相手に“苦手”と思われていなければ、苦手に分類されない?
寺田有希氏(以下、寺田):(石倉氏の「諦めと、自分が勝負できるところで勝負するのは大事」という話を受けて)それこそ、石倉さんの3冊目の本を読ませていただいたんですけど。
読んでいてすごく感じたのが、なんか諦められない人が多い気がしていて。言い方がどうなのかわからないんですけど、諦めどころを見つけるのと、すぐに見切りをつけて諦めるのがお上手なのかなと思ったんですよね。
例えば会社でも、チームや一人ひとりを変えることはできないし、人間なんてみんな違うし。だから、どこかの会社でうまくいった理想像を追いかけてもしょうがねぇだろみたいなことを書かれていて(笑)。確かにその諦めって、忘れがちだなと思いました。
石倉秀明氏(以下、石倉):確かに。でも僕は「ここは捨てよう」って考える時に、(ルールを)けっこう決めてるというか、頭の中になんとなくある縦軸横軸の4象限みたいなのがあって。自分が得意と感じるか苦手と感じるかという軸と、相手がそれを得意と感じるか苦手と感じるかという軸があるんですよ。
たぶんナチュラルに得意なことってあるじゃないですか。自分が得意と思っていて相手も得意と思っていることは、別にそのままやればいい。逆に自分は得意と思ってるんだけど、相手が苦手と思っていることはけっこうまずいなと。
寺田:まずいとは?
石倉:自分ができると思っているのに、相手にはできると思われていないので、けっこう仕事としてはまずいじゃないですか。そういうものを見つけたら「あ、(本当は自分は)得意じゃないんだな」と認識するところからスタートしようというのは決めていて。
逆に、自分も苦手と思っていて、相手も苦手と思っているものは、捨てるんですよ。だってみんなも「この人無理でしょ」ってわかっているから。
寺田:みんな無理ってわかっていれば「いや、もう無理」で捨ててもOKですもんね。
石倉:そう。自分は苦手と思っているんだけど、相手に苦手と思われていないことは、実は苦手と呼ばないなと思っています。その領域をどう増やすかということをすごく考えているんですよね。
自分の中では苦手と思っていていいんですよ。ですけど、相手に苦手と思われていなければ、世の中的には苦手に分類されないんですよ。
寺田:でも、私はまさにMCとかコミュニケーションってそうだと思います。
石倉:ですよね。僕もこの本を出した時に、メンバーに「ビジネスコミュ障ですよね」って言われたんですよ。
(一同笑)
寺田:私も! 「いや、有希ちゃん絶対に人見知りじゃないでしょ」って、めちゃめちゃ言われました。
石倉:たぶんそれは、自分の中では苦手だと思っていて、苦手を苦手に見せない工夫をした結果、周りの人からは得意に見えているから、苦手なことだと認識されていないんですよ。
寺田:それ、声を大にして言ってほしいです(笑)。
石倉:声を大にして言ってます(笑)。
寺田:ありがとうございます。めっちゃ言われました。”ビジネス人見知り”みたいな(笑)。
相手に“苦手”と思われない方法
石倉:結局、みんな「苦手」というと、自分が苦手かどうかをすごく考えるんですけど、相手が苦手と認識しなければ、それは苦手じゃない。相手に苦手と思われない方法はたぶんいろいろあって、僕と寺田さんはちょっとアプローチが違うけど、おそらく苦手と思われない方法をすごくやっているはずなんですよ。
寺田:ちょっとそれ、深掘りしていきましょうか。どうやって深掘りしていけばいいんですかね。
石倉:今「初めての人(初対面の人に自己紹介する)」という場面を見たから、いろんな場面をやっていくといいんですかね。共通項が出るのかもしれない。
寺田:初めての人の場合、決めているやり方というか、他に何かやり方はありますか?
石倉:僕はないです。(初対面の人とプライベートで会うよりも)なるべく仕事で会うようにするにはどうしたらいいかを徹底することですね。僕は、会社の経営者なので、それがけっこうやりやすい立場でもあるかな。
あとは、そういうのをつなぐのが得意な人っているじゃないですか。お互い初めてなんだけど、間に入ってめちゃくちゃうまくやってくれる人に紹介してもらいます。完全に他人の力を借りる。
寺田:その人は、石倉さんが、自分のことをそう思ってアサインしたということに気づいている状態ですか?
石倉:気づいてないと思います。
寺田:じゃあそこもうまくコントロールして、うまいこと気づかれずにアサインしている。
石倉:いや、気づかれずにというか、その人は、自分でも得意と思っているし、周りにも得意と思われている領域なんで、楽しいんですよ。
寺田:あぁ~、そういうことか。
石倉:初対面同士で「この2人合うと思ったんだよねー!」というふうに、平気で会話を回せちゃう人っているじゃないですか。そういう人って、自分でもそれが得意だと思っているし、好きだと思っているし、周りもそう思っている人なんです。僕は「申し訳ないけど力を貸して」と思って、借りてます。
寺田:それ、いいですね。コミュニケーションにちょっとでも苦手意識がある人って、しゃべる時、会う時とかに何かしら出てきちゃうと思うんですよね。だから自分の身の回りに、自分も得意だと思ってるし、周りからも得意だと思われている人を置いておく(笑)。
石倉:そうそう。
自分は何も克服せずとも、得意な人の力を借りる
石倉:特に初対面が得意な人っているんですよ。いきなり仲良くなれるタイプ、いるじゃないですか。
寺田:います、います。
石倉:だって僕の一番仲のいい友達は、本にも出てくるんですけど、渋谷のスクランブル交差点で……。
寺田:いらっしゃいましたね。何でしたっけ、ナンパの……。
石倉:“ナンパ十段”の人ですね。
寺田:ナンパ十段(笑)。
石倉:渋谷のスクランブル交差点で、飲み会終わりに(信号が変わるのを)待ってた時に、スクランブル交差点の赤信号ってたぶん1分とか1分半ぐらいじゃないですか。その間に隣にいた女性に声をかけて仲良くなって「あ、俺この子と飲みに行くから! じゃーね、おつかれ!」という確率が10回中9回ぐらいあるっていう。
寺田:いや、もう天才!
石倉:天才なんですよ。その人は、ザンビアとかに旅行に行ったんですけど、ぜんぜん言葉がわからないのに、めちゃくちゃ友達ができて、最後に帰国する時に村中の人に泣かれるみたいな。本当に天才なんですよ。
寺田:そこはかなわないですもんね。
石倉:だから、そういう人の力を借りる。
寺田:そういう人たちの特性をちゃんと見抜いて、近くにいてもらうよう意識することは大事ですね!
石倉:得意な人の力を借りる。自分は別に何も克服はしてない。それが得意で好きな人にとっては、わりと苦にならないんじゃないかなと勝手に思っている。
そもそも「仲良くなってから仕事に挑もう」とは思ってない
寺田:なるほど。初対面とか、私はどうしてるかなぁ……。すぐに仕事が動き出す時は、結局、仕事で実力を出せちゃえばいいじゃないですか。だから「コミュニケーションをがんばらなくちゃ」と思うのをやめていて。その仕事を120パーセントでできるように、仕事に使える質問はよくするかもしれないです。
石倉:なるほど。
寺田:例えば、会ってもう10~15分後に本番にいかなきゃいけないことは、よくあるんですけど。そういう時は、その10~15分で仲良くなるって、もう特性上、無理なんですよ。
石倉:無理です。難しい。
寺田:だから、そもそも「仲良くなってから仕事に挑もう」とは思っていなくて、まずその考えを捨てるのが第一ステップ。その後は、例えばこの場にその方が呼ばれた経緯とかなら質問しても……。前提として堀江さんなどが打ち合わせを嫌うのは、(本番より)打ち合わせのほうがおもしろい話になることが嫌だからなんです。
石倉:まぁ、そうですよね。なりがち。楽屋のほうがおもしろいのは(よくある)パターンです。
寺田:私もそれをしたくないので、なるべく本質は突かないようにするんですけど、ここに呼ばれた経緯とか周りのことは聞けるんですよね。
「スタッフさんで仲のいい方はいるんですか?」とか、本質的じゃない周りの質問をするようにします。すると、おのずと会話が生まれて、本番中にしゃべることではなくても、意外にこの辺のことって本番中に使えたりすることが多いです。
石倉:確かに。1回しゃべってるって、ちょっと大事ですよね。
寺田:そうなんです! だから周りの質問をします。本質を突いちゃうと、たぶんしゃべりかけてくれたことがうれしくて、もうペラペラしゃべってくれちゃうんですよ。
石倉:わかります、わかります。
寺田:だから、ここでは絶対、核(核心)は聞いちゃだめなんです。あくまで周りですね。例えば「インタビューって、よく受けるんですか?」とか(笑)。
石倉:(笑)。あくまで周り(の質問)で、かつ、なんかみんなに使えそう?
寺田:そう、そう! それは確かに用意してるというか、(そういう質問を)投げるようにしていますね。
採用面接の“逆質問”で聞くと決めている、たった2つの問い
石倉:それこそ初対面以外の場面でも、僕もそういう“鉄板質問”を用意していることは、すごく多くて。
寺田:それ、知りたかったんですよ!
石倉:僕は面接官をやることも多いし、転職も3回しているんで、面接も受けるじゃないですか。自分が面接を受ける時に「最後に質問はありますか?」って聞かれて、答える質問は、いつも2問です。本の中に書いてあるんですけど、ずっと同じことだけを聞いていました。
寺田:これ、大事ですよ。我々がClubhouseで決めた「3つのことに関して質問しあいましょう」の2つめが「面接」なので。
石倉:面接の最後に「何かありますか?」と言われた時にする質問って、その会社に興味があるよというアピールと、本当に知りたいから聞いているんだよということを表せたらいいじゃないですか。
でも、面接って何を聞かれるかわからないから、その時の面接を経て、質問を考えるのってすごく難しいんですよ。なので、絶対に普遍的な質問をしていて。
寺田:えぇ~、それ知りたい! 面接とか、私にとってはオーディションになっちゃうんですけど。最後の「何かありますか?」で、いい質問ができたことは1回もないです。
石倉:まぁ、オーディションと違うかもしれないんですけど……。
寺田:でも、知りたいです! 大学の面接とかあったんですけど、もうぜんぜんできなかったです。
石倉:面接で僕が聞くのは2つで、面接官の方がAさんという方だとすると「Aさんはなんでこの会社にいらっしゃるんですか?」と聞くのが1個目。絶対に答えがあることで、(自分が)その面接官の方に興味があることを示せる。
寺田:例えば、面接官が複数人いることがほとんどだと思うんですけど。
石倉:複数人いたら「みなさんは……」って言う。
寺田:それはもう、全員に問いかけるってことですね。
石倉:全員答えてくれるか、1人だけ答えてくれるかは会社によるんですけど、全員に問いかけます。
あと1つは、(面接官も)少なくとも新卒か中途でその会社に入っていらっしゃるので「入る前と入った後で、この会社のいいギャップと悪いギャップを教えてください」って。「僕が今感じている印象と、入った後、何が違うんですか?」という質問になるじゃないですか。その会社にすごく興味がありそうに見えるんですよ。
寺田:確かに。
石倉:(面接官は)絶対に答えられます。なぜなら、全員面接を受けて入っているから。
面接官が自分たちをアピールする時間は、逆質問の時だけ
寺田:でも、ギャップって、マイナスに働いていることもあるかもしれないじゃないですか。
石倉:なので「よかったギャップと悪いギャップを、両方あったら教えてください」という話をしています。
寺田:でも悪いことって言ってくれます?
石倉:言ってくれます。自分も面接官をやっているからわかるんですけど、その質問をされた時に面接官が何を思うかというと「ここでいい答えをすると、相手のモチベーションや自社への興味が上がる」と思ってるんです。
寺田:あ~、そっか!
石倉:「これはネガティブだったけど、こうなんだよ。でも楽しくやってるよ」というのを、ちゃんと答えてくれます。
寺田:そっか! 面接官も、その子たちにいい会社とかいい人って思われたいですもんね。
石倉:そうなんです。面接が1時間あったとして、質問って最後の10分、15分ぐらいじゃないですか。面接ってどっちかというと、ずっとこっち(面接官)が聞いているんですよ。逆に言うと、面接官が自分たちをアピールする時間って、候補者からの質問の時しかないんです。
だから(面接官が)アピールしやすくて全員が答えられる質問で、かつ「こっちも興味がありますよ」という、さっきの2つの質問を必ず投げると決めています。僕はそれ以外(の質問を)聞いたことがないです。
寺田:いつ頃その答えに行き着いたんですか?
石倉:最初からもう聞くことは決めておこうと思っていたんですよ。やっぱり自分は(その場で質問を決めることは)できないだろうと思ってたので。
寺田:じゃあ、何も決めずに面接に行ったことはないんですね。
石倉:質問は決めてから行こうと決めてて。何がいいかな? っていろいろ聞いたんですけど「全員に当てはまることがいいな」と思っていました。
寺田:じゃあ会社のことだろうとか。
石倉:「その人がその会社に行ってどういう仕事をしているか」って、さっきの話でいう核心の部分なので、みんなしゃべりたいからしゃべっていただけるんです。「その仕事、どうなんですか」という質問とまったく同じ質問なんです。仕事していて答えられない人、いないじゃないですか。
寺田:じゃあ私がもし面接に行ったら、ふだん初対面の時に「あ、今これは打ち合わせで聞いちゃいけないな」と思うことを聞けばいいんですね。
石倉:そう。核心だなと思う部分を、僕は「短い時間の中だから2問だけなんですけど」と言って聞いている。