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パネルディスカッション 【前編】(全3記事)

岡田武史氏「ティール型組織をプレッシャーに感じる人もいる」 元サッカー日本代表監督が語る現代社会の限界

2019年3月30日、ベルサール東京日本橋にて「チームワーク経営シンポジウム2019 新しいカイシャとティール組織について語ろう!」が開催されました。同日に開催される株主総会に先駆けて行われたこのイベントでは、サイボウズが目指す「チームワークあふれる社会をつくる」と親和性の高い次世代型組織モデル「ティール組織」をテーマに、著者の嘉村賢州氏や伊那食品工業社長の塚越寛氏 など多彩なゲストが登壇し、さまざまな視点からティール組織の可能性についてディスカッションが行われました。本記事では、ティール型組織がなぜ株式会社と折り合いが悪いのかについて語ったパートを中心にお送りします。

利益は「うんち」のようなもの

青野慶久氏(以下、青野):今岡田さんがおっしゃったように、幸せと、勝利だったり利益だったりとを両立させるのが難しいと。塚越さんの『年輪経営』の本に、非常におもしろい言葉が書かれています。私は大好きなフレーズでして、「利益はうんちです」と書いてあるんですよ。

(会場笑)

私、上場企業の経営者をしていて「利益はうんちだ」と思ったことがあまりなかったので、解説していただいていいですか?

塚越寛氏(以下、塚越):いやいや、それはね、そのぐらいのことを言わないと、あまりにもみんなが利益第一主義だから、ちょっと皮肉を込めたんです。

私は渋沢栄一さんの『論語と算盤』という本をたまに読みます。あのなかに「人の名声だとか財産だとかいうものは、その人がいいことをやった結果のカスである」と書いてあるんですよ。それを求めちゃいけない。まず最初はいいことをやれと。同じことが書いてあったのでちょっと自信を持ちました。

健全な会社で良い会社なら、毎年(利益は)出るんだろうと。出そうと思っても出ないんですよね。健康な身体もそうでしょう? 健康な身体なら毎日出るんだから、健康な会社というものをもういっぺん考えてみたらいいなと思っています。

青野:ある意味、うんちが出ているのは、ちゃんと食べて健康な身体であることの証明なのでうんちが出ていなければな健康ではない。それはまずいですね。

塚越:わかりやすくいうと、今日も株主の方がいらっしゃいますよね。経費節約というのは、どっちかというと利益を追おうとすることでしょ。売上ー経費=利益だから、経費である人件費だとかいろんな経費を節約すれば、利益になりますよね。

でも経費も、ある意味ではよその会社の売上じゃないですか。そうすると、日本中が経費を節減したら不景気になるに決まってるんですよ。

青野:なるほど。

塚越:会社は自慢じゃないですけど、経費節約とは言ったことないですよ。「使いなさい」と。

崔真淑氏(以下、崔):すごい。

岡田武史氏(以下、岡田):本当ですか?

塚越:本当です。

:無駄遣いはよくないと思うんですけど……。

塚越:いや、無駄遣いじゃないですよ。必要なものは使いなさいと。

経営者の考える、必要な経費とは?

:必要なもののなかでも、最近の日本企業は研究開発費を削減しているじゃないですか。利益が出ている、うんちが出ているときはどんどん研究開発に使えると思うんですけど、業績が悪いときの研究開発費はどうされてるんでしょうか。

塚越:拙いけれども、私も若い頃からいろいろ勉強してきました。やはり時代の変化が激しいから、それに対応できる体制をつくららなきゃいけない。そのためには研究開発だと思うんです。

したがって、私どもは食品メーカーですが、10パーセントを必ず研究開発にあてると決めたんですよ。その1割にどういう意味があるかは知りませんよ。食品メーカーとしては1割なら多いほうだろうと勝手に決めて、ずっとそれを守ってきています。

彼らも遊んでいるわけじゃないから、なにか出てきますよね。それが業績の安定を担ってきたということです。実はほぼ60年間、右肩上がりで成長しています。はじめの10年はむちゃくちゃでしたけど、あとの50年間は一度も赤字がないし、景気に左右されることもあんまりなかった。食品だから当たり前でしょうけどね。

研究開発にあてたことがよかったこと、あとはファンづくりでしょうかね。会社のファンをつくることを徹底してきた。褒められる会社ではないですけど、一応安定しているのはたしかです。

青野:いや、すごい。

岡田:うちで「経費使っていいよ」と言ったら、一発で潰れる気がする。

(会場笑)

:ただ、メーカーさんとサービス業って違いますよね。

塚越:経費も、常識の範囲はありますよ。必要なものは……例えば、朝出社して電気を消したまま「掃除だから関係ねえや」って暗いところで掃除をやっている。私はそれに怒るわけですよ。「明るくしなさい。朝来たらもう会社が始まっているんです。気分よく電気をつけてやりましょう」「電気をみんなつけろつけろ」とやるわけね。必要なものは使いなさいと。

岡田:トイレを出たのに電気つけっぱなしというのは?

塚越:それはダメですよ。

岡田:ダメですね。よかった。

(会場笑)

塚越:それはダメですよ。

岡田:僕、それにはけっこううるさいんですよ。

青野:嘉村さん、これはティール組織のなかでは、けっこう現場に意思決定権がもう渡されていると。何を買っていいとかね。FAVIの例とかでも、工具を自分の意思で買っていいとか決まってますけど、なんであれにできるんでしょうね。みんな買っちゃったら「経費使いすぎだぞ」と、なりそうなもんです。

ティールに不可欠な「真摯さ」と「信頼」

嘉村賢州氏(以下、嘉村):たぶん、ティールってわりといろんなものがつながっているので、意思決定方法だけ導入しても絶対に使いすぎたりするんです。そもそもやっぱり、全員がその組織の存在目的に関して心が動いていて、組織のことを考えている状態になっているという話と。

もう1つは、特徴的なのが「アドバイス・プロセス」というものがあって、自由に全部を決めるんですよ。ハサミを買うのもそうだし、100万の予算をつけるのもそう。人が足りないから雇ってくることも含めて、誰の承認ももらう必要がなくて全部やれるんです。

けれども、その際に専門性が高い人であったりとか、意思決定で影響を受けそうな人には、絶対にアドバイスを1回もらいましょうと。ただ、そのアドバイスは真摯に配慮しなければならないが、自分で決められるということがあるんですね。

青野:なるほど。

嘉村:その仕組みのなかで、我を突き通す自己決定じゃなくて、本当に真摯に耳を傾けるし、フィードバックするほうも真摯に言うという、信頼関係がまずある状態で自由な意思決定が機能していくという感じは観察してきて思います。

塚越:うちも制限はあるんですよ。「10万円以下なら勝手にどうぞ」とかはあります。ある程度の金額になると、「職場の責任者の許可を得なさい」とかはありますよ。そりゃ。だけど、細かいことは。まぁ10万円あるとけっこういろんなものが買えますので、そこは自由に。

青野:悪さをする人は「じゃあ10万円に分割したら買えるんだな」とか、大企業でよく使ってくる人いるんですよね。「見積もりを20万円以内にしてください。部長決裁になるんで」みたいなね。

(会場笑)

そうはならないですか?(笑)。

塚越:やっぱりその前に愛社心がないとね。愛社心というのか、共同体意識というか。そういうものが大事ですね。

二代目が人心を掌握できないワケ

:ここにいらっしゃる方は本当に名経営者・カリスマの方ばかりで、私はさっきお話をずっと聞いていて、「信頼」というキーワードで思ったことがあるんです。企業のトップの方が「辞めないでコミットしているよ」というのを、社員に対しても、株主に対してもシグナルを出しているから、「よし、信頼関係で真摯に耳を傾けよう」と思うと思うんですよ。

今、日本の大企業の全般で起きているのは、すべてじゃないですけど、3〜5年で社長交代とか、シャンシャンの取締役しかしないとか。そういう状況で「どうせ社長が変わっちゃうんでしょ。どうせ経営陣は変わるんでしょ」と思うと、ティールの信頼関係はできないと思うんですよ。

だから、みなさんはカリスマ経営者として、「俺はコミットしているんだ」というのを出しているのは、すごい重要なのかなと思います。

塚越:変わってもいいと思うんですよね。

:変わってもいい。

塚越:同じ考え方が踏襲されれば。

:たしかに。

塚越:同じ理念があれば問題ない。まあ言っちゃ悪いけど、後の人って自己顕示欲がみんなあるから、自分のスタイルを出したいんじゃないかな(笑)。

青野:新しくなったら自分のカラーを新たに出すというね。

塚越:それも無理ないけどね。あんまり一気に変わると、従業員がいなくなっちゃうよね。

:じゃあ、創業期系の社長と、いわゆる下から上がってきた社長だと、後者のほうが自己顕示欲がある傾向があるんですかね。

塚越:自己顕示欲といっていいのか知らんけどね。いいと思ってやっても、あんまり急激に変わると社員がついていけないということはあるわけよ。だから、基本的な理念はいつでも変わらず、手法は変えてもいいということだと思うんですよね。

青野:それがやっぱり、Evolutionary Purposeのあたりなんですかね。「目的と手段を入れ替えるなよ」みたいな感じでしょうね。

嘉村:どうしてもOrangeの組織の大発明が、リーダー・マネージャーというものに結果責任と命令権限を置いたというところです。上の人からすると「結果を出したら昇給させるし、出せなかったらあげないよ」というのは、ものすごく楽なマネジメントだから、安定できる。

そのなかで出世していった人が最終的に例えばトップに立ったとすると、存在目的よりも結果責任を果たすほうが、どうしてもエネルギーに占める割合が増えてしまう。そういうところから少しずつ組織が方向性を間違っていくのかなという感じはします。

:社内同士の喧嘩でとかにもつながると。

嘉村:そうですね。担当役員制とかいう、かなり悲劇的なものが(笑)。ぜんぜん協力し合わないですし、なにかしらチャレンジをどうしても(しずらい)。失敗から成長があるはずなんですけど、なかなか起こらないですよね。

ティールを阻む、株式会社という組織

塚越:手法と基本的理念とが、ごっちゃになっちゃっている場合もよくないですよね。もっと言ったら、人生たった一度ですからね。ここにいらっしゃる方もたった一度で、繰り返せませんよ。

今は技術が最先端だと思っている方も、けっこういらっしゃるんじゃないですか。あとの20年、30年のほうが最先端に決まっているじゃないですか。だから、今最先端ということはあんまり価値がないんじゃないかなと、思うときがありますよ。

それよりも不変のものは、みんな同じようにたった一度の人生ですよね。たった一度だから、幸せに生きなかったら意味がないじゃない。そこのところをわからせると、社員は変わってくるんじゃないかしら。「たった一度の人生だよ。大事にしようよ」「だから、会社も快適にしようよ」とか「楽しくしようよ」とか。ティール組織というのは、そういうことじゃないかな。

嘉村:本当にそうです。たった一度の人生なのに「なぜ、職場で鎧を着て効率のために動くということを、7日のうち5日しないといけないんだ? 本当の人生をちゃんと生きましょうよ」というところを、ラルーさんは言っているところはあるかなと思います。

:そうすると、「株式会社」という組織自体もどんどん変わってくるかもしれないんですかね。「なんでそういう鎧をつけちゃうのかな?」と思ったときに、「やっぱりそれって働き方とか制度にもかなり依存しているところはあるかな」なんて思っているんですね。

嘉村:まさにそうです。ラルーさんが今のティール組織の状況というのは、馬車の時代に車が登場していったようなものだと。馬車の時代は、道路も砂利道だし、部品も高いし、故障もする。たぶんティール組織は今の時代ではやりにくいと、ラルーさんが正直に言っています。Green・Orangeのほうが幸せだし、利益も上げやすいんじゃないかと。株式制度が四半期ごとというなかでは、本当のティールは今はまだつくりにくいから、そこを変えていかないといけない。

ヨーロッパでは会社法を変えたりとか法律までいって、本当に雇用者・雇用主という上下関係じゃなく、全員が出資者になるような法人形態みたいなところに、法律面からも変えていこうというムーブメントが起こり始めています。日本もそうなっていけばいいなとは思います。

青野:なるほど。それはわかりやすいですね。今の時代だとまだ舗装されていないんですね。

嘉村:そうですね。

青野:逆にいうと、舗装されるとどんどんティール組織が出てくると。

嘉村:世の中でも、舗装されていない道路から高速道路ができて、ガソリンスタンドができて、ガソリンスタンドに合わせたガソリンの蛇口がつくわけじゃないですか。車も社会に合わせて進化していくかたちなので、たぶん株式制度や会社法が変わったりすると、また新しいティール組織が現れる。この連鎖が起こる先には「ティールは運営しやすいね」となるはずですけれども、まだまだそこまではいかないと思います。

「Redもすばらしい形態のひとつだと思うんです」

青野:なるほど。シンプルに、やっぱり状況の変化によって最適な組織な形態は違うと。なので、今、岡田さんのところがRedなのは問題ないと。

(一同笑)

:Redに戻りましたね(笑)。

岡田:またそこかよ。

青野:(笑)。

:でも私は、原始的とかそういうの関係なく、Redってすばらしい形態の1つでもあると思うんです。再生ファンドの入った、ある会社の社外取をやってたんです。Redじゃないと、再生なんて無理ですよ。やっぱり良い悪いとかじゃなくて、おっしゃるとおり、どこのステージにいるかということでふさわしい形態があるはずです。Redというのも本当にすばらしい形態の1つかなと。

すみません。フォローみたいな話になっちゃっているんですけど、違います。

岡田:ティールだったらティールで、全員が主体的に生きて、「自分の人生を自分で選択できるんだよ。自立して生きなさい」と。

今スポーツ界でパワハラが起きているのも、あれは自立していないからなんですよ。殴ったほうが勝つんだもん。だって、今まで「これやれ、これやれ」「はい。はい」とやってきて、そういうやつらに「はい、じゃあ自分で考えて」と言われても、無理なの。だから、日本人は少ないんだけど、根本的に主体的に自分の人生を自分で選ぶ。

残業してて「おい、お前、早く帰れ。また労基うるさいから早く帰れ」「いや、岡田さん、こんなすぐ帰れるわけないじゃないですか」「いや、お前がその自分の足で立って、駐車上へ行って、自分の車を運転していって、帰れ。お前の意思でここに座っているんやぞ」と。

(一同笑)

要するにそれは、「『岡田さん、仕事多すぎますから減らして』と言えばいいだけだよ」と言うんです。

ティールを追い求めることが幸せなのか?

岡田:それはちょっと極論だけど、じゃあ本当にみんながティールみたいなことを望んでいるか。

僕が社員に面談みたいなことをして聞いたら、ある女の子が「私はもうこの会社にずっと勤めたいし、総務みたいにずっとこう……。ひょっとしたら、私はスタートアップみたいな新たなものを生み出していく会社には向いてないのかもしれません」と言ったわけよね。

「あっ、そうか」と。この子なんかに「なにか責任を持って自分で考えて、なにかをつくり出しなさい」というのは、ものすごいプレッシャー。この子が一番残業が長いわけだから。だから、わからないんだ。ずっと悩んでいる。

要は、その子にはティールを求めることは幸せじゃない。さっきおっしゃったように、出来の悪い子どもの生き方もあるので、みんなが一律にティールといったらティールであらなきゃいけないというのは、逆にプレッシャーに感じる子もいるんじゃないか。

だから、僕、青野さんが言っている「100人100通り」というのはけっこう好きなんです。だから、ティールにしなきゃいけないんじゃなくて、100人100通りみんなが幸せになる会社というと、あの例みたいにはいかないことは多々あると思う。

塚越:そうですね。うちでも、障がい者を当然使わなきゃなりません。新入社員で入ってきて、定年まで勤めた障がい者がいるんです。でね、感心したことがあります。うちは海外旅行と国内旅行を毎年交互にやっているんですよ。毎年、全員でですよ。そんな会社もめったにないんだと思います。儲からない時分、今から48年前から海外旅行を始めました。

青野:全員で行くんですか!?

塚越:全員がほとんど参加している。そういう旅行のときに、障がい者が行くと大変でしょ。「やっぱりどこか行っちゃ困る」とかね。だから「連れて行かなくてもいいよ」と言ってたら、うちの社員が「僕が責任を持つから連れていっていいですか?」という社員がいてね。

:すごい。

思いやりに秀でると書いて「優秀」

塚越:最近はそういう社員が何人かいるんだなと。こういう雰囲気は、なんていうんでしょうね。

:利他ですか?

塚越:利他というか思いやりというかね。そういう優しさに満ち満ちているというかね。それはちょっと自慢なんですよね。そうするとすべてがうまくいくんですよ。これは思いやりだろうと思うんですよね。思いやりが一番大事なことです。

思いやりというのは、優しいという字ですからね。にんべんに「憂」と書いて「優しい」でしょ。人を憂う・心配してあげるということは、思いやり。

さらに、「秀でている」という字を書いて「優秀」という字でしょ。だから「思いやりに秀でた人が優秀な人だ」と、詭弁めいているけど、私はよく話しているわけね。「字が物語っているよ」と。

青野:なるほど。

塚越:頭がいいんなら、頭秀・脳秀とか、そういう字がありゃいいじゃないか。でも、優秀ってどういう意味だ? 優しく秀でているのを優秀な人というでしょ。だから、優しさに満ちている会社は優秀な会社なんです。

青野:おもしろい。

塚越:ちょっと詭弁めいているけど。

「効率性」「生産性」が世の中を難しくしている

岡田:そういうのを、僕らは「目に見えない資本」とかって、よく呼ぶじゃないですか。そういうのが今の四半期の決算のなかに、「見えない資本いくら」とか出てこないわけね。全部、目に見える。「これがいくらで儲かって、いくら損した」と。

だから、さっきみたいに経費を自分で決められる。今だったらそれは、決算上まずいですよ。経理にちゃんと稟議で上がってきて、そこの数字が入ってこなかったら、誰がいくら使ったかはわからずに、最後の監査役に通してもらえないからね。

さっき言った道路が整っていないというのは、僕は一番はそこだと思っています。今、「SDGsとかに投資しなさい」とかいうのが言われ出しているけど、それは投資家のちょっとした見る目が変わってきているよというぐらいで、本当に道路は変わってないよね。そろそろ出馬して国に行って、ついでに夫婦同姓も変えたらどう?

青野:(笑)。

岡田:自分で変えたらどう?

(会場笑)

塚越:「効率」とか「生産性」という言葉ですよね。それは利益につながるからでしょ。それがこの世の中を難しくしているんじゃないかと思うんです。

効率性はあくまでセカンドベストであるべき

:たぶん今日のお話は、まさに組織のあり方として、効率と公平との対立だと思うんですよ。「社員の幸せとか社会の幸せという公平性と、株主価値・企業価値・利益を上げようという効率性をどうバランスするか」ということが、たぶん今日の議論だと思っています。

私は実は、公平性ばかりを重んじろと思わない。もっというと、効率性を重んじるのは、実はセカンドベストとしてはいいと思っているんですよ。

なぜか。それは、企業が良いときはやっぱり、業績も追うし、社員の幸せ・社会も追うようにできるんです。でも、悪いときが問題です。悪いときに粉飾決算であるとか企業不祥事が起きる。じゃあ、その悪いときというのは、企業不祥事の話だけじゃなくて、例えば社員の雇用の仕方であるとか、いろんなことが出てくる。

じゃあ「セカンドベストとして、効率性を重視して企業を監査するとか見るのがなんでいいのか」ということを考えたときに、「社会になにか害を及ぼしました。だから、この会社を律しましょう」とか「なにか制限をかけましょう」というとき、「社会の利益を毀損しました」というのは、社員の目線なのか。それとも環境の目線なのかということが、指針がすごくできにくいんです。

例えば、Appleという会社があるじゃないですか。社員を大切にしています。SDGsに入っています。ESG大賞です。最高ですと思うかもしれないけど、租税を回避しました。積極的に税金を払わないようにする姿勢は良いことなんですか?

社会という目線で「その企業を律しましょう」といったときに、ぐちゃぐちゃになるんですよ。でも、セカンドベストとして「企業価値・効率性って目線でダメですよ」ということを律するのは、数字があるからすごくわかりやすい。

だから、実は効率性を考えることは、ファーストベストじゃないけど、セカンドベストとしては考えなきゃいけないというのが私の考え方です。

青野:なるほど。じゃあ、このわかりにくいところをどう測るのかということですよね。

:そうなんですよ。だから、本当は社会の公平性と効率性の重なったところばっかり考えればいいんですけど、それはできないから、今は株主価値ありきでまずは考えるという。

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