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「進化思考」でつくる、変化の時代を生き残る事業(全6記事)

創造性を教えずに奪う、「超バカ」を認めない教育の問題 生物の進化とイノベーションに共通する「2つの知」

「『進化思考』でつくる、変化の時代を生き残る事業」をテーマに行われた、神戸市主催のイノベーション創出プログラム「プロジェクト・エングローブ」のキックオフイベントの模様をお届けします。「進化思考」とは、生物の進化から創造的なアイデアを生むルールを見出す思考法。提唱者の太刀川英輔氏は、40億年にわたる生態の変化の中に、持続可能なビジネスを考えるヒントが詰まっていると主張します。本記事では、進化が起きる仕組みと創造性の共通点や、探求の4つの方法、変異の9つのパターンについて語られました。

生物の「進化」は、「変異」と「適応」を繰り返して起きている

太刀川英輔氏(以下、太刀川):(『進化思考』には)どんなことが書いてあるのかと、ひょっとしたらこの話を聞くだけで「読まなくてもわかった」という人も出てくるかもしれないので、だいたいの構造を話していきますと、これは「進化」の話なんですよ。

「進化」って、「変異」と「適応」を繰り返して起こる現象なんです。「変異」と「適応」とはどういうことかというと、「変異」は卵から別のものが生まれてくるという仕組みと、「適応」はそれがなんらかの理由によって自然に選び取られるという仕組みです。

これが何百万年もかけていくと、変異の側では首が長かったり、足が速かったり、手がなかったり、ランダムなエラーが生まれてくるなっていく。

でも適応の側は、いろんな理由で自然に選び取られていくださいから、例えば足が遅いと不利だとなると足が速いやつが残りがちで。次の世代、その次の世代というように何度も何度もやっていくと、だんだん足が速いやつが生き残っていったり、首が長いやつが生き残っていったり、手がないやつが生き残ったり、傾向にあった種が分化します。

それをだんだん繰り返すと、最初は1つだった種がだんだん偶然で分かれていくんですよね。これが「自然選択説」という、160年間否定されなかった、ほぼ証明されたと言っていい生物の進化の構造です。これをダーウィンが言ったから、未だに「すごいね」と言われているわけなんですけど。

「創造性」も選択肢と判断の組み合わせでできている

じゃあ例えば「イノベーションを起こす」つまり創造性も、これと同じ構造だとしましょう。これは仮定ですが、デザインや創造性もこれに同じ構造だとします。

そうすると、考えてみれば僕らはけっこうやっているんですよ。どんな感じで? というと、こんな感じでやっています。

「クレイジーなことをやる」想像と、その「判断」をしている。「スカートをめくっては」「いけない」のような。でもある環境ではOKみたいな(笑)。どういう環境かわかんないけど、ある環境ではOK、ある環境では駄目みたいに判断をしていて。例えば赤信号は渡ってはいけない、でも人が見ていないところだと渡ってしまうかもしれないという感じです。

そんなふうに僕らもエラーと判断の組み合わせで創造することはできる。自分がふだん取らないようないろんな選択肢を創造することはできるけど、それをやるかやらないかの判断をしている。

脳科学的に見ても、脳の中では別のことを考えているいくつもの場所があって、脳は葛藤して決断をしているとを証明した人たちがいるんですけど。ロジャー・スペリーとかマイケル・S・ガザニガなんかがそうです。右脳左脳の理屈とは、そこから出てきているんです。

とにかく、こういう「2つの知」があるということを前提にしてみましょう。生物の進化も、2つのまったく違う現象が往復して起こっていることだけど、実は僕らの頭の中でもこういう現象が起こっている。

「バカ側の変異的知能」が認められない教育

要するに、選択から漏れるかもしれないけど逸脱するようなアイデアもあるバカ側の変異的知能と、それをちゃんと選択する適応的知能の2つの知があった場合に、1個問題だと思うのは、「バカ側の変異的知能」が教育だと一切認められてこなかったことなんです。

「今とは違うことをやりましょう」とか、「バカになりましょう」みたいなことは、だめとなっていたんです。でも、もしこの構造が進化と同じように、なにか新しいことを生み出すためにエラーが必須のものだったら。僕らは全員、必須のものをまったく教えていないばかりか、ずっと奪い続けてきたとも言えるかもしれない。

でもさっき出てきた偉い人(スティーブ・ジョブス)は「ステイハングリー、ステイフーリッシュだ」みたいに、「バカになれ」と言うわけですよね。仏語でも「大愚」という言葉があったりします。要するに超バカは大事ということですよね。

そういうバカになることが大事だといろんな人が言うんだけど、でも世の中は変異的なバカを認めていないわけです。でも、逆に一方でそれをちゃんと適応的に選べる人間を育ててますかというと、意外とそうでもない。僕は髪がツーブロックなんですけど、学校によっては未だにツーブロック禁止というところもあるわけじゃないですか。

それがバカにできなくて。教育って今ある適応のルールを押しつけてきているわけなんだけど、「なんでツーブロック駄目なんですか?」と僕が言うと、「口答えするな」ってなるわけですよね。

つまり、「なぜそのルールじゃないといけないのか」をちゃんと疑って時代に合わせて更新できる人材を育てているかというと、そうではないということです。答えがある問題ばかり教えているからね。バカになることと判断をすることの両方ともができていないというのが、今の教育かもしれないですよね。

人間の創造性を上げるための2つの道

ちなみにこうした2つの知性があることを心理学で語ったレイモンド・キャッテルという人がいるんですけど、その話は長いので割愛しますが……。割愛しなくてもいいぐらいおもしろいから話そうかな。

すごくざっくり言うと、バカ側の知能のピークは19歳なんだけど、そのピークと犯罪発生率のピークが一致するんです。犯罪は起こしちゃ困るけど、それらは創造の源泉でもあるという話なんです。

ちなみに、ちゃんと選択できる知能はだんだんと上がり続けます。知能はずっと変わらないように見えるけど、年を取っていくと変わりにくくなるというのは、確かに心理学的にもあるよねという。

僕の挑戦は、「年を取ってもクレイジーなチャレンジをする人を増やす」ことと、逆に「若い頃からちゃんとした判断軸で選択できる人を増やす」こと。この2つができれば、人間の創造性は上げられるということですね(笑)。

図にしてみるとこんな感じ。変異側にはチャレンジがいっぱいある。たくさんの変な妄想を、数打つということですね。それを適応側でいっぱいセレクトする。セレクトして、だんだんある状況に絞られていくと、磨かれて高みにまで登れるかもしれません。

だけど、たまにスパイラルから抜けて出て、適応側で別のスパイラルを引き継いでいくやつもいます。図の下の方は、遊びっぽいんですよね。「たくさん変なことをしましょう」「それがなぜなのかを興味を持って知ってみましょう」という。

ただ、何周も何周もおもしろがって図の上の方に上がっていくと、人が行かないところまでおもしろがってしまう。そのうちそれがある平均を突き破った時に、「プロ」と呼ばれたりするのかもしれないです。

新規事業を作りたいなら「クレイジーなチャレンジ」を拒んではいけない

でも、半ばこの今の適応のルールを押しつける「適応圧」を自分で観察せずに、世の中から与えられたものでやるほうが職能的には楽ちんだから、「なんとなくこれをやっておけばいいよ」ということはある。でも「本当にそうですか?」と疑う人のほうが、やはり創造的かもしれないし、さらに高い山に登るかもしれないですよね。

この本に「暗闇で玉入れをする」という例え話が出てきます。暗闇で玉入れをしているとして、手元に懐中電灯があって、玉は床中に落ちていてて、その籠に1個玉が入ったら1万円貰えるとするじゃないですか。そうすると、みんなたぶんいっぱい投げるでしょう? 懐中電灯で籠を探すでしょ? 

懐中電灯で籠を探して「あそこあそこ」となっている上司と、玉を投げている部下という状況があった場合。「変異」はランダムに玉を投げることなら、玉を投げて外したことを叱られることがよく起こりがちです。

玉を投げていなければそもそも入らないんですけど、でも「おい、ぜんぜんわかってない。ライトでここを照らしているでしょ!」みたいに怒られる。でも進化で起こっていることも、どれがはまるかわからないので、壮大な結果論なんですね。

だから「変異をすること」「クレイジーなチャレンジをすること」を拒んでしまうのは、新規事業を創りたいなら一番やってはいけないんですね。何がはまるか、わからないので。

ただ「社運を懸けて全部を投資する」とかも、他の変異を生み出せなくなるのでだめです。そういう意味で、プロトタイピングとかはすごく重要です。

それをあるふうに選択をすると、こんな図になります。

人類が探求する方法は4つしかない

 では、それ(適応圧)を実際にどう観察したらいいのか。まず1つ目に言いたいのが、観察する手法は、人類がもう数千年に渡って科学で磨いてきていること。これを経営とかデザインとか、いろんなところで使わないのはもったいない。だけど、意外とみんな使えていないんです。

進化思考では、適応の観察は「4つだけやれれば大概大丈夫」と言っています。もっと言えば、「人類がなにかを探求する上では4つしかやってきていません」と、わりと乱暴に書かれているとも言えるんですけれども。

5,000年間、我々は何をやってきたのか。「解剖」しているんですね。古代エジプトの医神イムホテプから始まって、近代解剖学で言ったら400年ぐらいですかね。どういうことかというと、因数分解して中にあるものがなんなのかを確認して、その理由を確かめるということです。

眼鏡が作りたいんだったら、フレームとレンズに分けて、レンズの理由とか眼鏡のフレームの理由を確認していくという作業です。あらゆるものでできますよね。椅子でもできる。

人間はこれはけっこう得意なんですよ。ちなみにトヨタも解剖からできた会社です。シボレーを解剖してそれをコピーするところから始まった会社なのでね。解剖して改善するというのは、今までずっと、この20世紀の産業の鉄板の法則でした。

自分が背負っている文脈を語れるほうがいい

でも、これだけじゃないんです。もう1個が「系統」。つまり分類して進化図を描くということですね。分けて系譜を確かめる。これは博物館とかがやっていたりするけど、産業にあまり活かされていないですね。

トヨタの社長とかに「乗り物の歴史に詳しいですか?」と聞いても、たぶんあまり詳しくなかったり……詳しいかもしれないです。特定の会社で言うのはまずい気がしました(笑)。豊田章男さんはかなりすごいですからね、詳しいかもしれない。ともあれ、とにかく「系統」はすごく大事ということです。

今は博物館とかがその役割を担っているけど、アーカイブになってしまっていて、文脈を確かめることが活かされないんですよ。例えば、行政マンのみなさんは公共の歴史がいつ始まったかについて語れたほうがいいと思うんです。

ちなみにデザインで言えば、傾向としてそれ(デザインの歴史)が語れるデザイナーのほうがはるかに上手です。やはり当然といえば当然で、自分がなんの文脈を背負って立っているのか、そして次に何の歴史を作ろうとしているのかに自覚的な人のほうが、当然歴史を作れますからね。

もう1つが「生態系」です。僕らの現世の産業においては、例えばマーケティングとかバリューチェーンと言われるものが、ごくごく一部の話をします。売れるところまででOKというルールになっているので、売れた後に捨てられても、その環境被害についてまで責任を取る必要がないということに概ねなっています。

それがいろんな問題に結びついちゃっているんですけど、生態系って永遠につながるので、なんでSDGsが「誰も取り残さない」という言い方をしているのかというと、逆を返せば生態系を取り残してしまうからなんですよね。今日のテーマに当てはまると思うので、この話はあとで補足します。

時間軸と空間軸で考える探求の方法

それから「予測」があります。これはフォアキャストと言われる過去や現在のデータから未来を予測していく方法とか、バックキャストと言われる「こっちに行きたい」と未来にピンを立てる方法とかがありますね。

この『進化思考』の本には50個のワークが入っていて、全部やったらこれら4つの方法が全部できる、ということが書いてあります。

なので、解剖的に探求するのが苦手かもという人はそれをやればいいし、生態的に探求するのが苦手という人は、それをやったらいいわけです。

僕はこの4つしかないと考えているんですが、何故かというと、あらゆるものって空間か時間の中に置かれるので、空間的に中の話か外の話か、時間的に過去の話か未来の話しかない。この4つの方法は全部それに対応しているんですね。そしてこの真ん中にあるものをグイッと未来側に押し上げるのが、僕らのミッションです。

中身を考えてみたら、おもしろいかもしれません。例えば、みなさんが今進化させたいものがあるとします。学校でもいいし、会社でもいいし、事業でもいいし、プロダクトでもいいんですけど、それを真ん中に置いた時に、中の話、外の話、昔の話、将来の話みたいに、探求していくものの先に、またそれぞれ細かい探求があります。

さっきも言ったとおり、20世紀は左側過多だったんですね。中側を効率化するのは上手だけれど、外側に対して、将来に対しては、責任はあまり取りませんということだった。過去から現在までの系譜についても、限定的に受け取るだけであった。そういう意味で、この右側3つが非常に弱かったんです。

ただ、この物を取り巻く関係性においては、等しく重要であるのは明らかじゃないですか。

発明にも通ずる「変異」の9つのパターン

あと「変異」のパターンという話があります。エラーには9つのパターンがあるよという。これが非常に興味深いんですけど、このパターンはある程度「発明」と「生物」で一致します。この本にはその理由についても書いてあります。

例えば、なくなっちゃう(欠失)。足がないとか、扇風機の羽がないとか。

足されちゃう(融合)。細胞の中にも、古代生物が足されちゃった形跡があります。カレーうどんも一緒ですね。足す、できた! という。あんパンもカレーパンも足されているでしょ。もう、カルボナーラパンみたいな(笑)なんでも足せる仕組みになっておりますよね。

創造性って足せる。「交換」できるわけです。おにぎりも中身が交換されていますよね。これはカッコウの卵ですね。「カッコウ 托卵」で検索すると、けっこうひどい話がいっぱい出てくるのでお薦めです(笑)。同じ位のサイズの似たものだと交換ができます。

それから「擬態」ですね。似せる。擬態する蝶がすごいんです。よくやっていますよね。これ(ロボットペット)がただのモーターとセンサーの集合なのにかわいいというのは、うまいこと(擬態を)やっていますよね。

別の場所に移す(転移)。産業の水平転用とかがそういうことですかね。化粧用筆の熊野筆がそうですかね。

量が増える(変量)。量だけ増えているというのは、けっこうありますよね。iPhoneができたらiPadも一瞬でできるんだろうなということです。

逆転する。コウモリが立たないとか。逆転はけっこうあるし、増える(増殖)もよくありますね。「増える」も、ただのライトじゃなくて増えるだけで液晶画面のような別のものになるという。とにかく言いたいのは、パターンがあるということなんです。

この『進化思考』は、3~4年前、この変異のパターンとか適応の観点を1個1個学ぶワークショップからスタートしたんです。今やいろんな研修会社さんで「世界最強のイノベーション手法では」と言ってくれる人も多くなりました。

パナソニックさんがずっと何年もやっていたり、積水ハウスさんの新規事業創出をやる人たちの人材育成でやったり、いろんなところでやられています。

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