時間の奪い合いが激しい今の時代

司会者:ご登壇のみなさまをご紹介させていただきます。お一方目は、クルミドコーヒー、胡桃堂喫茶店の店主、影山知明さんです。続きまして、日本仕事百貨代表、株式会社シゴトヒト代表取締役ナカムラケンタさんです。ファシリテーターはPARADE株式会社取締役の幅が務めさせていただきます。

それでは、ここからはファシリテーターの幅に交代させていただきます。幅さん、よろしくお願いいたします。

幅允孝氏(以下、幅):よろしくお願いします。みなさん、こんにちは。こんなに天気の良い土曜日の朝からご来場ありがとうございます。(笑)。今回のファシリテーターを務めさせていただきます、有限会社BACH代表の幅と申します。

ふだんはブックディレクターとして、公共図書館、企業図書館、最近は病院の図書館や学校図書館とか、いろいろな場所で図書館を作る仕事をやっております。

今はなかなか時間の奪い合いが激しい世の中なので、人は没入に時を要する本を手に取ってくれないんです。ただ、それをなんとか手に取ってもらえるようなモチベーションと環境をどう作ろうかということで、コンセプト、分類、選書、調達をやっています。

それを「差し出し方」と言っていて、配架、家具計画、サイン計画とか、そういうのも含めていろんな場所で本の場所を作る仕事をやっているものです。昨年、私設図書室兼喫茶「鈍考」というものを京都にも1拠点作りました。

90分で6名だけ、Web予約でお客さんに来ていただいて。入口に入ると携帯電話を預けるロッカーも準備しています。今の世の中は時間の流れが早すぎるので、「本を読む」というスイッチを入れて、内省してもらうような場所を作っています。

PARADEは、創設のところからチームのみなさんといろいろと相談をしていて、私が「PARADE」という名前の案を出して考えたんです。良い名前ですよね(笑)。出自のコンセプトはいろいろあるんですが、プリンスというミュージシャンのアルバムにもPARADEというものがあった。まあ、そういう話はいいですかね(笑)。

そんな幅が、今日は影山さんとナカムラさんのお二人をお招きしてセッションをやらせていただきたいと思います。

「いそぐ」前半生と、「ゆっくり」な後半生

:みなさんはもうお二人のことをとてもわかってらっしゃるとも思うのですが、念のためということで、お一人ずつ簡単な自己紹介と言いますか、スライドも準備しておりますので見ていただけたらなと思います。じゃあ、まずは影山さんからお願いいたします。

影山知明氏(以下、影山):ありがとうございます。あらためまして影山と申します。今は50歳なんですが、学校を出て最初に勤めたのがマッキンゼー・アンド・カン……マッキンゼー……まだ朝ですからね(笑)。

:噛んでいますが(笑)。

影山:いろいろ目が覚めていない。マッキンゼー・アンド・カンパニーというコンサルティングの会社に勤めまして、20代の後半からはベンチャーキャピタリストをしていました。馴染みのない方もいらっしゃるかもしれないですが、投資ファンドの一種です。

ファンドの規模は30億円くらいで、これはファンドの世界ではとっても小さなサイズなんですが、1つの事業に対して平均4,000万円ぐらい投資をして、その先の経営支援を行って、その会社がうまく成長して、中には上場する会社などが出てくると、投資した分が増えて返ってくる。そういう仕事を長らくやっていました。

実は、未だに一部そういう仕事を継続しているところはあるのですが、30代の後半から大きな転機が訪れまして、カフェの店主になりました。職歴の前半と後半で、ずいぶんニュアンスの違う仕事をしてきたここまでの道のりなんですが、自分の合言葉でよく「ゆっくり、いそげ」という言い方をしたりすることがあります。

自分が出させていただいた本のタイトルにもなっているのですが、「いそぐ」ところに軸足を置いた自分の前半生と、「ゆっくり」というところに軸足を置いた後半生。まさに自分の歩み自体がそんなものになっているかなとも思っているところです。今日はよろしくお願いします。

:よろしくお願いいたします。

実家のあった東京・国分寺にカフェをオープン

:(プロフィールに)「カフェ店主」と書いてあるんですが、一方で出版もされていますよね。『ゆっくり、いそげ』の続編や詩集とか、本当にいろんな種類の出版事業であったり、街の中に根を張りながらいろんな動きをやってらっしゃると思います。せっかくなので、そのあたりももう少しだけご説明していただいてよろしいですかね?

影山:ありがとうございます。もともとお店を始めた場所が東京の国分寺というところで、自分の実家があった場所なんですね。なので、だんだん土地に根差していくというんですかね。

お店をやっていればお客さんにも出会って、仲間のお店もできて、地域との関わりが広がっていく。例えばそういう中で地域通貨みたいなものを導入できると、僕らのお店だけじゃなくて、お店ごとに連携した取り組みが生まれていくんじゃないか? とか。

あるいは最近で言いますと「ぶんじ寮」ですね。「まちの寮」という言い方をしているのですが、もともと社員寮だった場所を改修して、いろんな人が出入りできるような拠点を作ったり。

僕らのお店にまつわっても、おっしゃっていたクルミド出版という出版レーベルとか、クルミド大学という学びの場とか、僕らのお店単位でも動いていっています。地域と連動しながら、ちょっとずつ渦を起こしていっているようなこれまでの16年、という言い方ができるかなと思っています。

:なるほど、ありがとうございます。今日はよろしくお願いいたします。

影山:よろしくお願いします。

日本仕事百貨が運営する、さまざまな「場」

:じゃあ続いて、ナカムラさんも少しだけ自己紹介をお願いします。

ナカムラケンタ氏(以下、ナカムラ):ナカムラケンタです。よろしくお願いします。日本仕事百貨という求人サイトをやっていて、僕も16年目なので同じだなと思って。こんなサイトなんですが、Lifestance EXPOもちゃんとデカデカとバナーを貼っています。

:拝見しました。ありがとうございます。

ナカムラ:例えば「しごとバー」という、いろんなゲストに来ていただいてお酒を飲みながら話すような場を開催していたりとか。

「かこむ仕事百貨」という焚き火を囲むトークの場というか、チームビルディングの場をこの秋に北軽井沢のスウィートグラスさんというキャンプ場でやったり。これは3回目で、今までの2回は採用に特化したイベントだったんですが、それがちょっと変わったりしています。

「しごとバー」や求人とか、あとは「LIFE BOOKS & JOBS」という、いろんな人の仕事に最も影響を与えた本を集めた本屋さんもやっています。

僕らは清澄白川の「リトルトーキョー」という場所におります。僕らのいる三好一丁目は(地図上の)薄い赤いところなんですが、お寺だらけのエリアで、今は周りにいっぱいお店ができているところです。

お寺の人たちと何かを一緒にやっていこうとか、下が銭湯なので、銭湯とも一緒にやっていこうということになっています。

:ちなみに「リトルトーキョー」はリトルミュンヘンから影響を受けたという、その説明もちょっとだけよろしいですか?

ナカムラ:最初は特にそういうコンセプトでやっていて。自分の仕事、オルタナティブな仕事をここで気軽にやってみるというコンセプトで、最初は虎ノ門で生まれて。(スライドを映しながら)これは昨日の模様なんですが、いろんな人が1日店長をしていて、昼と夜やってもらっています。これは我が子と、左が小学2年生のバリスタで、彼も1日店長として働いています。

:バイト代は出るんですか?

ナカムラ:シェアバーなので、完全な売上歩合制です。

:なるほど(笑)。

ナカムラ:固定費はないです。だから、売れなくても支払うことはほぼないというか、そういうシステムでやっているので敷居は低いと思います。

街で起こるハレーションもおもしろさの1つ

ナカムラ:あと、ビルの中にはthe Blind Donkeyがあります。今後はワインツーリズムをやっている大木貴之さんの店とかができる予定です。こんなことやっています。よろしくお願いします。

:すごくお酒がいっぱい出てきて。

ナカムラ:そうなんですよ。

:今日もちょっと二日酔いという噂もちらほら。

ナカムラ:はい。二日酔いで申し訳ないですが一生懸命やります。ちょっとショックなことがあって、お二人に慰めていただきながら今日は温かい気持ちでここまで来れたので、がんばりたいと思います。

:清澄という地域における連携、もちろん影山さんも国分寺という実家の近くですが、よく本などではうまくいく連携の事例が見れると思うんですが、逆に昨日はそういうものがなくなってしまった。当然そういうことは出てくるとは思うんですが、何が原因でなくなってしまうことが多いんですかね?

ナカムラ:やはり街というのはリアルな場所なので、興味関心や同じ領域の人たちとはけっこう話がしやすいんですが、街という物理的な空間の中にいると、ポジティブな意味でいろんな人が混じってくる。そういうところでコンフリクトするというか、ハレーションが起こることはあって。でも、それもおもしろいところでもあるので。

:なるほど。逆に、最初は話がうまくいかなかったというのもおもしろいことだと。

ナカムラ:そう。いつも顔を合わせている人たちなので、清澄白河は本当に地方都市みたいな感じで、みんなが何をやっているのかがわかるような関係がありますね。

:なるほどね。

街の人との関係が良好だと、そこそこ幸せ

:私も京都に2拠点目を作ったんですが、私設図書室兼喫茶を開いたのは京都市左京区の山のほうの三宅八幡なんですよ。周りはけっこう住宅街で、いきなりドーンと建てているから、(近隣住民から)「この人たちは何なのか?」ってたぶん思われているだろうなという想像をする。

それで、まずは「怪しいものではございません」というのを伝えようと思って。隣の隣の町内の組長に相談してご挨拶に行ったら「施設を解放して近隣にも挨拶したほうがいいね」と教えてもらいました。最初は土曜日だけやろうと思ったら、「いや、土曜日に来られないなんとかさんがいるから平日もやってください」と言われて。

それでポスティングして、みなさんをお招きしてコーヒーを出して喫茶を見てもらって、「こんなことをやるんですよ」と言ったら、「いいんじゃない」と。それが契機でした。

そのあと、毎年夏に地蔵盆というお祭りがあるのですが、それの飾り付けの返礼でいつもは文具やお菓子を子どもたちに渡していたのに、「本をあげたいので選書してください」とお願いされて。しかもブックトークを45分、灼熱の児童公演でしっかりお話させてもらったら、その後散歩している周りの人たちの声が優しくなりました。

何が言いたいかというと、今日は「資本主義」というちょっと大きなサブタイトルもついているのですが、まずはちょっと出会う人とか、散歩で「あ、どうも」と言う人との関係が良好だと、そこそこ幸せですよねということを思うのです。

ナカムラ:本当にそう思います。そういう人たちが身近にいると温かい気持ちになるというか、うれしいというか。もちろんそこでぶつかることもあるけど、やはりぶつかることも良いことだと思っていて。いろんなことが起きますね。

:なるほど。

「コミュニティ」という言葉は、あまり好きではない?

:影山さんは国分寺の街に植物のように根を張りながら、16年の時間をかけて少しずつ少しずつ仲間を増やしているというか。どういうイメージで一緒に協業をする方たちと結びついているのかというのも、ちょっとお聞かせいただいていいですかね?

影山:そうですね。今日は出てきていないんですが、こういう場で話す時に「コミュニティ」という単語も出てくることがありますよね。僕は、そのコミュニティという言葉遣いがあんまり好きではなくて。

国分寺でのつながりみたいなものも、コミュニティが先にありきで、言語体系にしても、習慣にしても、文化にしても、それに合わせなきゃいけないというニュアンスが出てくると、途端に不自由だなと思っていまして。

だから基本的には、一人ひとりが好き勝手にのびのびやる。国分寺も土地の成立過程で、先んじてヒッピーの方が西に移住してきて住み着いたような経緯もあるので。

:そうなんですね。

影山:村上春樹さんも国分寺でバーをやられてたりとか、自由を重んじる地層のようなものがあると感じています。自分が自由でいたいと思うなら、他の人が自由であることも尊重しないといけないという、自由の相互承認に対しての共通言語みたいなのがある気がしていて。そういう中で、いろんなことが起こったり起こらなかったりしている。

国分寺という集合体として見えてくることって、外から見るとあまりないような気がするんです。ただ、暮らしている人の中では、自分にとっての具体的な隣人が「あの人やこの人」というかたちでいる。そういうものに後から名前を付けることで、結果的に1つのまちとか、コミュニティになっているということなのかなとは思いますけどね。

:なるほど、ありがとうございます。そういうミクロな視点も踏まえた上で、後から大きいお話もしていこうと思います。