大企業の社員を期間限定でレンタルする制度

質問者:スタートアップと大企業というのが共存するような働き方というのは今後生まれてくるのか、どのように考えていますか?

今回の話でスタートアップと大企業が2項対立的に語られているような気がして、そこが統合されたような働き方というのは生まれてくるのだろうかと思いました。

つまり働き方として、会社に所属するとなると思うのですが、自分の余った時間をスタートアップで働くだったり、スタートアップで働く中で得た経験を、大企業の新規事業を使っていくとか。

そういったことが生まれてくるのか疑問に思ったのですが、どういったお考えをお持ちでしょうか。

佐々木紀彦氏(以下、佐々木紀彦):昔の企業の出向(しゅっこう)ってそういう点ありましたよね。丁度4月1日からレンタル社員制度というのを始めようと思っていて。

具体的にいうと、6カ月契約で大企業から期間限定で留学みたいな形で来てもらう。そういうイメージですかね?

そういうのって確かに私増えたら良いなって思っていて、大企業って待遇が良すぎるのでいきなり転職してくるのは怖いと思うんですよ。

けれどもその分給料は大企業が払わずに一部払うみたいな形で、サッカーじゃないですけどレンタル制度が広まれば良いんじゃないかなと思ってるんです。

大企業でくすぶってる人っていっぱいいるじゃないですか。でも家庭の事情とかローンの事情とかで転職できない人っていっぱいいると思うんですよね。

そういう人たちをうまくこっちに来させる制度があれば良いなと思ったんです。

転職が多い人は受け入れたくない

佐々木大輔氏(以下、佐々木大輔):おもしろいですね。他には?

青柳直樹氏(以下、青柳):結構働き方の方向はいろいろ認められていくのかなと思っています。ぼくらもKDDIさんとお互い出向で人のやり取りをしていて、非常に成果が出ています。

大企業をどうやって動かすか。僕らからすると「事業パートナー」なので、そういう意味では行って戻ってきた社員が同業とか市場育成みたいな所にいて活躍してくれる面もあるので、そこの流動性を高めていく取り組みは増えるのかなと思っています。

後はグリーも事業内容が多様化していく中でグループ会社経営のようになっていく部分があって、所によっては他の企業さんとジョイントベンチャーとか同業でやる。

というのが事業の中で出てきます。そういった機会は昔に比べて出てきていると思います。

ただ一つだけチャレンジは、スピード感とか、予算を決済して1年やろうっていう企業と違って毎回変動があるので、お互いにベースの理解がないと難しいと思います。

出向とかは良いんですけど、ポンポン転職する人って大企業側もスタートアップ側も、受け入れたくない感じだったりするのでそうならない様にはしたほうが良いと思います。

千葉功太郎氏(以下、千葉):最後付け加えで、1年の間で空いた時間を両方で活用できるっていうのは、それはさすがに無理かなと思います。

いわゆる兼務だと思いますが、普通に副業違反なので2つの会社を兼務するのは物理的には無理だろうと思うのと、あと皆さんもしかしたらナメてるかもしれないけど、どちらに所属しても忙しいです。

なので空いた時間なんて普通できません。空いた時間ができてる人は、多分仕事できない人だと思うんで、その時点で駄目ですね。普通に頑張ってれば時間なんて空く訳がないと思ったほうが良いです。

佐々木大輔:実際問題スタートアップの立ち上げの頃って、大企業で働いてて、力有り余ってる人に手伝ってもらうケースはあるにはあるんですけど。

僕たちの場合では、ちょっと事業計画を作りたいから、コンサル経験ある人に「手伝ってよ」ってやってもらう。ただ最終的にそのまま手伝ってもらいながら一緒に働いてよって言う。

青柳:これはfreeeという会社の採用手法についてです。

佐々木大輔:(笑)。ということはあります。では次の方どうぞ。

マーケティングの可能性は広がっていく

質問者:質問は、皆さんIT産業にいながら、そういった産業においてマーケティングを専門とする人の価値っていうのが今後どうなっていくと思われますか?

私は経営学部で、マーケティングを丸4年間勉強してきて、4日後からIT企業で社畜になるんですけど(笑)。

その中でこの産業ってプログラマーやデザイナーなど作れる人が一番強いみたいな傾向があるかなと思っていて。

一方で僕みたいな人がマーケティングを専門にしていこう、と自分の中で決めていたとしても「そういうのは専門職で、うちではない」とか言われてしまうケースもあるかなと思って。

今後IT産業がいろんな意味で成熟していく中で、必要な能力や職種が分化していくと思うんですけど、そこに果たしてマーケティングを専門にする人はどれだけ価値があるのかなっていうのと、もしそういう人が社内にいるならどういうふうに機能しているのか。

最近では文系でもプログラミングを勉強していると思いますが、そういった技術を身につけるべきなのか。

シリコンバレーで働いていた青柳さんの視点も踏まえてお答え頂ければと思います。

青柳:ようこそこちらの世界へ。ということで、まずすばらしい! これからマーケティングの可能性はすごく広がるのですごく良いベットだと思います。

とくにこの「Internet is eating world」というか、いままでデジタルの中で簡潔していたインターネットというものが、Uberとかがそうですけど実際ソリューションがあって、現実に走ってる車を利用するじゃないですか。

そういうことがこれから10年の間にどんどん増えて行きます。

それから、いわゆるマーケティングもデジタルマーケティングに限らずあらゆるマーケティングにユーザー接点、顧客リレーション、カスタマーエクスピリエンスを作っていくことが必要になってきます。

マーケティングをどこまでとらえるかにもよりますけど、僕らにとって親しみがあるITとそこと遠い世界をちゃんと繋げて「もっとITで世の中を便利にしていく」という所を実現していく中で仕事は増えるはずです。

それは当然エンジニアとかプロダクト作る人たちの仕事もだけど、マーケティングの仕事はもっともっと増えていくので、自分の中で何を強みにして未来を描くと良いかお考えになると良いと思います。

アメリカの事例でいくと、元々GoogleとかFacebook等から来た人たちがソーシャルゲームやアプリを経て今Uberみたいなスタートアップに転職するっていうパターンですね。

マーケティング職っていうのも一番Googleが多いんですよ。広告の会社ですから。シリコンバレーの中で僕が見てる中でも動きというのはあって、ちゃんと担保されています。

ただどうやって価値を上げるのかというと、エンジニアリング、プログラミングみたいな所にまでいくというのもあるのですが、最低限、マーケティングとデータは密接に繋がっているし、そこの所で経営判断と直結したマーケティングとか、お客様接点からお客様満足度ひいては企業価値になるんですけども。

そういった所まで考えられる人材になるかどうか。それが価値になると思います。

多分この4年間で学んだことっていうのは何かのベースでしかなくて、そこから自分がどう描いていくかに寄って変わっていくと思います。

非常に輝かしい未来が待っていると思うので頑張って下さい。

日本にはマーケティングのプロがいない

佐々木紀彦:マーケティングはこれからの仕事に一番有望な仕事の一つだと思います。去年出た本の中で、私のベスト3に入る本でタイラー・コーエンという人が書いた『大格差』という本があるんですけれども。

この人が強調しているこれからの大事な仕事って、経営(マネジメント)と、マーケティングと、あとよくステムって言われる、Science and Technology and Mathで、マーケティングがこの3つの中に入ってるんですよ。

私も特に日本でその傾向が強いのではないかと思っていて、二つ理由があるんですけど、一つ目はそもそもマーケティングのプロと呼ばれる人間が日本にはいない。

私もCMOの採用活動とかいろいろやってますけど、電通とかにいる人たちがマーケティングのプロかっていうとそうではないんですよ。

かといって一般の企業にいる人がマーケティングのプロかっていうとそうでもなくて……。日本ってマーケティングがプロフェッショナルとして成り立っていない国なので、大きい可能性がある。そして一方、IT業界ということでまだイメージが良くないというお話されてたじゃないですか。

どうやったらコンバージョンが上がるかとか数字を細かく見る人はいると思うんですよ。

ただ全体の会社のブランディングとか、数字を離れたブランディングまでできる人は本当に少ないなと思っていて。

それが必要だと思っているからアップルとかが、アパレルブランドの人をどんどん引き抜いてるじゃないですか。

それはもうテクノロジーだけでなくブランディングでしか差別化できなくなってるという認識があるからだと思います。だからマーケティングは本物のプロになれば一番有望な仕事だと思いますね。

右脳と左脳、両方が使えるマーケターは強い

千葉:ということでまとめると。僕言いたかったんですけど(笑)。データを見る力、あとクリエイティブ、この二つの能力を身につけたマーケターはすごい強い。うちでもすごい活躍している人たちなので。

数字とクリエイティブ、ブランドも含めてトータルで活躍できる、単純に右脳と左脳両方ですね。頑張って頂けると。そしてこの業界を盛り上げて下さい。

佐々木大輔:一つだけ付け加えると、僕がGoogleのマーケティングチームに当時Googleのマーケティングとして、Tシャツを作るチームとして社内から呼び出されたんですよ。

ほんとに社内のおまけというかノベルティみたいなものを作る。様はそのくらい需要が低いと社内では認識されてたのね。

それが今変わっていて、日本でもテレビCMをやったり積極的なマーケティング活動していて、当時と比べても一番人数の増えたのはマーケティングなんじゃないかと思います。それが過去7年くらいに起こったんです。

これ何の反省かっていうと、例えばGメールって昔、出した時に置いときゃ誰かつかってくれるよ、みたいな出し方で出したんですけど、すごく技術的にGメールが優位な時に上手く広められなかったんですね。

その結果、他のヤフーメールとかHotmailとか追いついちゃった。これってすごくもったいないんですよね。

テクノロジーの優位性がある期間って限られてるので、その間にどれだけ広められるか。それって、これからとっても重要になってくると思います。過去の反省からもきていることですね。では、次の質問。

仕事の組み合わせで新たな価値が生まれる

質問者:僕もタイラー・コーエンの『大格差』を読んだんですがその時プロフェッショナルになるかゼネラリストになるかどっちになるか迷って。

今僕はプログラミングも経営もできるビジネスマンになろうとゼネラリストを選んだのですが、どちらのほうが価値が出てくると考えますか?

佐々木紀彦:これは好き嫌いなんじゃないでしょうか。二つ興味があってどうしてもやりたいなら、その組み合わせがさらに価値を生むことは確実にあると思います。

もしくはこれ一つやりたいというのがあればそれに集中した方が良いですし。自分の特性次第だと思います。

またドワンゴの川上さんの話なんですけど、今度ネット時代の編集者を募集するということで、編集者なのにプログラミングを入れるんです。

なんでかっていうと、編集者の中でプログラミングをやったことある人なんて会ったことないんですよ私も。

なので、プログラミングをやらせるだけで編集者としての価値が劇的に変わるからやらせるんです。

そういうふうに新しい仕事をつくると既存の仕事でも一気に価値が上がる。そういう組み合わせがある所は、さや取りを狙って二つとか三つとか組み合わせた方が良いと思います。

自分が一つのことで突き進んで、これで一流になれると思うなら良いと思うんです。今何が好きなんですか?

質問者:今好きなのは比較的マーケティングとかです。

佐々木紀彦:比較的ってつくということは、そこまで好きじゃないのかも知れませんね。組み合わせ型の方が良いんじゃないですか?

旧来のメディアは年功序列

質問者:佐々木佐々木紀彦さんにお聞きしたいのですが、人事評価の話題で、東洋経済では人事評価に疑問点があり移籍されたのかなと思って。昔の企業と今の企業で違う所を教えて頂けますか。

佐々木紀彦:メディア業界は特殊な所なので。メディア業界は基本的に年功序列なんですよ。

逆転人事とかほとんどない所なので、そこに比べても圧倒的にフェアに、半年毎に360度評価とかで透明性があって降格・昇進が決まる形で、そこの差が大きかったってことでしょうね。

メディアが一番遅れてるので。他の日本の大企業の人はさすがにもっと進んでるので、スタートアップとの差はそこまでないと思うんですが、どうですかね?

青柳:年功序列で働いたことがないので想像がつかないですね……(笑)。

千葉:リクルートも年功序列じゃないです。

佐々木大輔:博報堂は年功序列でした。一番ショックだったのは、ミーティングの時に「じゃあ、それぞれこんなアクションをするぞ」と分担をするんです。

その時僕はなんでもやりたい子だったので「あ、僕これもやります、あれもやります!」って言ったら「佐々木君何年目だっけ? あ、2年目か。じゃあこれだけやってくれればいいよ」と言われてカチンと来て。

なんでここで年齢差別されなきゃいけないんだと思って、すぐリクナビに登録したの覚えてます。

(会場笑)

佐々木大輔:最後もう1問だけ質問に答えて、最後にパネルの皆様からひと言づつ頂きたいと思います。

質問者:年は違えど同じ時代に生きてる皆さんは5年後どんな未来を描いてるのでしょうか?

青柳:5年後やっぱりオリンピックだよね。オリンピックが日本に来た時に、1964年の東京オリンピックと僕らがどうやって違って見せられるかなっていうのをおもしろく見ています。

エンターテインメント、娯楽の世界もそうだし、スポーツの世界でもそう、それらに対して何かアカデミックことをやるかもしれません。

ITはトランスポーテーションの所も含めて「違うもの」と印象づけられればすごくおもしろい機会になるなと思っています。

そうすると2020年以降に東京とか富士山に来てくれるかわからないですけれども、日本にどんどんいろんな人が来て、日本自体がおもしろくなると思ってます。

そういう変革点が5年後にあると思って、それに対して自分が何ができるかなとか、何が起きるかなって考えてみると、個人的にはおもしろいんじゃないかと思います。

法律を変えないとないですけど、車を呼べるだけじゃなくて、無人の車が走ってるようなことはテクノロジー的には5年後に実現可能だと思います。

で、ドローンがSFじゃないですけどヒュンヒュン走ってるみたいな、そのくらいのことが可能だって考えると、5年後の未来はまだ時間もあるし、いろいろな組み合わせや発想だけでさまざまなことを実現できる可能性があるんじゃないかなと思います。

学生はスタートアップのインターンを活用すべし

佐々木大輔:といった所で、最後に「スタートアップで働くには」のメッセージを。

佐々木紀彦:今ってインターンがすごく充実してるので、学生の時からスタートアップで働けます。

その機会を活かして欲しいなと思います。実は最近我々Uber特集をやったんですけど、そこのリーダー格の人が実はSFCの今の1年生で。19歳の子がその記事をいろいろ書いてくれて、今講演依頼がきてるんですよ。

私19歳の時何してたかな? と思うと関心して。学生の時でもスタートアップをこれだけ経験できる機会は私たちの頃なかったです。

今いくらでもあるので是非どんどんチャレンジして頂けたらと思います。

千葉:とりあえずここの会場にいる方は是非皆インターネット業界に来て下さい! 自分で起業するも良し、インターン、本当に小さい所に入るも、メジャーも良し。

とりあえず来て下さい。オールドエコノミーな所へ行っちゃうのは寂しいです。折角今日出会ってるのに。

後、今日飲み会がありますよね。行ったほうが良いです。チャンスです。わざわざ本来土日休みの日に来て、飲み会参加しようと思ってるんです。こういうチャンスはつかみに行かないともったいないです。

普段平日に青柳さんとかここにいる皆さんの時間をちょっとでも取ろうと思ったら多分無理です。この飲み会の時にいろいろ話せるチャンスってあると思うので。青柳さん帰れなくなった? 大丈夫?

青柳:今グリーの社員の人たちが何人かいまして、苦笑してました(笑)。

千葉:そうなんです、普通に、社員がミーティング入れられなくて困ってるんです。僕とかも。

このチャンスつかみ取って、今僭越にもこうして壇上からお話していますけど、直接膝付き合わせて話を引き出して、自分なりにもっと確かめたいことを掴んだほうが良いと思います。なので飲み会来て下さい。

スタートアップは社長との距離が近い

佐々木大輔:すごいおもしろいポイントで、僕、博報堂で2年働いてましたけど、社長って顔も知らないし、話も聞いたことなかった。やっぱりそのくらいすごい遠い存在で。

でもこれって大事な問題じゃないですか。社長が何考えてるのかとか、どういう人なのかとか。だからやっぱり近しいっていうのはスタートアップのメリットだと思います。

青柳:それはそうですね。やっぱりそういう人たちが見える距離感で、つまり人格わかった上で働けるっていうのは、スタートアップの醍醐味じゃないかと思います。

トップの顔が見えるっていうのは大企業とスタートアップの二項対立で語られますけども、それはスタートアップの特権だと思うので是非活かして欲しいと思います。

僕のメッセージはシンプルでして、途中で言った「今まさに、新卒でスタートアップに入る時代が来ています」ということを繰り返しお伝えして終わりにしたいと思います。

グリーでゲーム部門を統括している荒木というのがこちらで登壇もさせていただいているんですけども、かれはSFCで大学ベンチャーをやっていて、そこからその会社がある会社に買収されて、そこもベンチャーだったんですけど。

そこから、営業でグリーに来たら、そのまま「その話はいいからグリーの話をしようよ」となって入ったんですね(笑)。

もう10年経って、サンフランシスコにも3年くらい赴任して。今やグリーの取締役までやられてる方がいます。

さっきマリッサの話もありましたけど、もうそういう時代が来ていて、10年後に更に時代が良くなるんですけど、その時に動いても負けなんですよ。

今そこで、あなたの隣にいる人はそっちに行くかもしれない。

波が来るっていう時に乗ったその人と10年後に会ったら、差がついてますんで。波来てから行ってもしょうがないんです。

10年前に比べたら今相当良い時代になってるから、あと10年経ったらもっと良い時代になるに決まってるんですよ。

だから、今動こう。今スタートアップへ行こう。本当にそれが僕のメッセージです。

佐々木大輔:ということで、皆さんじゃあ勝ち組になりましょうということでよろしいでしょうか?(笑)

一同:(笑)。

佐々木大輔:ということでこのセッション閉めたいと思います。皆さんどうもありがとうございました。