モンストのヒット要因とは?

青柳直樹(以下、青柳):今回お越しいただきましたのは、ネット業界の新大魔神(笑)のお二人です。簡単に自己紹介をお願いします。

小泉文明(以下、小泉):小泉といいます。よろしくお願いいたします。もともとは証券会社で、ディ・エヌ・エーとかミクシィとかのIPOの引受業務をやった後、ミクシィのCFOになって、2年ぐらい前にミクシィやめて、スタートアップのメンターというか、そういうようなことをやって、今はメルカリで同じく役員の1人として経営しているといった感じです。

川本寛之(以下、川本):川本でございます。今gumiのCFOをやらせていただいているんですけど、もともと私DBJ(日本政策投資銀行)に新卒で入りまして、コーポレートファイナンスで10年ぐらいやっていて、その中でキャピタリストも4年ぐらいですかね、務めていました。

創業期、間もない頃のgumiに投資しまして、3年ぐらい株主やっていたんですけど、ちょうど2年半、3年前ぐらいに誘われて、CFOという形で入りまして、入ってからも1回潰れかけて痛い目に遭ったという(笑)。そんな感じです。よろしくお願いします。

青柳:今日は、スタートアップ・ファイナンスの実際ということでテーマがあるんですが、その前に、ちょっとお二人に聞いてみたいのが、最近のスタートアップの中ですごいのは、ブレイブフロンティア、やっぱりモンスト(モンスターストライク)。

モンストすごいなというふうに思っていて、ここは元ミクシィ取締役として、モンスト、なぜこれが出てきたのかと。何がすごいのかというのをちょっと解説していただきたいなと思うんですけど。

小泉:もともとやっていたメンバーというのは、新しく社長になる森田であったりとか、もしくは今ゲームのほうでメインにやっている木村とか、結構社歴古めなんですよね。

もともとミクシィのオープン化の過程の中で、ソーシャルかけるホニャララみたいなことをやったときの、それでゲームだけどすごいソーシャル性のあるもの、もともとそれをやりたいと言っていて。

何回かいろんなトライをしていく中で、もう当てないとまずいよねぐらいの、最後になってきたときに、今回初めて当たったという感じで。やっぱりスマホでというのが、すごい大きいなと思っていて。

彼らがやった一番最初の頃はガラケー時代だったので、結構まだまだゲームのUIとか、今回のブルートゥースとか、ああいうのは無理だったじゃないですか。その辺が結構大きいなとは思っていますね。ずっとやっていて、やっと花開いたっていう。

ヒットを引き寄せる、”持っている”経営者とは

青柳:昔、内製ゲームやりませんとか言っていた会社が、今や上場時の時価総額を超えるところにゲームで来て、やっぱりミクシィという会社は5年に1回当たるように、何かそういうスイッチがあるんですかね?

小泉:何かね、笠原さんはやっぱり僕も持っている経営者だなと思っていて……。もともとFind Job !もかなりいい感じで、あれだけでも上場できるような規模ありますし、当然その後ミクシィやって、今回のゲームは彼つくってはいないですけども、彼の何か持っている空気の中で、人が集まってきて結果が出ているので、やっぱり、持ってる経営者っているじゃないですか。

(DeNAの)南場智子さんもそうは言っても、結構当てたりとかしているんで、それはすごい経営者の運じゃないですけど、懐の深さというか、そういうのはやっぱりあるかなと思いますね。

CFOがCEOを選ぶ軸

青柳:ちょうどその笠原さんの話になったので、ぜひちょっとお二人に、自分のCEOへの愛をちょっと語っていただきたいなと思っていて……。

川本:愛?

青柳:なれ初めというか、どこの会社のCFOをやるかって、その瞬間1個しか選べないわけじゃないですか。いろんなCEOの方がいらっしゃって、皆さん魅力的で個性があってという中で、今この人と結ばれた何か強い理由が何かあれば。

どこら辺がこの人の憎めないところなのか、いいところなのかみたいのが、笠原さん、国光さん、(山田)進太郎さんということで、ちょっと聞いてみたいなと思うんですけど。まずは笠原さんのあたりから。

小泉:笠原さんで言うと、最初はプレゼンというか、証券会社だったんで。行って、世界初のSNS上場みたいな提案書で、かなりかっちりしたいい提案持っていったんです。

でも結果、それで主幹事は変えてもらったんです。もともと違う証券会社でFind Job !で準備したんですよ。ミクシィがFind Job !で準備したんで、その証券会社からは出会い系っぽいからやめてくれみたいな……。

ミクシィだけでなんかもう、営業利益やっぱり三、四億円出ていたんで、普通はそうですよ、こんなリスク高いのやめてくれと。ただ、ミクシィがメインになります、これプラットホームになりますみたいな話になったときに、それを評価してもらったんです。

ただ、顔を見ていると全く評価していると思えないんですよ(笑)。超無表情。え? みたいな。終始無表情なんですけども、たまに言う、その一言一言が結構的確だし、どちらかというと僕と目線が全然違っていて、基本的に違う目線のある経営者とやりたいなとずっと思っていて、そこで何か、素直な意見として尊敬できるなという。年齢も5歳ぐらい違い、笠原さん5歳上なんですよね。

なので、そこら辺も含め、尊敬できるなというので一緒にしてみようといった感じですね。僕的には口数の少ないお兄ちゃんみたいな感じなんですけれども、ただ一方ですごい彼の思っているビジョンとか、考えをどうやって落とし込むのかみたいな、それが本当自分の一番の仕事かなと思って、ずっと一緒にやっているという感じですね。

考えが全く違う人と事業を大きくしていく

川本:そこを逆に、やめるときって、何かきっかけはあったんですか?

小泉:やめるきっかけとしては、何か僕自身が、小さいのを大きくするのが結構好きなんですよね。ミクシィが大きくなる過程で、僕も26から役員やっていたんですよ。30とかになったときに、どんどん優秀な人が増えてきて、意思決定の仕事はたくさんあるんだけれども、何かもっと自分でまた汗水垂らして小さいのを大きくしたいなと思って。

何か大きくなればなるほど、自分としてはもっと、また小さいのを大きくしたいみたいな、それがあってやめたという感じですね。

川本:でも、起業家になろうっていう感じでもなかった?

小泉:ああいうのは向いていないと思うんだよね、何となく、性格的に。そういうタイプじゃないなと思っていて。どちらかというと、自分の考え方と全く違う人と一緒にやって、より大きいものをつくりたいというか。

より大きいものをつくるためには、より優秀なメンバーをたくさん集めるべきだと思っていて、初期に。それを一緒につくれるメンバーであれば、役職、正直何でもいいかなという。

メルカリの経営チーム

青柳:確かに経営チームの中で、先ほど年齢の話や、視点の違いみたいなところ、特にトップレベルでそういう多様性がないと、会社はどっかで限界を早く迎えやすいというのはありますよね。確かにいろんなビジネスのディールが来て、笠原さん出ていって、話しても無表情で、案件進まねえ! みたいな。そういうところは、全部……。

小泉:そう、全くそこは、僕ら、原田さんと3人だったじゃないですか。全くキャラクター違うので……。

青柳:そうですよね

小泉:全然違うんですよ。でもこれだからバランスがとれているというか、何か全然似ていないというので、それがいいかなと思っています。

青柳:そういう似ていない、違う人を受け入れるのがやっぱりCEOの器量みたいなことなんですかね。

小泉:それはあると思いますね。だから(メルカリの)山田進太郎さんの話に続くけど、進太郎さんと僕も結構考え方違いますね。

青柳:どんなところが違うんですか? 先に進太郎さんのほうに行きましょう。

小泉:進太郎さんはロジックも含め、すごいしっかり考えて、一歩ずつ詰めてくという感じですね。

青柳:小泉さんもそんな感じかなと思うんですけれども。

小泉:僕、もうちょっとザルですね(笑)。どちらかというと、CFOじゃないというか、わぁーと方向性を見せて、よし行くぞ! という感じで……。

青柳:何かここはみんなそういう、僕も含めてかもしれないですけど、ザルだけど、わぁーという……。

小泉:そう。事業のほうをわぁーっとやってみて、後から何となくロジックつくったりとか、数字的に検証するんだけど……みたいなことで言うと、その辺はちょっとアプローチの仕方含め、違う面は多少。あと性格含め、違う面はあると思いますね。

CEOによって働き方は変わる

青柳:なるほど。でもネット業界のCFOの1個の成功パターンですよね。たぶん長谷部さんとかもそうですけど、わぁーといって、ロジックが後からついてくるというタイプの。まあ違うかもしれないんですけど(笑)。

川本:いやいや、うちなんかもうロジックをつくらないとどうしようもないんで。国光さんがあんな感じなので。

青柳:そうそう、国光さんがあんな感じって、何か外で見ていると、国光さんというのは、もう本当に奇想天外で、自由な方で。でも僕は、ちょっと違う、誤解されているところあると思うんです。世の中の人が思っているよりも、国光さんというのは結構慎重だし。

川本:そうですね。すごい、そうですね。リスクに対しての認識というか、過度なまでの反応をするタイプなので。だから、いろんなことやるときに、基本的には前例という言葉を嫌がるんですよね。これが前例だから、こうしましょうみたいなロジックを「それはロジックじゃない」と言って否定するタイプなので。

すべての可能性を自分で検討した結果がこれですというような、それがアプローチとしてポジティブであれば、彼は採用するし、それに対して一応リスクはここにあるけども、これは大丈夫だと判断していますみたいな、そういう形が、彼はすごく好ましいというか。一緒にずっとやっているとそんな感じはするので、自分の仕事の仕方も、大分そういう意味で変わりましたよね。

青柳:なるほど。やっぱりCEOによって、自分の仕事の仕方も変わると。

川本:全然変わりますよ。

青柳:確かに、国光さんと一緒に仕事をすると、何か人生変わりそうですよね。

gumiは3回潰れかけている

青柳:何かやっぱり、国光さんとか、メタップスの佐藤さんとかぶっ飛んでるじゃないですか。こういう人たちとつき合っているとどうなのかな? その中でもCFOというのは、あるときは、例えば創業者で、オーナーで、株を持っていて、必ずしも会社のインタレストと一致しないときとかあるじゃないですか。

多分CFOが会社のインタレストを代表すると思うんですけど、会社とか、ほかの株主に。そういうときに、国光さんとけんかしたりとかしないんですか?

川本:まあ、けんかというのは基本的にはあまりなくて、実際はどっちかというと、彼が言うロジックなり考え方が、未来に対して基本的に正しいアプローチだと思うことに関しては、あとはもう私が全部埋めていくしかないので、特に外部調整のところは。

青柳:でも何か、前例がないからこれでやろうといって、もうそれだと会社潰れちゃいますよみたいな局面が、gumiさんはあったと思うんですけど(笑)。

川本:3回ね(笑)。

青柳:そういうときの国光さんと川本さんは、どういう会話をして、どういうふうに意思決定してきたか、みたいなのが。

川本:それに関しては、直近だと去年ぐらいかな、潰れかけたじゃないですか。あのときも、何月までは頑張れると。ここからここがイエローです、というところを少し幅をとって、かつ、手前に倒しておくという。どうせディレイしていくので。彼の考え方からすると。

ぎりぎりはいつなんだ、デッドラインはどこなんだみたいな部分は、ちゃんと考えてやっているところなので。ただそのときに、いつまではやれるから、それでだめだったときのことは、こういう選択肢を一応持っときます、という形で常に考えていますね。あまりネガティブなトーンでトークをするということは、ほぼないですね。

基本的にはもうポジティブに、うまくいけばいいけど、悪かったときも、こうしましょうということで、そこに関しては一応納得してくださいということで、ある意味お願いしますよね。

CFOは「ブレーキ」じゃない

青柳:確かに、僕も昔のことを振り返ると、特にゴン! と行くタイプの経営者のCFOというのは、動き方があると思っていまして。グリーも最初、グロービスさんから1億、その後KDDIさんから4億円ぐらい入れていただいたあと、IPOまで2年半、何もやってないんですけど、その間も僕は確かにいろんな会社と話をして、常に3カ月後に資金調達できるように動いていましたね。

川本:いつもおっしゃっていましたね、そこは。

青柳:川本さん、僕、横で取締役として見ていて、それを徹底的にやられているんで、すごいなというふうに思っています。

川本:そうですね、本当、お金全部使っちゃう人なんで(笑)。

青柳:お金集めると使っちゃうから、集めないほうが (笑)。

川本:そうすると、私の首が飛ぶんで(笑)。さすがにそれは、CFOだからというんで。

小泉:集めてこい! みたいな(笑)。

川本:そこはしょうがないので、でもCFOというのは、結局、よくブレーキとかっていう言い方をする人がいると思うんですけど、それはちょっと違うなって思っていて。ちょっと違う方向行きそうなときに、何というか、ハンドルに手を添えてあげるみたいな。そこのコントロールをあまり失わない形で、だあっとずれていかないようにすることをやる役だなと。それと、アクセルの部分と。

小泉:何かそういう意味で言うと、僕なんかが思うのは、まさしくアクセルで言うと、お金というのは何か集めるほうを注目されるんですよね。調達額とか集めるほうは注目されるんだけど、実際はどう使うかとか、どういうところへ張るかのほうがCFOの腕の見せどころというか……。

青柳:本当にそうですよね。

小泉:事業を本当に進められるなとか、そこやっぱりすごい重要なので、あまり集めるほうじゃなくて使ったほうもちゃんと注目されたいなというか。

アプリのテレビCMは効果があるのか

青柳:そうですね、そこら辺のちょっと話をしていきましょうか。お金の使い方というところで、今までどのぐらい集めてきて、どう使ったのか。そこにある思いみたいなところをそれぞれお伺いしたいなというふうに思うんですけど。

小泉:僕のほうからメルカリで言うと、去年2月に会社つくって、7月にサービスローンチしているんですね。トラックもすごい短い中で、最初のエンジェルラウンドでEV(イーストベンチャーズ)から5,000万。ユナイテッドさんがちょっと遅れて3億。直近今14.5億で、トータル18億ぐらいやっているんですね。

基本的に僕ら今、売上ゼロなんですよ。もう、C to Cのマーケットプレイスは1社しか勝たないと思っているので、思いっきり面をとるというのに対して、本当に純粋に信じて、それをいかに最短でできるかといったところから逆算してお金を使っていると。

直近で言うと、集めたお金は今テレビCMやっているので、認知度であるとか、そこも含め今使って、圧倒的に勝とうというのが今のステージという感じですかね。

青柳:今、二けた億円集めてテレビCMに使うみたいなのは、ちょっとトレンドみたいになっているんですけど、これについては賛否両論あるなと思っていて、どう? 客観的に。

小泉:ゲームアプリとテレビCMというのはすごい相性が良くて、世代というか、皆さんやっていて。今、僕らがやっているのはゲームじゃないアプリとテレビCMはどうなのかみたいなところですね。

メルカリで言うと、結構ユーザー層がかぶっているところであるとか、もともとすごく、テレビと親和性が高いところでやっているというか。そういうCMを見せて、配信して、効果は思ったより良いのか悪いのかというと、思ったよりは良いかなとは思っていますね。ある程度、まだまだ僕らもレビューし切れていないんですけれども、成功モデルになっていくんじゃないかなという……。

ホットなマーケットに感じる崩壊のシグナル

青柳:1個だけ最後、小泉さんに聞いておきたいのが、この2けた億円を調達できる局面というのは、事業がうまくいっているというのと、同時にやっぱり世の中がホットかというので、今そういうタイミングだからみんな2けた億円とれていると思うんです。

ここでCMに使うというのもあれば、人の採用もやられていると思いますけど、があっ! とやるのもあれば、あとは、これはあまり言いたくないんですけど、これからマーケットが悪くなるかもしれないから、潜るために時間を買っている部分というのはある。

それとそのテレビCMにお金使うというのは、ある種逆行していて、しかもマーケットがこれから崩れるかもしれないなというのも、ちょっとシグナルを感じるんですよね。

小泉:わかりますね、わかります。

青柳:僕らもグリーベンチャーズやったり、フジテレビさんがファンドやったり、いろんな会社がファンドレイズして、ファンドの規模が大きくなって、これ自体すごい良いことだと思っている。

この人たちがお金を使っている限りにおいては、多分そのプレIPOのマーケットには、お金がまだ当面流れ続けるかなと。ただ最近IPOのマーケットって……。

小泉:そうなんですよね。ちょっと怖いですよね。

制作協力:VoXT