素晴らしいアイデアは必ずマネされる

Adora Cheung氏(以下、Adora):では、プロダクトを発送する準備が整った段階と仮定します。ある人々はこの段階に至ってもなかなかプロダクトを発送しようとせずに、改善を続けていきます。人にアイデアを取られないように、完璧になるまでプロダクトを世に出さないということの裏には、アイデアを盗られたくないということがあると思います。

皆さんに覚えておいて欲しいのは、そのアイデアが素晴らしければ、いつどの段階でローンチしたとしても必ず誰かが皆さんのアイデアを真似てそれに勝るものをつくろうとするということです。

つまり、自分のアイデアを隠しても意味がないのですが、多くの創設者がこのように考えてしまう傾向があります。私もそうでした。それをローンチするのに莫大な資金を必要とするのではない限り、プロダクトローンチを先延ばしにする理由は何ひとつありません。

たくさんのユーザーが集まるようなプロダクトをつくった段階にいるとして、次は何をすべきでしょうか? ここでひとつ明確にしておきたいことがあります。初期段階で―チームがあなたとあなたの共同創設者、そしてその他にも数人のメンバーがいる段階です―ここではまだ成長するチームとは呼べません。いくつもの戦略に同時に手を出したくなりますが、ひとつにフォーカスすることが大切です。

何に取り組むかを決めて、一週間丸ごとそのひとつに集中してやること。それが上手くいくのであればやれるところまでやり続ける。もしもその戦略では上手くいかないのではあれば、それは諦めて次に進む。

こうすることによって、取り組んでいるチャンネルが正しい方向ではないこと、当初の予測が間違っていることに早く気がつき軌道修正することができます。一度に色々なことに手を出すと、間違いに気がつくまでに数週間もかかってしまいます。ひとつずつ取り組みましょう。

その都度ベストな戦略を練り続ける

上手くいくチャンネル、戦略が見つかったらそれを繰り返しましょう。戦略をまとめた資料を誰かに渡して、彼らにまったく同じ方法を繰り返せるようにすることもできるかもしれませんが、チャンネルは常に変わります。Facebook AdでもGoogle Adでも同じです。コントロールすることが出来ない状況変化もありますから、常にその時にベストな方法を模索する。

初期段階では失敗した戦略はもう忘れて次に進んでいいのですが、少し時間が経ってからその戦略をもう一度見直してみましょう。

Homejoyの例です。初期段階では私達にはお金がありませんでした。競合からユーザーを引っ張る為に、Google Adを買おうとしました。全国展開している大きな競合は私達よりも資金が潤滑なので、ユーザーはそちらのほうで仕事をした方が私達のプラットフォームを通じて仕事をするよりも多く稼ぐことができました。

当然他社のほうが魅力的です。私達には余裕がなかったので、違う方法でアプローチする必要がありました。しかし今日では、私達のほうが競合よりも成功しています。つまり、昔諦めたGoogleAdも、今この時点で買うことを再考する価値があります。

クリエイティビティが鍵です。一般的にパフォーマンスマーケティング、マーケティングや成長に関しては技術が必要ですが、それと同時にクリエイティビティも要求されます。それが簡単に出来れば、誰でも成功出来ますね。誰もやっていないことを探して追求することです。

3つのタイプの成長エンジン

成長エンジンには3つのタイプがあります。スティッキーグロース(粘着型)、バイラルグロース(ウィルス型)、ペイドグロースです。

スティッキーグロースとは既存のユーザーに戻ってきてもらう、もっとお金を使ってもらうことで成長すること。

バイラルグロースとは、口コミで成長すること。ユーザーがプロダクトを使う。とても気に入ったので友人にもそのプロダクトの話をし、彼らもまた気に入って使うようになるという具合です。

3つ目はペイドグロース。資金が潤沢な場合には成長速度をいくらか支払うことによって加速させることが出来ます。

サステナビリティ(持続可能性)がここでのメインテーマです。サステナブルグロースとは穴が空いたバケツではないという意味です。投資すればそれが良いリターンとして返ってくる。スティッキーグロースとは、先ほども言いましたが既存のユーザーにリピーターになってもらうこと。その為にはユーザー・エクスペリエンスを良いものにすればいいですよね?

彼らに喜んでもらえば、リピーターになってくれます。中毒性のあるものをつくれば、彼らもまたハマります。

既存のユーザーとの付き合い方

どのくらい良いスティッキーグロースになっているかを測るには、CLV(顧客生涯価値)とコホート分析を見ます。

CLV―ある人々はLTVとも呼びますが―とは顧客の生涯です。要はある一定の期間にある顧客がどれだけ純収益をもたらしたかということなのですが、例えば12か月のCLVとは12か月でどれだけその顧客が純収益をもたらしたかを示します。

1か月や6か月で測ることもあります。コホートの説明はこの図を見てください。これが時間軸でこちらがユーザーの戻ってくる確率を示しています。時間が0であればリテンションレートは100ですね。

コホートはカスタマー・セグメントとも言い換えることが出来ます。例えば女性と男性を別のコホートに分けるとか、ジョージア州のアトランタとカリフォルニア州のサクラメントとエリアで分けるだとか。最も一般的なのは月毎にわけるやり方です。ここでは例えば2012年の3月をみると仮定して、この時点では100人の人があなたのプロダクトを使っています。

1か月後には例えば50%の人が戻ってきてくれたとする。2か月後はどうでしょうか? 1か月前のそれより低い。時間と共に曲線はこのように流れていきます。最初の曲線下降を避けることは出来ません。

この理由は、初めて使った人の中には気に入らなかった、悪い体験をしたと思う人が確実にいるからです。時間と共にこの曲線に波がなくなると良いです。彼らがメインの顧客、長期的にプロダクトを使ってくれる顧客になります。

最初の時点から1年が過ぎ、皆さんも進化したとしましょう。そうするとグラフはこのようになっているべきです。このように、最初の期間でも50%以上のリテンションレートで、より多くの人がリピーターとなる。

悪いリテンションの曲線の例はこのような感じ。せっかく試してもらっても、ユーザー・エクスペリエンスが最悪で誰もリピーターにならない。そんなビジネスがあるかどうかは知りませんが、もしあるのであれば最悪ですね。目標はこの曲線を上へ上へと上げていくこと。この分析によって現在の戦略が正しいか否かを見極めます。

バイラルグロースにおける3つのポイント

2番目の成長エンジン、バイラルグロースについてです。ここでもユーザーに良い体験をしてもらうことが欠かせません。どうしたらユーザーがツイッターやFacebookにあなたのプロダクトについて書き込んでくれるか、友達や家族に「すごく良かった!」と勧めたくなるでしょうか。

ユーザーに喜んでもらえるものをつくらなくてはなりませんね。更に、良いリファラルプログラムをつくってあげることも大切です。100人の顧客が皆さんのプロダクトについて話しているとして、彼らはどんなことを話すでしょうか?

バイラルグロースにおいては喜んでもらえるプロダクトをつくることが欠かせませんが、それがすでに出来ている場合の次のステップです。

どのようにリファラルプログラムをつくりますか? ここに3つのメインポイントを書いておきました。まず第1、彼らはどこでどうやってリファラルプログラムがあることを知るか? 予約完了後でしょうか、会員登録後でしょうか?

プロダクトをしばらく使った後、そして彼らがリピートしてくれていることが確実にわかった後にメールでリファラルプログラムへのリンクを送るのがよいでしょう。プラットフォームをやっているのであれば、例えば、Homejoyは顧客の自宅に伺います。

ここでもうひとつ生まれる機会は、ハウスキーパーが彼らの自宅を訪れる際にリファラルプログラムについての資料を置いていくことが出来ます。皆さんのプログラムを気に入って使ってくれている人には積極的にリファラルプログラムを紹介していくということです。

第2に、プログラムをどのようなシステムにするかです。最も一般的なのは、顧客が新規顧客を紹介し、実際に新規顧客がサービスを利用した場合には既存顧客に10ドル支払い、新規顧客にも10ドル支払われるというシステムです。

皆さんはクリエイティブに皆さんもそれを最大限有効活用できるような新しい方法を生み出しましょう。既存ユーザーから紹介されてやってきた新規顧客にとって会員登録が簡単であることも大切です。

既存の会員登録ページとは別の紹介専用のページをつくるべきかもしれませんし、「あなたのお友達はこんなサービスを利用しましたよ」という感じで会員登録ページに紹介したほうがいいかもしれません。ポイントは良いリファラルプログラムにする為に様々な角度から試行錯誤してみるということです。

ペイドグロースのカギは、リスクと引き換えに何を得られるか

最後にペイドグロースです。わかりやすい例をここに挙げましたが、皆さんならこの他にも思いつくものがあるでしょう。ペイドグロースは、ユーザーを獲得する為に使える資金が潤沢である場合です。

正確には、資金がある、そしてリスクと引き換えに何を得られるか、が鍵です。簡単に言えば、CLVがCAC以上となるか? です。CACとはカスタマー・アクイジション・コストの略です。

例えば広告をいくつか、12か月以上打ったとして、顧客が300ドルの価値だとする。これらの広告はそれぞれクリックした時に異なるCPCコストが発生する。そしてポテンシャル・カスタマーが広告をクリックしたらサイトに来て新規会員登録をしてもらうか、何か購入してもらわなければならない。

それぞれの広告についてのコンバージョンレートが違う。CACはCPCをコンバージョンで割ることで導き出される。つまり、それぞれの広告に異なったアクイジション・コストが発生します。これが良い結果か悪い結果かを導き出す為に、CLVからCACを引き算します。それがゼロ以上であれば上手く行っています。

CLVは変わらないのにコンバージョンが高かったり低かったりするのは、その広告ひとつ取ってみれば良さそうに見えるのに、総合すると特別良いものではないという意味です。これをすべての顧客を総合してみてみることもできますが、顧客をセグメントで分けるのがより良い方法でしょう。

例えばカントリーミュージックのマーケットプレイスをつくっているとして、テネシー州のナッシュベルに住んでいる顧客のCLVのほうが、チェコ・スロバキアに住んでいる顧客のそれよりも大きいであろうと推測することができます。

広告を買う場合には、異なったタイプのコホートがあることに気を付けて、すべてを混合しないように。

ピボットを判断する3つのポイント

最後に回収年数とサステイナビリティです。予算以上に無理してお金を使い始めると、そのビジネスは問題を抱え始めて悪くなります。これはリスクトレランス、またはリスクをそれくらい取る覚悟があるかというポイントに尽きます。

これらのCLVを見てみましょう。12か月後には300ドルの価値をもたらす顧客がいるとする。最初の月に彼らの価値は100ドルだけれども、12か月待てば残りの200ドルを支払ってくれる。しかし、この最初の月にこの顧客を得る為にあなたは200ドルを支払っており、最初の月の差額の100ドルは12か月後にしか回収できない。

これがアンサステナブルグロースのポテンシャルになります。もしかしたら何らかの原因で12か月後に200ドルを回収できないかもしれない。すると悪い状況になりますね。このようなことが原因で資金不足が起こるかもしれない。

更に、もしこれをクレジットカードでやっていたとしたら自己破産手続きをしなくてはならなくなるでしょう。回収年数を考えることはとても大切です。安全なのは3か月。リスクを取るのが大好きなのであれば12か月。12か月以上はとても危険です。

ピボットの面白さについてお話しましょう。Homejoyは最後までつくって、実行し、顧客を得ていこうと考えたアイデアの第13番目のものでした。「どうやって13もアイデアを出せたの? 取り組んでいるものを諦めて、次に進もうと決めるのはいつ?」とよく聞かれます。

これについて言えるのは、以下3つのポイント―成長が見込めない、ユーザーがリピーターにならない、そのビジネスが理に適っていない―、が揃ってしまったら、このアイデアは諦めて次のアイデアを形にしようと先に進みます。

成長プランの立て方

「成長」についてはとても判断が難しいところです。なかなか成長しなかったのが、3年後に突然急速に成長を始める、なんて話はよく聞きますから。始める時に現実的な成長プランを持っておきましょう。

こんな風かもしれません。最初の週にはユーザー1人を確保する。2週間目には2人。そのようにユーザー数をどんどん倍にしていく。最初の週にはひとりのユーザーを確保する為に出来る限りベストなものをつくる、2週目にはふたりを確保する為にベストを尽くす。

このように人が喜ぶものをつくり続ければ、この成長カーブは保たれるはずです。それが1週間に100人のユーザーを集めようと思ったら、新たな戦略を考えなければなりませんが。一生懸命に最高のプロダクトをつくっているのにも関わらず、数週間続けて伸び悩むことがあれば、そのアイデアを完全に諦めろとは言わないまでも、何か基本的なところが間違っていることを理解して、新しい方向に進むことを考え始めるべきです。

初期段階のスタートアップは、基本的なところを間違えなければ成長を続けるはずですから。この曲線は私がHomejoyを始める時に設定した楽観的・希望的目標でした。

でも実際はこのような感じでした(まっすぐなカーブではなく彎曲した曲線)。

でも確実にカーブは上に伸びていました。一生懸命人が喜ぶプロダクトをつくっていけば、このような上向きカーブのトレンドが見えてくるでしょう。

他社のプロダクトから自社へ乗り換えてもらう方法

Adora:質問はありますか?

生徒:他社のプロダクトで満足しているユーザーを自分のプロダクトへ乗り換えしてもらうにはどうしたらいいですか?

Adora: 絶対にスイッチオーバーコストは発生します。Homejoyの例です。私達は新しいマーケティング戦略を考えていました。ハウスクリーニングサービスを受けたことが全くない人にユーザーになってもらうことはそこまで難しくありませんでした。

しかし、すでにハウスキーパーを雇っている人は彼らが雇っているハウスキーパーをとても信頼していますので、「新しいハウスキーパーはいかがですか?」と彼らを説得するのはとても難しいです。

既に他でサービスを受けている人には、皆さんのサービス・プロダクトがそれよりも優れていることを示せる瞬間を狙います。例えば、すでにある特定のハウスキーパーを雇っている人が、ある日自宅でパーティーをした。その後片付けを翌日までにしなければならない。

Homejoyはほとんどの場合翌日の予約も受け付けます。翌日にいつものハウスキーパーが来られないので、その人はHomejoyにハウスクリーンを依頼する。

一度私達のサービスを使ってもらうことが出来さえすれば、現在受けているサービスよりも私達のサービスに利点が多いことを知ってもらえる。自宅に通ってくれるハウスキーパーの為に支払の現金や小切手を置いておかなければならないのが面倒くさいという人は、オンラインで支払うことが出来る私達のサービスに魅力を感じてくれます。

予約もキャンセルも、ハウスクリーンのスケジュールは顧客のスケジュールに合わせられるので便利です。他で似たサービスを受けている彼らに、皆さんのプロダクトの便利さや利点を理解してもらうのは本当に難しいです。

「私達のサービスはこんなに便利な点がありますよ!」と50のポイントを羅列して宣伝するのではなく、ひとつかふたつのポイントが現在その人が使っているサービスよりも優れていることをアピールしたほうが効果的です。ありがとうございました。