幸せになる手段としてのティール

塚越寛氏(以下、塚越):岡田さんにも聞きたいんですが、モチベーションって会社経営でもスポーツの世界でも1番大事じゃないの。どう思います?

岡田武史氏(以下、岡田):それはもう、1番大事です。フラットな組織にして権限を移譲するというのも、「本人が自分でやっている感覚を持たせたい」という思いなんですよね。

塚越:だから会社経営でも、モチベーションを上げたり、やる気をどうやって起こすかって、やっぱり幸せを与えなかったらやる気なんて起きないんじゃないの? 「あなたは幸せになるよ」という仕組みがないと。ティールはそのための手段でしょ?

嘉村賢州氏(以下、嘉村):そうですね。まさに手段です。まず、たった一度の、一人ひとりそれぞれの人生があるので、経営者と従業員という古いマネジメントにすると、その人の人生が台無しにされてしまう。それを取り戻そうよというのは、本当に大事にしているところです。

岡田:「自分はどんどん成り上がって、将来は海外で起業していこう」というのを幸せというか自分の夢だと思っている人もいれば、「いや、私はもうこの地元で、給料も上がらなくていいから淡々と幸せに暮らしていく。それが幸せだ」という人もいるように思うんですね。そのへんはいかがでしょう?

夢や希望は末広がりで広がっていくもの

塚越:淡々としているようでも、末広がりじゃないといけないと私は思っているわけ。末広がり。だんだんよくなっていく。

昔から八の字は縁起がいいって言いますよね。自動車のナンバーに「8」をつけている人はいっぱいいるよ。それは縁起がいいから。算用数字がいいわけじゃなくて、漢字のこの末広がっている形がいいわけですよ。これは昔からみんな末広がりって知っているわけ。だんだんよくなる。

だって、だんだんよくなる形にこそ希望だとか夢だとかって存在するけど、だんだん下がっていく世界・会社に夢も希望もありますか? あるいは、こうやって上がったり下がったりしていたら、夢も希望もない。ただし、多少はあっても、右肩上がりでいったら、自分の賃金が上がるとかいろいろ夢もあるんだよ。

夢というのは、本当に必要だと思うんです。だんだんよくなる。末広がり。私はそういう会社の経営をやってきた。だから、ブームというのがあって、ある程度はばらつきましたけど、それ以外は50年間ほぼ右肩上がりでずっときてますから、弊社にはいつでも夢も希望もあるわけですよ。

崔真淑氏(以下、崔):すごい。

岡田:おっしゃるとおりです。夢というのは、サッカーの世界でも経営でも一緒でね。ある外資系の社外取締役をやっていて、トップラインはガンガン右肩上がり。ものすごい勢いなんだけど、離職率が30パーセントだった。

みんなで「どうする? どうする?」と話してました。最後に「岡田さん、なにかアイデアないですか?」と言うから、「いや、ある意味で人間って弱いから、ストレッチした目標を与えるのはしょうがないかもしれん」と。アイデアは、「どうしたらいいんだろう?」と考えてアイデアが出てくる。

「でも、それだけじゃ保たないんじゃないか」と。「俺がここへ来て2年、みんなが夢を語っているのを1回も聞いたことがない。『この会社をこういう会社にしたい』『この会社から社会をこう変えたい』と1回も言ってないじゃないか」と言ったら、シーンとした。それからなぜかは知らないんだけど、今13パーセントぐらいに落ちている。

青野慶久氏(以下、青野):おお、すごい。

岡田:だから、おっしゃるように絶対夢がないとダメなんでしょうね。みんなに夢を見させるのも。俺はある意味ハッタリに近い夢を見させて、いろんなやつが全国から集まってきてくれてたんだけど、4年ぐらいしてくると「やりがい詐欺ちゃうか」と、みんな思いだすのね。

青野:(笑)。

岡田:ここで、次の手を考えなきゃいけないときにきていると。なので、あとでまた教えてください。お願いします。

夢が福利厚生でもいいじゃないか

塚越:本業じゃなくても、夢って、例えば福利厚生だっていいじゃないですか。うちが旅行をやっていたのもそうなんですよ。

48年前からよくやってきたと思います。昨年はね、ちょっと自慢話で恐縮ですけれども、60周年だったから、会社が少しだけ盛ったんですね。それで、みんなも貯金してたから「さぁ、どこ行くか」と計画を立てたら、1番遠いのがマドリードでしたね。「スペインでサッカーの試合を見てきた」と、喜んで帰ってくるわけ。

それから、アメリカに行った連中は、大谷選手のあの試合を見て、ちょうどそのときにホームランを打ったと、ものすごい感激して帰ってきてました。あるいはハワイとか。メルボルンの連中はすごい。メルボルンに行った連中は、レンタカーとレンタルバイクで、みんなで4日間で1,500キロ走ったんです。

あるとき、ニュージーランドのクライストチャーチに行ったときは、クイーンズタウンまで530キロぐらいあるんですね。うちの連中は変わっているんですよ。レンタカーとレンタルバイクを予約していって、ホテルまで夕方の17時頃までにみんなバラバラでいいから着けと。そしたら、レンタカー・レンタルバイクでみんな知らない道を行って、ちゃんと定刻に集まった。

ついていった添乗員が「僕はどうやって移動したらいいか?」と困ったらしい。そして、うちのレンタカーに乗せてもらったという笑い話があってね。昔から海外旅行をやっているので、そういう積極性が出てきますね。これも幸せのかたちの1つでしょ。自信と経験です。

だから、いろんな経費節約じゃなくて、そういう楽しみを与えてあげると、そこから派生してくる幸せだってまたたくさんあると思うんですよ。旅行だけではなくて、自己啓発というのもあるでしょう。

ヒエラルキーをなくすことがティールではない

青野:岡田さんのところはやっぱり、岡田さんが輝く太陽のようにいらっしゃるからね。みなさん、ものすごい吸収力というか吸引力・魅力でいらっしゃいますよね。でも、4年ぐらい太陽を見続けているとちょっとしんどくなるからね。そうすると、まさに「もう少し緩やかでも、末広がりな世界を見たい」という人も出てこられているのかもしれませんね。

塚越:青野さんだっていろいろ気を遣っている。おたくのオフィス、ユニークじゃない?

青野:そうですね。やっぱりまずは、岡田さんがヒントをおっしゃってたように、やっぱり人それぞれ違うのかなと思いましたね。ある意味「Red組織を望んでいる社員だっているよ」という前提というか、「そのほうが自分にとっては働きやすいんですけど」という方には、やっぱりある意味ティールを求めると重荷になるわけです。このへんは、一人ひとり顔を見ないといけないのかなと。

岡田:だから、組織の形態とかじゃないんですよね。控え室で塚越さんにお聞きしたら、ちゃんと工場長がいて、課長がいて、ヒエラルキーがある。それをなくしたらティールになるということじゃない。

そうやってきちっと上から命令してもらったほうが安心して働けて、幸せを感じる人もいるわけです。「これしっかりやってきた?」「何か問題あったの?」とやってもらえるほうがいい人もいるわけだと思うんだよね。

サイボウズ流「100人100通り」誕生の裏話

岡田:逆に青野さんが「100人100通り」というのは、どういう意図で言っている?

青野:みんな違うことがわかったということですね。私も最初ベンチャーを立ち上げたときは、ベンチャー企業に入ってくる人ですから、みんな「一攫千金、オー!」というノリで、ガツガツ働いて給料をいっぱいもらえれば、みんな満足だろうと思ったらバタバタ倒れていくわけですよ(笑)。

(一同笑)

一番ひどいとき、離職率は28パーセントですからね。4人に1人が1年以内という。経験したときに「あれ?」と思って、「このテンションで楽しみ続けられているのは僕ぐらいなのか?」というのに気づいて、そこから少しずつ顔色を見ながらやっている感じですかね。

嘉村:まさに、そこにティールというか組織が進化するヒントがあるような感じがします。よくティールも勘違いされるのは、会社何かを導入したらティールになったんだというのではないんです。

やっぱり日々経営していると、いろいろな歪みが生まれるわけじゃないですか。辞めていくとか、なんか空気が悪いとかって。それは身体でいうと病気のメッセージみたいなものです。

「なぜこの病気に罹っているんだろう?」ということを耳にすませれば、「もっと自分で働く時間を決められたほうがいいのかな」というような、なにかしらメッセージのあとの進化があるわけですよね。それを繰り返していくうちに、もしかしたら階層構造がなくなって、今でいうティールっぽくなっているかもしれないしというところです。

ティールにするんじゃなくて、たぶん「その組織のどこが今、傷んでいるのか」とか「どこにワクワクを感じているのか」というところで、柔軟に変化し続ける。だから、ここまでいったら完成でもなくて、絶対よくなってもなにかまだ痛みが出るときがあったら、思い切って変えるというプロセスが大事なんだろうなとは、聞いていて思いました。

岡田:ちょっと……うちの社外取締役かなんかやってくれる?

(会場笑)