どのようにゲーム開発のノウハウを貯めるか

荒木:僕はコバケンさんに聞きたかったのですが、さっきの60本作ります、80本作りますと言って作れなかった。僕はたくさん作ること自体はアプローチとして賛成なのですが、客観的に見て内製じゃないものがたくさんあったかと思います。僕は自分の経験からすると、内製じゃないものでたくさんトライしてたくさん失敗しても経験値は貯まりにくいという実感があったんですよね。内製じゃないところでたくさんチャレンジして失敗したときに、どういう経験が貯まるのか、お聞きしたいです。

小林:これね、社内でもその話はあったんですよ。絶対ファースト(内製)のほうが経験は貯まりやすいよと。技術開発の面でいうと確実にそうだと思いますね。ただ、最初は僕もイメージなかったんですけど、セカンドやってる駆け出しのゲームデザイナー(ジュニア)みたいなやつが、明らかに一周まわしたあとで考える深度が変わるなっていうのは明確に感じました。これは一人や二人のレベルじゃなくて、あれだけのライン数をたてる中で抜擢人事出まくりだったんですが、その抜擢したやつがまさにそうやって成長してるのを感じます。

あとセカンドのコントロールっていうのもすごい知見が必要じゃないですか。どういうふうに伝えたらピンときてくれるのかとかどういうふうに言うと「はあ?」みたいなものが来るのかみたいな。このへんのところの、とりあえず端から端までやってみましたっていうことで次の動きが明確に変わっていって、次にやるときに、そもそも企画書の段階から全然違ってきてたんですね。今そういう意味では、企画書レベルから精査していて、企画書時点でめちゃめちゃ真剣に時間かけて作るんですよ。

この前記事で読んだんですが、ブリザードのハースストーンって企画段階でめちゃくちゃ時間かけてるんですよね。作る前に。ペンと紙だけで鬼のようにゲームデザインを何度もトライ、試行錯誤してた。あれに近いことをうちもやっていて、そのプロセスでどういうところを絞っていけばいいかっていう議論のレベルが明らかに高くなってるなっていう感じはしますね。そういう意味では確実に僕はセカンドでも得るものはあったなっていう感じはします。

荒木:なるほど、ありがとうございます。

短期間で55カ国に展開したエイリム、gumiの拠点をうまく活用

小野:あとあの、ちょっと開発という話になりましたが、今度はパブリッシングを含めて、特に海外、さっきグリーさん驚きだったんですけど、App Annieのデータでパズドラ等を抜いて日本のゲームのパブリッシャーとしては、海外まるっとですかね、あれ?

荒木:iOSとAndroid合わせて。

小野:合わせて一番売上が高いっていう話ありましたけど、非常に短期間ながら55カ国で展開しているエイリムさん。このへんどうして短期間でそんなに展開が可能になったのかっていうあたりをちょっと教えていただければ。

高橋:はい、さっき紹介した通り50人そこそこしか居ない会社なので、50人で全世界やってますっていうのは嘘で、gumiさんの海外の拠点がもうすでに結構たくさんあったんですね。gumiさん、國光さんは自分で言ってるんで良いと思うんですけど、大量の血を流しながら、赤字を続けながら、ずっと歯を食いしばってやってらっしゃった各拠点があるんですね。韓国にもあるし中国にもあるしシンガポールで英語圏版を見てるし。そこに結局僕らがやってることってFTPサーバーを立てて、全部そこにアップするんであとはやってくださいみたいなことしかしてなくて。

小野:とりあえずもう運営はお任せと。

高橋:そうですね、実は我々は本当に日本国内のオリジナルをどんどん作ることだけに全部集中していて、本当に海外版に関しては仕様書をくださいって言われても「ないです」くらいの乱暴さで、本当に投げちゃってますね。すごく幸運だったのは、各海外拠点が良い感じに苦しかった状況であったことと、そこにいるゲームクリエイターの方たち、gumiさんの各拠点って割りと雰囲気芸じゃなく全部頭から身体まで、手足まで揃ってる状況だったんですね。だから赤字だったのかもしれないんですけど。

そこでブレイブフロンティアっていうゲームを、日本のコンテンツなんだけど、見て好きだと言ってくれたんですね、各所の方々が。なので我々はちょっと遊びにじゃないですね、挨拶しに行って、じゃああとはよろしくお願いしますと言うだけで結構済んだと。そこであとは彼らのスピードは本当に驚異的で、多分7月に出てから12月までの半年弱ぐらいのところで十数カ国に出てましたし、言語対応も5~6カ国語いってましたし。で、そっからまた半年経ってないかなくらいですけど、もう55カ国で12~13言語くらい対応してるんですよね。ものすごい驚異的なスピードで彼らが勝手にやってくれたっていうのが真相ですね、はい。

小野:これ非常におもしろいエピソードだなと思って聞いてまして、gumiさんと一緒に、もちろん最初入ってますけども子会社としてやろうよっていうタイミングではgumiさんはいろいろ海外拠点を作りながら、とはいえまだあまり結果が出せず苦しんでいて、そのタイミングでは別にそれをあてにして一緒にやろうとなったわけではなく結果的にgumiさんのリソースがうまくエイリムさんにとってのパブリッシングに繋がったっていうことなんですね?

高橋:そうですね。スマートフォン向けにゲーム作ってるんで、当然元々世界に発信できる、すごくしやすい環境なんで、それは当然意識して作っているし、gumiさんは海外の拠点も持たれてるのも知ってましたし國光さんはもう日本のスケールに収まらない経営者だと思いますんで。

小野:國光さんは端から読んでたって言いそうですけどね。

高橋:いやでも、そこは目指してるものはあったはずです。そのおぼろげだったものが結果的に具体的にこういうふうにやってこうなったんだっていうのは多分gumiさんと一緒になってからだと思っていて、それを具現化するにあたってはじめはエイリムの中に海外の言語対応をするスタッフを入れてやりましょうかとか、gumiさんに他国語を扱う人がいるので来ていただいて同じ場所でやりましょうかって話もちょっと出てたりはしたんですけど、ただそれうまくいかないですよねみたいな話で。

だったら各海外拠点の方たちに直接やっていただく道ありますかねみたいな話を配信後1カ月くらい、8月とかに國光さんたちと話をして、ちょっとその話で進めてみようかといった結果があれよあれよという間に形になったというところですかね。

小野:それは各拠点、スタジオがやりたいという、そういうプロダクトであったということが多分とても重要だとは思うんです。

高橋:そうですね、はい。

「日本でウケてるからやりなさい」はNG、海外に権限移譲を

小野:今、非常におもしろいんですけどグリーさん、DeNAさんいろいろと海外拠点作ったりだとか、成功もあれば失敗もあればいろいろ体験されて、さっきので言うと地雷があったりなかったりしたかもしれないんですけども、その中でもちろん得たもの、結果的にプラスになったもの、学んだものあると思うんですけども、いかがですか、その海外でパブリッシングをやってく上においてもっと最初に今海外に置いてはApp Annieデータでナンバーワンということで、グリーさんかつていろいろとやられた中で得たもの、学んだもの。

荒木:そうですね、今のまさに高橋さんの話の中で、各拠点が、このゲームが良い、だからうちで作りたいと言ったっていうのはすごい一流の企業だと思いました。僕らもいろんな海外拠点を作ってゲームの開発をしましたが、やっぱり作ってる側が面白いと思って作っていないと、ローカライズというと単に翻訳するだけでしょ、と思われるかもしれませんが、実際にお客さまが手に取るときに、クオリティの差がすごくつくなと思っています。なので、やっぱり作り手が、自分たちが面白い、やりたいと思って作れるような、そこで独立して意思決定ができるような組織体制を作ることはすごい重要だったと思っています。

小野:コバケンさんいかがですか?

小林:そういう意味で言うとパブリッシングっていうとうちのグループで一番やってるのは実はDeNA中国なんですけど、ローカライズなどのやり方をガラッと変えてからすごくうまくいったなっていう印象があります。先程の荒木さんの話と同じなんですけど、このゲームを中国で出すっていうのを決めるのは誰ですかっていうことについて、昔はヘッドクオーター主導型だったんですね。これ日本でウケてるからやりなさい。これって全然現地も腰が入らないんですよ。

小野:中国側が?

小林:はい、そうです。で、今は、「中国で行けると思ったらやっていいよ」っていうふうに中国側が、すなわち展開地域側が完全にオーナーシップを持って決めるっていうふうに変えて、さらに、展開地域側がローカライズ等で勝手に変えていいっていうことにしたんです。

中国って、ユーザーが全然違う遊び方するんですよ。エンゲージメントの時間も違うし、 ARPU(Average Revenue Per User)の課金率とARPUの構造も全く違うんです。一部の超金持ちがすごい支払い方をするんですよ。その人に電話かけて出席取るみたいなそういう対応までしなきゃいけないような国で、日本とは全然違う運用をしなきゃいけないし、全然違うゲーム思想になるんだけど、その際「俺このゲーム当たると思うから俺の手で変えて徹底的によくするわー!」って作り手が思ってないと絶対できないんですね。それは全く高橋さんの話と一緒で。

そういうふうにしていく中で、DeNA中国が「自分でもやるわ!」っていって出てきたのがNBAのゲームで、さらにそれがうまくいって結果出るとどんどんいろんな話が来るようになって、という感じですごくうまくまわってきています。ほかにも、実はあんまり日本国内では話してなかったんですけど、中国展開向けのIPでかなり大きいものを複数、DeNA中国が取っていて、それで中国国内での注目度も上がってきていてっていうふうに、今非常にうまく回ってきてるという感じはします。

小野:辻本さんのところもまさに先程テンセントの話がでかいですし、あとアジアに向けて強化されてく、開発を主にってことだったんですけども、海外、特にパブリッシングってところにおいては今の話を踏まえて、どういうふうにしていくでもいいですけども。

辻本:実はモバイル事業では、カプコンブランドとは別にビーラインという海外子会社があります。数年前、ちょうどアメリカでスマートフォンが普及し始めたころ、フリートゥープレイが人気ということで、開発費用も低額のため、チャレンジさせたのですが、「スマーフ・ビレッジ」や「スヌーピー ストリート」がかなりヒットしました。

主なユーザー層は、欧米の主婦層の人たちで、ご主人や子どもが会社や学校に出かけたあと家事をしながら合間にゲームを遊ぶような方です。すごく成功したのですが、そのデータベースを活用して男性層やコアゲーマー層に向けてターゲットを広げた結果、人員が分散して、上手くいきませんでした。

海外で成功しているキング社も、一つのアプリを非常に長く運営しています。スーパーセル社も同様です。やはり、このビジネスモデルはいかに長く維持していくかが重要なポイントです。当社は、最初成功して次の展開に失敗しましたが、また巻き返ししていこうと考えています。

「このゲームは俺が作ってるんだ」って将来言い切れるように

小野:ありがとうございます。あと開発とパブリッシングっていう話が出たんですけど、「モバイルゲーム市場の今後」っていうテーマなので、多分会場にいらっしゃる方はゲームに何かしら関わってらっしゃる方、多分共通して持ってる人材についての話もしたいなと。人材っていうのは人事部の採用もそうですし、あとはいかに中の人をモチベートしていくか、例えば先程8年同じゲームのタイトル続いてくって結構そこのモチベーション維持大変だと思うんですけど、各社採用もしくは人事面で苦労した、または工夫してることですね、こんなことを取り組んでますっていう話を是非シェアできる範囲でお願いしたいんですけども。

高橋さんのところって、50名っていうのは1年間でいきなり50名になったんですか? どういう形でできてるんですか?

高橋:そうですね、さっき紹介したスタートのときは25~26人だったんで、倍くらいにはなってるんですけど、でもうちは人数を積極的にバンバン増やしてっていう感じではないんですね。中で作ってるメンバーたちがその先、その次とかに、先程の小林さんのお話もそうだったと思うんですけど、1回目やってみて次を作るときにどう変わってるかってやっぱ大事なことだと思ってるので、今そのうちのメンバーでデータ作ったりとか日々やってる、多分今もやってると思いますけど、やってるメンバーたちって本当にすごくしんどいので、ともすれば休みもないくらいにしんどくやってるんですけど。

彼らによく言ってるのは、「自分が作ってると、このコンテンツ今俺が作ってるんだ私が作ってるんだって将来思いっ切り言っていいから思いっ切りぶつけてやったほうがいいよ」っていう話をしてて、ヒット作って本当に作るの大変だし、結構偶然で生まれるものなので、関われるってこと自体が結構レアなので、今この一分一分大事にやると多分将来振り返ったときにすごくいいであろうから、思いっ切り自分が作ってるっていう気でやったほうがいいよっていう話をしてむりくり働かせるという感じですね(笑)。

モチベーション維持するの本当に大変で、毎月毎月どんなに早く開発してもユーザーさんからは「はよはよ、はよはよ」言われてしまうような世界なんで、いい感じに展開できると逆の辛さが出てくるっていうのを今まさに体験中で、人が入ってきてもあんまり簡単に楽にならないんですよね。運用コンテンツって前の前の歴史をずっと知ってないと結局力になれないんですよ。

どんなに優秀な人でも入ってきて1~2カ月でバンバンパフォーマンス上げるって無理で、昔からの歴史をずっと知ってる人でしか頑張れないので、いたずらに人数増やしても、このコンテンツ売れたから人数増やして倍になったからじゃあ2倍の早さでコンテンツ提供できるかってそういう結論にならないので、中にいる人に頑張ってもらって成長してもらってっていうのはどうしても不可欠になってますね。

小野:この採用面、人事面の問題って本当に業界的な構造的な問題で、今後モバイル業界、モバイルゲーム市場が伸びてく上ですごい大切なテーマなんじゃないかなと思うんですが、その中で先を行ってるグリーさんやDeNAさんっていうのは採用面、人事面、何か工夫されてることって何かありますか?

「怪盗ロワイヤル」は運用効果でまだ伸びている

小林:先程荒木さんの話にもあったんですけど、運用は運用で確実に得るものがあるし、精神力が必要だし、特に精神力が必要だと感じるのは「結果がすぐ出ちゃう」ことで、自分の出したものをユーザーに問うてみて「はい、ハズレ」っていうときの恐怖感が半端じゃないんですよ。特にブラウザで成功した会社ほどあると思うんですけど、月初の日って本当に寝られないと思うんですよね。1月1日とか本当に嫌だと思うんですよ。若いうちからあのクラスの恐怖感を味わうことって実はなかなかできない。でも運用を通して、みんなすごくタフになってくるんです。

武士っぽくなってくるんですよね。その武士っぽさをみんなだんだん誇りに思ってこれるっていう。そういうところに誇りを持てる集団、インセンティブ、モチベーション作りっていうのはずっと運営していく中でいろいろ意識してきたことだなと思います。また、グリーさんと同じだとおもうんですけど、寿命が長いタイトルで、長くやってるんだからどうせこれ以上変えることねーだろみたいなことは実はなくて、長いタイトルほど大胆な冒険をしてたりするんですね。

例えば最近の例でいうと、「怪盗ロワイヤル」ってもう下がってる一方だと思うじゃないですか。実は上がってるんですよ、売上。もう3年以上やってますけど、結構上がってます、億単位で上がります。ガラッて変えていくんですよ、メンバーもやり方も。僕も「釣りスタ」見ててガラッと変えるなと思いましたし、運用は運用なりのすごいチャレンジをしてくるなっていうのはありますね。

そういった運用の経験と新規を作るところでは、通ずる点もあるしまた違うちょっとジャンプしなきゃいけない点っていうのもあって、そのジャンプしなきゃいけない点を超えていくにはもう打席に立つしかないと思っています。精神力を持ってるやつがいかに打席に立つかっていう。打席に立つ中で選球眼がよくなるみたいなところなので、そういう意味では組織的に意識することは、まず打席に立てる機会を増やすっていうのを意識してます。

小野:とにかく打席に立たせる環境を作るということでしたけど、グリーさんのほういかがですか?

小さなチームで高頻度にチャンスを与える組織づくりが大事

荒木:はい、僕も過去半年くらい、組織の構造から役割から結構いろいろ手を入れてやってきました。まず、いわゆるゲームプロデューサーとかプロジェクトマネジメントをする人と、ゲームデザインやクリエイティブを監修する人、その両方を高い能力で両立している人は非常に少ないですと。これはかなり限られていますので、誰か一人のスーパーマンが頑張って何タイトルも見て組織を大きくするよりは、チームワークでやりましょうということを最初にやりました。

今いくつかうまくいってるプロジェクトっていうのは、超クリエイティブな人と組織とかプロジェクトをきっちりマネジメントする人の二人三脚でうまく回っている状況です。一人に求められる役割っていうのをある種分けていき、その分けた役割ごとにちゃんと能力高い人を組み合わせて、チームワークでやらせることをすごい意識してます。

またですね、今の小林さんの話にも通じるのですが、最前線の打席に立つということがとても重要だと思っています。僕がここに着任した当時、例えば部長クラスで見てるプロジェクトが5個ありますとか10個あります、見てる人数は30人くらいいます、みたいな人も何人かいました。その中でうまくいってるやつがあればいいんですけど、特にうまくいってなかったので、とにかく全部バラしました。

部長であれ「あなたはこのプロダクトの責任者です、このプロダクトがうまくいけばおめでとうだし、うまくいかなかったらはずれたね」といった、このプロジェクトをなにがなんでも成功させるみたいな状況を作り出すことをすごい意識しました。なので、組織を非常にフラット化して、区切るというか、縦割りという意味ではなく、プロジェクト単位できちんと分けて、私はこれしかやることはありません、その代わりこれにドップリ100%コミットしますという状況をたくさん作りました。

あとはその打席の数という意味で言うと、やっぱり立てる打席の数が重要だと思います。期間あたりに立てる打席数を上げるためには、先程言ったようにプロジェクトを小さくして、たくさん立たせる。打席数を増やそうと思うと、今まで経験や実績という意味ではそこまで高くないけれども、打席に立たせてあげたい人いっぱい出てきますよね。

ただそういう人たちに10カ月と2億円を渡すわけにはいかない。でも2人のチームで3週間だったら任せられる。コストは一定の割合にちゃんと収まってると担保した上で、チャンスをいっぱい与えていくというようなことをして、できるだけフラットに、小チームで、かつ高頻度でオペレーションを回せる組織を作ることが、中長期的には組織の開発力を上げることに役立つのではないかと考えています。