伝統的評価システムの再考

倉貫義人氏(以下、倉貫):このへんはよく青木さんとも話すけど、普通の会社が評価とかグレードを入れるとなっても、そこまで考えていないというか、よくある会社の仕組みに乗っ取ってまずやるけど、そこまでよく考えて導入しますっていう。

青木耕平氏(以下、青木):そうですね。これって何なのかが自分なりにわかっていないと、何もできないってところがあるんですよね。「とりあえずこういうのあるからやろうよ」と言うよりは、そもそも評価って何のためにあるのかなとか。職位ってなんだろうとか。

倉貫:わかる。

青木:かといって、歴史的な経緯に対するリスペクトはすごくあるので、きっと何かの意味があるはずだという感覚で見ているんですよね。「こんなの意味ないよ」というよりは、「みんながそれだけ運用してきたことには何か意味がある。その本質を捉えて、自分たちにあった調整をしたいな」みたいな感じで。

倉貫:そうですね。その世の中でよくやっている仕組みは、たぶんみんなが考え尽くした結果そうなっているっていうのはあるけど。でも、それがなぜそうなっているのかを考えずに入れてしまうと、本当にかたちだけになっちゃう。

青木:そうそう。だからよく倉貫さんとかとしゃべっていて、自分たちが避けてきたやつとかでも、ある程度のフェーズになった時に「これが機能するやつだったって、やっと気づいたよね」みたいな話になる時、あるじゃん。

倉貫:いや、よくありますね。歴史を再発明しているみたいな。

青木:そうそう。

倉貫:死ぬほど考えた結果、世の中によくあるやつだったという。

(一同笑)

青木:そういうのがすごくよくあるけど、けっこう倉貫さんとかもそうかもしれないし、仲山さんも近いかもしれないけど、経営とか事業をやるモチベーションの真理に近づきたいというかさ。

倉貫:わかる。

青木:いろいろやったり、考えたり、失敗したりってことの中で、ちょっとずつ真理に近づいてる。「あ、なんかここ、ちょっと見えたな」とか「わかったな」っていうのが積み上がっていく感じだけはあるじゃない。

倉貫:ありますね。

青木:あれは、逆にモチベーションってそれしかないかなというぐらい、モチベーションなので。だから、とりあえずやる。何のためにやってんのみたいな感じになっちゃうけど。

倉貫:本当にずっと実験している感じなんですよね。

青木:そうだねぇ。

マネージャーが直面する隠れた3つのコスト

倉貫:仮説立ててやってみて、仕組みを作って当たったら、「当たってた!」ってなるし。違っても、仮説のここが違うんで、次はこうチューニングしようみたいな感じでずっとやっているから。ずっと実験をやっていると思ったら、経営ってけっこう楽しくなってくるというか。

青木:そうですね。だからうちは人事に関して、今は半年サイクルでやっているんですけど、半年に1回、何も変えないってことは絶対ないですね。

ちっちゃいことでも、「前はこういう課題があったから、今度はここをこういうふうにチューニングしてみよう」とか。このところマネージャーにうまく説明する武器をあげられていなかったから、言葉とか定義とかそういうことなんだけど、すっきり説明できる新しい道具を用意して、マネージャーに「これをちょっと使ってみてよ」とか。

仲山進也氏(以下、仲山):この前の記事に書いてあって、僕の印象に残っているのは、パフォーマンスが高くてもコストが高ければダメだよねっていう。

青木:そうそう。

仲山:コストって、周りに不機嫌をまき散らしているあなたの面倒をみるために周りの人にコミュニケーションのコストがかかっているよね、みたいなものが含まれますよというのが言語化されていて。

青木:そうなんですよ。マネジメントコストには3つあると定義していて。いわゆる代わりに決めてあげるコスト。何かを教えなきゃいけないというコスト。あとは、その人に対して心配をしなきゃいけないというコスト。これが3大コストだよねと。ロールの調整の時に一番すっきりいかないのって、本人はパフォーマンスだけを見ているんですよ。

倉貫:そうっすね。

青木:「こんなにパフォーマンスを出しているのに」ってなっちゃう。でも、マネジメントからすると「パフォーマンス ー コスト」で見ている。

仲山:安売りして売り上げ作りましたっていうのと同じですよね。

青木:そうそう。

倉貫:いや、本当です。トップラインだけ上げてもだめだぞっていう。

青木:そうそう。逆に言ったら、パフォーマンスがほどほどでもコストがゼロだったら、その人ってめちゃくちゃいいパフォーマンスの人だっていうのがマネジメントからの見方なんで。

倉貫:いい状態ですね。

マネジメントにおける文系的思考の力

青木:この「視点を揃えなきゃいけない」という課題感が何年か前にきっとあったんだと思うんですけど、その時にコスパの概念とコストの定義という道具が生まれたり。

倉貫:いや、わかりやすいな。「代わりに決める」と「教える」と「心配する」ってことですね。確かにその3つは、めっちゃコストかかるもんな。

青木:僕は概念話みたいなのが得意なんですよね。コストっていうザクッとしたのが自分でなんかしっくりこないから。コストってなんだみたいのをどこまでも分解したくなるタイプなんで。

倉貫:分解して言語化すると捕まえられるようになるから。

青木:そうなんですよね。扱えるようになっていくので。

よく「定量的じゃないと扱えない」みたいなことを言われたり、フェアにならないって人がいるんだけど。それは100パーセント間違っているとは思わないんだけど、いわゆる文系的な能力を極限まで磨き上げていくと、かなり定性的なまま真実を扱えるようになるんだよね。

倉貫:本当にそうですね。解像度を上げたり、チューニングできるものを見えるようにすれば、数字で白黒をつけないほうがよりコントロールしやすくなることもあるし。プログラマーのくせに数字で管理するのが嫌いだから、「数字にしても誰も得しない」ってずっと思っているんですよね。

青木:そうなの。数字にするってどういうことかというと、非常に複雑でリッチな世界をいったん数字というかたちで圧縮する。受け取られた後に、向こう側で勝手に解凍して戻す作業をするみたいなやり取りだと思うんですよね。

倉貫:あー、そうだわ。

青木:減衰しちゃうんだよね。圧縮する時点で、けっこう大事なものがだいぶ抜けちゃうっていうか。

倉貫:そうっすね。デジタルにしちゃっているから。

青木:そう、そう。

倉貫:刻んでしまうのは、まさしくそうっすね。

青木:だから僕は、けっこう文系的な能力の復権って重要な課題だなと思っていて。文系的な能力って、定性を定性のまま扱って真理にたどり着く方法だと僕は思っているので。

理系的な能力って、定性を1回定量に変換すると言うか、圧縮して、意思決定して、またそれを解凍して現実の世界の中で適用していくってことなので。定性を定性のまま、でも適当にではなく、厳密に扱えるようになりたいっていうのが……。

仲山:僕もその流派な気がする。

倉貫:その流派ですね。その流派は奥が深いし、難しいですね。

青木:難しい!

倉貫:あるがまま伝えるし、伝わるみたいなところになってくるので。

「数字に出せないものは数字化できないもの」

仲山:数字で表すって、世の中一般的には「具体的にする」って思われているけど、さっき青木さんが言ったみたいに、世の中の複雑につながっているのを数字にすると、具体が抽象化されたみたいに……。

青木:そうだね! 確かに、確かに。

仲山:本当は具体がいっぱいあるのに、抽象化したものを受け取った人が解凍すると、ぜんぜん違うものになっちゃうっていうことが起こりますよね。

青木:定性的にしか扱わざるを得ないものも、テクノロジーの進化によって、定量的に扱えるようになるかもしれないんだよね。

仲山:信用スコアみたいなのとか。

青木:そうそう。だから過去に、例えば地球がどうなっているかを観測するすべがない頃って、宇宙はどうなってるかってことは、みんな定性的な哲学的思索で考えていたから、いろいろ間違ったところもあったわけじゃん。だけど、観測できるようになって、ある意味定量的にどうなっているかという真実をつかめるようになった。

ただ文系的な力って、定量化が及ばない領域を適切に扱う力だと思っていて。ただ定量で測れるところはたぶんどんどん増えていくから、測れるようになったらそっちを使えばいいと思うんですよね。

倉貫:そうだわ。なので、最初に話した評価が嘘であるっていうのって、「数字に出せないものは数字化できないもの」っていうのが今のリアルというか事実だと思うので。

青木:そう、そう。今の限界って感じよね。

倉貫:めちゃくちゃ高性能なAIとか、脳を見られるとかになったらまた変わるかもしれないけど、そんなの無理なので。少なくとも定性的にうまく使えるようにしていきましょうという話なのかなって受け取りましたね。

青木:だから、今は定量をごまかしというか、納得のための目くらましとして使って。

仲山:説得ツールみたいな感じですね。

青木:だけど、ぜんぜん真実には近づいていないと僕は思っているけど。例えば、この先、すごいAIとかが出てきて、「ぜんぜんそれでいけちゃう」ってなったらそれに頼ればいいと思うんだけど。

倉貫:そうっすね。

難しいコミュニケーションを率直にできる能力

青木:今は、評価とか定量が方便になっちゃっている気がして。それを使うこともぜんぜん悪くないから、みんなが納得して幸せに働ければなんでもいいという世界なんで。だけど、自分としては、嘘っぽいことをやるのが得意じゃないから。真実に近づきたいんだよね(笑)。

仲山:「仕事の中で、評価面談の時間だけ楽しくないなぁ」って倉貫さんも言っていましたよね。

青木:そうそう。この時間だけ目をつぶって早く終わらそうみたいな感じというよりは……。けっこう、僕はマネージャーの人たちにもその難しいコミュニケーションの意義みたいなことをすごく話しているんですね。

難しいコミュニケーションを率直にできる能力を身につけることは、自分の人生を豊かにしていく上で欠かせない能力だと。だから例えば30歳ぐらいでマネージャーとかになったとして。

その時はいろんな責任を負っていなくても輝くかもしれないけど。男性であれ女性であれ、どんな立場の人であれ、難しい局面でちゃんとイニシアチブを持ってすり合わせて自分の人生をコントロールしていける力量を身につけることって、絶対本人の充実につながるので。

倉貫:いや、そうっすね。

青木:ということは、繰り返し言ってます。

倉貫:マネジメントする人が向き合うめちゃくちゃ難しい問題なので。でもそれに向き合うほうが、結局その人の人生にとってはプラスになってるっていう。これも僕らの生存バイアスなのかもしれないですけど。

青木:そうっすね。

倉貫:でもそのほうがきっと豊かになるみたいなんで。そういうのに向き合ったのが、子ども部屋おじさんから脱出した時っていう。

青木:ぐるっと回って、すごい着地した(笑)。

でも本当にそうだと思いますね。あの時の僕はそれと向き合うことから逃げていて。だけど一個一個向き合っていく中で、「世界と難しい交渉を平和的にやって、自分の生きる場所を確保していく」っていって。

倉貫:居心地を追求していくみたいな。居心地を追求することと向き合うことって切り離せないですよね。

青木:ただ、マネージャーをやってくれている人たちは本当に苦労が多く、負担も多いだろうなとは思うけど。嘘っぽいことさえ強要しないで、ちゃんとした道具を与えて、我々が全幅の後押しをすれば、苦労がちゃんと身になるんじゃないかなって思っていますよね。

ザッソウラジオの醍醐味

倉貫:最初の話からようやく一周して戻ってこられるっていうのがザッソウラジオの醍醐味。

青木:醍醐味っすね。

倉貫:醍醐味ですね。いや、前回のシノマキ(篠田真貴子)さんの時も同じ感じで。最初に持ってきてくれた雑な相談が、最後なんとなく光が見えて終わったっていう。

仲山:一周しましたよね。

倉貫:一周しましたね。なんかそんな感じの、逆にハードル上げちゃうんで、ちょっと次からそんな感じじゃない……。

(一同笑)

青木:らせん状の時間がね。

倉貫:そうそう。螺旋になりましたっていう。この話やり出したら、僕ら3時間ぐらいやれる人たちだから。

青木:10本とかなっちゃうんで、もうこのへんに……。

(一同笑)

倉貫:ゲストは定期的に呼びたいなと思うので。青木さん、また出てもらうっていうことで。

青木:はい、ぜひぜひ。よろしくお願いします。

倉貫:今日はたくさんおしゃべりいただきましてありがとうございました。

仲山:ありがとうございました。

青木:ありがとうございました。

(青木氏が抜けて、クロージングトーク)

倉貫:おつかれさまでした。

仲山:おつかれさまでした。おもしろかったですね。

倉貫:90分、あっという間ですね。例えに例えを重ねて、例え話に入ったらそれで盛り上がっちゃうから(笑)。

仲山:コケですよね。

倉貫:コケの話とか家族の話とかになっちゃう。なので、ぜんぜん足りないけど、また呼んで、ぜひしゃべりたいですね。

働く環境の「居心地」が与える影響

仲山:でも今回も、前回のシノマキさんの回に続いて、最後にぐるっと話が一周してね。

倉貫:ね。螺旋な感じがいいですね。一周回ってちょっと上のところに着地できたなっていう。学びの多い回だったなぁ。

仲山:倉貫さん的にはどのへんが?

倉貫:僕は最後の評価制度は嘘であるっていう。その中でどうやって居心地の良い状態に向き合うかを考えていかなきゃいけないところとか。僕らもこれから会社が大きくなって、しっかり制度も作っていかなきゃいけない中ですごく参考になるところがあった感じでしたね。がくちょはどうですか。

仲山:僕はやっぱり居心地っていう価値基準で一本筋が通っているなというのがおもしろいというか、わかるというか。居心地っていう軸で考えていくと、それこそ満員電車とかレッドオーシャンみたいな、混んでるところって居心地悪いから。

倉貫:居心地悪い。行かない。

仲山:避けようとするじゃないですか。そうすると、他の人と違うことをやることになって。コケを食べることになって。

倉貫:(笑)。

仲山:変わった人って思われるようになって。でも別にそれでぜんぜん居心地がいいからいいじゃんって思えるようになっていくみたいなのが……。いろいろ状況が変化とかしていくけど、居心地をベースにチューニングを続けていくと、逆に言うと飽きないと思うんですよね。

倉貫:そうね。その居心地って、あまり動いていないイメージがあるけど、実は居心地の良さを保つにはけっこう動かないと保てないんですね。

仲山:そんな気がしますね。

倉貫:フロー状態もそうだなっていう。変化をチューニングしてる感じはあるもんね。

仲山:ずっと変化がないと退屈になっていっちゃいますからね。居心地悪くなっちゃいますもん。

倉貫:今回もなかなかおもしろい話ができたなということで。次回のゲストはまだ決まってないんですけど、おそらくまたおもしろい方に出ていただけると思いますので、楽しみにしていてください。

Podcastは毎週水曜日の午前中に配信されます。AppleのPodcastと、Spotifyと、Googleとで配信されるので、ぜひよかったらみなさんチャンネル登録してください。お便りなどもお待ちしていますので、よろしくお願いします。

ということで、ザッソウラジオ第2回、青木さんの回はこれで終わりたいと思います。ありがとうございました。

仲山:ありがとうございました。