利益は「うんち」のようなもの

青野慶久氏(以下、青野):今岡田さんがおっしゃったように、幸せと、勝利だったり利益だったりとを両立させるのが難しいと。塚越さんの『年輪経営』の本に、非常におもしろい言葉が書かれています。私は大好きなフレーズでして、「利益はうんちです」と書いてあるんですよ。

(会場笑)

私、上場企業の経営者をしていて「利益はうんちだ」と思ったことがあまりなかったので、解説していただいていいですか?

塚越寛氏(以下、塚越):いやいや、それはね、そのぐらいのことを言わないと、あまりにもみんなが利益第一主義だから、ちょっと皮肉を込めたんです。

私は渋沢栄一さんの『論語と算盤』という本をたまに読みます。あのなかに「人の名声だとか財産だとかいうものは、その人がいいことをやった結果のカスである」と書いてあるんですよ。それを求めちゃいけない。まず最初はいいことをやれと。同じことが書いてあったのでちょっと自信を持ちました。

健全な会社で良い会社なら、毎年(利益は)出るんだろうと。出そうと思っても出ないんですよね。健康な身体もそうでしょう? 健康な身体なら毎日出るんだから、健康な会社というものをもういっぺん考えてみたらいいなと思っています。

青野:ある意味、うんちが出ているのは、ちゃんと食べて健康な身体であることの証明なのでうんちが出ていなければな健康ではない。それはまずいですね。

塚越:わかりやすくいうと、今日も株主の方がいらっしゃいますよね。経費節約というのは、どっちかというと利益を追おうとすることでしょ。売上ー経費=利益だから、経費である人件費だとかいろんな経費を節約すれば、利益になりますよね。

でも経費も、ある意味ではよその会社の売上じゃないですか。そうすると、日本中が経費を節減したら不景気になるに決まってるんですよ。

青野:なるほど。

塚越:会社は自慢じゃないですけど、経費節約とは言ったことないですよ。「使いなさい」と。

崔真淑氏(以下、崔):すごい。

岡田武史氏(以下、岡田):本当ですか?

塚越:本当です。

:無駄遣いはよくないと思うんですけど……。

塚越:いや、無駄遣いじゃないですよ。必要なものは使いなさいと。

経営者の考える、必要な経費とは?

:必要なもののなかでも、最近の日本企業は研究開発費を削減しているじゃないですか。利益が出ている、うんちが出ているときはどんどん研究開発に使えると思うんですけど、業績が悪いときの研究開発費はどうされてるんでしょうか。

塚越:拙いけれども、私も若い頃からいろいろ勉強してきました。やはり時代の変化が激しいから、それに対応できる体制をつくららなきゃいけない。そのためには研究開発だと思うんです。

したがって、私どもは食品メーカーですが、10パーセントを必ず研究開発にあてると決めたんですよ。その1割にどういう意味があるかは知りませんよ。食品メーカーとしては1割なら多いほうだろうと勝手に決めて、ずっとそれを守ってきています。

彼らも遊んでいるわけじゃないから、なにか出てきますよね。それが業績の安定を担ってきたということです。実はほぼ60年間、右肩上がりで成長しています。はじめの10年はむちゃくちゃでしたけど、あとの50年間は一度も赤字がないし、景気に左右されることもあんまりなかった。食品だから当たり前でしょうけどね。

研究開発にあてたことがよかったこと、あとはファンづくりでしょうかね。会社のファンをつくることを徹底してきた。褒められる会社ではないですけど、一応安定しているのはたしかです。

青野:いや、すごい。

岡田:うちで「経費使っていいよ」と言ったら、一発で潰れる気がする。

(会場笑)

:ただ、メーカーさんとサービス業って違いますよね。

塚越:経費も、常識の範囲はありますよ。必要なものは……例えば、朝出社して電気を消したまま「掃除だから関係ねえや」って暗いところで掃除をやっている。私はそれに怒るわけですよ。「明るくしなさい。朝来たらもう会社が始まっているんです。気分よく電気をつけてやりましょう」「電気をみんなつけろつけろ」とやるわけね。必要なものは使いなさいと。

岡田:トイレを出たのに電気つけっぱなしというのは?

塚越:それはダメですよ。

岡田:ダメですね。よかった。

(会場笑)

塚越:それはダメですよ。

岡田:僕、それにはけっこううるさいんですよ。

青野:嘉村さん、これはティール組織のなかでは、けっこう現場に意思決定権がもう渡されていると。何を買っていいとかね。FAVIの例とかでも、工具を自分の意思で買っていいとか決まってますけど、なんであれにできるんでしょうね。みんな買っちゃったら「経費使いすぎだぞ」と、なりそうなもんです。

ティールに不可欠な「真摯さ」と「信頼」

嘉村賢州氏(以下、嘉村):たぶん、ティールってわりといろんなものがつながっているので、意思決定方法だけ導入しても絶対に使いすぎたりするんです。そもそもやっぱり、全員がその組織の存在目的に関して心が動いていて、組織のことを考えている状態になっているという話と。

もう1つは、特徴的なのが「アドバイス・プロセス」というものがあって、自由に全部を決めるんですよ。ハサミを買うのもそうだし、100万の予算をつけるのもそう。人が足りないから雇ってくることも含めて、誰の承認ももらう必要がなくて全部やれるんです。

けれども、その際に専門性が高い人であったりとか、意思決定で影響を受けそうな人には、絶対にアドバイスを1回もらいましょうと。ただ、そのアドバイスは真摯に配慮しなければならないが、自分で決められるということがあるんですね。

青野:なるほど。

嘉村:その仕組みのなかで、我を突き通す自己決定じゃなくて、本当に真摯に耳を傾けるし、フィードバックするほうも真摯に言うという、信頼関係がまずある状態で自由な意思決定が機能していくという感じは観察してきて思います。

塚越:うちも制限はあるんですよ。「10万円以下なら勝手にどうぞ」とかはあります。ある程度の金額になると、「職場の責任者の許可を得なさい」とかはありますよ。そりゃ。だけど、細かいことは。まぁ10万円あるとけっこういろんなものが買えますので、そこは自由に。

青野:悪さをする人は「じゃあ10万円に分割したら買えるんだな」とか、大企業でよく使ってくる人いるんですよね。「見積もりを20万円以内にしてください。部長決裁になるんで」みたいなね。

(会場笑)

そうはならないですか?(笑)。

塚越:やっぱりその前に愛社心がないとね。愛社心というのか、共同体意識というか。そういうものが大事ですね。

二代目が人心を掌握できないワケ

:ここにいらっしゃる方は本当に名経営者・カリスマの方ばかりで、私はさっきお話をずっと聞いていて、「信頼」というキーワードで思ったことがあるんです。企業のトップの方が「辞めないでコミットしているよ」というのを、社員に対しても、株主に対してもシグナルを出しているから、「よし、信頼関係で真摯に耳を傾けよう」と思うと思うんですよ。

今、日本の大企業の全般で起きているのは、すべてじゃないですけど、3〜5年で社長交代とか、シャンシャンの取締役しかしないとか。そういう状況で「どうせ社長が変わっちゃうんでしょ。どうせ経営陣は変わるんでしょ」と思うと、ティールの信頼関係はできないと思うんですよ。

だから、みなさんはカリスマ経営者として、「俺はコミットしているんだ」というのを出しているのは、すごい重要なのかなと思います。

塚越:変わってもいいと思うんですよね。

:変わってもいい。

塚越:同じ考え方が踏襲されれば。

:たしかに。

塚越:同じ理念があれば問題ない。まあ言っちゃ悪いけど、後の人って自己顕示欲がみんなあるから、自分のスタイルを出したいんじゃないかな(笑)。

青野:新しくなったら自分のカラーを新たに出すというね。

塚越:それも無理ないけどね。あんまり一気に変わると、従業員がいなくなっちゃうよね。

:じゃあ、創業期系の社長と、いわゆる下から上がってきた社長だと、後者のほうが自己顕示欲がある傾向があるんですかね。

塚越:自己顕示欲といっていいのか知らんけどね。いいと思ってやっても、あんまり急激に変わると社員がついていけないということはあるわけよ。だから、基本的な理念はいつでも変わらず、手法は変えてもいいということだと思うんですよね。

青野:それがやっぱり、Evolutionary Purposeのあたりなんですかね。「目的と手段を入れ替えるなよ」みたいな感じでしょうね。

嘉村:どうしてもOrangeの組織の大発明が、リーダー・マネージャーというものに結果責任と命令権限を置いたというところです。上の人からすると「結果を出したら昇給させるし、出せなかったらあげないよ」というのは、ものすごく楽なマネジメントだから、安定できる。

そのなかで出世していった人が最終的に例えばトップに立ったとすると、存在目的よりも結果責任を果たすほうが、どうしてもエネルギーに占める割合が増えてしまう。そういうところから少しずつ組織が方向性を間違っていくのかなという感じはします。

:社内同士の喧嘩でとかにもつながると。

嘉村:そうですね。担当役員制とかいう、かなり悲劇的なものが(笑)。ぜんぜん協力し合わないですし、なにかしらチャレンジをどうしても(しずらい)。失敗から成長があるはずなんですけど、なかなか起こらないですよね。

ティールを阻む、株式会社という組織

塚越:手法と基本的理念とが、ごっちゃになっちゃっている場合もよくないですよね。もっと言ったら、人生たった一度ですからね。ここにいらっしゃる方もたった一度で、繰り返せませんよ。

今は技術が最先端だと思っている方も、けっこういらっしゃるんじゃないですか。あとの20年、30年のほうが最先端に決まっているじゃないですか。だから、今最先端ということはあんまり価値がないんじゃないかなと、思うときがありますよ。

それよりも不変のものは、みんな同じようにたった一度の人生ですよね。たった一度だから、幸せに生きなかったら意味がないじゃない。そこのところをわからせると、社員は変わってくるんじゃないかしら。「たった一度の人生だよ。大事にしようよ」「だから、会社も快適にしようよ」とか「楽しくしようよ」とか。ティール組織というのは、そういうことじゃないかな。

嘉村:本当にそうです。たった一度の人生なのに「なぜ、職場で鎧を着て効率のために動くということを、7日のうち5日しないといけないんだ? 本当の人生をちゃんと生きましょうよ」というところを、ラルーさんは言っているところはあるかなと思います。

:そうすると、「株式会社」という組織自体もどんどん変わってくるかもしれないんですかね。「なんでそういう鎧をつけちゃうのかな?」と思ったときに、「やっぱりそれって働き方とか制度にもかなり依存しているところはあるかな」なんて思っているんですね。

嘉村:まさにそうです。ラルーさんが今のティール組織の状況というのは、馬車の時代に車が登場していったようなものだと。馬車の時代は、道路も砂利道だし、部品も高いし、故障もする。たぶんティール組織は今の時代ではやりにくいと、ラルーさんが正直に言っています。Green・Orangeのほうが幸せだし、利益も上げやすいんじゃないかと。株式制度が四半期ごとというなかでは、本当のティールは今はまだつくりにくいから、そこを変えていかないといけない。

ヨーロッパでは会社法を変えたりとか法律までいって、本当に雇用者・雇用主という上下関係じゃなく、全員が出資者になるような法人形態みたいなところに、法律面からも変えていこうというムーブメントが起こり始めています。日本もそうなっていけばいいなとは思います。

青野:なるほど。それはわかりやすいですね。今の時代だとまだ舗装されていないんですね。

嘉村:そうですね。

青野:逆にいうと、舗装されるとどんどんティール組織が出てくると。

嘉村:世の中でも、舗装されていない道路から高速道路ができて、ガソリンスタンドができて、ガソリンスタンドに合わせたガソリンの蛇口がつくわけじゃないですか。車も社会に合わせて進化していくかたちなので、たぶん株式制度や会社法が変わったりすると、また新しいティール組織が現れる。この連鎖が起こる先には「ティールは運営しやすいね」となるはずですけれども、まだまだそこまではいかないと思います。