2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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星加良司氏(以下、星加):みなさんこんにちは。ご紹介いただきました東京大学の星加と申します。本日は30分ほどお時間をいただいてお話しをさせていただきます。よろしくお願いいたします。
今、障害関連の研究を行ってきたとご紹介いただいたんですけれども、近年は、このダイバーシティあるいはD&I、ダイバーシティ&インクルージョンの問題について、ビジネス組織においてどう広めていくか、浸透させていくかに関心を持って、研究活動を行っています。
今日はそうしたD&I、とりわけですね、インクルーシブ・リーダーシップという近年注目されている考え方について、その考え方が生まれてきた背景ですとか、骨子といった一番エッセンスになる部分についてお話しができればと思っています。
まず、近年D&Iというかたちで、ダイバーシティとインクルージョンはセットで語られることが多くなってきているんですが、さらにそこに、エクイティあるいはイクオリティという「E」という頭文字で始まる概念をつけて、DE&Iという言い方も出てきています。
ダイバーシティという問題が着目され始めたのは、日本では比較的最近、ここ10年、15年ぐらいで、一気に社会的な認知度が上がった言葉というイメージがおありなのではないかなと思います。
ダイバーシティ、さらに踏み込んで言えば、これまで社会の中で十分に活躍の機会を与えられてこなかった社会的なマイノリティの参加を促進し、組織あるいは社会全体の中で十分に能力を発揮していく状態を作っていくという課題が、ダイバーシティ推進というかたちで定義され、さまざまな領域で進められてきたということはみなさんご承知のとおりだと思います。
こうしたダイバーシティを進めること、あるいは社会的なマイノリティの参加を促進することにどういう意味があるのか、意義があるのかについて、あらためてのおさらいになりますが、一応確認しておきたいと思います。
大きく分けて、2つの観点があるかなと思っています。1つは規範的な観点とスライドに書かせていただきましたけれども、私たちの社会はどうあるべきなのか、あるいはどうあることが正しいのかという観点ですね。
「べき論」という言い方をしたりします。私たちが追求すべき社会の状態は何なのかと考えた時に、一番オーソドックスに、みなさんが共有している感覚として「機会の平等」は最低限満たされているべきだろうと。
そのことによって公正な社会、フェアな社会が実現する。私たちは基本的にはそういう社会を目指していくべきだという、この共通了解はあるのではないかと思います。そうした点で考えていくと、これまでいわゆる社会的なマイノリティが、十分な社会参加の機会を与えられてこなかった。
例えば、管理職に女性が少ないとか、障害者の雇用がなかなか進んでいないとかですね。あるいは日本においては、外国籍あるいは外国にルーツを持つ人の比率が低いとか、活躍の機会が限られているとか。
そういうかたちで、みなさんの所属する組織においても、あるいは日本社会全体を見ても、ある種の偏りが生じているとはよく指摘されるところです。
非常に有名なところではジェンダーギャップ指数があります。これは日本は世界の中で非常に低い位置にあることがしばしば問題になったりもします。こうした状況が、ダイバーシティが進んでいない状態ということになるわけですけれども、そうした状態はそもそも機会平等が実現していない社会なのではないか。
そうした人種とか性別とかによって私たちの能力差がどのくらいあるのか。よくジェンダーの違いと脳、それぞれの性に対応した脳の機能との間に関係があるみたいな話が、ある種の疑似科学として語られることがあります。けれども、それはまったくの誤りではないですが、あったとしてもわずかな差なんです。
人種とか性別よりも個人差のほうが圧倒的に大きいことは、科学的に知られていることです。そう考えると、個々人の持っているポテンシャルはそんなに差がないはずなのに、結果としてすごく活躍機会の比率に差がある状態が生まれているとしたら、それはそうした差を生み出すような何らかの社会的な要因が働いているはずです。そうだとすると、それはある種、機会平等に反するわけですよね。
そうした社会的な要因の力によって、人々の機会が左右されて、その結果として実際に活躍する場面が限られることが起こっているとすれば、これは機会平等に反するということで、まず私たちはそういう社会を是正する必要があるよねということが、大きな文脈としてはコンセンサスになっているのではないかなと思います。
ここまでの話は、正しいやり方を目指していくという堅い話なわけですけれども、さらに、このダイバーシティを進めていくことには実利的なメリットもあることが注目されるようになってきました。
ある意味ではビジネス領域において、このダイバーシティというテーマがクローズアップされてきた背景には、この実利的な観点への注目が高まってきたことの反映でもあるかなと思います。
ではダイバーシティの推進、マイノリティの社会参加の推進が、どういう形で組織全体あるいは社会全体にとってのメリットにつながっていくのか。これも、時代とともに少しずつ考え方がシフトしていっているんです。
はじめは、これまで十分に活用できていなかった人材を、十分にその能力を活かしていくことによって、これまで埋もれていた人的なリソースを掘り起こして、有効に使っていくことができる。この観点から、ダイバーシティの推進、社会的マイノリティへの着目が進んだ側面があります。
こうして埋もれていたマイノリティの能力を掘り起こして、引き出していくアプローチによって、ある程度社会全体にとってのメリットにつながってきたわけです。ただ、このアプローチは次第に限界を迎えていきます。
確かに、マイノリティの中に隠れていた非常に有能な人を労働市場の中に組み込むことによってメリットを得ることが、ある時期まではうまくいったんです。
しかし、そんなスーパーな能力を持っている有能な人材がいくらでも埋まってはいないわけです。ある程度掘り尽くしたら、そこから先はなかなか掘っても出てこない。あるいはすごく深くまで掘らないと出てこないことで、むしろそれがメリットにならなくなる。
そうなった時に、それでもまだ、社会的な格差が残っている状況で、ダイバーシティを十分に組織全体にとって、社会全体にとってのメリットにどういうかたちでつなげていくのか。スライドには、直感的にわかりやすいイメージで「文殊の知恵」型ダイバーシティと書きましたけれども、日本のことわざに、「3人寄れば文殊の知恵」という言葉があります。
普通3人寄れば3人の知恵なはずですが、それが3人の力を超えて、飛躍的に拡大することを表現した言葉ですね。このダイバーシティを巡る議論においても、こういうことがありうるのではないかと注目されるようになったんです。
個々人の単位で有能な人が隠れているはずだから掘り起こしてこようというアプローチは、基本的には足し算の発想ですよね。その埋もれていたマイノリティの能力を一人ひとり活かしていこうという。
それで有能な人の分だけ全体にとってのメリットになるという考え方ですけれども、実はそれだけじゃなくて、異なるものが相互作用で、ぶつかり合ったり、時には対立しあったり、お互いに相容れない部分をぶつけ合ったりする。そうした化学反応を通じて、新しいものが生まれてくるという考え方ですね。
とりわけ過去の延長上の成功ではなくて、過去の延長からブレークスルーを起こして新しいものを生み出していく。そういうイノベーションを起こしていくためには、実は異質なもの、多様なもののぶつかり合いが重要です。
そのためにはまさに異質なもの、多様なものが同じ場にきちんとインクルードされて、それらが相互作用していく、ぶつかり合っていくような場面を作ることが必要になってくる。
そのことによって新しいものが生まれてくるのが、この「文殊の知恵」型ダイバーシティと、スライドに書かせていただいたものです。これに着目して、それをうまく組織としてマネジメントしていくことが、実はダイバーシティをメリットに変えていく非常に重要な考え方だということが、ここ10年、15年の間で、日本の中でもかなり浸透してきたかなと思います。
そうしたイノベーティブな状況を作り出すためのダイバーシティを考えた時に鍵になるのは何か。先ほど、異質なもの、多様なものがぶつかり合うことが重要だとお話ししています。逆にぶつかり合わない状態は、これまで組織の中で幅を利かせた考え方がそのまま通っていく状態ですね。
これが何のぶつかり合いもなくスムーズにことが動いていく状態だと思うんですね。ただそれをやっていると、過去の延長上の成功は得られるかもしれないけれども、新しいものは生まれてこない。
繰り返しになりますけど、新しいものを生み出すためには異質なものがぶつかり合う局面を作ることが必要です。そう考えると、従来の組織の中で幅を利かせていた人がそのまま幅を利かせているような状態を変容させ、変えていくことが必要ということになります。
つまり組織の中での意思決定の力学みたいな、あるいは指示命令系統の階層性、ヒエラルキーみたいなものを揺るがしていく、そのあり方を変えていくことが必要です。
それを通じて、むしろマイノリティ側、つまりこれまでの組織の中ではあまり幅を利かせていなかった、居場所があまり得られていなかった考え方とか、意見とかを組織の意思決定の中に組み込んでいく。あるいはそういう人たちがきちんと発言をし、異論を唱え、自分の考え方を表明できるような状態を作っていくことが重要になる。
これがある種の必要条件として存在しないと、ダイバーシティが文殊の知恵に変わる化学反応が起こってこない。ではそういう状態をどう作っていけばよいのか、これが、組織マネジメントの重要な課題になってきたわけです。
その時に出てきたのが「インクルージョン」という考え方ですね。単にダイバーシティを高めるだけではそうした化学反応が生まれる状態には至らないので、ダイバーシティに加えて、重要となる考え方としてインクルージョンが登場した。
つまりその社会的なマイノリティを含めた多様な存在、多様な価値観、多様な意見がそれぞれ尊重され、均等な機会を与えられる。あるいはそうした多様性を持った人たちがきちんとその場で居場所を感じられて、自分がメンバーとして正当に認められているような感覚を持つ状態ですね。
自己肯定感を含めて、そういうものがあって初めて、そういう人たちの意見が組織の中で反映されていく状態になっている。ということで、このインクルージョンを必ずセットで考えないと、ダイバーシティは絵に描いた餅になってしまうと指摘されてきたわけです。
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