親の孤立、親の発達障害の問題

川島高之氏(以下、川島):今、いろんな方が保護者としてできること、政治を動かすこともありますけど。もう1回、1番(のテーマ「保護者からの過剰な要求って何なのか?」)に戻したいと思うんですけども、生重さん、学校現場に一番行かれてると思いますけど、もう学校名は匿名にして、どんな要求ってのが過剰だったかっていうのを、生重さんの長年のご経験から教えてください。

生重幸恵氏(以下、生重):孤立してる親がけっこういます。それで、自分一人でやるのが嫌で、結局すべてを学校に押しつける。それともう1つは、今かかえているのは、親側の発達障害ですね。

川島:親側の発達障害。

生島:はい。本当に1つのパターンとして、ある学校から相談を受けた時には、そのお父さんはとても頭のいい人でIT系に勤めていました。でも、人間関係がうまくいかないんで、だいたい1ヶ月、3ヶ月、半年くらいで会社を変わってしまう。息子さんが個性的なお子さんで、そこをからかうお子さんがいて、毎日(息子さんの)洋服が汚れて帰ってくる。

それで、お父さんは心配なので毎日毎日学校に来て、「なんでそんなことが学校で起こる?」と言って、自分でもネットでも調べる、と。

また、学校の地域対策がまったくできていないので、教頭先生も校長先生も学年主任も、誰も何もしないので、(担任の先生)彼一人だけで、そのお父さんと向き合わなきゃいけない。これは、完全に福祉の領域ですね。

だから、私がさっきプレゼンした中で、「チーム学校」っていうところで、家庭教育支援チームとか、地域の中で地域支援とか、そういうところの中で、多くの教育視点が入ってくることが、「うちの子どもの問題はどうなんだ?」っていうことを1つ1つ解決していくところにはつながると思います。

こういう組織を変えるためにはお金がいると思います。組織を変えないといけないんですよね。うちは長男が小学校教員で、長女が中学校の元教員なんですが、うちの娘は「公務員は一生やらない」って言って辞めたんです。

それは、半分が部活の問題でした。やったこともない水泳部の顧問になって、毎日毎日、生徒たちを試合場のプールまで連れて行かなければいけない。

半分は、学年主任からすべて教員たちの、本当にぜんぜん理解がやチームの体制ができてないことでした。学校教員室の質が悪い。それはひいては、校長の経営能力がない、っていうことにつきると私は思います。

組織を変えるにはお金がかかる

生重:でも、校長先生だって、今おっしゃったように、上ばっかり見てる人だけじゃないんです。本当にちゃんとやってくれる人たちもいる。そういう人たちが仕事ができるような、組織づくりができる、なおかつ、地域から何年もかけてやってる今の全国の状況、これを変えていかないかぎり、先生たちは信頼して一緒にチームになれっこないって思っているんですね。

親のクレームの問題は、カウンセリングできる人間が来ていたり、人間関係を深めていく地域連携推進のようなところや、あと、家庭教育支援チームのようなものが地域にできて、ボランティアとプロフェッショナルと両方がいてくれることで、かなり解決できる問題があるんです。日本という村社会の中で何ができるかっていったら、やっぱり信頼できるちゃんとした人を雇用することなんです。

中教審(中央教育審議会)で話が出てきた時には、「きっかけを作ったんだ」と思ってうれしかったんですが、やっぱり組織を変えなきゃいけないし、そのためには、地域が絶対に反対する(学校間の)統合をやらなきゃいけないんです。

学校一校を運営するのに、どれだけ(コストが)かかっていると思ってるんだ。みんな、「つぶすな、つぶすな」って言うんですよ。でも、多くの教員を抱え、多くのボランティアの善意を受け入れ、なおかつ、それぞれの専門家機能を入れていくってことは、お金がかかるんです。

お金がかかるっていうことは、「人員を切っても、オラが学校をつぶすな」って言う今の日本人の体質を変えないかぎり、変わらないよっていうのを、私とにかく申し上げたい。やっぱり前向きに今後を考えていくには、組織を変える(ということです)。

川島:はい。先程のプレゼンのような、また60分ぐらいの深い内容に最後はいきつきましたけども(笑)。

生重:(笑)。

「PTA→PSA」へのマインドシフト

川島:地域が、あるいはもっと言えば保護者が、もっともっと学校のサポーターになろうよと、そんな話が前半ありましたけど。坪谷さん、先ほど雑談室で「PSA」っていうキーワードをおっしゃったんですけど、今のお話に共通すると思うんですけど、もう1回そのへんのことをちょっとお話いただけますか?

坪谷ニュウエル郁子氏(以下、坪谷):この2番目(のテーマ「保護者がどんなマインドシフトをすべきか?」)にちょっとつながるんですけれども、保護者のみなさんは、「学校や教員に何をしてもらうか?」と考えるところから、「学校や教員のために私たちは何ができるか?」と、このような考えに変えていかなくてはいけないと、私は思ってる次第なんです。

そこで提案なんですけれども、日本はPTAという組織がありますよね。いわゆる「Parents=保護者」と、「Teachers=先生」のための、「Association=団体」ですよね。それをPSA、これは「Parents=保護者」が、学校や教員を「Support=支援・サポート」する、こういった組織に、マインドも含めて変えていく必要があるのではないか、と私は思うんです。

もしかすると、そこの「P」の後に、さっき思いついたんですけど、「C」を入れてもいいのかな、と。この「C」はCommunityですね。つまり、保護者と地域と、場合によってはそこに企業も加わって。

学校の周りに、教員のために自分たちは何ができるのかを考えて。教員の仕事は教育をするってことですからね、教員がやらなくてもいい仕事、それ以外の仕事を保護者が地域が、そして企業がやっていく。そして、みんなで私たちの未来、子どもたちを育てていく、こういった周りの意識ですね。学校や教員に、「私の子どもをこうしてちょうだい」などの電話もあります。

「明日、うちの子どもは何百円、何千円持っていく」。そんなときに、「それは先生、袋に入れて持っていけばいいんですか?」と夜の11時15分に電話をすることもあると聞いております。

私の後輩は学校の先生なんですけど、生徒の家庭訪問に行ったら、「冷蔵庫の中にはおにぎり1つさえも入ってなかった」。仕方がないのでコンビニへ行っておにぎりを2つ買ってきて、その生徒に「夕飯食べなさい」と。非常に心温まる話です。しかし、それは教育、学校、先生の仕事でしょうか? 先ほど出た、福祉ですよね。

とにかく大切なことはマインドシフト。「学校、教育のために、私たちは何ができるか?」。それを考える。そして、PTAからPSAに今したいと思っております。

川島:ちょうど私、来週に日本PTA全国協議会っていうのがあって、そこで講演してくるんですけど、「PTAは教師のサポーターになる組織なんですよ。逆に、教師に忙しくさせちゃってるPTAがありますよね」っていう話をしようと、私も自分のPTAの経験から思っていました。

PTAっていう組織、もっと言えば地域が「教師のサポーターになろうよ」と。坪谷さんの本当に1つの今日の大きなキーワードということですよね?

アクションして、価値観を変えていく

坪谷:そのとおりです。私たちは一人ひとり、今、地域の学校のために、それは学校に自分の子どもが行っていても行っていなくても、何ができるだろうか。

これを考えると、できることがありますよね。コピーとかもできますよね。もしかすると、自分がずっと学生時代からやっていて、今も地域のチームに入っている、何か文化的な、何かスポーツの活動があるかもしれないですよね。

例えば、ずっとコーラス部だった。だったら、学校のコーラス部のコーチをして、アシストしようじゃないか。できますよね。自分はパソコンが得意だ。じゃあ、パソコンで事務作業を手伝おうじゃないか。何かみなさんできるんじゃないでしょうか。

川島:安藤さんに聞きますけどね、そういう学校をサポートしようというマインドを持ってる親はいいんですよね。でも、そういうマインドを持っていない人のほうが、とくにお父さんなど圧倒的に多いかもしれない。

お父さんたちがもっと学校のサポーターになる、なりたくなるためには、どういう動機づけとか、どういう行動を取らせる、あるいは、どんなことをPTAが学校に仕掛けたらいいのか、っていうことをお願いします。

安藤:例えば、自分が住んでる地域をもっと愛そう。そのためには、子どもの入学式と運動会と卒業式でビデオ回すだけじゃダメで「なんか汗かこうよ」と思います。

その作戦会議をやるから、「今日は飲もうぜ」みたいな感じで。そこにちょっと、意識高い先生も1人ぐらい連れてきて。そうすると、話し合いが始まって、先生たちも、「あ、お父さんたちに言ってもいいんだ」「愚痴っていいんだ」みたいなね。そういう、まずコミュニケーションを僕は続けました。

川島:男性、お父さんたちの場合はね。

安藤:そう。あとお父さんたちはやっぱり、遊びを考えたりするのが好きなので。僕は家に帰った時に、夏休みの学校で初めての「学校に泊まろうキャンプ」を企画しました。それを、校長の承認ももらって予算化して。

キャンプの中身は全部お父さんたちが考えるということで、また飲み会で作戦会議やって、「お化け屋敷やろう」「流しそうめんやろう」みたいなことを話し合って。みんなもう父として「これ、すべて子どもたちが笑顔のためなんだぞ」って言って。でやったらね、すごくおもしろかったですよ。

で、そのリーダーをやってくれたお父さんが、「いやー、安藤さん、本当おもしろかったよ」と。それで「また来年もやりましょう」って。だから「やめるんだよ」って言ったら、「え、そうなんですか? どうすればいいんですか?」って言うので、「おまえが立ち上げろよ」って返したら、「そうか」って、本当に会長になっちゃったんですよ。

川島:その人が会長になっちゃった。

安藤:はい。だから、やっぱり自分で、さっき「他律と自律」って話も出てましたけど、自律的に学校とかに関わっていかないかぎりは、絶対この快感は味わえないですね。人間、快感を味わえば価値観が変わってくるんで。

これはイクメンのレクチャーで必ず言うんだけど、やっぱり危機感を持って、「何かしよう」ってアクションして、快感を得て、価値観を自然と変えていくっていうやり方がいいかなと、お父さんたちはね。

川島:そうです。

安藤:理論的にね、言われてやってるうちはダメなんですよ。

過去から仕事が増えるだけで減らない

川島:お母さんたちはどう接すればよろしいんですか?

生重:私は、お母さんたちの間にあるあの負担感って何なんだろう、って思うんですよ。

川島:お母さんね。

生重:とにかく、何もやってないのにやらされる恐怖っていうか。私の住んでる街は、私がずっとPTAにいる時に、研修に参加してくれる会社があるんですよ。とにかく来てくれたら、「やってよかった」「なんかできそうだ」って言って帰ってもらうっていうものをしていて、いい研修を受けてもらってるんです。

で、専門家に会えるし、スキルを積めるし、社会とちょっと離れた時に、次のステップアップのためにも、PTAってとってもいい組織なんだけど、なぜあの負担感で組織を嫌がるのか。過去の因習とか、来てもらって無駄な時間を過ごしたとか。

川島:今だに朝10時に集まって、夕方4時までベルマークとかね。

生重:そう。ある意味、スクラップしないでビルドするばっかりなんですよ。これは学校の教育の世界と一緒で、「これ、形骸化してるんだから」っていったら、もう壊さなきゃいけない。

そして、ビルドしなきゃいけないのに、ずっとスクラップさせないまんま。ビルド、ビルド、ビルドっていくから、でたらめになる。やめるとか、変えるっていう勇気を持ってもらわなきゃいけない。