働き方は「4つのステージ」に分かれる

守屋実氏(以下、守屋):次の図はこれです。さっきの図より、さらに似ているんですよ。もはや違いがわからない。仲山さんの本で、このページを読んだ人はいますか?

中村優子氏(以下、中村):『組織にいながら、自由に働く。』のほうでしたっけ?

守屋:そうそう。4ステージあるんですよね。

仲山進也氏(以下、仲山):『「組織のネコ」という働き方』にも載っていますけどね。

中村:ああ、ごめんなさい。

守屋:仲山さんは「4ステージ」、僕は「4段階」。これはカタカナか漢字かの違いですね。

仲山:(笑)。

守屋:そして、仲山さんは「加減乗除」とちょっと工夫されている。僕は「一二三四」と数字だけ。その差があって、いろいろ細かいことも書いていますが、要は一緒ですということで。

違う人生を歩んできて、まったく違うことをやっていて、お互いぜんぜん知らなくて、違う時期に本を出したのに、書いてあることはマジ一緒。この偶然性にはかなり驚きました。本当に、同じことを考えている人がいるんだなと思った。『「組織のネコ」という働き方』という本は、「僕の本だ!」と思いました(笑)。

仲山:(笑)。光栄至極。

守屋:仲山さんから「加減乗除」の話をしていただいてもいいですか?

仲山:はい。働き方には4つのステージがあるんです。まずは「足し算ステージ」。例えば、新入社員が「これをやって」と言われたとする。その時に「いや、僕の強みはこれなんで、こういう仕事しかできません」と言ったとしたら、「とりあえずやってね」となると思うんですね。

やってみないことには、何が強みかわからないですよね。なので「できることを増やす」「できないことを減らす」「苦手なことも食わず嫌いをせずに、できるようになるまでやってみる」ということが大事なステージが最初にあります。

自分の強みを知る「足し算ステージ」、強みを磨く「引き算ステージ」

仲山:「足し算ステージ」では「仕事の報酬は仕事」です。できるようになると「今度はこれをやってみて」と、いろんな種類の仕事が回ってくるようになるし、同じ仕事でも量稽古ができるようになる。これが「仕事の報酬は仕事」という意味合いです。たくさんの仕事を頼まれるようになってくると、どこかのタイミングでキャパオーバーになる。そのくらい仕事を頼まれる状態に、多くの人がなると思います。

例えば、定時でやろうにもはみ出てしまって、120パーセントくらい働かなければいけなくなる時がありますね。そんな時、いろんな工夫によって100パーセントに収まるようにできたとしたら、生産性が上がったと言えます。これは、何らかのかたちで自分の強みが発揮されたことで、生産性が上がったということです。その時に初めて「仕事で実際に役に立つ自分の強み」が浮き上がってきたことになる。

そうしたら、次は他のことを足している場合じゃない。見つかった強みを使い込んで、磨いていくステージに行ったほうがいいというのが「引き算のステージ」になります。引き算とは「仕事を減らしてラクをする」ということではありません。仕事が100あったら、そのほとんどが自分の強みと関係している状態を作ること。強みに関係ないものは手放していって、強みと関係ある仕事だけやる。

そうすれば、「あいつにはあれをやらせておけば、本人も楽しそうだし周りも助かるよね」という状態になる。そして「その代わり、苦手なものはやってあげるよ」と周りが言ってくれるようになるのが「強みのポジティブ発揮スパイラル」のイメージです。

なので、その引き算ステージをやっていくとどんどん強みが磨かれていくんですね。そして誰から見ても「あの人はあれが得意だよね」というぐらい強みが突き抜けると、次のステージに進んでいけます。

「他人の強み」とかけ合わせて、価値を生み出す「かけ算ステージ」

仲山:そうやって強みが突き抜けることを、僕は「強みの旗が立つ」と表現しています。旗が立てば、「その強み、今やろうとしているプロジェクトに必要なんだけど、一緒にやらない?」とオファーが来るようになる。これが「かけ算ステージ」です。つまり「自分の強み」と「他人の強み」をかけ合わせながら、価値を生み出していく働き方です。プロジェクトベースの働き方ができるようになるのが「かけ算ステージ」のイメージです。

ここではチームを作って仕事をしていくので、やればやるほど仲間が増えていく。「仕事の報酬は仲間」ですね。「かけ算のステージ」では、いろんなところから声がかかるんです。

ホイホイ「いいよ」と言っていると、いつの間にか首を突っ込んでいるプロジェクトが10個、20個、30個になってきて、なんとなくどれも中途半端になってくる。そんなモヤモヤが次の「わり算ステージ」に進んでいくきっかけになります。

わり算は、因数分解のイメージで、1つのもので括れる状態にするんです。「強みで括る」でも「理念で括る」でもいい。「括られている」とはどういうことかというと、「どこで何をやっていても全体が同時に進んでいる状態」のことです。

例えば、A社でやっていることを他のB社、C社でも横展開や応用ができるといった状態に仕事をデザインできれば、わり算になります。そうすると、どこで何をやっていても仕事が同時並行で進んでいるので、自由が得られます。これが「わり算のステージ」のイメージ。別の言葉で言うと「個人ブランドが確立している状態」です。

これが加減乗除のステージの話になります。

守屋:はい。ありがとうございます。

新規事業を作るコツを覚えた「量稽古」

守屋:僕もこれとほとんど同じことを言っているんです。違うのは、仲山さんは全体に通じる一般論として語っているのに対して、僕の場合はそのまま自分の社歴なんですね。

第一段階がミスミ時代。社会人になりたてでいきなり新規事業に突っ込まれました。僕の先生は外部委託先のマッキンゼーのチームだったんですよ。めちゃくちゃ優秀で、彼らは興奮すると英語でしゃべるんですね。僕は英語がしゃべれないから彼らが言っていたことをカタカナでメモするんだけど、カタカナだからスペルが分からず調べようにも調べられなくて。

仲山:(笑)。

守屋:何を言っているのかわからないという恐怖の時間帯がけっこう長くて。そこでめちゃくちゃ絞られて、鍛えられたんですよね。「守屋くん、君は使えないからがんばって」と言われて、とにかくがんばっていたミスミの時代がありました。これが第一段階で、何となく新規事業というものを覚えました。

その後、ミスミの創業者の田口(弘)さんと、エムアウトという会社を作りました。これが第二段階です。エムアウトという会社は、当時「起業専業企業」と言っていました。田口さんが潤沢な資金を用意してくれて、その資金で、とにかく新規事業を作って作って作りまくるという会社でした。そこで何個も何個も事業を作って、めちゃくちゃ量稽古をさせられました。

3回連続空振りして「もう僕は新規事業やりたくありません」という時も、再度4回目の打席に立たされるという経験をしていました。それで、もう嫌になっちゃって「サザエさん症候群」(翌日からの仕事や学校のことを考えて、日曜の夕方に憂鬱になること)という病気になっちゃったんですけどね。

仲山:ほうほう。

守屋:でもさすがにそれだけやると、新規事業のコツみたいなものを覚えてきたんです。「だいたいこうやればいいのか」ということがわかってきて、人に説明できるようになったんですよね。自分の強みが見えてきたのが第二段階でした。

立ち上げたスタートアップが軌道に乗るまで、生活費はバイトで稼ぐ

守屋:第三段階ではそれを活かして、ラクスルやケアプロといったいくつかのスタートアップを立ち上げ始めました。ラクスルもケアプロも同時に副社長をやり、毎日午前中にケアプロ、午後からラクスルに行っていました。どちらも立ち上げたばかりの会社だから、自分で資本金出して、当然給料ももらわない。もらったとしても、それは自分たちが出しているわけですから。

生活費を稼ぐために夜は博報堂やリクルートでバイトをして、一日中飲まず食わずで働いていました。要は、身の丈を超えたことをしていたんですね。「自分だけでは力不足でダメだから」といろんな人を呼び込んでいったら、生態系みたいなものができてきました。ラクスルも上場したし、ケアプロも法改正を実現できた。その後いくつか上場も続きました。

今は経済的にもけっこう解放されたので、「何をしたいのか」以外は考えなくていい状況になった。かなり自由を手に入れられています。それが今の第四段階です。こんなふうに自分の人生を駆け上がっていきました。これが僕の一、二、三、四段階ですが、仲山さんの本にもそのまま書いてあると思って。

仲山:なるほど。

守屋:でも(仲山さんの本では)「加減乗除」って書いてある。「うわ、僕も、こっちにしておけばよかった」と思いました。

仲山:(笑)。おもしろい。

守屋:そんな感じです。『「組織のネコ」という働き方』を読んだ時に、あまりにも似ていて、だから「組織のネコは意志が10割」という、2冊を1冊にまとめた本を出したほうがいいんじゃないかって思ったんですね。

仲山:(笑)。それで今日のイベントになってるわけですよね。

守屋:そうですね。

チャンスを逃がすと、逃がし癖が身につく

守屋:ここからが話のポイントなので聞いてほしいんです。本を読んで「似ているな」と思ったとしても、思っただけなら今日のイベントは当然ないですよね。

だから僕は、今見ていただいた図を作ったわけですよ。作ったものを仲山さんに見てもらっているわけです。「この本は同じだと思います。2人は一緒のことを言っているから『組織のネコは意志が10割』でどうですか?」と提案したんですね。

そうしたら「それをもとにイベントをやろう」と言ってくれた人がいて。話をしたからこそ、こういう場ができたんですね。何が言いたいかというと、こういうふうに「常に一歩踏み出すことをしていると、めちゃくちゃでっかいチャンスが来た時にも体が動くんですよ」と。

「似ているな」と思っても、それだけだと「思うだけの人」になっちゃう。それではこの場はないんです。だから、もし自分がイヌであっても、ネコであっても、何かしら思ったことがあれば行動に移したほうがいい。体がそうやって動く人になっておいたほうがいいと思うんですよ。

これは必ず癖になりますからね。動く人は動くことが身についている。動かない人は、絶対に一歩を踏み出せないんですよ。そうすると、人生最大のチャンスが目の前に来ても、きっとスルーするんですよ。なぜなら動かないことが身についているから。

これはめちゃくちゃ損なんで、何でもいいから小さなことでもとにかく一歩を踏み出すことをやってほしい。そうすれば、すごくいいものが目の前に来た時に、ピュッと手が出ますから。それをお勧めしたいと思います。なので、お帰りの際はぜひ『「組織のネコ」という働き方』に、ピュッと手を出して、たくさん買ってほしいですね。1人10冊ずつ。

(一同笑)

守屋:今日お土産として持って帰ってほしいのは、「チャンスを逃がすと、逃がしただけじゃなくて逃がし癖が身につく」ということです。プラスマイナスゼロじゃなく、マイナスですからね。それを意識しておいたほうがいいと思います。

仲山:補足をしておくと、中村さんが、守屋さんと僕をつなげてくれたんですね。それで「Zoomでおしゃべりしましょう」ということになって、初対面の時に守屋さんが「今日、スライドを作ってきたんですけど、まず見てもらっていいですか?」と先ほどの2枚の図を見せてくださったんですね。もう開始1分で心を掴まれました。

中村:今、コメントにも「守屋さん、最高」と入っていました。

守屋:ありがとうございます。もっと言ってください(笑)。

(一同笑)

イヌ的な仕事でキャリアをスタートし、創業期の楽天に転職してネコ化

中村:では、③番の「どうやったらトラになれるの?」にいきましょうか。みなさん、質問があったら私に声をかけてくださいね。『「組織のネコ」という働き方』では、別にどの動物が優れているということはないんですよね。でも、将来的にトラを目指しているネコの方も多いと思います。そこで、お二人に「どうやったらトラになれるの?」という質問をしたいと思います。

自覚されているかはともかく、お二人がトラであるのは誰もが認めるところだと思います。ただ、はじめからトラを目指していたわけではないのかもしれません。「どうしてトラになったの?」「トラになるためどんな稽古をしたの?」「本当にネコスタートだったの?」「もしかしてイヌだと思っていたのに、気づいたらトラになっていたのかな?」などを、お聞きしていきたいと思います。仲山さん、いかがですか?

仲山:僕の場合は、最初にシャープという会社に入って、イヌ的な仕事の仕方をしていました。今振り返ると「イヌの皮をかぶったネコ」からのスタートでした。分業がしっかりしていて、言われたこと以外のことを工夫してやったりすると「いらんことするな」と怒られたりするんですよね。

守屋:それはそうだ。

仲山:また「何のためにこれをやっているのか?」がよくわからない。全体が大きすぎて、自分が担当している作業が何を意味しているのかわかりにくいんです。これにもモヤモヤしていました。全体がわからないと、工夫の仕方もわからない。「自分なりに工夫したい欲」が強めだったのかもしれません。

あと、ちょっと変な話なんですけど、僕は指示されたことを指示されたとおりにできない星の下に生まれているっぽくて。

中村:(笑)。

仲山:例えば「あそこにあれが入っているから、出してこうやっておいて」と言われたとする。言われた場所に行くと、あると言われたものがない。こういうことが、なぜかすごくよく起こるんですね。

あとマニュアル通りにやったらその通りにいかなくて、それを報告すると「そんなことが起こるわけがない」と最初は言われるんです。でも、きちんと説明すると「本当だ。こんなの初めて見た」となることが僕の人生にはすごく多くて。それで「言われたことをやるのが向いていない星の下なんだな」と思ったこともあって楽天に入社しました。

「全体像がわからない」「指示されたことをやるのが不得意すぎる」ということで、大きい会社にあまり向いていないと思った。それで転職して、当時まだ20人くらいの楽天に入ったんです。そこから「全体像が見えながら働き放題」という、めっちゃ楽しい状態になりまして、そこからネコ化した感じです。

中村:本来の自分を取り戻して、ネコであることに気づいた感じですか? 

仲山:そうですね。「部活みたい」と思った。部活モードでしたね。