未来に役立つ事業を作るための「進化思考」

太刀川英輔氏(以下、太刀川):あらためましてこんにちは。NOSIGNERの太刀川です。本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。

僕は神戸が大好きなので、久しぶりに来られてすごくうれしいです。こんなに山と海が近い街はなかなかないですよね。僕もフェリシモさんとか、神戸の会社をお手伝いしていたりするので、久しぶりにリアルに来られてうれしいです。一時、会社設立のために新神戸のあたりで土地を探していた時期もあって、けっこう横浜的にも魅力的で悔しい街、神戸という(笑)。

今日は『進化思考』の話をしたいと思います。まさに地球環境のことも考えなきゃいけない時代にいる中で、多くの人に、クリエイティブかつ未来に役立つような事業を作ってほしいなと思い書いた本です。そのテーマをリパブリックの田村さんが受け取ってくれて、話を聞きたい思ってこの場を用意してくれたのかなと思っています。

僕のバックグラウンドはデザイナーです。広い意味でのデザインをいろいろとしています。ブランドを作ることもあれば、モノを作ることもあれば、一応インダストリアルデザイン協会という、日本で一番古いデザイン業界の団体で、若輩ながら理事長をしていたり。

あと隈研吾さんという建築家のところで勉強していたので、建築デザインとか空間デザインをやっていたり。あと、グラフィックデザイナーでもあるんですよね。このようにいろんなデザインをしているんですけど。広い意味でデザイナーです。

デザインはかたちだけでなく「関係」の話でもある

デザインってかたちの話だけじゃなくて。みなさんが座っている椅子も「腰が楽ですか?」とか「無駄な材料使っていませんか?」とか、かたちだけじゃなくて「関係」の話なんですよね。

関係の話が、美しいかたちになるとデザインと呼ばれるところがある。やはり僕としては、かたちのプロであるだけではなくて、「関係」のプロでありたいと思って、ずっとデザインをしてきたんですよ。

「関係」というのがなかなか厄介で、非常に捉えどころがないわけです。でも、なんかそういうことが大事だぞというのは、(『般若心経』の)「色即是空空即是色」のように、もう1500年くらい言われているわけですよ。

そんなわけで、デザインじゃなくてNOSIGNER(ノザイン)、かたちじゃない側。デザインってサインが語源らしいんですけど、ノーサインなほうが大事なんじゃないのかということで、15年ぐらい前からNOSIGNERという活動を始めました。「未来に役立つデザイン以外はなるべくやりたくありません」という、我儘なデザイン事務所をやっています。

いろんなものを作ってきました。防災の本とか、日本酒産業をなんとかするという話とか、製品の設計、インスタレーションアート、新素材の開発など、いろんなことをやるんですけど。

そうそう。最近、その事務所を引っ越しました。これが新しい事務所なんですけど、今日の話にちょっとつながるかなと思っています。実は、部屋の素材の大半がゴミでできているんですよね。解体した時に出る軽量鉄骨が、ここのお部屋で2トンぐらいあったんですけど、これをもう1回デザインして吊るし直すととても格好いいという(笑)。

みなさんの身の回りにある無駄なものを、創造的に活かし直すと、いいデザインになるという例で入れてみました。

人類の進化の過程でできていなかった「創造」が、今できている謎

今日は、僕が今までどんなデザインをしてきたかという話をするつもりはありません。今日のテーマは、創造性の話です。

僕がどんなに創造的かを話してもしょうがない。むしろ、聞いてくれたみなさんが創造的になるほうがずっと意味があります。そういう意味で、この時間は創造性を一緒に探求したいと思っています。

「創造」という現象について、みなさん深く考えたことってありますか? さっきの『進化思考』という本はそういう本なんだけど、けっこう摩訶不思議な現象なんですよ。なぜかというと、僕らとDNA的に98パーセント同じはずの、チンパンジーという生物には創造ができていないんですよね。

できてないとまでは言わない。巣を作ったり、ちょっとした道具とかは使うけど、フェイスシールドとかマスクとかZoomとかは作ってないじゃないですか。でも、ほぼほぼ一緒なんですよね。98パーセントは一緒です。

さらにいうと、ホモサピエンスの歴史ってだいたい20万年ぐらいあるんですよ。そうなんですが、みなさん石器時代っていつぐらいまでだったかご存知ですか? 5万年ぐらい前までなんですよ。そうすると、99.9パーセントほぼ俺らと同じ生物(ホモサピエンス)も、5万年前まではろくにモノを作っていないんです。石しか使えていないから、石器時代なんですよね。

それが今ではなぜスマホとかを作れているのか、すごく謎じゃないですか? メガネとかマスクとかワンピースとか作っているじゃないですか。謎なんですよ。謎だと思うと、謎でしょ?(笑)。あるタイミングで僕も「謎だな」と思ったんですよね。

「創造性」は才能の話ではなく、なにかルールがあるのかもしれない

しかも、創造性というのはすごく厄介なテーマで、「あの人は才能があるからデザインをやっているんだよ」「才能があるから絵を描いているんだよ」「才能があるからピアノをやっているんだよ」みたいになりがちじゃないですか。

僕はデザイナーなのに絵を描けないので、絵を描ける人に対してちょっとしたコンプレックスとか、若干の後ろめたさみたいなものがあるんですよね(笑)。「太刀川さん、絵がうまいんですよね」「ドキッ(笑)。描けないっす……」みたいな感じなんですけど。

でも、創造性ってそういう感じで語られがちです。でも僕は「それって本当に創造性の正しい捉え方なのかな」って思っているんです。

創造性にはなにかのルールがあるかもしれない。それがずっと僕の探求のテーマでした。僕の大学院は建築でしたが、勝手に自分で創造性の研究を始めて、それで修士論文を出して、隈研究室を卒業するんですよ。論文のテーマは「デザインって言語にとても似た現象です」というものだったんです。

要するに僕としては、多くの人が優れたアイデアを出せるルールみたいなものを見つけたかったんですよね。そして見つけたつもりです。それがなぜ起こるのかも、僕なりに仮説が立っている。今日はその話をすると、みなさんのインスピレーションにつながるんじゃないかなと思っています。

「創造」は、「進化」の真似ができるようになって起きていること

その手掛りの1つが、「どうやら自然のほうが創造が上手っぽい」ということ。要するに、ロボティクス(ロボット工学)をすごくがんばっても、バッタの足を作れない、みたいな問題があるんです。太陽光パネルをがんばって作っても、葉っぱのほうがすごいという話があって。「うーん……」というところなんですけど。

銀座グラフィックギャラリーで、生物の「進化」と「創造」はどう似ているのかというテーマの展示会を、2016年にやりました。左のオリーブの木を解剖してみたもの、右の扇風機を解剖してみたものを比べて展示してみました。

この時の探求が、進化思考の本にもつながってきます。これは生物の系統図、進化図ですね。それと無理やり書いた乗り物の進化図を比べてみると何が見えるか。

これは模型だったんですけど、似ているよねというのと共に、似ているけどちょっと似すぎていないかということもありました。

つまり創造に似ている現象は生物の進化であると。みなさん「進化論」って聞いてことがありますね。ダーウィンが有名ですね。ウォレスは(ダーウィンと)一緒に自然選択説を発表した人です。その前にラマルクという人がいたし、いろんな人が提唱してきました。

結論。「創造性」について僕らは勘違いしていて、あるタイミングで進化の真似ができるようになったから起こっている、わりと人間にとっても新しい現象なんじゃないかと思ったんですよ。

「人間だから創造できるのは当たり前だ」と今は思うけど、少なくてもホモサピエンスの4分の3の時間はできていないわけでしょう。

創造性が生まれる構造がわからないから、教え方もわからない

だから、それはいったいなぜ起こったのかの構造がわかれば、みんなを創造的にできるということか? と思ったんですね。要するに、創造性が才能のせいになっちゃうのは、創造性が生まれる構造がわかっていないからだと思うんです。

教え方はわからないし、覚え方もわからないから、どうやったらそうなれるのかがよくわからない。やれるようになった人は自転車と一緒で、ある日乗れるようになったら、乗れなかった頃のことを思い出せない。だからできるようになった人もろくに教えられない、という現象が起こっているような気がしていて(笑)。

例えば音楽とかと一緒ですよね。ちゃんと楽譜があって、コード理論があって、楽器の弾き方がわかったら、一応練習すればフルートも吹けるようになる。でも今の創造性は、フルートをポンと渡して、なんにもないのに音が出た人には才能があって、音が出なかった人には才能がないみたいになっている。

自然界で他にやっているものがいないから、「創造」は超常現象みたいなものと思われています。でもその超常現象に最も似ている自然現象が、僕は「生物の進化」だと思っています。

生物の進化のような現象だとしたら、僕らは創造性を追うために、ないし創造性教育をちゃんと作っていくために、生物の進化をもっと学ばなきゃいけないと思ったんです。

スティーブ・ジョブズやジョン・レノンからみる「創造性のパターン」

そこから当てのない探求が始まりました。世の中を変えた人たちがいるわけですね。Appleの「Think different」のCMは見たことあります? スティーブ・ジョブズがまさにCMの中で言っているんですが、「クレイジーな人」がいるんですよ。

この人(​​左上:オットー・リリエンタール)は強風に煽られて死んじゃうんですけど、この人のおかげで飛行機ができて、僕は今日神戸空港からやって来られていて。

この人(上中央:ヘンリー・フォード)のおかげで、朝、タクシーで羽田に向かうことができて。

この人たち(右上:ジョン・レノンとオノ・ヨーコ)もクレイジーなチャレンジをした人だし、こういう平和運動をする人たちがいたから、今も戦争がないのかもしれないなとか。

この人も知っていますかね? この人(左下)はムハマド・ユヌスさんというノーベル平和賞を取った、貧困層のために銀行を作った人です。

この人はさっき出てきたあの人(右下:スティーブ・ジョブス)ですよ。

「すごい人はすごいよね」という話がしたいんじゃなくて、よく見るとパターンがないですか?例えば、この人(スティーブ・ジョブズ)で言うと、インターネットと携帯を足しているとか、あるいはガラケーからボタン消しているとかね。

この人(ムハマド・ユヌスさん)で言うと、今までとは別の人、貧困層に銀行のお客さんを移した。この人(ジョン・レノン)でいうと、平和活動の舞台をモーテルないしプライベートの部屋に移した。あるいは、プライベートとパブリックを逆転したとも言えるかもしれませんね。

この人(フォード)でいうと、内燃機関を馬車に合体させたとも言えるし、馬を引いたとも言えるかもしれないですね。この人(オットー・リリエンタール)でいうと、鳥の真似をしたりしたと。

真似したり、足したり、引いたり、移したりしていませんかということなんです。

こういうことを15年前に論文にまとめたんですけど。僕らがブラックボックスだと思っている「創造性」について、例えばみなさんが事業を創りたい人だとしたら、事業アイデアを考える時に、そこに何らかのパターンがあったらどうかということなんです。

なにかに足してみるとか。なにかを引いてみるとか。そういうことが切れ味優れた事業アイデアのパターンとして存在しているなら、考えやすくならないか、ということですね。

地球6度目の大量絶滅は、人間に由来している

あとこの本の中でもしきりに話しているんですけど、今、世の中がむちゃくちゃな状況になっています。これが何の図かわかりますかね。赤い線が、生物種がどれくらいのペースで絶滅しているか。紫の線が人口の増加ですね。

まさにエクスポネンシャルな、指数関数的なカーブに見えるけれども、今我々は本当に未知のゾーンに入っているんです。ものすごい量の生態系サービスの喪失、ないし生態系の種の喪失を経験しているのが我々の時代です。 

これはどれくらい大変なことかというと、この話を聞いたことがある人もいるかいないかわかりませんが、だいたいこの地球が始まって、生命が始まってから38億年ぐらいの歴史があるんですけど、その中で5回、大量絶滅をしている時期があるんです。

巨大な隕石が落ちたとか、酸素がなくなっちゃったとか、いろんな理由で絶滅が起きているんですけど、現在我々が経験しているのは6度目の大量絶滅時代なんです。これは、人間に由来する大量絶滅です。

このまま行くと、ある日やかんから水が出なくなっちゃうような、「はい、生態系サービスここまで」という時代が来てしまう。2050年までにネットゼロ(​​Net Zero、CO2の排出量実質ゼロ)じゃ遅いんじゃない?  と思いながらも、成長の限界と言われてから50年が経っているけど、ようやく重い腰を上げ始めたのが今の社会ですね。

これはCO2がめっちゃ上がっているという図ですね。どうなっているのか、よくわからないですよね。スパーンと上がっています。さらに上がるとすると、かなりヤバいですよね。

気候変動、生態系の喪失など、いろいろ“ヤバい”状況にある時代

これは災害がめっちゃ増えているという話ですね。原因は気候変動かなと思います。僕らにも実感を伴って出てきている変化ですね。でも実は気候変動って、わりと序の口なんですよ。

プラネタリーバウンダリー(惑星の限界)という考え方があって。調べてみていただくといいんですけど、プラネタリーバウンダリーは、“惑星が限界を迎えている四天王”があった時に、まだ最弱なんですよ。なんの話だという感じですけど(笑)。

ちなみに何がヤバいのかというと、まず生態系の喪失がヤバいです。戻ってこないので、突き抜けてヤバいですね。

あと、窒素とリンの循環です。これは化学肥料由来なんですけど、それがヤバいですね。要するに大気中にあるものを土にずっと突っ込み続けていたらヤバいことが起こりそうな気がしませんかということなんです。

ついでに別の図にいきましょう。これは、コンピューターの処理能力ががめちゃくちゃ速くなっているという図です。正比例しているように見えますけど、こっち(y軸の数値)が指数関数的に増えているんですね。僕らが生きている時代はわけがわかんないですね。

テーマが揺れ動いている時代は、誰しもが創造的になり得る

でも、この時代に新しい事業を作ったり新しいデザインをするって、僕はすごくおもしろいと思うんですよ。なんでかというと、高度経済成長期ってテーマがずっと変わらなかったんですから。同じテーマに向かってデザインをすればよかったし、同じテーマに向かってビジネスをすればよかった。ずっと同じだから、セクショナリズム、縦割りの組織になっていくわけですね。

そしてそれぞれに人数を増やすために、「マネジメント的にも分けたほうが合理的じゃん」と言って、いろんなところが専門分化したんですよね。それは行政の中もそうだろうし、会社の中もそうだし、業界もそうです。

デザイナーもインダストリアルデザインとか、インダストリアルデザイン協会の理事長がこう言うのもなんだけど、やはりデザインの領域って、昔はもうちょっと広かったと思うんですよ。でも、「これはグラフィックデザイナーの仕事ですから」とか、「これは建築家の仕事ですから」とか言うようになってしまった。

僕らが神様と崇める人たちに、例えばミース・ファン・デル・ローエという人がいるんですけど。彼は建築家であり、かつ誰もが知っている家具のデザイナーで、バウハウスの学長で、もっと言うとイリノイ工科大学も彼が作ったようなもんだし、でもそういうわけわかんない感じでいいわけですよね(笑)。

創造的にいろんなものを作っていいという、先人たちがいるんです。でも、こういうテーマが揺れ動いている時代では、みなさんがそうなり得ると僕は思っているんです。みなさんが領域にとらわれずデザイナーであり経営者でありということでも、別に構わない時代だと思うんですよ。

一生の中で、プロジェクトはいくつできるか?

そういうことを読み替えていく中で、新しいテーマであるところの「今までは人間中心の世界をどんどん作ってきて、人をハッピーにすることはけっこうできてきているけれども、このままいくと人をハッピーにし続けて死ぬ」。そういうことが見えてきた場合、人だけじゃなくて生態系まで対象にして、さまざまな事業やデザインを考えなきゃいけない時代に僕らは生きているわけです。

それで、多くの人に創造的になってほしいと思ったんです。ある時、数えてみたんですよ。みなさんも数えてみるといいと思うんですけど、一生の中で何個くらいプロジェクトができると思います? 

僕の計算では、年間で20個くらいプロジェクトをするとしましょう。多いよね(笑)。1年で20個プロジェクトをして、それを50年やるとしましょう。ヤバいね。かなりブラックな人生だけど、僕の先生とか、そういうブラックな人生を生きている人もいるなって(笑)。

そんな感じでも20個×50年で、1,000個ですよ。ということは、たぶんサボるので数百ですよね。100個ぐらいかもしれないし。100個でもがんばっているかもしれないですね。

でも、例えばさっきの「持続可能な社会を実現しましょう」と考えた時には、世の中に何プロジェクトぐらい必要なんでしょうね。果てしなくないですか? 神戸という街だけでも1,000個ぐらいのプロジェクトが必要そうな感じがしませんか? もっといるかな。神戸だけで数万個いるかもしれませんよ。

日本でいったら、数百万個のプロジェクトがいるんじゃないかという話になるじゃないですか。これに気付いてしまったんです。

創造的教育で、デザインができる人を増やすことに意味がある

僕ががんばっても1,000個だけど、例えばどうやったら優れたデザインができるのかとか、アイデアができるかを、たくさんの人に「共有する」という選択肢を選び、そしてもし「創造性教育を変える」ことが成し遂げられたとして。もし、全人口の1パーセントぐらいの人が、一生の間でプロジェクトを1個多めに作り出すことができたとしたら。その時のインパクトってどれぐらいなのかを計算してみましょう。

2045年に、人口は90億人ぐらいになるんですよ。100人に1人が1プロジェクト増やせるとしたら、その時点で9,000万プロジェクトなんです。つまり何が言いたいかというと、創造性教育をちゃんと更新してアイデアを生み出せる人を増やすほうが、すごく意味があるということです。

がんばってデザインするのも大事だけど、デザインできる人を増やすのは、桁違いの意味があるわけなんですね。

そういうことで、『進化思考』という考え方を作って、本を書いてみたぞということで、会場の後ろで販売しています(笑)。そうそうたる人たちが「ここまでイノベーションを体系化した本はなかったぞ」と言ってくれたり、USBメモリを作った濱口秀司さんという人が、「これがわかれば誰もが創造できるぞ」と言ってくれたりしているので、けっこういい本です。(笑)。