大学1年生で年商1億円を実現した、バブル期の“箱貸し”ビジネス

中村優子氏(以下、中村):守屋さんはどうだったんですか?

守屋実氏(以下、守屋)先ほどの仲山さんの話は、機能分化してるのに工夫しちゃダメだよね。

(一同笑)

仲山進也氏(以下、仲山):そうですよね(笑)。

守屋:工程管理ばっちりしているのに、何一人でカスタマイズしてるんだという話。

仲山:(笑)。

守屋:メーカーとかに勤めると、イヌじゃないと難しいかもしれない。それで欠陥商品を出したら「どないしてくれんねん」という。

仲山:(笑)。

中村:でも、そんなことまで考えて就職しないですよね。

仲山:うん。そうそう。

守屋:今の話を聞きながら、僕自身はいつから自由な行動をしていたのか考えていました。僕は今52歳なんですね。年齢が違うからわかりにくいかもしれないけど、僕が大学生の頃はバブルだったんですよ。想像つかないかもしれないけど、日経平均株価が当時のレートで3万8,000円までいっていて。

中村:すごい。

守屋:山手線の内側の土地を全部売ると、アメリカ全土が買えたんですよ。その時点で、おかしいじゃないですか。でも、そういう時代だったんです。その時代って、何をしてもうまくいったんですね。例えば、2回連続で失敗したとしても、次に3連勝すればよく、それができたんですよ。なぜなら全員が上りのエスカレーターに乗っていたから。黙って立っていても上に上がる時代だったんですよ。

その時に、たまたま運のめぐり合わせがあって、学生起業家の先輩が作った大学ベンチャーに「お前も入れ」と言われて、入れてもらえたんですね。そうしたら、いろんなことができるようになった。それこそ大学1年生、19歳の時に会社を作ったんですけど、年商1億円くらいあったんですよ。

祖業としては、いわゆるパーティー屋さんですね。大昔「MAHARAJA」とか「King&Queen」というディスコがあって、そこを借り切って学生に貸すんです。僕も学生なんですけど。

中村:(笑)。

守屋:そして、学生サークルがパーティーを打つ。例えば、僕が箱(ディスコ)を70万円くらいで卸すんです。本当は50万円で仕入れているのに。そうすると、1箱で20万円くらい儲かるじゃないですか。これを1日に50箱くらいやるんですね。

中村:すごい(笑)。

守屋:めちゃくちゃ儲かるわけですよ。こんなことを先輩がやっていて、見様見真似でそのままやっていたら、年商1億円という世界になりました。そういう時代に、そういう学生時代を過ごしていました。

仲山:すごい。

守屋:そういうことをやっているとどうなるかというと、めちゃくちゃ女性にモテるんですよ。

中村:(笑)。

守屋:それが楽しくて楽しくて、そんなことをワーッとやっていました。それがネコなのか何なのかわからないけど、自由なことをする習慣が身についた瞬間だと思います。

学生時代のビジネスで、「ターゲット、商材、値付け」を覚える

守屋:これをもうちょっと真面目に言うと、「誰を客にして」「何をやって」「いくら取る」と「どれだけ最終的に儲かるのか」ということが把握できた。当然、失敗した時は自分たちが被るわけですよね。

例えば、僕たちがやった一番大きなスキーツアーだと、バスを30台チャーターして、斑尾高原のホテル2館を貸し切って、800人弱を送り込んだんですね。当然だけど、もし誰も来なかったらそれを被るのは僕たちなんです。だから絶対に満杯にしなきゃいけない。当然そのために後輩たちをめちゃくちゃ動かすわけです。

真面目に言えば、それってそのまんま経営ですよね。しかも、自分たちでハンコを押してフルリスクを負っている。毎回毎回、そういうことをやっていたんですよ。なんでやっていたのかと言えば、みんながやっていたからです。別に難しいことは一切考えていなかった。先輩たちがやっていて「お前もやれ」「はい」というだけなんです。

その時に「誰を客にして」「何をやって」「なんぼ儲かって」「最終的に手残りどれくらいなのか」ということを、全部自分のリスクとして計算しながら何回もやった。これがネコとかトラの始まりだったと思うんですよね。

中村:すごい。じゃあなんで就職したんですか?

守屋:当時作った会社が、僕が就職したミスミの採用イベントを受託してきたんですね。当時、自分の友達ってみんな学生じゃないですか。企業にとっては、学生はビジネスの対象でもあるんですよ。

例えば、学食にいる女の子は僕らにとっては「同学年の女の子」だけど、企業には「イベントコンパニオンの卵」に見えるわけじゃないですか。当時、まだパソコンはあまり一般的じゃなかったのですが、某パソコン会社さんがやっているパソコンスクールがあって。そこに、学食にいる見た目のいい女の子を僕たちがどんどん送り込むんです。

彼女たちに「今後はパソコンの時代になるから習った方がいいよ」「僕たちがパソコンスクールを紹介する」「授業料、安くするから」と言って習ってもらう。それでパソコンの技術を身につけてもらったら、イベントコンパニオンとしてパソコンのショーとかに出てもらうんですよ。

そうすると、彼女たちにもいい実入りになるわけですね。僕たちは彼女たちをパソコンスクールに送って、会社からキックバックをもらい、彼女たちをコンパニオンとしても送る。このとき、企業側の支払いサイトがすごく長いんですね。

わずか数時間でおよそ5,000人の学生を集められる動員力

守屋:一方、僕たちはパーティーとかの売上で支払い余力があるから、即金で彼女たちに払うんですよ。そうすることで、即金払いの儲けも重ねることができる。こんな感じで延々とやっているといろんな仕事が回せるんです。企業にとって、学生はビジネスの対象でもあるので。

例えば、さっき言ったディスコを借り切ってのパーティーはわずか数時間に5,000人くらいの学生を動員するんですよ。これは、タバコ屋さん、酒屋さん、旅行屋さん、19~20歳の女の子が来るから振袖屋さん、これらの企業にとって全部、顧客ターゲットにあたるわけです。

だから、企業からマーケティングの予算が出るんですね。東京のそういうパーティー会場に行く人は、たぶんそこそこ目立っている子じゃないですか。今で言うとインフルエンサーみたいな。

そういう子を僕たちは、たかだか数時間に5,000人集めるわけです。全員19歳か20歳。そこをターゲットとしている企業からしたら欲しいですよね。だから「企業からお金が出るんだ」と言って、ガンガン営業して、企画しまくっていました。

最終的には、自分たちの学年が上がってきて周りが就職するので「企業に友達を送り込むとビジネスになるぞ」という話になる。それで今度は就職関係のいろんな仕事をするようになって、たまたまミスミの採用イベントを、当時の僕たちの会社が受託したんですね。

仲山:なるほど。

守屋:会社として受託したんだけど、その時僕は大学4年で、そのイベントの対象学年だったからイベントの客として参加したんですよ。それが縁です。イベントの内容は「21世紀にはどんなビジネスがあるでしょうかコンテスト」というものでした。「おもしろい案を持ってきた人を採用しよう」というイベントだったんです。

イベントを受託している僕たちからしたら、応募がたくさんあったほうがいいじゃないですか。だから後輩を集めてめちゃくちゃ考えたんですね。ハガキ1枚にアイデアを書いて出せばいいだけだったんです。別にパワポの資料をたくさん作るわけじゃなくて、アイデアのメモを書けばいい。だから僕、ものすごい量書いたんですよ。受託会社として応募総数を上げたかったので。

仲山:(笑)。

守屋:そしたら、応募総数の1割が僕だったんです。

中村:うん(笑)。

圧倒的なビジネスアイデア数で、ミスミに新卒入社

守屋:当日はベスト10までが表彰されるということでした。普通の確率論なら僕は入賞しますよね。なぜなら1割が僕だから。当時『面接の達人』という本が売れていた中谷彰宏さんが審査員をしてくださった。それで中谷さんに「僕、めちゃくちゃたくさん応募したから優勝させて下さいね」と言ったんですよ。そうしたら、本当に中谷さんが僕を優勝させてくれたんですね。

これはズルじゃなくて……ちょっとズルなのかもしれないけど、でもやっぱりズルじゃなくて。

その時中谷さんが言ったのは「このコンテストは、応募は1人1通までなんてどこにも書いていない。だけども、1人を除いて全員1個しか応募していない。新規事業は多産多死なんだ。1分の1では成功しないのに、何で全員1個なんだ? 1人だけ複数応募して、その人が全体の1割を超えている。こういう人がイノベーターなんだ」ということでした。「これオレじゃね?」と思っていたら本当にそうで。

仲山:おお。

守屋:応募総数を上げたくてたくさん応募したわけだから、それをイノベーターと言われるとちょっと矛盾点もあるんだけど。まあ、でも「いいでしょう」ということで優勝させてもらいました。あれっ、何の話をしていたんだっけ?

中村:どうやってトラになったかという話ですね。

守屋:そうそう、トラとかネコの話。だから、そういうことを大学時代に経験したから、トラ的な行動に躊躇がなかったんです。

しかも参画したのがミスミで、ネコとかトラ風に振る舞ってもいい会社だった。「イヌはいらない」という会社に就職したので、自分の中ではネコとかトラとか意識していないんです。学生の延長みたいな感じでずっとやっていたらこうなっちゃいました。

仲山:なるほど。最初からトラな感じですね。

中村:私もそう思いました。もうネコすっ飛ばしてましたね。

守屋:どちらかというと僕の先輩がトラだったんだと思います。明治学院大学の小幡さんという人なんですけど。その小幡さんに「守屋、こうしろ」と企画書を渡されて、企業を走っていただけなんです。なので、少なくとも小幡さんと僕の関係は、実はライオンとイヌだったかもしれないけどね。

中村:ほう。先輩、後輩という最も強い関係ですね。

仲山:おもしろい。

中村:おもしろいですね。そんな過去があるんですね(笑)。ありがとうございます。

企業の存続のためには、4種類の動物が必要

中村:では次に、④「ネコとイヌの共存は可能か?」について。みなさんも質問があると思うのでお聞きしたいと思います。ビジネスパーソンとしては、このあたりは気になりますよね。

実際の数は「半々」という話もありましたが、どうしてもまだ「組織のイヌ」のほうが割合としては多くて「混ぜるな危険」な部分もあるのかもしれません。この場合、どう住み分けるのか。共存するのか。これに関して、仲山さんのお考えを聞かせていただけますか?

仲山:僕の結論としては、4種類の動物はそれぞれ得意なことが違うので、お互いリスペクトし合えばうまくいくと思うんです。さっきも言いましたがイヌとネコは馬鹿にし合ったりしがちなんですが、互いにリスペクトできるようなコミュニケーションをきちんと取ることですね。

具体的には、ネコやトラは「お客さんに喜んでもらうの楽しいよね」と。みんなでワチャワチャしながら新しいことを立ち上げるのが好き。だから新規事業の立ち上げや起業はトラとネコが行う。特にトラは得意だと思います。

ネコは、「トラと一緒のプロジェクト」だと喜々として働きます。それが軌道に乗り始めてだんだん業務量や人数が増えてくると「そろそろマニュアルが必要じゃないですか?」と誰かが言うタイミングがある。そうなるとトラは急に興味がなくなって、別のところで新しいことをやり始めるという性質がある気がします。

でも、せっかく軌道に乗り始めたものをみんなで放ったらかして別のほうに行ってしまうと、立ち上がるものが立ち上がらないし、長続きしない。そこでイヌの人にきっちりバトンが渡せるような「バトンタッチゾーン」がデザインされている組織だといいですね。そうすれば、立ち上がったものに対してマニュアルを作る人がいて、きっちり回して改善しながらやっていくことができる。

そういうことができれば、みんなハッピーになると思っています。逆に言うと、お互いがいないとうまくいかない関係性なので、「共存できる」どころか「いないと困る」というのが理想的な関係ですね。

ピシッとは分かれず、ライオン性やイヌ性を備えたトラもいる

中村:つまり時間差ですね。最初はネコ・トラに道を開いてもらう感じですかね?

仲山:そうですね。でもイヌの会社だと、ネコ・トラが新しいことを立ち上げているのを「あいつら何やってんだ? こっちはちゃんと数字を作っているのに、遊んでやがる」みたいになりがちなので、もったいないと思います。

中村:ネコ・トラしかいないミスミはどうだったんですか? どういうふうにうまくマニュアルを作っていたんですか?

守屋:物事をシンプルにするために「ネコ・トラしかいない」と言いましたが、現実的にはブレンドですよね。あとトラの中にもライオン性があったり、もしかしたらイヌ性だってゼロじゃないと思っていて。我々が生命体である限り、そんなピシッとは分かれないと思うんですね。

だからうまくやっていくためには、『「組織のネコ」という働き方』という本を買って読むのがいいんじゃないですかね。

(一同笑)

仲山:それでみんな仲良くなる。

中村:それはそうだ。そうですね。

守屋:そう。「こういうことなんだ」とわかっていると受け入れられることが増えると思います。それでも、人間だから最終的に「やっぱり気に食わねぇ」ということもあると思うんですよ。

プログラムを書き換えればピシッと性格が変わるわけではないので、好き嫌いだってあります。いろんなことがあります。ただ、そのいざこざが少なくなる方向には『「組織のネコ」という働き方』を買って読むことがあると思うんですね。今日はそういう日です。

(一同笑)

仲山:ありがとうございます。

守屋:みなさん買いましょう。

中村:買いましょう。

仲山:「ネコとかトラになるとどうなるの?」という話が、守屋さんの本の内容ですよね。

中村:2021年5月出版の『起業は意志が10割』には、そちらについて書いてありますね。

仲山:「トラの働き方」とは、まさに新しい価値を生み出し、立ち上げていく活動なので。

中村:そうですよね。ありがとうございました。

スタートアップの立ち上げメンバーの多くが、トラとネコになる理由

中村:みなさんからの質問もぜひ受け付けていきたいと思います。チャットに「両方買いました」と入りました。ありがとうございます。

仲山:ありがとうございます。

中村:オンラインで参加の方はぜひチャットにご質問をお願いします。会場の方で、直接お二人に聞きたいという方は、挙手いただけたらマイクを届けます。いかがでしょうか?

中村:挙手してくださって、ありがとうございます。

守屋:めちゃくちゃありがとうございます。

中村:差し支えなければ、公表していい範囲で自己紹介していただいて、ご質問いただけますか?

質問者1:カワサキといいます。今日はありがとうございました。大きい会社であれば、先ほど仲山さんがおっしゃったようにライオン、イヌ、トラ、ネコのバランスが取れると思います。

でも、例えば小さいスタートアップなどで、うまくいく割合はあるのでしょうか? 守屋さん、仲山さんから見て「実はトラだけではうまくいかないよ」みたいなところがあれば教えていただきたいと思います。

中村:はい。ありがとうございます。じゃあちょっと守屋さんからいいですか。

守屋:やっぱり最初は「トラ・ネコ」スタートですよね。自分で獲物を咥えてこないとどうしようもないので。誰かが金を渡してくれるならいいんですけど、現実問題は自分で稼いでいかないと死んじゃうじゃないですか。だからトラ・ネコから始めるしかないと思うんですね。

昨今だと、いきなり資金調達ができる状況もあるので、いきなりライオンがイヌを従えて垂直に立ち上がるということもあるかもしれません。何回もやっていて慣れているような人は、いきなりライオン型でもボンとやれると思います。

でも、多くの場合は「俺がやる。がんばるから誰かついてきてくれ。しばらくは飲み食いなしだ」というのが現実だと思うんです。そうやってトラ・ネコから始まって、徐々にさっきの時間軸の話が出てくると思うんですね。全部がトラ・ネコだとさすがに回らない場面も出てくると思うんです。

中村:仲山さん、どうですか。

仲山:僕も同感です。楽天の初期も、三木谷(浩史)さんがトラで、集まってくる人たちもだいたいみんなネコでした。大企業にいて居心地があまりよくなくて転職してきた人の集まりみたいな感じ。「ネコ・トラ」スタートでしたね。経理の人とかは、ちょっと真面目な雰囲気だったりしたけど、世の中の経理の人たちに比べたらネコ要素が強かったかなと思います。