スタートアップに入るべき時代に突入した

青柳直樹氏(以下、青柳):僕は竹中先生(竹中平蔵氏)の議論を思い出してあえて2人とは違う立場を取ろうと思います。スタートアップに入るべき時代に今入ってきたと思います。これ、僕自分自身によく問うてるんです。こういう場に来たり、SFCで講義させて頂いたりするときに1番よくある質問が「スタートアップに行くのがいいのか」。

まず僕自身がドイツ証券という会社に4年入っているんで、「スタートアップに行くべきだ」というのは相当自己矛盾しているんです。僕が言っても全く説得力がないんだけれどもこの僕があえて言います、時代は変わりました。佐々木紀彦さんみたいな人がスタートアップに入る時代になったんです。

佐々木大輔氏(以下、佐々木大輔):なるほど(笑)。

青柳:いや、違うんです。リスクが取りやすい時代になったんです。僕がグリーに入った時代は、4億円集めるのが本っ当に大変でした。今はお陰さまで、アベノミクスがあろうとなかろうと、ベンチャーやスタートアップ企業を支えるためのエコシステムが十分作られた。

エコシステムっていうのは、人とお金が特に重要。そこには大学とか、Google、アップル、Yahoo、グリー、コロプラとかスタートアップ企業と対をなす存在が必要なんですけども、そこが格段に違ってます。

僕はグリーに入ってお金の心配を結構しましたけれども、今のスタートアップは「これ」っていう事業の種、ストーリー、ビジョンがあればお金が集まる時代になってるんです。皆さんが貯金を減らして毎日牛丼チェーンで食べなきゃいけなかったのが昔のスタートアップですが、それをやる必要がありません。

そのリスクは投資家が取ってくれます。スタートアップに入って、自分と同じ位しか経験のない人が社長をやっていて、「優秀な同期も、優秀な先輩もいない!」というのが昔のスタートアップだったと思います。

でも今は、僕らの前の世代に楽天やYahoo!があって、グリーやDeNAやKlabさんがあって、その卒業生たちがまた会社を興して。

今その次の世代になろうとしています。今度コロプラとかを出た人がスタートアップをやるとかそういう順になっているので、はっきり言ってスタートアップを上手く活かした形を知っている人たちが会社をやっている可能性が結構高い。

だから、皆さんが起業するのか、大企業に入るのか、ということだったら最初千葉さんや僕が語ったストーリーと何も変わっていないので、本当に机を組み立てて、ATMでキャッシングをしながらAWSでサービスを作って下さい。

というものが今も残っていると思いますが、そこを越えたら事業をやっている会社には後から経営者を呼ぶとか、事業はしないけど、お金は出すって言う人は出てきてます。2013年、2014年で時代が変わりました。

日本がシリコンバレーと比べればまだ全然という時代だったのが、規模では負けてるけどそういう生態系ができたという所にいます。僕は明確な意見として、今スタートアップに入るべきだと言いたいなと思います。

ただ、どういうスタートアップに入れば良いのか、というのはいろんな選択肢があるので沢山アドバイスができますが、これは基本的な質問への回答として。あと、大企業に入れば良い教育が受けれるというのは嘘です。もう変わってると思います。

スタートアップをやるというのは、これは僕と千葉さんで人事制度の話をしましたけれども、全然使う筋肉が違います。1つの形を学ぶのは良いかもしれない、ただ、成長に対して順応することとかを最初の1年目から3年目で社会人としてのベースができる時にやるかやらないかのほうがよっぽど重要だというふうに僕は思います。

それでプロダクトの指揮してきたマリッサー・メイヤーという人はスタンフォードからGoogleに入って、今は米国Yahoo!のCEOをやられています。そういうチャンスは大企業に入ったらない、絶対ない。で、そういうことをやりたいんだったらスタートアップしかない。で、スタートアップに入ってひもじい生活をするってことももうない!

一同:(笑)。

優秀な人材がスタートアップに来る時代

青柳:あとは、もう計算されたリスクを皆さんが取るだけ。もうそういう時代に入っています。皆さんはそれだけ恵まれているんです。

佐々木大輔:その話すごくおもしろいですね。僕の学生時代もスタートアップの社員って必ずしもずばぬけて優秀な方たちとは限らない。そんな時代だったと思います。ただ今は本当に優秀な人がガンガン入るようになっている。何か転機とかあったんですか? きっかけがあったんですか?

青柳:これ、積み重ねだな、と思っていて。いろんな企業の競争の上にでき上がっていて。やっぱりグリーとDeNAとmixiとかサイバーエージェントさんとかが、わーっとブログ、SNS、ソーシャルゲームみたいな所でお互いのばし合った時期があります。そこで他の業界から人が入ってきたんです。

で、全くIT業界入らないような人たちが辞めて入ってきた。その人たちがグリーとかDeNAとかの会社を辞めて、自分で会社立ち上げたり、違う会社に入ってるっていう人の歴史の部分は積み上げていったもので、いきなり起きるものではない。

Yahoo! Japanが日本で始まって20年経つので、日本のインターネット業界の20年の歴史がそれを可能にしてると思います。

千葉功太郎氏(以下、千葉):あとグリーさんとDeNAさんのソーシャルゲームの魅力もあったと思います。他業界からの人材の流入はものすごい効果があって、スタートアップとかインターネット界隈で働けるんだということが社会的認知として定着してきたと思います。

佐々木大輔:業界として急に大きくなったのではなく、プレゼンスが高まったと。

千葉:青柳さんがおっしゃった通り、本当にこの2年で環境が変わりました。起業するにしても。で、唯一まだないなと思ったのが学生さんなんです。馬場といろいろ議論して、この業界って意外と学生さんを支援するスキームがないなと思ってその隙間を埋めようと思って始めたのが学生起業家支援なんです。

1番面倒くさいんです。すごくいい環境なんだけど、やっぱり社会常識がなかったりとか、当然組織運営経験もないし、ビジネスのこともわからない。名刺の渡し方までわかんなかったりしてそういう所からのスタートなので、いくら優秀な人でも最低限教えてあげることがいろいろあるだろう。

今のいい環境をさらに1ピースくっつけるには、私たちコロプラはおっしゃったようにエコシステムの中に入って行かなきゃいけないので。次の世代のエコシステムの所で自分が汗かけるのはそこかな、と。

日本のスタートアップ界は外との交流が狭い

佐々木大輔:今度は話を変えて、あえてスタートアップで働くデメリットとは? これは良くないというところ。

佐々木紀彦氏(以下、佐々木紀彦):デメリットは明確に、雑務が多いことですね。それは効率化できてないことの裏返しだと思う。戦略的なこととか集中できればいいんですけど、その仕組みを自分で作っていかなきゃいけないので。

前の企業だったら普通におばちゃんが、ごみ溜ってたら捨ててきてくれるんですよね。そういう細かい雑務が積み重なるとガクッと生産性が落ちてしまうことがあるので。それくらいですかね。

他はないんじゃないでしょうか。雑務のことだって私が事務処理能力が低いだけなんで努力でなんとか下げられると思います。

佐々木大輔:他にはどう思いますか?

千葉:僕自身は経営側なんで思わないんですけど「よくコロコロ変わる」って言われたことがありました。「昨日までああ言ってたのに、なんでそんな急に方針変わるんですか?」って良く言われました。でも変えないと死にます。だから変えてるんです、そのタイミングで。

確かに昨日はAと言ったけど今日はBと言ってるのは変えないとこの先ヤバいから急に変えてるんです。ただ、それをストレスだと思う人にはストレスらしい。だたそれは僕はデメリットだと思わない。

佐々木大輔:それはそうですね。Googleで1番長く働いたんですけど、その理由の1つは、コロコロ変わるから。クオーター毎で毎回目標も違えば、チームも違うんです。そういう体制でやってると飽きない。

青柳:デメリットなのかわからないですけど、付き合う人が変わると思います。自分のコミュニティが変わると思います。自分と近しいチャレンジをしている人とより付き合うようになるので、これはもう人生の選択だと思います。

やっぱり商社マンが好きな人は商社マンと付き合うと思うし、スタートアップとかそういうのかっこいいよねって言ってくれる人たちはその人たちで集まる所があるかな、というふうに思います。自分の色を自分で認識して選ぶということなのでデメリットじゃないです。人生の選択です。

佐々木紀彦:その傾向、日本強くないですか?

青柳:日本強いですよ。

佐々木紀彦:私8カ月経って、日本のスタートアップ界って外との交流が狭くないですか? 同じメンバーがぐるぐる回る傾向があるような。

青柳:日本のほうが、小さい。僕シリコンバレーに4年住んで思ったんですけど、あっちのほうがいろんな人たちがいて……。移民の国だっていうのはあると思います。なんですけども、日本のほうがまだエコシステム、つまりそこに関わっている人たちの顔ぶれが小さい。まだ少ないなって。

ただ、これチャンスなんですよ。GDPで言ったら5倍も違わない訳ですよね。ていう中で、登場人物があっちのほうが10倍以上いるので。あっちのほうが大変なんですよ。「検索」といえば会社があるし、「ソーシャル」といえば会社があるし「動画」といえば会社があるし。じゃあ俺どこやったらいいんだよ? みたいな。

そういうのに対して日本はまだホワイトスペースがあるということなので、僕はまだ利鞘があって、まだチャンスなんだなというふうに思っています。ただ閉じてる感がやだなっていう人はいるかもしれないですね。

学生の親御さんへの理解が課題

佐々木紀彦:ただなんとなく、というんじゃなくて、大企業との交流が大事だとか言うじゃないですか。今日も大企業からスタートアップに来た人たちなので。そこの交流って増えているようでまだまだなのかなって……。

我々、メディアも責任が大きくて、例えばNewsPicksとかで読者を見てると、例えばベンチャー界隈とかでは盛り上がっててそこの人たちには知ってもらえたりするんですけど。

大手町に行って財閥系の人と話すと「NewsPicksって何ですかそれ?」みたいな。存在すら知られてないっていう感じなんです。そういう所をもうちょっと融合させていくと良いのかな、と。ちょっと溝が深いなと悩んでるんですよ、私。

青柳:それは確かにありますね。これは経営者をやっていてデメリットかもしれないし、社員の人も感じるかもしれないんですけど、僕がステレオタイプなのかもしれないけど……。

例えば親御さんにちゃんと理解をしてもらうといったことに対するハードルが一応あります。新卒の学生さんにグリーとリクルートに受かりましたっていって、その子はグリーに入りたいって僕の目の前で泣くんですけど、泣いてまでリクルートに行くんです。

理由を聞くと親から言われて、と。親のせいにしてる本人はどうなのか、という話もあるんですけど(笑)。こりゃまずいなと思いました。

そうではない世の中からの温かい目がないと、今折角きているエコシステムをテイクオフさせるには、そういうものは良いものだとか、どんどん奨励すべきだとか、まずいものではないんだという認識や、見える感を出して行く必要があると思います。

千葉:親御さん問題って、圧倒的にありますよね。それは僕は業界の努力不足だと思っていて。良くはなってきたんだけれども……。

印象が悪いんだと思います。ちなみに20年前僕が就活した時に、SFCの学校推薦かなんかでNTTの内定とリクルートの内定の2つがあって親に相談した所「リクルートは不正をして賄賂を贈るような悪の権化のような会社だからNTTに行きなさい」と怒られた訳です。

一同:(笑)。

IT業界のイチローが必要

千葉:結局時代が回っているという話しで、今リクルートとグリーになってる訳じゃないですか(笑)。うちも「ゲーム?」とか言われてる訳ですよ。

佐々木大輔:うちもありました。僕SFCじゃないですけども、商学部で、大学に入った頃の1番最初の講義かな「君たち20年前の就職企業ランキングどこだったか知ってるかね?」と聞かれて、答えがカネボウだったんです。カネボウって今ありましたっけ?

千葉:もう今吸収されて……。

佐々木大輔:そう。もう20年あると変わっちゃう訳ですよね。今の時点でも就職人気ランキングは本当に20年前と関係あるのかっていうと関係なくなるっていうのが言えるとおもうんですよね。

千葉:今おいしいんですよ。スタートアップ界隈。こっからなんですよね、ここからさらに。この20年でリクルートのイメージがガラッと変わったのと同じくらい、我々の業界もきちっとこのまま努力して。

今までやってきた10年の努力は極めてまっとうな努力しかしてないと思っていて、青柳さんがおっしゃったように確実に1年ずつ組み上げてるんですね。それがあと10年、20年経つと間違いなく、IT産業というのは日本の全産業の中で普通に親が子供に就職させたくて子供を目指させるようになる。

なんだったら僕の夢ですけど、親が子供を起業させるためにプログラミングの教育をするっていう時代がこの10年以内に……。

今日LifeisTechが併催されてて僕講演で行ってきたんですけど、あそこにいる親御さんたちは、4泊5日ここに子供たちを行かせるっていう投資をしてるんですね、リスクを取って。すごいことですよね。

そういう親の意識が芽生えて、IT業界に行かせたり。つまりスターが必要なんです。IT業界のイチローみたいな。IT業界の人かっこいい! みたいなムーブメントが起きてくるにはもう10年必要だと思うんですが、そこまで努力していかないといけない。

中高生、大学生、というターゲットの獲得と、親。そこはすごい重要で、我々全体が頑張んなきゃいけないと感じてます。

佐々木大輔:逆に先取りできるチャンスということですね。では会場の方からも質問を取りたいと思います。どなたか質問いらっしゃいますか? 先輩方に質問したい方。

スタートアップで活躍する大企業出身の人材

質問者:大変興味深くお話を伺う事ができました。1つ質問なのですが、エコシステムの話をいち巡したり、アントレプレナーの方やエンジェル投資家の方が出てきたりする中で、2、3回目の起業を20、21歳の学生みたいな人と一緒に起業する30代40代の人たちがもうちょっと出てきたらおもしろいんじゃないかって思ったんですね。

近いような事例って投資家みたいな事例であるかもしれないんですけど、例えばここにプログラムのプロトタイプを作っているような腕を持った人がいて、それに未来を感じた時に一緒に株式を50%50%で組むような、そういうストーリーが今後起こるでしょうか?

千葉:ありがとうございます。そういった事は全然アリです。もしもこの会場のどなたかが、そういうチャンスがあって、僕が人生で何らかのタイミングで行けるんであれば個人的にはありです。ただいま、会社の立場があるので、当然すぐはできないですけども。

会社の代表の馬場と前職で出会ってるんですが、前職で僕は創業取締役で、一生懸命、全国で良い学生と出会おうと思って探しまわって、九州でたまたま出会った学生さんだったんです。

なので、学生エンジニアの馬場を当時のKLab社に取り込みたいなと思って、一生懸命口説いて、なんとか騙し騙し来て頂いた学生さんが起業した所に、僕はNo.2として参加させて頂いてる身です。だから僕の個人的な感覚としては全然ありです。

優秀な方がいて、エンジニアリングできたりプロダクトを作る能力があるなら、他の所を全部サポートすればいい。それでもしその人のプロダクトなどが上向くのであれば、いくらでも自分のつまらない経験くらいであれば全力で出しますよお金も含めて。そういう気持ちではいます。

青柳:最近相当増えてますね。グリーも今財務部門の執行役員って59歳の方で、2年前にパナソニックから入ってこられた方で、パナソニックで役員1歩前までやってこられた方がやって来て。やっぱり本当に素晴らしい。

日本企業の酸いも甘いも全て経験した人が会社に入ってくると格が上がる。管理部門のオペレーションの質が明らかに改善されてるんです。そんな事はあります。

最近グリー・ベンチャーズという投資部門がありまして、そこで投資しているフィンクっていう会社があるんですけど、そこのNo.2の方はみずほ銀行で常務までやられた方でして、いまは小さいベンチャーにNo.2でやられている。

基本20代の経営チームに1人みずほ銀行の常務だった人がいるっていう。こりゃすごい。ライフネット生命なんかが1番そういう例だと思いますけど、成功する事例って出てきてはいるので、そういう例が見られるようになってきたとは思います。

シリコンバレーみてると、企業経験ない起業家のほうが少ないですもん。過去に起業してて3社目みたいな人の方が多いと感じがします。