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『「組織のネコ」という働き方』刊行記念イベント 「組織のネコは意志が10割」 仲山進也×守屋実スペシャル対談(全5記事)

「イヌ式」から「トラ式」まで、会社も4種の動物に分類できる 『「組織のネコ」という働き方』著者が作った、“自社のネコ度”を見分ける10項目

代官山 蔦屋書店で行われた『「組織のネコ」という働き方』刊行記念イベントに、著者で楽天大学学長でもある仲山進也氏と『起業は意志が10割』の著者・守屋実氏が登壇。イベント名は、2人の著書のタイトルを合わせた「組織のネコは意志が10割」。本記事では、ネコという働き方でも良い理由や、「会社のプロ」ではなく「仕事のプロ」になる必要性などが語られています。

敷かれたレールを気にせず、別の道を歩こうとする「ネコ」と「トラ」

仲山進也氏(以下、仲山):次は「レール」についての捉え方です。ライオンが進んでいるレールは、その組織における王道ですね。だいたいその会社のメインストリームの事業を担当している、花形のイメージです。

イヌにとってレールとは、「外れたらゲームオーバーになるので、離脱しそうになったらがんばってしがみつく」ような位置づけです。

ネコにとって、レールはあまり興味がない。今までの人生の中で、どこかでレールを外れた体験をしている人が多い。それで「別にレールから外れても死にませんでした」とわかっているんですね。だからレールにはぜんぜんこだわりがなく、なんなら「レールじゃなくて、道路があるのを知らないの?」と言っている感じ。

トラにいたっては「道路があって、車をゲットすれば電車と同じくらいの速さで動けるし、そもそも駅がないところでも行けるよ」という感じですね。「しかも船や飛行機も乗れるようになるよ!」というのがトラです。

このレール観はどうでしょう?

守屋実氏(以下、守屋):僕、大学卒業して初めて就職した会社がミスミ(元ミスミグループ本社)という会社なんですね。今思うと、ミスミでは会社にレールがなかったんですよね。これを話すと長くなってしまって、全部は伝えられないんですけど。

例えば、当時のミスミでは人事部が辞令を出さないんですよ。自分で手を挙げて、行きたい部署を選んで、その先の責任者が受け入れるかどうかを決める。年に1回、社内で転職会みたいなことが行われるんです。

だから、僕、ミスミに10年間いましたが、1回も受身の辞令をもらったことがないんです。辞令は自分で書くんですよ。それを受け取ってもらえるかどうかが勝負なんです。こんな会社にいたので、そもそもレールがなかったんですよね。だから僕は、ネコの人生を歩んできたのかもしれない。わからないけど。

仲山:そういう会社だと、イヌっぽい人はあまりいないんですか?

守屋:駆逐されるんですよ。自分で事業計画を立てて、それを達成して、出した利益をメンバーで山分けするルールだったので。ふだんの給料はめちゃくちゃ少なくて「生活最低保障給」と言っていました。自分の収入は、自分で売り上げて、その利益を仲間で山分けするという概念だったんですね。

仲山:基本給はベーシックインカムってことですね。

守屋:そんな感じです。だから、今期自分たちがなんぼ稼ぐか次第で、給料が変わる。一番稼いだ人は、1回のボーナスが1億円だったんですよ。

仲山:すごっ。

守屋:トータルじゃないですよ。1回のボーナスですよ。そういうサラリーマン生活でした。それをサラリーマンと呼んでいいのか、ちょっとわからないけど。

仲山:トラとネコの集団みたいな会社ですね。

人だけでなく、会社も「ネコ・トラ・イヌ・ライオン」に分けられる

仲山:次は「失敗観」です。イヌは、褒められたい動機で組織のために働いている。だから失敗を恐れる。ネコは失敗をそんなに怖がらないので、ちょいちょい失敗したりする。

トラは、同じく失敗を怖がってはいないんだけど、いろいろ考えて失敗しないようにやっているので高打率。ライオンはそれに対して叱ったり、許したり、指導する役目。こんなイメージです。この失敗観はどうですか?

守屋:僕がトラかどうかはひとまず置いといて。例えば僕の場合、新規事業の専門家です。新規事業は百発百中なわけはないんですよ。正直うまくいかないわけです。だから新規事業で当てたいと思ったら、まず10回ぐらいバットを振るんですよね。そうすることによって、結果として当たりを引いていました。

でも、9回外れてるとも言えるんですよね。そのあたりの解釈をどうするのか。いずれにしても1回ホームランを打つために、10回ぐらいバッターボックスに入っている。結局僕はホームランを打っているから、結果的に高打率に見えたりするんですよね。

仲山:新規事業をやる人の中で、守屋さんの打率はたぶん異常に高いですよね。

守屋:そうですね、運がいいんでね。

仲山:ちなみにこれは本には書いてないのですが、人だけではなく会社にもイヌ、ネコ、ライオン、トラがあるんじゃないかと考えました。

ライオンの会社は「レオ式会社」としてみました。壁には「社会貢献」と貼ってある感じ。引っ張るリーダーがいて、ついていくメンバーがいます。イヌ式会社は「目標達成」と壁に書いてあります。管理するリーダーと、指示で動くメンバーがいる。

ネコ式会社は「好きで得意なことをことをやりましょう」「お客さんに喜ばれましょう」と書いてある。遊ぶリーダーと、遊びに加わるメンバーがいる。トラ式会社は「世の中をおもしろく」と書いてある。遊び場を作るのがリーダーの仕事。そこでメンバーは遊ぶ。こんなイメージですね。

守屋:なるほど。これは新しいんですね。

仲山:新しいものです。

自社の「ネコ度」を見分ける10項目

仲山:これ(スライドに示したもの)が「組織のネコ度チェック」です。10項目ありますので、眺めていただいてご自身と当てはめてみてください。

中村優子氏(以下、中村):いくつ〇が付いたか、投げ込んでもらいましょうか。数字だけでも大丈夫です。最後の図は本邦初公開ですか?

仲山:本邦かどうかはわからないですけど、本を出した後に思いつきました。

中村:思いついてちゃんとできるのがすごい。

守屋:そういうことありますよね。僕も、本を出した後に「これはあり」と思って新たに作った資料があります。

中村:(笑)。

仲山:ありますよね。

守屋:『起業の科学』著者の田所(雅之)さんに「何でこれを書籍に入れなかったの?」と言われました。

(一同笑)

中村:じゃあ、(〇が)多い順に言っていきましょうか。10がいますね! 完全に全部〇。9、10。

仲山:9、10。オンラインは高めが多い。

中村:オンラインは高めですね。

仲山:会場はいかがですか?

中村:会場どうでしょう? (〇が)8以上の人(手を上げてください)。3~7の人は? 半分くらい。それ以下の人。これで全員ですね。

仲山:これは「何個以上〇だったら何です」みたいな厳密なものではないんです。当てはまるものが多ければネコっぽいし、1個でも当てはまればイヌの人だとしてもちょっとストレスが発生する働き方をしているかもしれない。いわゆるウェルビーイング的に言うと、該当項目が多いと健やかでないと言えます。

「働くとはイヌになることだ」と思わなくてもいい

仲山:ただ10番目の「同調圧力を『かける』のもキライ」というところが分かれ目だと思っていて。同調圧力を『かけられる』のはイヌでもネコでも嫌ですよね。だから自分がマネージャーになって指示をする側になった時、同調圧力をかけるかどうかなんです。例えば「社長からの指示なのでやってください」という言い方をする人はイヌだと思います。

守屋:なるほど。

仲山:ネコの人は「何でこれをやらなきゃいけないのか」ということを、きちんと説明して、みんなに納得してもらわないと自分も気持ちが悪い。社長を出したりして、同調圧力をかける人はイヌなのではないかと思います。

この4種類の人数というのか頭数というのか、数でイメージするとこんな(スライドに示した図)感じになると思います。イヌが多数派ですね。自然な状態というのはこちらの図のように左右対称でバランスの取れた状態だと思います。

ということは、この台形の一部には「隠れネコ」がいるんですね。本当はネコなんだけど、イヌの皮をかぶって過ごしている人がいる。

「イヌの皮をかぶったネコ」の人は、先ほどのウェルビーイング的に言うと、あまり健やかではない状態に陥りやすい。「自分はイヌだと思っていたけど、もしかしたら『イヌの皮をかぶったネコ』なのかも」という気づきがあったら、今イヌの皮を脱ぐという選択を検討してください。

「働くとはイヌになることだ」と思っていた人は、「ネコという働き方でもいいんだ」と思ってほしい。僕の話はこんな話です。いったんここまでにしておきますね。

中村:ありがとうございました。すごくわかりやすくて、みなさん、イヌ、ネコ、トラ、ライオンの違い、それぞれの生き方がわかったと思います。

1年後の仕事の予想がつくのが「会社のプロ」、つかないのが「仕事のプロ」

中村:では続いて守屋さんのパートに入ります。今回なぜ「組織のネコは意志が10割」と、お二人の著書のタイトルが合体したのかをお聞きしたいと思います。

守屋:守屋です。どうぞよろしくお願いします。今、仲山さんが『組織のネコという働き方』についての話をしてくれました。僕はこっちの本『起業は意志が10割』の人です。

この2つを合わせると「組織のネコは意志が10割」というタイトルになりますよね。なんでわざわざ合体させたか。この2冊、書いた人も出した時期も違うので、別々の本になっていますが、「実は中身同じじゃね?」と僕が思ったからです。

仲山:(笑)。

守屋:けっこう書いてあることが一緒なんですよね。例えば、仲山さんが説明してくれたこの図、僕の『起業は意志が10割』で書き直すと同じ図が描けるんですよ。

「量稽古」を一定程度こなした人は、「仕事のプロ」になれたり、「会社のプロ」になれたりするんですね。このプロになれるかなれないかの分かれ目が「量稽古」で、いずれにしても「仕事のプロ」と「会社のプロ」がそれぞれいる。

世の中の大抵の人は「会社のプロ」だと思うんですね。だから、1枚の名刺で何の仕事でもする。たぶん大企業に勤めている人は、1年後の今日も、朝出社して夕方まで働く予定が入っているはずです。オンラインだったら家で働くのかもしれませんが。

それは「会社のプロ」だからです。「仕事のプロ」になるとそれとは違って、自分で自分の仕事を開拓してやっていくから、1年後の今日は何をやっているのかわからないんですね。

僕だったら新規事業をやっていることは間違いないんだけど、何の新規事業なのかはわからない。このように「会社のプロ」と「仕事のプロ」の2つに分かれます。

23.5年で企業が倒産する今、「会社のプロ」で生きる危うさ

守屋:これまで世の中のほとんどは「会社のプロ」でした。みんな大企業に就職して、場合によっては「勤め上げる」なんていう日本語もあったと思います。

ただ、これは「昭和の奇跡」だと思ってください。戦後の昭和の、歴史上ごく稀な期間に、唯一合った働き方だったと。普通に考えるとそんな働き方はないと思います。実際問題、企業は平均23.5年で倒産しているんですよ。つまり、大学卒業して22歳くらいで就職すると、確率論的には45歳くらいでその会社がなくなっちゃうという話なんですよね。

昔は「勤め上げる」という日本語だったけれど、今は「いや、あんたの人生のほうが長いから」という日本語になると思います。だから「会社のプロってけっこうきつくない?」と思うわけですね。どういうことか。23.5年だと計算上、45歳くらいでリリースされてしまいます。新たな会社のプロになる必要が出てくるのです。

会社側から見ると、22歳の若者で何者にも染まっていなくて「これから僕、御社のプロになります」という人がいる。一方、45~50歳前くらいのすでに何かの会社のプロになっちゃっていて、キレイに染め直すことができるか分からないおじさんとおばさん。どっちを採りますか? 普通の経営者は22歳を採ると思うんですよね。

人生後半になってから会社のプロとしてリリースされるとけっこうきつい。だって20~30年その会社で慣れてきたものを、本当に40~50歳になってからもう1回変えられますか? それ普通に考えたら絶対20代の人が有利じゃないですか? 

ということは、世の中はだんだん仕事のプロの人の比率が高くなってくるんじゃないかと。このような考え方で、仲山さんの図をそのまま拝借して合わせると、僕の中では「隠れ仕事のプロ」がいる。「今後がんばってプロになるぞ」みたいな人たちです。

その時に「仕事のプロ」として量稽古のラインを越えることができるかどうかの加速装置が「意志」だと思っているんですね。

仕事のプロや名医が経験する、初見での「既視感」

守屋:これは、仲山さんの図に寄せて描きましたが、そもそもこういうことを書いた本です。「そうそう。図にするとこんな感じ」と思いました。

仲山:(笑)。ちょっと質問いいですか?

守屋:はい、どうぞ。

仲山:量稽古のところに、「初見で既視感」と書いてあります。これはどういう意味ですか?

守屋:例えば名医のお医者さんって、患者さんがやってくると顔を見ただけで病状がわかる、って言うじゃないですか。それはプロ中のプロだからだと思うんですね。弁護士さんも同じように、何回も裁判をしている人だとちょっと相談を受ければ「ああ、これはこんな感じだな。結局ここが論点になって最終的にちょっと苦しいかもしれないな」とわかると思うんですね。

僕らは、仕事柄、大企業さんやスタートアップの起業家さんから相談を受けることが多いんですが、30年ずっと新規事業ばかりやっていると、だんだん「初めて聞いた」という事業に出会わなくなってくるんですよね。だいたいは聞いたことがある。「ああ、これ1ヶ月前に聞いたな」「先週聞いたな」とか、そういうのばっかりなんですね。厳密には聞いたことはないんだけど、想像がつくんですよね。

仲山:「あれとあれを組み合わせたパターンだな」みたいな。

守屋:そうです。例えば僕がいたミスミという会社では、「購買代理店」という強みがあったんですね。日本語で「購買代理店」です。そののち、ミスミの強みをそのまま活かして「ラクスル」という会社を始めました。漢字だった「購買代理店」を、ラクスルではカタカナで「シェアリングエコノミー」としたんです。

「シェアリングエコノミー」のことを、最近流行りの言葉に直すと「DX」ですよね。言葉は違うし、正確に言えばいろいろ違うのかもですが、僕の中では、肝は全部一緒なんですよね。単にインダストリーと経営者が違うから、うちは「こんな会社」と言う時の「こんな」の表現を変えているだけ。やっていることはけっこう同じかなと思っています。

「初見でも既視感」を会得するために必要なこと

守屋:ラクスルはネットで注文して印刷ができるというサービスの会社なんです。日本にはめちゃくちゃたくさんの印刷会社があるんですよ。埼玉県にある印刷会社がすべて100パーセント稼働すると、ドイツのすべての印刷会社の100パーセント稼働に並ぶくらい刷れるんですね。なんか、これ多すぎだと思いませんか? 

だから、印刷工場の生産ラインはけっこう空いているんですよ。僕たちは印刷の注文をいただくことに専念して、注文をいただいたら、その未稼働の生産ラインに対して、「刷って」とお願いするんです。そうすると、仮想的に我が国最大の印刷会社ができるわけじゃないですか。これは昔はできなかったことですが、今はインターネットを使ってできるんですよね。

それを大昔、金型でやっていたのがミスミなんですよ。世の中にたくさんの金型工場があって、その生産ラインが全部フル稼働なんてしないわけですよね。工場さんに「その機械があるのなら、これも作れますよね?」と言って、製造を委託するということをやっていました。

それを印刷でやったのがラクスルだし、板金加工でやったのがキャディだし、自動車整備でやったのがSeibiiだと。同じようなビジネスモデルを違うインインダストリーで、10社くらい展開しているんですよ。

仲山:なるほど。

守屋:たまたま印刷機、金型、板金、デザイン、自動車整備だったりするだけで、僕の中ではほぼ一緒です。日常的なイメージで言うと、八百屋をやった後に果物屋をやる感じですよね。キャベツとイチゴって違うんだけど、似てる面もあるよねという話。そんな感じで展開しています。

こういうのを、どんどん蓄積していくと、どんな相談を受けても「だいたいこれ、こんな感じでしょ」って、初見でも既視感に至るということなんです。

仲山:わかります。

守屋:たぶん仲山さんは学長だから、いろんな人からいろんな相談を受けますよね。だいたい楽天の中でも聞いた話ばかりなんじゃないですか?

仲山:そうですね。楽天に出店して商売をしている人から聞くお悩みは、だいたいもう「あのパターンですね」と思います。今の守屋さんのお話のように「同じことを違うジャンルでやる」というのもあって。楽天で1店舗うまくいった人は、違うジャンルの商材で2店舗、3店舗と広げていくタイプの会社があるなと思いながら、今お話をうかがっていました。

守屋:はい。では、次にいきます。

仲山:お願いします。

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