企業文化をつくる4つのポイント

サム・アルトマン(以下、サム):今日は文化とチームの第2回目です。Pinterestの創業者、ベン・シルバーマン、そしてStripeの創業者のジョンとパトリック・コリソンをお迎えしています。

今日は主に3つのことをカバーします。前回のフォローアップとして、企業文化についてまずは触れます。そして今日のゲストのビジネスと初期のチームづくりについて詳しく聞いていきます。最後に、ビジネスが大きく成長するについてそれがどのように進化してきたか、どのように文化を浸透させているかを伺います。まずは皆さんが会社をつくるにあたり、最も大切にしている文化とは何かを聞いていきましょう。

ベン・シルバーマン(以下、ベン):文化についてはいくつかの側面から捉えています。まず第1に、どんなことに重きを置く人々を雇うか。第2に、毎日何をしてなぜそれをするのか? 第3には、どんなことを発信していくか、そして第4はどんなことに感謝するかです。

逆に言えば、どんなことに罰を与えるかとも言えますが、会社を経営していく上でどんなことに罰を与えるかよりも何に感謝するかにフォーカスしたほうが 良いですから。この4つが私達の大切にするポイントです。

最初に雇う10人の大切さ

ジョン・コリソン(以下、ジョン):Stripeが重きを置いているのは、内部の透明性です。素晴らしい人材を確保すること、彼らに膨大なレバレッジを与えること、とよく話されていますが、私達は透明性はそれと大いに関係してくるものと捉えています。

Stripe内部の足並みが揃い、皆が同じミッションを信じて行動し、情報がオープンで、現在のStripeがどうなっているのかを把握することが出来れば、生産性向上に繋がると信じています。そしてスタートアップを成長させる際に起きるトラブルをも回避できると。私達は最初2人で始めましたが今では170名以上の従業員がいます。

これまで透明性を維持するツールについて考え続けてきました。170名以上もいればそれだけ内部の情報が増える訳です。どのようにメールを使うかだとか……これについては後で詳しく触れます。しかし、このように色々努力した結果上手くいっていると考えます。

パトリック・コリソン(以下、パトリック):文化とはある意味、帯域幅の問題を解決する為の策だと考えます。今コードをつくっているものに取り掛かりきりになっている、しかしプロダクトに必要だと自分が考えるコードをすべて自分でやることが出来ない状況。

組織が大きくなっても、理想としては自分が組織のすべての決定に関わり、組織で起こることは全て把握することかもしれませんが、そんなことは不可能です。それが2人のメンバーであれば可能かもしれませんが、それが5人や10人になった時点で難しくなり、150人になったら不可能です。

文化とは皆さんが直接判断を下す決定事項が少なくなっていっても、不変的に維持されるものです。このように考えると、文化とは長期的に考えてとても大切なものです。例えば人を雇う時、最初の10人はただ「雇う」という決定以上の意味を持ちます。

最初の10人を雇うというのは、後に100人を雇うことと同じことです。この10人がそれぞれ新たな10人を仲間に迎え入れるのだというように考えます。そして最初の10人にどんな人を連れてきて欲しいかを。こう考えれば最初の10人、誰を雇うかが重要であるということはお分かりいただけたと思います。

文化とはガーデニングのようなもの

サム:これまでの講義のゲストスピーカー達も、最初の10人の雇い方を失敗すると会社は失敗するという話をしてくれました。しかし、雇い方についてはまだ誰も触れていないので、今日は皆さんにどんなポイントから、初期段階のチームに引き入れる人を選ぶか、どのようにしてその見極め方を学んだかお話を聞きたいと思います。

ベン:どんな会社にもその会社のやり方があると思います。私達のやり方はとても帰納的です。自分が一緒に働きたいと思う優秀な人を迎え入れます。文化については知識がなかったので、多くの関連書籍を読んで勉強しました。

どれもフレームワークについて触れていましたが、文化とは本来はガーデニングのようなものであるのに、建築のようなものだと勘違いされているのが大きな問題だと思います。

種を植えて、雑草を抜いて。世話をしてそれが成長していく。私達が最初に雇った人々は私達と似ている人達でした。具体的には、一生懸命仕事をする、正直で、奢らない人です。そしてクリエイティブで、色々なことに興味を持つ幅の広い人です。

最初に雇った人の何人かはとても変わった人達です。ある人々はエンジニアでありながらクレイジーな趣味を持っていました。ある人は自分でボードゲームをつくっていて、またある人は手品に夢中でした。

彼はiPhoneで手品をコードするだけではなく、手品の動画までつくっていました。一風変わっている人を選ぶことが正解だと学んだと思います。多くのことに興味を持ち、そしてその中の何かに夢中になったことがある人は素晴らしいプロダクトをつくる傾向があります。

彼らは彼らの趣味をプロダクトづくりに活かすのです。私達が欲しいのは、素晴らしいプロダクトをつくりたいと思っている人です。才能があることを鼻にかけるのではなく、リスクを恐れずに何か大きなことを成し遂げたいと考えている人です。そして初期段階において、そのような人々を選出するのは難しいことではありませんでした。

なぜなら、私達のオフィスの状態はひどかったですし、誰も給料を得ていなかったのですから、それでも一緒にやりたいという人はただ良いものを一緒につくりたいという情熱を持った人だけだったからです。他にもっと良い条件で働くチャンスがあったにも関わらず、純粋に良いものを一緒につくりたいという理由で一緒に始めてくれた人々に感謝しています。そしてこれが現在でも続く私達の文化の種になっていると思います。

人材は青田買いすべき

ジョン:最初の10人を雇うのはとても難しいです。始めたばかりで、誰も私達のことを知らないですし、成功するかもわからないおかしなアイディアを持ったおかしな2人と一緒に仕事をしたいと思う人はそういませんし。

パトリック:最初に私達と一緒にやろうとする人は友達から絶対にやめたほうがいい、と言われるのです。2番目に雇ったスタッフの親友達は、彼を雇った日か雇おうとしていた時かは忘れましたが、彼を呼び出し「絶対にやめたほうがいい」となぜ私達と一緒にやるべきではないか、なぜ私達と一緒にやることが彼の人生を狂わすことになるかを説得しようとしたそうです。

それでも彼は私達と一緒にやることを決め、その時引き留めようとした彼の友人は今ではStripeで働いています(笑)。しかし、初期段階で人を雇おうとする時はこのようなことが起こります。

ジョン:そして最初の10人を雇うのが難しいのは、後に10人雇う人に比べて最初の10人が持つ影響力が格段に大きいという理由も挙げられます。皆さんが思うイメージにはLinkedinを開いて、この人とこの人とこの人が良さそうだ、とプロフィールをクリックし、彼らとコンタクトをとり雇うということがあるかもしれませんが、私達は長い時間をかけて私達が既に知っている人々や彼らの友人と会って、話をして迎え入れました。

ものすごく大きなネットワークを持っていたわけではありません。パトリックも私も当時大学生でしたから、過去に一緒に仕事をしたことがある人を選ぶという選択肢はありませんでした。Stripe初期に雇った人々は、私達が優秀だと評判を聞いた人、友人の友人です。

彼ら皆に共通していたのは、まだキャリアの先駆けだったり、実力をまだ認められていない人々であったことです。既に素晴らしいキャリアを持っていて、実力が認められている人々はその職場でハッピーなわけですから、そのような人々は私達と新たに一緒に仕事をしようとは思いませんよね。

私達がデザイナーとして雇ったのは18歳の高校生で、当時スゥエーデン在住でした。私達のCTOは当時大学生でした。このように、多くの初期メンバーはまだ仕事を始めてまもない人々でした。今後一緒に成長していける、優秀な人々と一緒に始めました。

どんなミスも許さない完璧主義者を雇え

パトリック:ふさわしい人を見つけるのは投資家が投資先を探すことに似ています。市場が価値を置く素晴らしい人材を探すのです。既に発見されている人材を探すのではありません。既に才能を発揮して、世の中に認められている人が一緒にやりたいと言ってくれればそれは素晴らしいことです。

しかし、そのような人々を一緒にやろうと説得するのは難しいでしょう。昨日ジョンと一緒に、最初に雇った10人の人々に共通する点を振り返ってみました。

私達の場合の最初の10人のメンバーを振り返って、彼らと一緒にやることを決める重要なポイントとなったのは、彼らが誠実で正直だったことです。

これはとても大切です。誰もが一緒に働きたいと思う人々、皆から信頼される人々、そして物事に正直に取り組む人々。このような人々は一度始めたことを途中で投げ出すことはありません。たくさんのことをやりたいと思っていても、それを実行し完成させることが出来ない人が多くいます。

GitHubのレジュメを元に人を雇うという話もよくありますが、レジュメを見ただけではわからないことが沢山あると思います。それを見るよりも、何かに2年熱心に取り組んだことがある人と一緒に仕事をしたいと思います。

そしてもうひとつ最初の10人に共通するポイントは、細部まで完璧にこだわるということ。どんな小さなことでもミスを自分に許さない人々です。昔はすごくクレイジーなことをしていました。

エラーを告げるすべてのAPIリクエストが、私達全員にメールで届き、それを知らせる電話も鳴るようにしていました。エラーを起こすなど許されてはならないことだと考えていましたし、皆がすべてのメールを共有していてその中で少しでも誤字脱字があればそれを皆が指摘し合うというような状況でした。

これらは少しやり過ぎだったと今では思います。まとめると、10人に共通していたのは、誠実さ、物事を最後までやり遂げる、そして細部までしっかりとこだわり完璧を目指すということでした。

ニッチな分野での起業は失敗しやすい

ベン:私はどんな風に人を探しても良いと思います。私達が最初に人を雇った時期を思い出すと、最初に雇ったメンバーとは様々な出会い方していいます。Craiglistに求人広告を出したり、適当なテクノロジーイベントに顔を出したり、オフィスでバーベキューパーティーを毎週やって、人を集めてそこで色々な人に会ってみたり。

あるコーヒーショップでコーヒーを買いに行くたびにジョンとパトリックがそこにいる人達を一緒にやらないかと話しかけているのを見かけましたよ。優秀な人々が暇を持て余していることはありません。

彼らは常にどこかで何か仕事をしていますから、優秀な人々のほうから見つけてもらうことを期待せずに、私達が自ら動いて優秀な人を探しに行かねばなりません。始めたばかりで会社が世に知られていない時期は特にです。

ジョン:自分の会社をアピールできる素晴らしいピッチを準備しておくことが大切かもしれません。投資家に対してだけではなく、これから出会う人々も6か月や1年後には一緒に仕事をしてみないかと誘うことになるかもしれませんから。

彼らに自分のつくろうとしているプロダクトに興味を持ってもらえるかどうかは、出会ったその時にかかっています。人を雇うには長い時間がかかりますので、会う人会う人に興味を持ってもらえるようにしておくことは大切です。

パトリック:私の多くの友人が大学を卒業してすぐに会社を始めました。彼らが上手く行かなかった理由を考えてみると、共通するのはニッチすぎること、狭すぎることをやっている場合が多いです。ニッチなものをやると人を雇うのが大変です。

例えば、火星に人を送るロケットをつくろうとしているとします。ものすごく無理な話に聞こえますが、それと同時に夢がありますよね。なので、一緒にやろうと人を説得するのが簡単です。

Googleの面接試験が難しい理由

サム:よくある質問に、まだ始めたばかりで経験不足の創業者がどうやって本当に一緒にやるべき人を見極めれば良いのか? というものがあります。皆さんの場合はどうですか?

ベン:もちろん一緒に仕事をするまでは100%の確信を持つことなどできません。逆に言えば、もしも雇った後に「この人ではなかった」と思ったら、その人を雇った自分自身と会社に対する責任がありますから、その人に改善して欲しいポイントを話します。それでもダメなら解雇するしかありません。雇おうとしている分野での世界レベルとはどんなレベルかを理解することです。

これは後に自分はファイナンスのことは全くわからないのに、ファイナンスのトップを雇わなければならない時に役立ちます。自分の得意分野でないファイナンスのような分野で人を雇う時には、信頼する人でそれを専門とする人に、世界レベルのトップには何を期待するか、世界レベルで活躍できる能力がある人を見極めるにはどんな特性を見ればよいのか、どんな質問をすべきか、どうやってそのような人を探すべきかアドバイスを求めます。

そして信頼するその人と同じくらい能力がある人を雇いたいけど、そのような人は今どこで働いているのだろうか、その人の電話番号は? と聞いてしまうのです。面接の仕方を学ぶためにはそれなりのコストがかかります。

自分と他の人の時間を使うのです。実際にやりながら、スムーズな面接の仕方、スクリーニングのやり方を身につけていきます。私達は面接で聞くべき質問を用意していますが、常にその質問でしっかりと面接に来る人々をスクリーニングすることが出来るかどうか見直しています。

面接で質問をするのは、候補者にとってこの会社で働くことが最高な決断かどうかを見極める為でもあります。これが2人の言う透明性の意味でもあります。

入社後にどんなことが待ち受けているのかを開示する。優れた人々は挑戦が好きなので、難しい課題に取り組みたいと思っています。Googleの面接で難問を出すのも、解決するのが困難な問題に取り組むことが好きな人を雇うためです。

会社が大きくなればなるほど特にリスクを隠さないことが大切だと思います。Paypalでは、面接が終わった後に「ところでマスターカードやビザカードに任されそうなので、今後あなたには違法な仕事もやってもらう。でもそれが成功すればそれなりの見返りは支払います」と言ったとか聞いたことがあります。

それだとか、iPhoneをつくる為に人を雇おうとしていた時、Appleは彼らにどんな仕事をしてもらうか開示しなかったとか。「3年間は家族に会えなくなるけど、3年後、あなたの子供もその子供もあなたがつくったプロダクトを決して忘れることはないでしょう」と。

(会場笑)

面接で透明性を担保すべき理由

ベン:このように、面接で透明性を持つことはとても大切だと思います。素晴らしいチャンスであると同時に、この仕事を受けることで立ち向かうことになる困難もあるということを開示する。そこで一緒に仕事をすべき人は残り、すべきではない人は去るということです。

ジョン:候補者の可能性を見極めるには、自分のやり方で自信を持って面接をすることだと思います。例えば皆さんは世界最高のエンジニアではないけれども、最高のエンジニア達を面接するとします。

エンジニア達に合わせて、よくある質問をするのは当然です。Stripeの例で言うと、初めてのエンジニアを雇う時、飛行機でこちらまで来てもらい、一緒にコードを書いたりすることで、その彼が優秀であることに確信を持ちました。他の分野でも同じです。

私はビジネスディベロップメントのエキスパートではありません。ビジネスディベロップメントの分野で人を雇おうとする時には、プロジェクトをやってもらいます。今あるStripeのパートナーシップをどのように改善するか、どんな新しいパートナーシップを模索すべきかだとか。

私の得意分野でなくとも、そうすることで誰を雇うべきか自信を持って決定することが出来ます。自分の得意分野ではない役割の人を雇う時に、引け目を感じてしまう人が多いように感じます。

スティーブ・ジョブズであっても組織の一部に過ぎない

パトリック:最初の10人を雇う前には、彼らと出来るだけ一緒に仕事をしてみることです。スケールした後にこれをやるのは現実的ではありませんが、最初の大切な10人を決める為には、これをやる価値は大いにあります。

最初の10人のほとんどと、最終的に雇用に至るまでに1週間一緒に仕事をしています。1週間もの間無理して自分を偽ることは出来ませんから。本来のその人が見えてきます。誰が優れているかを見極めるという話ですが、「この人はこの人の周りで一緒に同じことをやっている仲間の中で最も優れた人材か」という直観的な考え方が出来ます。

私にとっては、「このエンジニアは彼が知るエンジニアの中で最も優れたエンジニアか?」が決め手です。文化やチームの大切さは実際に自分の身に起こってみないと実感しないということがあると思います。一般的にスタートアップにおいては創業者がとても注目されますから。ここに私達が座っていることもPinterestといえばベン、Stripeといえばジョンとパトリックだという世間での取り扱われ方を助長することになっているのかもしれません。

しかし私達がやっていることの99.9%は、私達ではなく私達のチームの皆がやっていることなのです。言ってしまえばそんなこと当然のように聞こえますが、ある「会社」は記号であり、それを動かしているのは常に人だということを忘れてはなりません。Appleであってもスティーブ・ジョブズはその組織の中の小さな一部に過ぎません。

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