どうしてムーブメントが起こらないのか

安藤哲也氏(以下、安藤):ありがとうございました。青野さんはどうですか? イギリスの経営者のトップの方のお話を聞いて。ちゃんと聞いていましたか? 

青野慶久氏(以下、青野):今、完全に油断していました(笑)。

(会場笑)

青野:なんでしょうね? 成澤さん始め、地方自治体の長って育休を取らないと逆にまずいくらいの空気になっているじゃないですか? これになかなか続かないですよね。

僕も東証一部上場企業社長という肩書があって、(自分が育休を)取ることにより流れがくるかなと思っていたら、こないんですよね。これはなんなんでしょうね。ここを乗り越えられるかどうか。これがある意味、手綱みたいな。谷ができてね。もう一息ムーブメントが次へ繋がらないのが残念だと思って。

安藤:僕が懸念しているのは、このムーブメントに対するバックラッシュみたいなのが起きなければいいと直観的に思っているんですけれども。盛り上がるのはいいが、逆にその反動も増えてしまうというところで、今回政党のなかでもいろいろありました。ぜひ信念を持って社長にしろ、首長にしろ、取っていただきたいと思います。

ちょっとここで視点を変えて、今男性、父親の立場で見ているのですけれども、やっぱり育児の主役は子供ですよね。子供がどう育つか? そういう環境における働き方であったり、男性の関わりだったりが本質だと思うのですけれども、ここで駒崎さん、Twitterを打っている場合じゃないですよ。

(会場笑)

「男のくせに」からのスタート

駒崎弘樹氏(以下、駒崎):打っている場合じゃないって、実況しているんですよ!(笑)。

安藤:実況中でしたね。すみませんでした。ご存知の通り、フローレンスの代表で病児保育という10年前に日本になかった子育て支援の仕組みを立ち上げて、今いろいろなテーマでやっていますけど、なぜ立ち上げたのか?

当時、彼も独身でファザーリング・ジャパンに入って「俺も親父になったら育休を取りたいんですよ」って言って今、取っていますよね。その辺の変遷も含めて、フローレンスからマイイクメンまで話してくれる?

駒崎:ありがとうございます。訂正させてもらうと、ファザーリング・ジャパンに入ってって言うけど、ファザーリング・ジャパンを立ち上げる時に、「どうやってNPOを立ち上げるの?」って来たから僕が教えてあげたんでしょ!

(会場笑)

駒崎:そんな過去もありつつ、僕も12年前に立ち上げて、安藤さんも10年前。そのくらいから今にいたるまでの10年間ってすごい変化だと思うんですよ。

というのも、僕が病児保育のNPOを立ち上げた時に言われた言葉。それは「男のくせになにやっているの?」だったんですよ。「子供もいない、かつ男なのになんで保育なの?」っていうことをすごく言われたんです。たかだか12年前でも、その程度の認識しかなかったわけなんですね。

2010年に安藤さんとともに、「厚労省イクメンプロジェクト」というのを当時の長妻大臣と始めて「家事、育児に参加する男性を盛り上げていこうよ」と言って、イクメンプロジェクトをやりました。

最初は国民認知率13パーセントだったんですけれど、その3年後は97パーセントにまで上がりました。それは皆さん、ここにいらっしゃるメディアの方々が、それをバズらせていただいたことと、あとみんなが使っていってくださったということなんですけれど。

その時もなんと言われたか。「子育てなんて当たり前なのに、ちょっとやったくらいでなにドヤ顔してんの?」と。イクメンという言葉に対して、言われましたね。

でも、そういうなにかを始めよう、なにかを仕掛けていこうといった時には、必ずバックラッシュはあるのです。必ず反対意見がある。それはもう折り込み済みで、むしろ「それがないと盛り上がらないよね!」っていうくらいやっていかないと。

安藤:よくネットをバズらせてるものね!

駒崎:いけないんですよ。我々の社会をアップデートさせる時には炎上が必要なのです。

安藤:横の人に言ってあげてください。

宮崎議員に「ありがとう」

駒崎:僕は今日、宮崎議員に初めてお会いするのですけれども、一言だけ言いたいことがあった。「ありがとう!」「炎上してもらって、どうもありがとう!」。なぜなら、古きはアグネス・チャンもそうですけど、やはりこういうコントラバージョンな話題を世の中に提起するのは、誰かがリスクをとってやらなければいけない。

そういう意味で、今回宮崎議員はここまで反応があるとは思ってなかったでしょうし、ここまで自民党の偉い人に圧力をかけられるとはきっと思わなかったと思うんです。だから注目しているのですけれども。そのくらいの反応を起こしてくれたことに、本当に感謝したいと思います。

そして実は、今回おそらく試されている、問われているのは、宮崎議員だけではないですね。我々が問われていると思っております。

すなわち、ここで宮崎議員の苦闘を高みの見物して「面白いね」と言って、笑っているだけでは、社会はアップデートされない。我々が彼を孤立させずに「どういうことよ?」と。さっき治部さんが「ふざけんな!」と言いました。

その通りだと思います。ふざけんなと声をあげていくことによってこそ、社会がアップデートされると僕は強く思うのです。

だから僕は宮崎議員を一人にはさせないし、そして文句を言っている自民党や民主党の偉い人たちに対して「NO!」と言っていく。我々が欲しい未来というのは、男性の議員が育休を取れないで、縮こまっている未来ではないんだと。

我々が欲しい未来は、男性でも育休や子育てに参加し、社会によって子育てを育む、そんな未来が欲しいのだということを声高らかに言っていきたいと思います。そうでしょ、皆さん。

(会場拍手)

安藤:でも、俺の質問に答えてないじゃん! 子供の視点を語ってと言ったのに。病児保育、今、彼は障害児保育も始めてるんですよ。これは本当に抜け落ちていた部分で、誰かやってくれないかなと思っていて。

駒崎:だからね。抜け落ちている理由、病児保育も障害児保育も政治から取り残されているのは、政治家が子育てのことを知らないからなんですよ。全然、知らないんですよ。おっさんたちは。

障害児の母親5パーセントしかフルタイムで働けないんですよ。これを知っていたらやるでしょ。ちょっと条文を変えるだけです。それすらできていないのは、政治家が子育てに関わっていない。だから子育てのことなんて、まるで無知。

だから「それじゃない」っていう、政策をやりまくるわけですよ。小学校の先生を保育士にしようとか。明後日すぎて、言葉が出ないですよ。

だから少しでも多くの政治家が子育てに関われば、「それだよ、それ」という政策をしてくれるのだから我々は拍手をして、政治家たちが子育てに向かうように、後押しをしていかなくてはいけない。

だから、是非論とかくだらないことを言ってないで「やろうよ! やろうよ!」と後押ししていってほしいということをメディアの皆さまにも強く言いたいです。ここの会場にいらっしゃる皆さまにも、ぜひお願いしたいなと思っています。

安藤:今日来ている男性のなかには、子どもが生まれる予定の人もいるわけですよ。プレパパが。彼らにとって、こういう動きは勇気づけられることにもなると思いますし。青野さんの話を、川島さんの話をうちの社長に聞かせたいみたいな感じになっていると思うのですけどね。

母親が1人で育児をしている日本の現実

子供のことといえば、今日向こうから3番目にいらっしゃる棒田さん。こんばんわ。ずっと子育て支援を周産期の頃からやっていますけど、孫育てまでやってらっしゃいますが。男性の育休がなぜママの産後や子供にとって重要なのかというプロジェクトについて、そのお話をしてもらえますか?

棒田明子氏(以下、棒田):はい。孫育てニッポンの代表をしております棒田と申します。昨年の12月に「3→3産後プロジェクト」というものを新たに立ち上げました。

安藤:お手元にチラシがあります。

棒田:なぜ私たちがこのプロジェクトを立ち上げ、他団体と一緒に進めていこうかというと、日本ではお母さんがまだ一人で育児をしているという文化がちっとも変わっていないのですね。

私には大学生、もう成人した息子がいるんですけれど。今、成人した子どもたちに話を聞くと、残念ながら日本のニュースを見ている限り、子供を産みたいとは思わない。女の子たちはいろんなことを言われているけれども、「子供を持って働ける自信はまるっきりない」という声が上がっています。

それがどうしてかと言えば、妊娠しながら仕事をするのは大変だ。産んだ後の母親は孤独だ。子供が生まれて保育園に申し込もうと思っても、保育園には入れない。職場に戻ったら、子育てしながら仕事をする。応援してくれるとは言っているけれども、それは言葉だけで、実際は全然違うというのを現場で先輩たちから話を聞いている、と言うんですよね。

大元の根源が何かと言ったらば、まず私たちは産後にあるのではないかと考えています。愛着形成という言葉があるのですけれども、赤ちゃんが初めに愛着を結ばなければいけない人は誰でしょうか? たぶん、お父さんとお母さんであることは間違いないと思うのです。

でも残念ながら日本はママだけであったり、おじいちゃん、おばあちゃんであったり、パパという存在が完全に抜けているのですね。なので、今回本当に声を上げてくださって、きっと私たちがこれから社会を育む、子どもを育むなかで、一番大切な原点に気付いてくださって、声を上げてくださったのではないかと思います。

「育児は夫婦でするものである」

安藤:今回、宮崎さんは「育児は夫婦でするものだ」ということをはっきり最初におっしゃって。そこですよ。ファザーリング・ジャパンは10年前から言ってるんだけれど、ようやくこういうことを言い出す政治家が出てきたなと。成澤さんが6年前にそれを言って、青野さんが続いて、首長も続いたのだけれども、国会議員がまだまだ固定化、コンサバしているなと思っていたので、「やったー!」と思いました。

育児は夫婦でするもの、と。棒田さん、日本にはまだ三歳児神話も根強く残っていますし、産後の床上げ3週間という昔の文化もありますけど、これではダメなのだということをプロジェクトでおっしゃってますね。

棒田:そうなのです。お母さんたちが不安に陥るのはいつだというと、不安のピークはまず産後2週間です。それは病院を退院して、家に帰ってからの1週目です。それからその不安のピークがいつごろまで続くのかというと、産後3か月です。

どうしてかと言うと、産後1か月までは日本は里帰り出産というおじいちゃん、おばあちゃんがいらっしゃいます。しかし、1か月健診で産院の方からOKが出ますと、なんと皆、蜘蛛の子が散るようにおじいちゃん、おばあちゃんもいなくなる。パパも仕事で帰るのが遅くなる。

今回、育児情報誌『miku』さんと一緒に調査をした結果、チラシのほうにも書かせていただいたのですけれども、なんと10時間以上「母子孤立化」という現状が上がってきました。一番大変な時に、妻と赤ちゃんを残して仕事に向かっていることが、本当に社会のためになるのかというところを、もう一度皆さんと考えていきたいと思います。

育休を取ることで得られるものがたくさんある

安藤:お隣の佐藤さん、育休を7か月取ったけど、今の棒田さんのコメントをどう受け止めましたか?

佐藤士文氏(以下、佐藤):本当、まさにその通りだと思います。育休を取ると本当によいことばかりなんですよ。宮崎議員は楽しみにしておいてください。大変なことはたくさんあるんですけれど、それを上回る勢いで感動することや、今後の仕事に役立つことがたくさんあると思います。

安藤:ママはなんと言っていました? あなたが育休とることに対して。

佐藤:大歓迎だと。私はチェンジだったんです。私の妻が最初に産休育休を合わせて6か月間取って、保育園に入れるまで残り7か月あるから、私がその間1人で子どもを見なくてはいけないという。むしろ向こうが早く復帰したかったので。私の場合は、育休を取る以外のチョイスがないということだったんです。

安藤:治部さんは海外の事情についても詳しいのですけれども、海外のママたちの復帰のタイミングであるとか、その時のパパのサポートはどういう感じなんですか?

アメリカの育児制度の現状は?

治部れんげ氏(以下、治部):私は海外といっても、アメリカのことしか知らないのですけれども。アメリカってヒラリー・クリントンが大統領候補になったり、ロッキード・マーティンみたいな軍事産業のCEOが女性だったりして、凄く女性の活躍が進んでいる国ということは皆さまもご存知だと思います。

だいたい、管理職に占める女性の比率が半分なんですが、政府の育児支援が手薄くて、はっきり言って先進国で最低な国なんです。

日本には当たり前のように正社員にある、いわゆる有給の育児休業の制度がアメリカにはありません。たまたま良い会社に勤めていたりとか、たまたま公務員っぽい仕事だったりすると、有給の休暇があるんですが、たいていの人は「ノーワーク、ノーペイ」。働かなければ、もらえないという感じなので、物凄く早く仕事に復帰します。

例えば、銀行とかに行って、お腹の大きい女性がいたりして「いつから休んで、いつ復帰するの?」と聞くと2か月くらいで復帰すると平気で言うんです。

「大丈夫かな?」と思うんですけど。そんな感じです。ということは、どうするかというと、基本的に政府がダメダメななかで、誰がやるかというと夫婦でやる。

先ほどお話をしていましたけど、夫婦で子育てをしなかったら育たないってことですね。保育園に関しても、日本の待機児童の問題がすごく言われていますけど、日本はそれでも認可保育園に入れれば、そこそこの負担でなんとかやっていけますよね。

認証の保育園というものもありますが、アメリカ人に聞いてびっくりしたことは、赤ちゃんを預けると、例えば20万円とか30万円かかると。なので、なるべく預ける期間を短くするために夫婦で交代をして、保育の費用をなるべく減らすみたいなそういう戦略ですね。

これは政府がなにもやらないが故に、夫婦で協力せざるを得ない状況ではあるのですが、私が10年ほど前にアメリカの夫婦の取材をしてみてすごく思ったのは、日本でイクメンと言われる方たち、皆さんのような方たちが結構普通にいるんです。それでないとやっていけないからなんですね。

アメリカは出生率が2.1くらいあって、女性の進出も進んでいる。という特殊な環境なのですけれども、今の日本の状態が当たり前だと思わないでいただきたい。日本で男性が育休を取ろうとしたら、嫌みを言われるのは全然当たり前ではないです。

先ほど経営者の方のお話があったのですけれども、川島さんのお話がすごく良いなと思いました。アメリカでもやはり男性で育休をとった方とか、男性で在宅勤務している人とかいっぱいいました。

「大丈夫なのですか?」と聞くと、当時はパタハラという言葉はなかったのですけれども、「なにか言われません?」「解雇されるとか心配はないですか?」と聞くと、「君が一番パフォーマンスを出せるような働き方をして」と話すボスがいるのです。

もちろん、アメリカにもパタハラの問題はあるのですけれども。本当に経営のため、その人がパフォーマンスを発揮するという市場の発想から出ているものですけれど、もっとそういったものが日本に浸透して欲しいなと思います。