「創造」は才能ではなく技術と考えてみると、可能性が広がる

司会者:このセッションは、お二人の対談をベースにしつつ、今日会場に来てくださっているみなさん、それからオンラインで参加してくださっているみなさんからきている質問も交えてお話しできたらなと思っています。よろしくお願い致します。

じゃあ、山崎さんから(前半の太刀川氏の講演についての)感想をすでにスライド作っていただいているので、まずはそちらからお願いできますか。

山崎亮氏(以下、山崎):本(『進化思考』)を読んだ感想は、また別にめちゃくちゃ長い感想があります。僕は感想をPowerPointで書き込んじゃう癖があるんですけど、それは何ページになっただろう。だって、太刀川さんの本がめっちゃ長いから(笑)。いやいや、いいんですよ。めっちゃ充実していたので、それに基づく感想ファイルもかなり充実しています。

パソコンを持ってきて思ったんですけど、このパソコンも進化思考だなと思って。ノートパソコンを極端に軽くしてみるとこうなるという。

(太刀川氏にパソコンを持たせる)

意外でしょ、この軽さ(笑)。ヤバいよね。いろんなものが進化思考に見えてくるなと思いましたね。あの本を読むと「これもあれかい……」と見えてきたのは、新しい発見だったなと思います。

やはり創造は才能なのか技術なのかというところの答えはないんですけど、「技術じゃないか?」と思ってみたらどうだろうという本の始まり方は、今日のお話も聞いていて、やはり清々しいというか、我々が可能性を感じられる話だなと思いましたね。

神戸でこれから事業を起こそうと思っている方々、会社を起こそうと思っている方々が「でも、クリエイティブとかちょっと無理だよね」と思っているとすれば、「いや、それは技術かもよ」という感じでお伝えしたいですね。

自転車の話があったらか自転車と書きましたが、「自転車に乗れる人って尊敬するわ。私、才能がないから自転車には乗れない」とか言わないでほしいということですよね。才能じゃないんで。自転車は技術で乗れるようになりますからという本だったんだろうし、主張なんだろうなと感じています。

太刀川英輔(以下、太刀川):んだんだ。

山崎:んだんだ(笑)。

アイデアを出せる“バカ”を作るには、美術教育が必要になる

山崎:あとは変異と適応、バカと秀才。教育で避けられてきたバカをどう量産するかというところ。ここ、避けられてきちゃっているよね。でも、「変異」ってすごく大事なので、「変異」という部分がないと、バカがないと、適応してやろうと思ったって適応の材料がないことになっちゃいますから。

その意味でバカをどう作っていくのかなんですけど。これは僕だけが言っているわけじゃないですけど、やはり美術教育って大事じゃね? という話を思い出しましたね。

他の科目は他の人と同じ答えを出すことで点数を上げられるわけですよね。数学も物理も社会も理科も、なにであったとしても他の人と同じ答えであると点数が上がるんですけど、美術だけが、他の人と違うということで点数が高くなっていく教科で、この教科をないがしろにしてきたのではないかと。

授業時間の中で、主要5科目を重視してきた結果、変異的なアイデアを出せる人をものすごく少なくする教育を行ってきたかもしれない。

変異が少ないんじゃ、玉入れで玉を投げる人が少なくなって、玉が少なくなっちゃうわけですから、そのあと精査していこうと思ったって、ものすごい少ないものの中から精査して、いいアイデアになるの? というのは、おっしゃるとおりですね。

太刀川:んだんだ。

山崎:んだんだ。

バカなことをいっぱい言っても、メンバーが良いアイデアを選び取ってくれる

山崎:「バカのピークは19歳」っておもしろいですね。もうここ2人は中に永遠の19歳を入れていると思うんですよ。

太刀川:エターナル、エターナル(笑)。

山崎:だいたい、こんな50歳近くにもなって、こんな格好をしてくるやつがいますか? 人前でしゃべるのに、これはどう考えても派手すぎるでしょう。

太刀川:僕のほうがだいぶしっかりしていますね。

山崎:しっかりしてるわー。

太刀川:靴下だけオマージュが入っていますけど。

山崎:俺がオマージュしたんだよ(笑)。太刀川さんだったら赤だろうなと思って。でも、常識ないですよ。常識ないこんな人間だけど、周りに僕を支えてくれるスタッフという25人の秀才がいてくれるので、僕はバカなことをいっぱい言っても、「山崎さん、ほとんど意味ないけど、それだけは意味があると思います」って良いアイデアを選び取ってくれるから。

太刀川:なるほど!

山崎:それでとりあえずコミュニティデザイン事務所って成り立っているんですよ。僕は今日の話を聞いて、本当に神戸市がよかったなと思いました。僕は隣の芦屋市にいますが、イベント冒頭にあった神戸市の方の挨拶を聞いていて、ああ、神戸市って素晴らしいなと(笑)。

(一同笑)

山崎:事務所移転しようかなと思いました(笑)。あと、今は下手くそな標準語でしゃべっていますが、僕は西宮と芦屋に住んでいるというずっと関西の人間ですので、その土地勘はなんとなく理解しているつもりでいます。

部下に問いたい「事前に玉はたくさん投げてきたのか?」

山崎:あと、(どんな「変異」が適応するかわからないという例えの)玉入れの話で思ったんですけどね。暗闇で玉入れをやっている。玉を外したら上司に怒られる。そんなの投げる気がしないじゃないかという。これはそのとおりです。そのとおりなんだけど、もう1つ、僕が上司として部下に「なんだよ」と思うのは、「お前、事前に玉はたくさん投げてきたのか」と問いたい時があります。

太刀川:ああ、それはある! 

山崎:ねえ! 「この会議でこのテーマでやる」と言って、貴重な時間を割いてうちのスタッフが集まってきているのに、入ってくる1人が仮想玉入れもしていない。要するに、「変異」をやってないし、「適応」も自分の中でやってないのに、この場に座って「みなさん、適応してください」みたいな若手がいる。

「いやお前、1回変異と適応をやってからここ来い。適応したと自分で思うやつを存分に投げてこい。それはいくら外れても僕はいいよ。いいんだけど、玉入れをやっていないのにここに来て、時間の無駄じゃね?」みたいなことはあるかもしれないですね。

太刀川:本当にそうですね。

山崎:そんな気がしました。

これから事業を起こす人は、「適応」できているかのチェックが重要

山崎:まだ自己紹介してないので、本当に申し訳ないです。自己紹介すると、コミュニティデザインという、地域の方々に集まっていただいて、みんなで意見を出しながら公共的なことについて決めていく。これをサポートする仕事をしています。

ふだんからみなさんの話を聞く仕事をしているんですが、そんな仕事を16年前にやり始める時に、まさに「適応」できるかなと思っていろいろと考えていたことが、あの本の中にあったなと思いますから。

先輩ヅラするつもりはぜんぜんないですけど、これから事業を起こそうと思う人は、あの本の特に後半部分ですよ。「適応」のところには、自分の事業がうまくいくかどうかをチェックするための優れたワークシートがいっぱい入っているなと思いました。

ここに「解剖」というんだったら、例えば具体的に僕は技術として何を持っているのか。アイスブレイクだったりチームビルディングだったり、チームビルディングの中にはシークレットフレンドを使うのか、トラストフォールを使うのか、あるいはリーダーズインテグレーションを使うのか。僕らの仕事も、こういう細かな要素がいっぱい入っているわけですよ。

しっかり「解剖」してみて、コミュニティデザインというものの技術体系とか、うまくいっているのかどうかってチェックしなきゃいけないし、それから「系統」だとすると、僕はやはりデザインの歴史が好きなので、デザインの歴史の中で自分たちはこれからどこに位置づいているのかとか、あまりに離れ過ぎていないかどうか、需要がなくなっちゃっていないかどうかをチェックすることをやったり。

「適応」を考えてから、事業をドライブさせる

山崎:「生態」は、隣接の業界との関係性ですね。建築業界出身ですけど、建築の業界、他のデザイン業界、あるいは福祉とか医療とか教育業界は、今なにを目指していて、「そうか、教育もアクティブラーニングが大事なんだって? OK、行けるかも」とか。「福祉? 地域包括ケア? ああ、だったら行けるかも」とかってチェックしています。自分の業界だけではなくて、隣接業界との生態的関係をチェックしてからstudio-Lという自分の事務所を作っていたなと。

やべぇ。熱が入ると(太刀川さんじゃなくて)会場のほうを向いていることがわかってきた。

(会場笑)

山崎:(2メートル以上離れているけど、)ごめんなさいね。前列のお2人。

それから「予測」ですね。「人口減少社会」とか、「参加型というのはこれからすごく大事になってくる」とか、「それぞれがどんどん主体性をなくして、お金払ってサービス受け取るようになっているけど、本当それでいいのか?」とか。

「つながり」とか「ローカル」とか、これからのキーワードになりそうかなと予測をした中で、コミュニティデザインなんていうけったいな仕事がいけるのかどうか、チェックしていました。

要するに「適応」って、チェックしているようなもんだと思います。たぶんそういうこと考えてから事業をドライブさせていくのが重要になると思います。結論としては、みなさん帰る時は(書籍代の)3,300円を払ったほうが絶対得ということです。

太刀川:んだんだ。

山崎:(笑)。絶対いいと思います。

太刀川:んだんだ。

実際に「系統図」を作ってみたら…

山崎:それから僕も太刀川さんの本を読んで「改めてやってみた」と書いたんですよ。僕、明後日から展覧会があって。

太刀川:ええ! おめでとうございます。

山崎:たまたま大阪の小さな……小さなという叱られるな。スタンダードブックストアという本屋さんに「ちょっと展覧会やって」と言われて、「あ、やります。やります」と言っていたんですけど、この本を読んでいたら、ワークをやりたくなっちゃって。

「系統」のワークをやりまして。今回の展覧会は、コミュニティデザインの展覧会じゃないんですよ。僕は趣味で動物の陶芸を作っていて、それの展覧会をやってくれと。

松井利夫さんという陶芸家と知り合って、それからルイジアナ州のルイジアナ美術館に行ったら、南米で5世紀とか12世紀に作られた動物のようなものに出会っちゃって。

これが欲しくてしょうがなくなっちゃって、さすがに美術館からパクってくるのは難しいから、自分で作るしかないなと思って作り始めたんですよ。陶芸家のアトリエに行って、しょっちゅう作っていたんです。

そしたらどんどん変異していって、パスタを入れる皿とかになっちゃったり。

太刀川:かわいい!

山崎:(笑)。ありがとうございます。これは本業じゃない展覧会なんですけど、本を読んでいて、これはひょっとしたら、進化図が描けるかもと思ったんですよ。「俺、そう言えば展覧会やってくれと言われているよな」と。

太刀川:これで系統図を作ったら。

山崎:めっちゃ作ったよ!

太刀川:作ってるよー! すげー! 進化してる!

山崎:細かくて見えないよ。

太刀川:すごい。

山崎:でも、そのとおりでした。2016年ぐらいから2017年、2018年、2019年……って作る数が増えてきたんですけど、やはり分かれているんですよ。

太刀川:めっちゃいいですね(笑)。

山崎:なにかをきっかけにして分かれてた。水玉模様が発生すると、ずっと水玉模様ばかりにいくんですよ。

太刀川:(笑)

山崎:縦縞が発生すると縦縞ばかりいくんです。なにかとなにかが融合するんです。やってみると本当にわかります。自分の思考がどう変遷していったのかがすごくわかって楽しかった。ということで、展覧会は明後日からですね。

(一同笑)

山崎:宣伝しています。

太刀川:見事だな。

山崎「まぼろしの動物園」という展示会を3週間、大阪・天王寺でやりますので、もしよかったら。