんは、東レ経営研究所でワークライフバランスのコンサルトをされてるんですけれども。たくさん企業に入ってコンサルトをしてますよね。世の中の流れ、ダイバーシティの動きって今どうなってます?

塚越学氏(以下、塚越):まず潮目が変わったっていうのは、今回、保守的な自民党さんから出た女性活躍推進法が非常に効いています。大企業ももちろんそうなんですけども、大企業でもこれまで聞いたこともない業界からオファーがすごく来るようになりました。そこが働き方や多様化っていう、いわゆるダイバーシティと言われているところですね。信じられないようなところから、結構話が来ます。

しかも、スピーディーにですね。実は大企業、10年、もうちょっと前から取り組んでらっしゃるところは、例えば年間を通じて、有名人を1回呼んで、みんなで講演会やって「よかったね。じゃあ、来年誰呼ぼうか?」みたいな、そういうダイバーシティ推進室的なところがあったんですが、今は声を掛けてくるところは真剣です。

今、やってるところ、前からやってるところも、もう加速度的に火がついていて、「なにをやらないといけないのか」と。もうやるかどうかを議論するステージは終わっていて。必要性も終わっていて。なにをやるかなんですね。

「イクボス」に熱視線

で、なにかやるかで今、一番ヒットしているのが「イクボス」なんですけれど。結局イクメンも女性活躍も当事者支援に見えてしまう。それを包括的に企業でやろうと思うと管理職改革ですね。ここを変えてかないと男性の育児ももちろんそうだし、女性活躍も進まないっていうのは、どの企業さんもずっと気づいていて。どこをきっかけにしたらいいんだろうということを考えていた時の、「イクボス」というキーワードですね。

こちらの発想自体は、竹内教授と佐藤教授ですね、ワークライフバランス管理職ということで、研究は進んでたんですね。そこにちょっとキャッチーな言葉をくっつけて発信したということなので。もちろん学術研究があってのことなんですけれども。そこに企業が飛びつき、今、活況となってると。たぶん安藤さんもずっと。

安藤:まあそうですね。明日も茨城に行きますしね。

塚越:非常に今、活況になっているので。ですので、これ別に、青野社長の企業(サイボウズ)が、もちろん本も拝見しましたが、非常に実証的に、企業内で推進されて。あれはものすごく良い事例だなと、コンサルタントとしても非常に思いました。

ああいうことが今、各企業で始まったということなので。たぶん5年以内にやってた企業とやっていなかった企業の差がものすごい開くというのを実感しているところです。

もしみなさんも、自分の職場はそうなっていないということであれば、ぜひ今日のデータ、またはコメント等を、いろんな管理職の方々に、そっと置いておくということで。気付いていただくといいかなと、思ったりしております。

経営戦略として取り組む必要性

安藤:小酒部さん、先ほどマタハラは経営問題だっておっしゃいましたね。イクボスとも連携してやってこうよってなっているんですけど、その動きはどう見られています?

小酒部さやか氏(以下、小酒部):先ほど、これは日本の経済問題だと。そして日本の経済問題だということは、企業の経営問題だと。ただやっぱり、ピンチはチャンスに変わるんだと。これを経営戦略として変えていってもらいたいなと。実際、青野社長のところもそうですけれども、そこが経営戦略に変わると気付きだしてる経営者さん、今とっても多く増えてきてます。

青野社長のところは上場企業ですけれども、そうじゃない中小零細企業でもやりだしてるところはあって。100人以下の中小零細企業のほうが、逆に経営戦略としてすり替えやすいんですね。なぜなら制度が浸透しやすいから。新しい制度を作った時に、すぐに従業員になじませやすいからということがあります。

日本はこれから、超少子高齢化で、世界に先駆けて未曾有の高齢化社会になって入っていくわけですね。

私がマタハラを最初にやった時も海外からの取材が多かったです。それは海外からみたら、日本はまだこんなことをやってるのかということで注目された。逆に言えば、この少子化を日本はどうやって乗り切っていくのかということでも合わせて注目されてるんですね。なので、日本がこの少子化対策っていうところを打ち出していくと、逆に世界を引っ張れるリーダーにもなっていけるかなと思っています。

ファーストペンギンとして

今、宮崎議員大変不安ななかでいらっしゃると思いますし、同じバッシングを浴びてきた立場で言うと、私も最初マタハラ被害者として名前出し・顔出しをした時は、ものすごいバッシングだったんですよ。ここまで来るのかくらい。

しかも、同性の女性からのほうがバッシングが辛辣で。私、流産を2回経験してるんですけど、「流産して、ざまあみろ」とか。もうそのくらいまで言われる、けちょんけちょんだったんです。

それ以上に応援メールも来ましたし、どちらかと言ったら無言の賛同っていうところが大多数いるんだなあと。今は聞こえてこない声も、みんな黙ってるけど心の中で賛同してる人たちがたくさんいるんですね。なので、ぜひ心配せずに、宮崎議員もこのバッシングをバネにチャンスに変えていって欲しいと思います。

そして昨年、私、国務省から「国際勇気ある女性賞」というのを日本人で初めて受賞させていただきました。まさかアメリカから来るかっていうくらい、日本ではこれだけバッシングに合うのに、海外が最初に私に賞をくれるんだ、と。

その時に、勇気ある女性賞って、「勇気」って付いてて。アメリカではファーストペンギンという話があるということで、サイボウズの青野社長のイベントから話させていただいてて。今、NHKの朝ドラでも「ファーストペンギン」って言葉が流行ってると思うんですけれど。

氷の上でペンギンたちが押し合い圧し合いしているあの姿はとっても可愛らしいけども、あの姿の裏には過酷な生存競争というのがあって、誰か最初に飛び込まなかったら、群れ全体が餌を取れずに死んでしまうと。でも、最初に飛び込む1匹は、下にシャチやドドや捕食がいて食べられてしまうかもしれない。でも、1番最初に飛び込んだ奴が上手く行けば1番たくさん餌が取れるんですよね。

ぜひ宮崎議員にはそうなってもらいたいなと思って、エールを送らせてください。

(会場拍手)

安藤:永田町のファーストペンギンって名前を、語っていただきたいと思いますね。いやいや、結構盛り上がってきましたね。

パパはウォーキング・デッド問題

少子化は今おっしゃったように、僕は、本当に日本の一番の今の政策イシューだと思うんですけれども。少子化ジャーナリストの白河桃子さんが今日お見えになっています。DH席で語っていただきたいと思います。男性の育児をどう思ってるか。最近、本出されましたよね。

(077)「専業主夫」になりたい男たち (ポプラ新書)

白河桃子氏(以下、白河):はい。主夫の。

安藤:ファザーリング・ジャパンのほうで、秘密結社「主夫の友」というのの顧問もやっていただいているので。もう時代は主夫なんだよという本でしたけれど。

白河:少子化ジャーナリストの白河桃子です。一億総活躍国民会議の民間議員もやらせていただいてます。今日安藤さんに「私も行きたい、話したい」といったのは、男性の育休の義務化みたいなことをなんとか出したいなと実はちょっと思っていて。

安藤:一億総活躍で?

白河:うーん、なかなか。3分しか発言できないんですよ。

安藤:3分かぁ。

白河:本当にいろんな方がいろんなことをやりたいということで、お声をかけて下さるので。なかなか全員を応援するのは難しいんですが。

この問題に気が付いたのは、去年あるワーキングマザーたちの会議出た時にワークショップで多くの方たちが、働きながら子育てしてる方たちが「パパは死んだもの」と思ってると発言されまして。

最近、主夫とかイクメンとかイクボスに囲まれていたので、もっと状況がよくなってると思って油断していたんですね。やっぱりまだパパは死んだものだと。「パパはウォーキング・デッド」問題。あ、こんなのが起きていると。ゾンビになっちゃってると。

安藤:パパは「キャッシュディスペンサー」とか言ったママもいましたけどね(笑)。

白河:いや、働いてるのでキャッシュは自分も持ってると。そうなると、本当にゾンビになっちゃうんですね、家のなかで。それはやっぱりママたちが、「(パパが)いると期待してしまって、いるものと思うとつらくてしょうがないから、もう死んだものだと思うしかない」とやむにやまれぬ気持ちからきてるんです。ただ、これは本当に夫婦のクオリティの悪さに影響します。

少子化問題に関していろんな説もありますけれど、山田昌弘先生と先日、話していた時に、お見合い結婚してる世代の子供は、お見合い結婚の親があんまり幸せそうじゃないから、自分たちは恋愛結婚したい。今度、恋愛結婚の親、バブル世代とかそうですよね。恋愛結婚の親もあんまり幸せそうじゃないので、今の若い世代の人たちは結婚や恋愛に憧れないんだとおっしゃってました。

唯一頑張ってくださっている、この共働きのご夫婦のクオリティが悪いというのは、さらに次の世代がもっと結婚とか共働きとか夫婦関係のクオリティが悪くなってしまって、憧れなくなる、すごく大きな要因で、すごくよくないと思っています。

日本を囲む3つの壁

私は今、日本の状況を、『進撃の巨人』って知ってます? 3つの壁に囲まれた王国ですね、あのように3つの壁に囲まれていて閉塞していると思っていて。1つが性別役割分業の壁。もう1つは長時間労働。もう1つは議員が直面しているような仕事こそが一番尊いんだという、マッチョな滅私奉公思想。この3つのものがあって、日本はそのなかで窒息しそうになっていると思っています。

それをなんとか、どこからか乗り越えて行きたいと思っていて。イクボスに実はお願いしたいことがあって来ました。女性活躍の目標が3割なので、13パーセントとか言わないで、男性の育休を取る率を、たとえ1週間でもいいので30パーセントという目標を企業に掲げて欲しい。

なぜなら、その時に「パパは死んだもの」と思っていたママたちが、皆さん「義務化してほしい」って言ってたんです。

やっぱり男性はなかなかファーストペンギンになる人が少なくて。区議長1人で止まっちゃうとか社長1人で止まっちゃうのは、なかなか、やっぱり男性は社会的な生き物なので、どちらかと言うと強制して欲しいと思ってる方が多くて。強制してくれた方がよっぽど楽だという声を聞きますので、やっぱりそれは誰かが強制しなきゃいけない。

そうすると、振り切って義務化ということも必要なのかなと。ドイツの制度とかも調べてはみているんですけれども。どんな制度を提案したらいいのか。

それから、やっぱり産む女性と働く女性は別だと思っている多くの上の人たちにどうやったら理解してもらえるのか。なぜ男女役割分業がいけないのかってことすら、どう説明してもらったらわかってもらえるのかって、本当にいつも悩んでいます。今日は、3割の目標を持っていただきたいと。イクボス企業同盟にですね。

それと、みなさんの言葉のなかから、今日ここにいらっしゃる皆さんは同じ理解だと思うんですが、全然理解のない人たちをどうやったら説得できるのか。なにかそのヒントをいただきたくて参りました。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

育休推進を制度化した文京区

安藤:はい。一億層活躍の会議で30パーセント目標とか。ちょっとロックしていただきたいですよね。ありがとうございます。そのためには男性側にもやっぱり言い訳というか言い分があって。「そうは言っても休みづらいんだよ」とか「帰れないんだよ」ということを言ってますよね。

成澤さんはご自身育休を取って、仕組みをちょっと変えたじゃないですか? 社内規定。それを説明してもらえます?

成澤廣修氏(以下、成澤):文京区役所では、私の「なんちゃって育休」、ちょうど6年前。その時に育児休業法が改正になって、ちょうどまったく同じ年です。その時に制度設計を変えようということで。さっき、塚越さんが説明してくれた、会社の上司から背中を押してほしいという話が当然あるということなので、男性職員の育休取得推進要項というものを作りました。

どういうことかというと、直属の上司、通常でいうと課長級ですね。所属長・課長級が子供が生まれた男性職員、女性には勧めなくてもある程度取られるので、男性には必ず「育休が取れますよ、取りませんか」と上司の側から勧めるという制度設計です。

それによって取得をした人もいます。断った人もいます。多い年だと18パーセントぐらいまでいった年もあります。ただ期間が短いのと、絶対数に対する割合なので、その数字はあまり追っても意味はないのかなと。

女性の育休のパーセンテージと男性の育休のパーセンテージは期間に大きな差があるので、おそらく数字の上で比較すると誤差が大きすぎて間違えることになるだろうと思います。

なかには、真面目な上司が繰り返し勧めて「これ以上勧めると、パワハラです」と言われた人もいるぐらい(笑)。

安藤:しつこいんですね。

成澤:「うちは共働きじゃないので、専業主婦なのでローンが払えなくなるから、育休を取れと無理に言うな」といったところもあると。

安藤:取らない権利もあるんじゃないかということですね。