育児の価値があまりにも低い

安藤哲也氏(以下、安藤):素晴らしい。まさに与野党のイクメンたちが、こうやってタッグを組むのは素晴らしいですよね。治部さん。治部さんはSNSの方にもいろいろ書かれていますけど、今回の宮崎議員のアクションあるいは、民主党から出た批判みたいなものについてどうお考えですか?

治部れんげ氏(以下、治部):経済ジャーナリストをしております治部と申します。どうぞよろしくお願いします。「男性頑張れ」といういい雰囲気になってきたので、私はおばさんなのでちょっと厳しいことを言わせていただきたいと思います。

最初に今日、お子さんがいらっしゃって、一人で留守番できない年齢のお子さんを家に置いてきた、誰かに預けてきたという方ってどれくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

結構いっぱい! ありがとうございます。うちも4歳と小学校1年生がおりますので、今日は夫が見ています。

私はこういう少子化とか女性活躍の話をする機会が凄く多いのですが、大事なのはここに集まって、今は皆さん天下国家の問題を論じていると思うのですが、集まって論じている人だけが偉いのではないですよね?

我々がここに来られるようにしてくれた、我々の子供たちを見てくれている夫だったり、妻だったり、おじいちゃん、おばあちゃんだったり、シッターさんだったり、そういう方たちがいるおかげで、我々はここでこういう問題を議論することができている。

なぜ、これが大事かというと、さきほど寺田議員がおっしゃった日本で育児をすることが、一方でとても神聖なお母さんの仕事とされるにも関わらず、無償労働ですよね、基本的に。価値が本当は認められていないことが、この問題の本質だと思います。

宮崎議員が育休を取りたいとおっしゃった時、私はもちろん大賛成で、自分の子どもがどれだけかわいいかということを芯から感じた時に、たぶん「世の中が平和だったらいいな」と感じると思うのです。

と思っていたのですけど、もう反応があまりにも……。私は是非を論じるとか、制度の有無を論じること自体がナンセンスだと思っています。それは問題の本質ではなく、本当に日本にこれから「幼稚園を増やしたいのでしょ?」。目標出生率、1.8なんですよね?

そうであれば、子供を育てることは大事なことだと認められるべきですし、本当に大事なことであると認める雰囲気があるのであれば、「国会議員という大事な仕事と、どっちが大事?」と。自分の子供のほうが大事に決まっていますよね? そんな簡単なことを議論しないといけないということに正直、凄く腹が立ちました。

怒ってツイートしていたら、安藤さんからFacebookに連絡が来て「こういうのがあるのだけどどう?」ということで、今ここに至るんですけど。そういった私の怒りをまとめた「日経DUAL」というウェブの媒体がありまして、コラムが今日出ていますので、よかったらご覧ください。

これは女性がずっと直面してきた問題です

個人的なことを言いますと、うちの夫は大学の同級生で、1人目の時は「隠れ育休」を半年くらい取っていました。私が授乳をしましたが、ほかのことはすべて基本的に夫がやっていました。

2人目の時には、半年公式な育休を取ったんですけけれども、夫の職場の名前を言っていいか聞いていないので言いませんが、先ほど佐藤さんがおっしゃったパタハラ的な発言をやっぱり上司から受けています。

「育休を取りたい」と言ったら、上司がなんと言ったかというと「制度があるから仕方がないよね」と。「お前、ふざけんな」と思うじゃないですか。その人が今、組織のトップにいるので、ちょっと検索したらすぐにわかるのですけど、それが日本の現状です。

(会場笑)

なので、私は凄く腹が立って来ています。ただ、そこで男性に頑張っていただきたいのは……「宮崎さん、絶対取ってくださいね?」。なぜなら、皆さんが直面しているこの大変さということに、女性はずっと直面してきたのですよ。

今、ここに小酒部さんがいらっしゃいますが、小酒部さんがどのようなことを研究してきているか、よくご存知だと思います。あと、私はハッピーなことに子供を2人持って仕事を続けていますが、私より少し上の世代の女性は「産むか仕事か、どっちかとれ!」ということを言われてきた。

涙を飲んで辞めるか、もしくはマタハラにあうか、もしくは産まないとか、家族を持たないという選択を女性はずっとしてきました。今は男性もさらされるようになったので、勇気をもってぜひ取ってください。

勇気を持つというのは、国会の前でデモをするとか、そういう勇ましいことを言うだけじゃなくて「お先に!」と、今おっしゃった4時に帰るとか、5時に帰るとか。それこそが地味な本当の勇気の見せ方じゃないかなと思います。

(会場拍手)

女性の2人に1人がマタハラ経験あり

安藤:はい。ありがとうございます。さすが切れ味抜群ですね。やっぱり呼んでよかったです。皆さんちょっと勇気が出たんじゃないですか? (宮崎議員に)どうぞ一言。まだノーコメントですか? わかりました。

今の「マタハラ」というキーワードが出ましたので、次は小酒部さやかさんお願いします。まさに「なにを言っているの、あなたたち」と。「私たちはもっとひどい目にあってきたのだよ」と。

それを書かれた『マタハラ問題』という本が、この間出版されましたけど、女性たちが置かれている職場におけるハラスメント、マタハラというものの現状と、小酒部さんが目指す社会において、男性の育休はどういうファクトになっていけばいいのか。お願いできますか?

マタハラ問題 (ちくま新書)

小酒部さやか氏(以下、小酒部):今ご紹介に預かりましたマタニティーハラスメントの被害者支援団体をやっております、小酒部と申します。2014年、マタハラという言葉が流行語のTOP10に入りました。マタハラという言葉を広めさせていただいたのは私たちの団体なのではないかと自負しております。

11月、厚労省がマタハラの速報値を出しました。派遣社員48.7パーセント、2人に1人がマタハラの被害にあっている。もう衝撃的な数字というか、海外に持っていけない恥ずかしい数字だと思います。

女性たちがこれだけマタハラの被害にあっているということは、当然パタハラもあるでしょうし、これからもっと大きな問題になってくるのが、ケアハラの問題ですね。

マタハラ、パタハラ、ケアハラ、この3つを合わせて「ファミリーハラスメント」と呼ばれている方がいます。この根っこは3つとも一緒だと思います。私はファミリーハラスメントを、働き方の違いに対するハラスメントだと呼んでいます。

日本は長時間労働がスタンダード。長時間働いて一人前。長時間働けなくなって産休、育休などの長期の休暇を取る。それから戻ってきても保育園のお迎えで時短勤務を取るなどという働き方は“異なる働き方”と捉えられてしまって、職場で排除の対象になってきました。

治部さんがコラムのなかで、私たちがとった被害者調査紹介してくれています。私たちの被害者調査では、マタハラの加害者になる人が、1番は直属の上司が1位なんですけれども、2位に人事が入っています。本来であれば、マタハラを防止する立場である人事が入っている。そして、3位に女性上司が入ってきます。

よく知られるセクハラは異性からされることが多い。よく知られるパワハラは上司からが多い。ところが、ファミリーハラスメントは異性、同性問わず、上司、同僚問わず、四方八方が敵になる。なぜかというと、働き方の違いに対するハラスメントだから、排除しようと誰もが思うということです。

皆さんにお願いしたいのは、このファミリーハラスメントを個人の価値観、どういう価値観がよいかという議論で終わらせてほしくないんです。もっと大きな視野で捉えてほしい。ファミリーハラスメントは日本の経済問題です。私はマタハラが日本の経済だ、そして経営問題と言っています。

少子化って一体なんなのか? もっとよく考えてみてください。2060年に人口は、3分の2になる。労働人口は2分の1になります。政府が女性活躍、今、一億総活躍という名前に変わりましたけど、どうしてかというと、経済先進国のなかでは、女性の労働参加率と出生率は正比例の関係にあるのですね。

つまり、女性が労働参加、働けば働くほどたくさん子どもを産む。そして男性の育児参加が女性の第二子、第三子への出生に繋がっています。このような関係性をもっと皆さんに知ってもらいたい。

そして、少子化の問題というのは、労働力不足に直撃していくだけではなく、年金の問題。厚労省は2030年までに女性の就労を80パーセント以上にするというデータを出しています。そうしないと、年金が健全化しない。支払い分が多くなるか、貰える分が少なくなるか、ここにも関わってくる。

つまり、日本が一つの船で、皆さんに回り回って、自分の問題にブーメランのように振り返ってくるということをもっと理解してもらいたいなと。ここをきちんと学び、理解し、知ってもらったら、育休取るのがなんだかんだという話にはならないと思っています。

「従業員満足=株価」である

安藤:ありがとうございました。元祖イクボスの川島さん。会社の社長として、部下も日々見ているなかで、マタハラやパタハラ、パワハラということがいかに愚かなことか。先ほど言っていた働き方への排除、イクボスは誰しもが児童を抱えながらでも、生産性を高めるような働き方ができるようなことをやっているのだけれども。イクボスから見て、男性の育休あるいは、マタハラの問題をどのように捉えますか?

川島高之氏(以下、川島):そうですね。私は管理職を15年くらいやってきて、会社経営は4年前からやっていますが、まさにそういう議論が出ること自体が「バカじゃないか」という感じなのですよね。はっきり言って。

管理職としては、現有の選手に最大限のパフォーマンスを出してもらいながら、経営するのが一番いいわけじゃないですか?

野球の監督だとしたら、選手を自分の意志で変えられないですよね? あるいは今人手不足だから選手に高い金を払って採ろうとしても無理ですよね。

現有の選手に最大限のパフォーマンスを出してもらう。では、どうしたら出してもらえるのか? それは生活、もっと言えば人生の安定、幸せ、満足度を高めてあげること。正にイーエス(ES)イコール、株価だと思うのですよね。

なんでそこに気が付かないのかな。管理職や経営者の人と話していて、「男性の育休を取らせるべきか取らせないべきか」とか「女性にもう少し配慮すべきか、すべきじゃないか」とか。なにかくだらない議論になっていますよね。

「そうじゃねぇだろ!」と。管理職やマネジメントして、現有の選手に最大限のパフォーマンスとってもらうためには、どうしたらいいのかを冷静に考えたら、しっかり育休をとる。しっかり必要な時は4時に帰る。しっかりと親の面倒を見られる。しっかりと地域活動できる。そういうことに配慮するのは、当たり前だと思うのですけどね。どうですかね。

安藤:川島ボスは3年前に大手商社系の子会社の社長になられて、あまり成績のよくなかった会社を3年間でみるみる業界1位に。しかも今は皆さんが有給とって……。

川島:うちの会社は総合商社系なので、それこそリゲインの24時間戦いますかの、舞台になっている会社なのですけれども、やはり4年前は私が来た時、その系列なので10時、11時まで毎日やっていて、土日も出て……。

安藤:育休を取る男性はいたのですか?

川島:いや、いません。株価も低迷しましたけど、徹底的な働き方改革、社員満足度向上のために、なにが必要かということを徹底的にやったら、今業績は3年間で8割上がりまして、株価は業界トップです。

だから、当たり前に経営者としてやっていけばいいわけで、そこをなにかあるべき論ということに、負けちゃっているのかなという気がしますね。

安藤:川島ボスは僕と同じ高校3年生の子供がいるんですけれども。彼は毎日子供のお弁当を作ってから会社に行って、社長をやっている人です。それでもちゃんと実績を出せる。そして、部下も「有給取れよ! リフレッシュして、会社に出てこい。それが俺たちの目指す会社なのだ」と。

川島:うちの会社、6時台は「遅いな、お前」と。7時台は深夜残業、週末に出る奴がいたら「お前、気が狂ったのか?」と。もちろん、トラブルやイベントがある時は別ですよ。それはもうサプライズの時ですから。

安藤:それでも業界1位ですもんね。

川島:だって、みんな従業員が満足していたらパフォーマンスは出してくれますよね。

女性がビジネスを学ぶ機会を

安藤:わかりました。ここで、この席がDH席になっていまして、DH席は指名打者ですね。今日は何人かの指名打者の方に、来ていただいています。英国の経営者であるジョン・フィーニーさん、ウェルカム。

ジョン・フィーニー氏(以下、ジョン):今日着いたばかりなのです。イギリスから。絶対来てくださいと。

男性がこういう議論で、なにをするべきかと話すのを聞くことは、大変興味深いことです。今日は私が日本で新しく始めた女性を支援するためのビジネスについて、少しお話させてください。

30年前に日本に来たのですけれども、当時はフィリップ・モリスという会社とディズニーという会社で働いていました。当時は日本の女性は日本の企業できちんと雇用されて正当に処遇されていなかったので、こういった外資の企業が女性を採用していました。そして、成果を見てみますと、日本の女性は非常にパフォーマンスがよくて、どんどん昇進していきました。

彼女たちは、長時間労働をしているので、企業に必要なことを勉強する時間がありませんでした。ずっと日本の女性の状況というものを興味深く見ていたのですけれども、最近、政権の女性活躍政策が英語の新聞等でも凄くレポートされるようになってきました。

今、時が来たということで、日本の女性に対してプラクティカルなビジネスのトレーニングをオンラインで提供するために、新しい学校を作ろうと思っています。特に、一度事情があって職を離れた女性に対して、そういうことをしていきたいと思っています。

ゴールドマンサックスのキャシー松井さんのウーマノミクスのレポート。皆さんもよくご存知だと思いますが、それを見てわかる通り、女性が労働参加することによって、経済に対してプラスの影響があります。たくさんの女性を一同にトレーニングしたいので、普通の学校ではなくオンラインを活用したいと思います。

安藤:一つ聞きたいのですけれども、政治家の男性の育休と言えば、イギリスのブレア首相はかつて話題になっていました。それについて当時は、どういう世論がイギリスにあったのでしょうか?

ジョン:日本の政治家にも真似をして欲しいです。