いい人材を経営企画に送り込む時代じゃない

髙倉千春氏(以下、髙倉):だから働き方改革もさんざっぱらやったけど、リンダ(・グラットン)が言うような「100歳まで働く」ことはできないと思っちゃうから、彼ら(若年層)も見切るじゃないですか。私が最後に申し上げたいのは、これは上司の責任が大きいと思ってるわけですよ。

田中研之輔氏(以下、田中):うん、うん。

髙倉:人事は、その上司力を開発するところまでが仕事だと私は思う。だから申し訳ないけど、「社長に言われたから僕たちはこうやります」「事業部長とか取締役に言われたからこうやります」というのじゃなくて、「この人たちをどう変えるか」というパワーを人事に持ってほしいよね。

田中:そう。もう本当に大事なんです。だから(人事は)人的資本経営のど真ん中の仕事なんですよ。新卒でもプロフェッショナル採用でも、いい人材を経営企画に送り込む時代じゃないぞと。人材開発とかHRBP(Human Resource Business Partner:戦略人事のプロ)に送り込んで、そこから経営陣をつついていく時代に確実になったと僕は思います。

それに気づいてリソースをあてていく。あるいは自分で人材開発部のリーダーシップを発揮できないんだったら、外からプロ人事(を入れる)。つまりCHRO、髙倉さんとか永島(寛之)さんとか、西田(政之)さんとかがパーンって入ると改革するじゃん。やっぱりモデルとしてそういうやり方もありますよね。

髙倉:そうです。

キャリアコンサルタントの資格を取る人が見落としがちなこと

田中:やっぱり僕は、キャリアというシマを作っちゃいけないと思っていて。例えばキャリアコンサルタントと言うと、みんながんばって国家資格キャリアコンサルタントの資格を取ります。先日、最新の試験の合格発表があったんですけど、「おめでとうございます。○千人受けて、○千人合格」とかやってるんですよ。

おめでとうございますなんだけど、「何のために(キャリアコンサルタントに)なったんですか」というのがすごく大事で。要はコンサルタントであって、キャリアアドバイザーじゃないんだから、何に困ってるかを考えて、チームや組織を変革させる。

まさに人事が主導となって、人事視点やキャリアリテラシーを武器にしながら、変革に寄り添って、生産性や競争力を確実に上げていく。

今キャリコンの方と会って何をやってるかと言うと、さっきの髙倉さんのエピソードと同じなんだけど。「私、キャリコンだから、アサーティブなフィードバックをやってるんです」「私は傾聴をやってるんです」とシマを作っちゃうのね。(でもそれは)違うと。

要はキャリコンで社員の方とダイレクトに1on1をやれてるんだから、その定性的データを少なくともCHROに突き上げているか。経営陣に持っていっているかだよね。

髙倉:そうですよ。

田中:つまり変革のプレイヤーはそこなんですよね。僕は2024年は、キャリコンの人には「もうキャリコンプロデューサーだよ、頼むよ」という感じ。だからもう国家資格を安く売らないでくれと。

髙倉:(笑)。

田中:キャリコン(の資格)を取って自分の能力をそこでとどめないで、(ゲーリー・)ベッカーの「人的資本」の本を読むとか、なんでもいいんだけど。やっぱり学び続けることができる、すごくやりがいのある仕事ですよね。

人事に必要な要素の10パーセントは「人間としてのチャーム」

髙倉:そうですね。先生がおっしゃるようにプロデューサーであることと、キャリア戦略とか、キャリアコンサルタントの理屈は6割だと思うのね。これを知らないと話にならないし、最初は勉強したほうがいいと思う。

それで3割は、やっぱり気持ちなんですよ。エモーショナルサイクルカーブ(新しい環境に飛び込んだ人の精神がどう変化するかをモデル化したもの)とかEQの話もあるけど、やっぱり人間だから、心があるじゃないですか。これがわからない人はキャリアコンサルタントは無理だと思う。

逆に言うと、そういう人にキャリアのアドバイスをもらいに行きたくないですもん(笑)。3割はやっぱり、気持ちとか情の「人間とは」みたいなところを勉強したほうがいい。

あと、これは難しいんだけど、10パーセントは「この人だから聞いてみよう」という人間としてのチャーム。1割以上あるけど、やっぱりタナケン先生のチャームとパーソナリティで話を聞きたいと私は思うの。

田中:(笑)。

髙倉:そういう人間としての魅力がなかったら、自分のキャリアなんか相談に行かないよね、と私は思っていて。これはキャリコンの人だけじゃなくて、人事たるものそうなんですよ。

田中:そうね。だからやりがいがあって楽しいと思うんだよね。

髙倉:そうなの。すごく役得だと思います。ぜひ。

「若い人がファンになってくれるような上司」になる

田中:「習慣化できる鏡」についての質問があるんだけど、これは何とおっしゃいましたっけ。

髙倉:習慣化できる鏡は、自分をフラットにすることですよ。私も「人事を30年やりました」と言って、今日も先生としゃべらせてもらってるけど。それはすごくありがたいけど、1回成功して今の自分がピークだと思ったら終わりよね。先生、そうじゃないですか?

田中:まさにそう。学び続ける。

髙倉:「こっちもやらなきゃ、まだ足りない」と思うこと。やっぱ自分の枠を作らずに、自分はまだまだって思った時に、若い人の話も聞かなきゃいけないと思うし。そういうフラットな視点(が大切)だと思いますね。

田中:なんか達成したと思った瞬間に人は2つに分かれます。その達成に固執するのか、達成したことによって新たなチャレンジのフィールドを見つけるか。絶対にそうだと思いますね。髙倉さん、このラインマネージャーの上司力向上って、どうやってやるんですか。

髙倉:今言ったように、これで終わりだと思わないこと。「高倉さん、人間は40歳になったらもう変わんないよ」とか言われるけど、そこを外していかないと、若い人は絶対その上司を見切るじゃないですか。

それともう1つは、ずっと勉強してほしいんですよ。だからキャリアなんとかって(資格を取ったり)若い人はするけど、中高年はやってるのかって私はすごく疑問に思う。中高年こそ自分のキャリアを考えたほうがいいと思っていて。

すごく幸いなことに2つの追い風があると思っているのは、私ももう初期高齢者になっているけど、みんな健康寿命も伸びているから、まあ80~90代まで元気にいると。

田中:もちろんぜんぜん元気ですよ。

髙倉:あとは少子化でしょ? そうしたら今度は「60歳以降にどうやって自分のキャリアを作るか」ですよ。やっぱりいきなり60歳になったから「はい、どうぞ」じゃなくって、もう40代から……。端的に言うと若い人がファンになってくれるような上司じゃないと、70~80代はまず無理。

彼ら30代が50代になった時に「ちょっと先輩いいですか」って話しかけられる人にならないと、80代はきっとハッピーに過ごせないと思ってます。まずはそんなところですかね。

社員を「個人事業主化」することのメリット

田中:副業を解禁しない企業さんがまだけっこう多くて。その経営者をどうやって説得したらいいですか?

髙倉:やっぱり、社員を人間として見てもらいたい。自分の所有物だとしてみて……。ごめんなさい、そんなこと言っちゃって。

田中:いや、わかります。そういうことですね。だから「外に出さない」という管理をしちゃうんだよね。

髙倉:そうそう。私は社長さんも副業をやったらいいと思うの。まあ仕事をするのは難しいかもしれないけど、もうちょっと外に目線を持っていく。ChatGPTを使えば自分のめんどくさい仕事はやってくれるから、そういう余力を作ったほうがいいと思いますね。

田中:あと、今具体案としていろんな企業さんとご一緒しようかなと思ってるのは、いわゆるミドルシニア層。例えば50より上の55ぐらいで、60代以降(のキャリア)を考えといたほうがいいんですよ。

副業禁止の会社はちょっと置いといて。何をやったらいいかと言うと、社内でのアクションだと、ぜんぜんキャリアショック(自分の描いてきたキャリアの将来像が、予期しない環境や状況の変化により、短期間のうちに崩壊してしまうことへの耐性)が足りなすぎる。だからもう全員個人事業主化しましょうと。

髙倉:あぁ~。いいんじゃないですか。

田中:つまり、本業をやりながら副業をしていたら確定申告をしなきゃいけない。その時に個人事業者として屋号をかまえて、事業として税務処理をしたほうがいいわけです。もっとこのメッセージを伝えていければと。

昨日、実は電通のNH(ニューホライズンコレクティブ合同会社)の山口(裕二)さんと話してたんですよ。要は電通の個人事業主化の絵を描いた人ね。「どうやってうまくいってんですか」と聞くと、確かに電通はクリエイティブな人たちがたくさんいるから、もう地方の案件とかもバリバリ来ると。

それはなんでかと言うと、要は個人事業主化したから、複数プロジェクトを受けられるんですよね。でも、あのモデルは本業があって、個人事業主を経てフリーランスになるんですよ。僕はその手前のところにたたずんでる人、要は本業をやりながら副業をする人を増やそうかなと思ってて。

髙倉:はい、はい。

田中:このモデルを増やしていければ、もうちょっと総戦力化というか、躍動化する流れになるのかなぁと思いますね。

事務職こそ、現場のプロから学ぶことがある

髙倉:なるほど。もう本当にすごく大事なんで、もう2~3分、この話いいですか。

田中:もちろんです。

髙倉:私は、やっぱり一人ひとりがプロの仕事人になるべきだと思っています。実はロートは20年前からこのキャッチを入れていた。私が人事制度を変えた時に、会長に「もう今こそ、このキャッチいけますよ」と。

リクルートさんもそうおっしゃるんだけど。せっかく、自分がプロフェッショナルとして仕事をするのであれば「どうしたいのか」という話がないと、60歳以降はきつい(笑)。私も60歳を過ぎて自分で事業をやり始めてすごく思うんだけど、プロフェッショナリティがないとだめなんですよ。

もう1つは、おそらくこれから労働人口の流動化が起こるじゃないですか。みなさん欧米のジョブ型を入れるけど、先生がおっしゃるように、個人のプロフェッショナリティがないときっと破綻しますよ。だから、これがプロティアン・キャリアのすごく大事なところで、「自分がプロの仕事人としてどうするんですか?」と。

プロフェッショナルと言うと、なんか大谷翔平みたいなことだと思われてるけど、私は違うと思ってるのね。工場の現場には、プロフェッショナリティが高いが人すっごくいるわけ。日本の製造業とか、日本の底力は今までそこで支えられてきたんですよ。

田中:うん、うん。

髙倉:だからブルーワーカーなんて言うけど、大間違い。彼らの賃金を上げなきゃいけないし、実はホワイトワーカーは、彼らから学ぶところがものすごく大きいのね。そういう毎日の工夫をしていかない限り、学びはないとすごく実感するの。

だから今先生がおっしゃるように、2024年のテーマをあげていただいたけど、それが人事というか、経営のど真ん中に来ますよと。これが先生の今日の話を聞いて、私がすごく痛感するところ。

田中:(高倉さんの本を)みなさんもぜひ読んでいただきたいんですけど。今のお話や先ほどの貫く目とか、今のプロの仕事人の話だと、167、169ページくらいにありますね。

髙倉:ありがとうございます。

田中:読み応えがありますよ。

自分の力を解放していく「人事ルネッサンス」の時代

田中:だから(人事は)会社員じゃないんだよね。もう、本当にそう思ってる。

髙倉:もう違うの。だから先生、解放っておっしゃったでしょう。人間としての解放が大事なんですよね。

田中:もっと言うと、そのほうが毎日が楽しいと思うんですよ。

髙倉:はい。おっしゃるとおりです。

田中:もうそれに尽きると思う。人間は、自分自身が思うよりもけっこう才能豊かな生物体だから。誰かに指示されていわゆる機械化労働をしていると、その内側の心理的ウェルビーイング(が生まれること)はぜんぜんあり得なくて。

やっぱり自ら没頭する瞬間。みなさんが好きに趣味に打ち込んでるのを、仕事でもやっていったらいいかなと思います。ちょっとお時間が来てしまったので、紹介のほうに戻します。

髙倉:タナケン先生、またいろいろ対談させてください。

田中:ぜひとも! 髙倉さんのほうから一言だけ、みなさんに応援メッセージをいただけますか。

髙倉:はい。本当に今おっしゃるように、人間の持ってる力ってすごいと思います。そして、それはやっぱり楽しくやらないと開花しないと思います。いや、解放ですね。人事ルネッサンスだと思っています。

田中:いい~。ルネッサンス。

髙倉:ちょっと大きく出ましたけど(笑)。ぜひみんなと作っていきたいと思います。今日は本当にご清聴ありがとうございました。タナケン先生、ありがとうございます。

田中:ありがとうございました。またよろしくお願いします。

髙倉:よろしくお願いします。ありがとうございました。失礼します。