「影響を受けたのは蛭子さんの漫画」

辛酸なめ子氏(以下、辛酸):では、質疑応答というのがあるんですよね。なので、今までのお話を聞いていただいて、何かご質問がある方はいらっしゃいますでしょうか?

平松昭子氏(以下、平松):ないですか皆さん。どうぞ。

質問者:いろいろとお話を伺って、ありがとうございました。平松さんのイラストは雑誌や広告で見る機会が多くて、まだ平松さんを存じ上げる前からイラストだけは目にしていました。あるとやっぱりつい見ちゃって、もうひざを打って「すごい、そのとおり」っていつも思っていました。

ああいうイラストの内容には、たぶん平松さんが感じていることが反映されていると思うんですけれども、トピックスがいつもおもしろくて。

そういうトピックスは、描くときに「ああ、こういうことがあったな」「あれはこういうことだったな」っていうふうに思い出しているのか。それともおもしろいことがあったとき、「メモっちゃう」っていうふうにやっているのか、伺いたくて。

平松:雑誌のお仕事は読者さんの体験談ですとか、編集さんが考えられた企画物が多くて。そのお題を読んで、大体自分の経験と重なることが多いので。

OLさんとかはやったことないですけど、でもお勤めはちょっとしたことがありまして。アルバイトが長かったので。大体どの人にもなり切って描いちゃうんですね。そうしないと何か描けなくて。だからおもしろい絵を描くときは笑いながら描いてて、はって気づいたりとかはあります。

自分のエッセイも、常にオチはおもしろいほうが楽しいかなと思って。そこは自分で意識して楽しくなるようにしていて。影響を受けたのは蛭子さん(蛭子能収氏)の漫画で、あのスピード感と本当におもしろいっていうか、私の中ですごくいい笑いだなって。

人をあざ笑うんじゃなくて、スカッとする笑いを考えられる方だなって思って、とても影響を受けました。自分の中では、その蛭子さんの漫画を読んだときくらいのその感覚っていうのを覚えていて。そうなるまでに何回も描き直して、最初20年ぐらい前はものすごく時間がかかったんですけど、今はバーッて描けるようになりました。

女優のようにキャラになりきって描く

質問者:それは平松さんの中でいろいろな見聞きしたことがたまっていって、それがすぐぱっと出てくるようになったっていう感じなんですか?

平松:そうですね。20種類くらいいろんなバイトもしましたし、あと男の人もいろんな人とお付き合いしました。お友達も、1人のお友達と長くっていうよりは、いろんなお友達と風のように渡り歩いて、多分すごい適当な人だと思われているんですけど(笑)。長く続いている友達はいますけど、とにかくいろんな人と。ちょっと(人より)多いのかなって体験が。

あと体験しないとわからないというところが昔からあって、危ないこともどうしてもやってしまうし、最初お勤めしたデザイン事務所を「イラストレーターになりたい」って言って1年で辞めたときも、「そんな、なれるわけない」って言われて。

「でも、やってみなきゃわからない」って社長に言ったら、「やってみなきゃわからないのは、子供だけだ」って言われて。だから、ずーっと多分子供のまんまで、何でもやってみなきゃわからないって、いろんなことを未だに試して。

お稽古事もいろいろやりましたし。そこで年配の方と直接会って、バサッと旅行へ行ったりとか。下の若い子と遊んだり、そういったところでイラストにね、きっとこのキャラに入れるのかなって。だからどこかで女優さんに近いのかななんて思いました。

質問者:エンジの柄を描いて。

平松:エンジの柄、すてきですね。

質問者:ありがとうございます。

ヒントを得るのは人間観察よりも実体験

辛酸:(他に)いらっしゃいますでしょうか? じゃあ、いいですか。

質問者:平松さんのホームページなどを拝見して、ファッションにもこんなに明るい方で、すごいいろいろ自分で着てみたりとか、実際にご購入して、楽しんでいる方なんだと思って。

イラストとかも見ているときに「そうそう。こういう人、こういう服装している!」っていうふうに、すごいうなずくところがあったんですけど、やっぱりそういうのも人間観察じゃないですけれども、よく見ていらっしゃるんですか?

平松:そうですね。電車に乗ったり街に出たときも多分見ている。気づかないうちに見ていたりとか。でも、そんなじろじろ見ているほうではないので、どちらかというと自分がいろんな格好をしたいほうです。

息子が小さいときはやっぱりPTAの方たちと仲よくしたかったので、雑誌も「LEE」とか読んで、あとマーガレット・ハウエルの無漂白っぽい服を着てみたりとか、いろんな格好をしてきたことのほうが大きいのかなって。そうすると街を歩いていても、「過去の自分がいるな」とか、そういう感じで。

あと仕事柄、いろんな年代の方を描くことが多かったので、そういうときは調べたりして。そうやって仕事で調べたり、自分で体験したりそういう感じです。

付き合う年齢層とか、いろんな職業の人と仲良くなったりしたのも大きくてね。そうすると不思議な服着ているなとか、「どこで買ったんですか?」とか言って、覚えたりします。

漫画家の資料あるある「おやじファイル」とは?

質問者:いろんな人の顔を描くときに、何か参考というか資料みたいなのってあるんですか?

平松:インターネットがここまで普及していないときは、何か「おやじファイル」とか、「おばさんファイル」とかって。

質問者:そういうのがあるんですか?

平松:はい。雑誌を切り取っていっぱい顔を貼ったりとか。子供(ファイル)とかね、こういろいろ作って。なめ子さん、やりませんでした? 

辛酸:そうですね。私もちょっと前に、病院の冊子にインタビューしていただいたことがあって。何年もその病院の冊子が送られてきて、そこに本当に老若男女の顔が載っているんですよ。そういう顔とかを資料にするところがありましたね。

平松:やっぱり資料がないと描けないですよね。

辛酸:そうですね。一応頭の中だけだと、同じような顔になっちゃっていますよね。

平松:うん、なっちゃう。バリエーションがなくなっちゃうので、そうですね。ほかの方よりも、常にインプットを無意識でやっているのかも、そう思います。

あと、やっぱり服装とか、ファッションが好きなので、気になるほうだとは(思います)ね。おせっかいに、「ああいうの、着ればいいのに」とか思っちゃったりとかはあったり。

「おもてなし制服」もケイト・モスが着れば……

辛酸:じゃあ、関係ないですけど、その今度の「おもてなし」の衣装とかって。

平松:おもてなし? 

辛酸:今話題になっている、「オリンピックのおもてなしの制服がダサすぎる」とかいう。

平松:ああ、はい。今日イラストでちょうど描きました。

辛酸:そうなんですね。

平松:はい、日経のお仕事で。何かお帽子に赤い日の丸がついて。

辛酸:そうです。帽子に。

平松:すごすぎて、何かかわいいなって、私。

辛酸:そうですよね。逆に、何か。

平松:本当にびっくりしました。あれ、本当なんですよね?

辛酸:そうですよね。

平松:どなたがデザインなさったんですか?

辛酸:でも有名な、アレキサンダー・マックイーンのところで働いていた方がデザインしたみたいですよね。

平松:本当ですか?

辛酸:セントマーチンズを出た人で。

平松:じゃあやっぱり日本人が着るから、ダメなんだ。

辛酸:文字に合うように、いろいろデザインをしたのかもしれないです。

平松:何か違うね、ケイト・モスとかが着てくれたりね。

辛酸:そうですよね。

平松:どうなんでしょうね?

辛酸:そうか、もう写真の着ている人たちもみんな日本人でしたものね。

平松:うん。そんな感じです。

辛酸:ただ見るとかじゃなくて、ご自分の体験から出ているんだなって思って。

平松:そうですね。いっぱい失敗もしましたので。やっぱり体験もやらないとわからないので、着て、見て。そんな感じです。

辛酸:ありがとうございます。

平松:はい、ありがとうございます。