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ロート製薬元取締役(CHRO)の髙倉 千春氏の出版記念イベント!プロティアン・キャリアから考える今必要な人事変革とは?(全4記事)

かつて日本企業を成功に導いた“三種の神器”が、今は足かせに 先行き見えない時代で変化した、個人と組織の関係性

変化の激しいこれからの時代に必要とされる人的資本経営のあり方について語られた本イベント。戦略人事や人事制度改革に取り組んできた人事のプロである髙倉千春氏が、日本企業が抱える課題と、個人と組織がより良い関係性を築くためのポイントについて語りました。本記事では、社員のエンゲージメントを高める組織改革の重要性について解説します。

新規事業は「個人の特性をいかに活かすか」が重要

今井美穂氏(以下、今井):これより「日本企業が抱える課題と歩むべき道」というテーマで、髙倉千春さまにお話いただきたいと思います。それでは髙倉さま、よろしくお願いいたします。

髙倉千春氏(以下、髙倉):今井さん、ご紹介ありがとうございます。聞こえていますでしょうか。多くのみなさんにご参加いただき、ありがとうございます。今日は出版記念ということで、私が顧問をしておりますプロティアン・キャリアのみなさんに感謝です。このあとタナケン先生と討議させていただくので、大変楽しみにしております。

今回、10月に本を出させていただきました。(私は)ちょうど40年ぐらい企業組織に勤めまして、このたび独立したんですけど。今までを振り返ってみて、私は個人や人材を仕事上どうとらえていたのか、世の中はそれをどうとらえていたのかをまとめて本に書かせていただきました。

これからはまさに、プロティアン・キャリア協会が目指している「『個』が活きる組織を作らないと、新規事業も興らないよね」という方向なんですね。

個人の特性をいかに活かすかが、経営的にもものすごく大事になってきています。現在、社外取締役を3社ぐらいやらせていただいているんですけど、どこの企業さんも将来に向けて新規事業や新しい展開をやらなきゃいけない。でも「そこの主役は個人だよね」ということが、ますます経営の真ん中にきています。

この40年間で私は25年以上、人事の仕事をしてきました。そんな世界潮流の中で「人財」がどのように見て取れたのかを図にしています。

最初はグローバルカンパニーの中で、グローバル資源である人材の働き手を「どうやって最適配分するのか」という、わりとドライな見方が主流でした。コストとして最適配分する。なかなか儲けが出ないと、新卒や新規の採用がストップしたりします。ローパフォーマー(組織の負担になっている従業員)にどうやって会社から卒業していただくかなどもやっていたんですけど。

そのうち、新規事業を生み出すためには、当たり前ですが人の力が大事だと。将来のタレントプール(自社の採用候補となる人材の情報を蓄えるデータベース)を厚くしなきゃいけないという流れになりました。みなさんもご存知のタレントマネジメントやサクセッションプラン(後継者育成計画)が、1990年代後半ぐらいからさかんに議論されるようになったんです。

人的資本経営のテーマは「人の心に火をつける」こと

髙倉:いよいよ2000年代の真ん中ぐらいになると、「Asset(資産)からCapital(資本)に」という話が出てきます。ちょっと堅いんですが「有形資産から無形資産へ」ということで、無形資産の大事さが言われるようになりました。その真ん中には人がいるんですね。

今日言いたいのは「人が主役」とはどういうことなのか。最近「資本の要素が人である」と、よく人的資本経営とも言われているんですけど。

人には心があるから、まず「心に火がつかないと、資本の要素の意味がない」ということ。これからの人事や経営を担う人たちは、ここに着目しないといけないですね。これが非常に大事なテーマだと思っています。

じゃあ、「人の心に火をつけるってどうやるの?」と。ご存知のように「エンゲージメント」ですよね。日本ではエンゲージメントリングと言って「婚約」という意味で使いますが、良い時も悪い時も添い遂げるやつですよね。「会社にどうコミットしますか」ということから始まっています。

最近ではサステナブル・エンゲージメントという言葉が出てきています。人の心にずっと火がつくエンゲージメントをサステナブルにやらなきゃいけないねと。

今までは「会社をちゃんと理解していますよ」という理解度と、「共感しています」「良い会社です」というFeel(共感度)、そして「何をやりますか」という主体的なAct(アクション・行動意欲)、この3つでエンゲージメントを測っていたんです。

世界的に見てもワークエンゲージメントが低い日本人

髙倉:ここ(資料)に「Work Engagement」と書きましたが、最近では会社に所属する社員というよりも、実は「働く1人として今のキャリアをどう見ていますか」という質問が増えてきています。

例えば健康経営(Energize)として、毎日エネルギッシュに働けるのかどうか。それから持っている資質をキャリア上どう伸ばすか、「自分でちゃんと考えられる環境がありますか」というキャリア支援(Enable)があります。

私はこの根底にWell-beingがあると思っています。働く時間は人生の中で相当長いんですけど、自分がより良く生きるために、人生の中で働くことはどういう意味があるのかを考えないといけない。まさにプロティアン・キャリアの考え方と合致してくるんですが、個の主体性が重要です。

私はグローバル経営を30年以上も見てきました。ここで問題なのはグローバルでエンゲージメントスコアを見ると、いつも日本のスコアは低いんですよ。これは有名な話です。なんで日本のスコアが低いのかなと。

日本人はhumble(謙虚)なので、ブラジル人やラテンの人と違って「いくぞー!」と能天気に明るくはできないんと言うんですけど。

これが本当なのかなと見てみると、(日本は)Work Engagementがやや低いんですね。つまり「1人のプロフェッショナルとしてキャリアをどう見るのか」という主体性が、日本では問われてるのかなと。そこでPurpose Curbingという「パーパス経営で会社と個人のパーパスがどうやってシンクロしますか」という動きが出てきたんだと思っています。

事業戦略を描くだけでは意味がない

髙倉:今日は時間がないので、人的資本経営の主要なところだけに触れます。この「人材版伊藤レポート2.0」は2年かけて、私も参画させていただき作成いたしました。今は、人的資本経営のコンソーシアム(共通の目的を持つ複数の組織が協力するために結成する共同体)の企画委員もやらせていただいています。

経営の視点から言うと、この視点1(経営戦略と人材戦略の連動)と視点2(As is-To beギャップの定量把握)が最も大事なわけなんです。

つまり今後事業戦略をどうやっていくのか。みなさんの会社も「今のままじゃダメだよね」「今の主要事業はどこまでやれるんだろう」と考えた時、母屋が少しこけても大丈夫なように、離れに新規事業を生み出しておくことが重要です。

「新規事業のポートフォリオを考えてください」というお題が出ているかもしれませんけど、事業戦略を書いても、それをやれる人がいなかったら何もならないんじゃないか。私がいたグローバルリーディングカンパニーでも、ずいぶん昔から言われていました。これを投資家さんや株主は気にするんですよね。

「御社はどのぐらい持続可能なんですか」「戦略が変わると言っていますよね。でも紙に書いた戦略じゃなくて、それをやれる人が本当にいるんですか?」と、そこまで差し込んできました。これが25年前から見てとれたグローバルの潮流です。

そこで「人は大事だよね」とAssetからCapitalになるんですね。「火がついてますか」という話もありますが「どんな人が足りていないんですか」をちゃんとタイムリーに見ているかどうか。

ここ(資料)にAs-IsとTo-beの可視化や定量把握が書かれています。この視点1(経営戦略と人材戦略の連動)と視点2(As is-To beギャップの定量把握)をぐるっと回すのが動的人材ポートフォリオですね。今、各会社さんでも人の部分をどう戦略的に考えるかで、人材マネジメント会議を始められたと思います。

企業組織が上・個人が下という関係性が変わってきた

髙倉:今日の主眼は経営戦略ですけど、継続して戦略を回すのに大事なのは、実は視点3(企業文化の定着)だと思っています。

ちょっとこの図はわかりにくいんですけど、個人と組織の活性化にはいろいろな要素が入っています。いずれも企業文化のところなんですよね。企業文化や風土を意図的に作らないと、企業文化の定着は起こらないと私は思っているんです。

ここをちゃんとやることが、個人のポテンシャルや思いを花開かせる風土や土台になってくる。これは人事的には当たり前のことではありますが、将来に向けてあらためて重要になっているなと思います。本(『人事変革ストーリー ~個と組織「共進化」の時代』)の中で「『個』を活かす組織とは」という副題をつけさせていただいた部分です。

次の図はこういう議論が起こっている背景です。これはもうプロティアン・キャリアの、今井さんのご説明の中に出てきた図とまったく一緒なんですよね(笑)。

30年近く人事をやらせていただいて、個人と組織の関係性が変わってきたと実感しています。以前はある意味、「企業組織が上で、そこが出した命令や指令にちゃんと適切に動く個人」という図柄があったと思うんですよ。それが(今は)フラットになっています。

これをフラットにしないと、さっきの新規事業も起きないし、企業として持続可能性も保てないことに気がついたんですね。みなさんの頭の中にもこのフラットな絵が入ってきた。特に経営者はこれに非常に着目しています。個人が「どう成長しようか」と主体的な思いを持って取り組む。自発的なチャレンジがないと企業も進化していかないんです。

かつて日本企業を成功に導いた「三種の神器」が、今は足かせに

髙倉:あえて私は成長とは書かなかったんですけど、単に数字的な成長だけじゃなくて進化していく。これは「社会の課題にどう答えるか」というESGやサステナビリティも含めて、進化と捉えています。これには個人の力がいる。(個人が)チャレンジしてくれると、さらに新しい事業機会が生まれるんですね。

この事業機会が生まれることは、個人にとってはまたチャレンジの機会が多くなる。この「チャレンジします」「企業は進化します」「チャレンジの機会がまた大きくなります」という個人と組織の進化。共成長と言っていたものを(私は)共進化としました。

これをグルグル回すエンジンがすごく大事だと思っています。このエンジンの元になっているものが2つあるんです。(1つは)さっき申し上げた人材、動的人材マネジメントという組織経営の歯車。もう1つ何より大事なのは、自律した個人の思いですよね。

「自分はどうするのか、どうしたいのか」がきちっと持てていないと、このエンジンは起こらないと実感しています。

先ほども申し上げましたが、メンバーシップからジョブ型へ、この議論もずいぶん人事としてはさせていただきました。私はその先にジョブ創出型があると思っています。新しいジョブが起こらないと、とても閉塞的になる。

今まで戦略が明確に見えていた時代は、既定路線をちゃんとやってくれれば企業は成長した。ある意味“三種の神器(年功序列、終身雇用、企業内組合)”は戦略だったんですよね。

ところが不確実性の時代になって、きちっとやることではもう成長しない、持続的にもたない状況になってきた。個人に焦点をあてて、多様性や多様な考え方が新しい事業を起こすのである。はっきり言っちゃうと、「何をやるかより、誰とやるかのほうが大事かもね」と。

「この三種の神器が日本の成長の要であった」と研究された(ジェームズ・C・)アベグレンさんは、日本のボストンコンサルティングの創業者です。個人的なことですが、実は彼は私の上司だったんです。

当時は「本当にこれが日本企業の成功の鍵でした」と正直に言っていたんですけど、それが今はいずれも足かせになっているところがおもしろいなぁと思っています。

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