それをずっとやってて、徳島市でイノベーションが起きますか?

石原亮子氏(以下、石原):内藤市長。このままいったら日本の未来は……というか、今、入山先生からも全体像をお話しいただいたんですけど、たぶん地方都市とかって、もともと財政とか人材とかのところでは課題があって。今はさまざまな取り組みをされてると思うんですけど。このへんって、どうお感じになられてますか?

内藤佐和子氏(以下、内藤):私も入山先生がさっきおっしゃられていたことはすごくよくわかって、まさに今、徳島市で同じようなことをやろうとしてるんですね。やっぱり財政の問題もありますし、特に市役所は部長級、50代、55歳以上の男性ばっかりで占められてましたし。市長も副市長も男性ばっかりだったので。

私が来たことによって、突然「ダイバーシティ」とか「インクルージョン」とか「イノベーション」とか。「DXだ、はんこレスだ!」と、いろんなことを言い出したことによって「えっ!? えっ!?」ってなりながらも、ついていかざるを得ない状況になって。行政版のLINEみたいなのを入れて「こういうので市長と直接やりとりができるような状況を作りましょう」って。

課長級なんかは市長室になかなか来られないので「じゃあ、もうこれで直接やりとりすればいいじゃん!」みたいな。「えっ、市長とそんな……直接やりとりしちゃって大丈夫なんですか? 副部長とか部長を通さなくていいんですか?」って。「ぜんぜんいいです、直接やってください。そのほうが早いんで」みたいな話とかもしていて。

入山章栄氏(以下、入山):それいいですね(笑)。

内藤:日々そういう状況の中で、これはOJTの研修みたいなもんなんだろうなって思いながら、私も進めてます。さっき入山先生が「なぜやるのか?」とか、自分ごと、投資することが大切だっていう話をされてたんですが、まさにそれを今取り組んでいて。

市役所でミッションとかビジョンとかバリューとか、そういうことを考えてきたことが今までなかったので。きちんと「じゃあ、徳島市役所ってなんのためにあるのか?」とか「各部とか各課とか、各担当がどういう顧客を持っていて、その顧客に対して本当にあなたたちがやるべきことをやれてるんですか?」「今までやり続けてきた、ただの前例踏襲をやってるだけじゃないんですか?」っていうことも含めて、今やってます。

やっぱり、そういうのをやっていかないと。今までの前例踏襲でずっと同じ事業ばかりやって、じゃあ例えば「経済部は同じセミナーばっかりやってます」「それ県もやってるよね、商工会議所もやってるよね? それをずっとやってて、徳島市の中でイノベーションが起きるんですか?」とか「本当に創業支援になってるんですか?」とか。その根本のところを考えたり、そういうことができればいいなと思ってます。

さっきも入山先生おっしゃってましたけど、そこにはダイバーシティの視点は不可欠だと思いますし、細かい視点や女性の視点も必要だと思ってるんですね。内閣府のほうで策定、認定してもらうんですけど。今年は徳島市が内閣府に「中心市街地活性化基本計画」っていうのを出すんですけど、そこの1つのテーマが、先生がちょうど今言っていたダイバーシティ&イノベーションです。

入山:本当に? すばらしい。講演行きましょうか? 0円でやります(笑)。

内藤:ぜひぜひ、来てください。本当に。

石原:1つまたイベントができましたね。

内藤:はい(笑)。私はそれが絶対的に必要だと思ってますし。

「既得権が奪われる、自分のやり方が否定される」という恐怖

内藤:あと、地方だけでもできないと思ってるんですね。こういうかたちでSurpassの石原さんとかともお話させていただいてますけど、東京の企業だったりとか。あとは日本だけじゃなくて、それこそアメリカとか世界とか、ドバイとか。

そういうところも含めて「徳島がどういうことをブランディングしてやっていけるのか? どういうプレゼンスを発揮できるのか?」っていうことを、きちんとやっていかなきゃいけないんだよっていうことを日々説きながら。今まで職員さんとかはそこまで考えてきてないので、そこは「きちんと意識改革をしてください」ということを、議会のあいさつの中とか含めて、いろんなところでみんなを洗脳していってる段階です(笑)。

入山:内藤さん。それってたぶん、口で言ってるけど、すごい大変だと思いますよ。今まで同質性が高いところで、考えないできてた組織だから。そこにいきなりポンって上(の立場)で来て、今、がんばって洗脳されてるとおっしゃってましたけど。まだ当然、端緒についたばっかりだと思うんで。

上の人たちも、わかっちゃいるけど心理的抵抗みたいなのがすごいあるはずなんで、相当に苦労されてるんじゃないかなって思うんですけど。たぶん、だんだん時間が経って成功例が出てくると「実は俺も応援してた」みたいに言う人出てくるんで。

石原:あるあるですね(笑)。

入山:あるあるですけど(笑)。

石原:入山先生がおっしゃったようにめちゃくちゃ今、内藤市長も勝負の時というか。勝負が1年以上続いていて、本当にすごい改革の真っ最中だと思うんです。

2人の話を聞いてても本当にアグリー(同意)のところしかないですし、こういうメンバーが集まると「そうだよね」ってなるんですけど。既得権益を持っている男性、いわゆるマジョリティ側の人たちにこの話すると、すごい恐怖を感じてるなという。

入山:そのとおりだと思います。

石原:ものすごい恐怖で、自分の範疇、自分のコンフォートゾーンを侵されるみたいな。ダイバーシティとかインクルージョンの向こう側、女性活躍を越えて、向こう側にある「実は男性も生きやすい社会」につながるのに。その手前にある「自分の既得権が奪われる、自分のやり方が否定されてる」みたいな感じで。この恐怖をどう取り除くか? っていうのが、すごい難しいところの1個かなと感じてます。

入山:本当にそうで。結論から言うと、ダイバーシティって慣れると楽しいんですよね。

石原:絶対そうだと思う。

揉めない会議=ダイバーシティがない会議?

入山:ただ当然、長い間、同質的な関係の中で、特に僕も含めてですけど中年の男性はいたんで、怖いんですよ。いくつかアイデアがあって、まず1つは、僕が理事やってる「コープさっぽろ」っていう全国でも最大規模の生協で。あそこの大見英明さんっていうのは、天才経営者だと僕は思ってて。

実は女性活躍をバンバン進めてるんですね。それこそ組合理事っていうのを作って、ほとんどが専業主婦の方なんですけど、いわゆる理事会に参加してもらってるんですよ。で、我々理事が組合理事から締め上げられるみたいなことをやってるんですけど(笑)。

本当に働き方改革を進めようとしたらどうしたらいいか? っていうと、大見さんがすごくて。人事部長を、30代後半の3人のお子さんがいるお母さんにしたんですよ。働き方改革やりたかったら、一番働き方改革に切実なのって、3人のお子さん持ってるお母さんじゃないですか。だったら「その人にやらせたら一番わかるじゃん」って言って。それをあっさりやっちゃうんですよね、大見さんって。

既得権益がまさにそのとおりなんですけど。既得権益が全員いきなりは難しいかもしれないけど、本当に働き方とかの鍵になるところは、反発があってもいいから一番課題感を感じてる方にやらせちゃうっていうのは、まず1個あるかなって思います。

2個目が、なんでこういうことが起きるか? っていうと。ダイバーシティ系の講演でよく申し上げますし、まさに内藤さんもそういう状態だと思うんですけど、ダイバーシティって「良いような話」だって僕言ってて、絶対にイノベーションは不可欠なんですけど「会議が揉めますよ」っていう話をよくしてるんですね。

揉めるんですよ、揉めるのが健全なんですよ。だって、多様な人がいるんだから。これは男性・女性だけじゃなくて、LGBTの方とか障害者の方とか外国人も含めて、いろんな人がいたらいろんな考えや価値観を持ってるんだから、揉めるんですよ。揉めない会議はダイバーシティがない会議だし、イノベーションが起きない会議なんですよ。揉めないとイノベーションって出てこないんで。

よく某主要官庁がね「入山先生、誰にでもわかる『揉めないイノベーション』を教えてください」みたいなふざけた話をしてくるから「帰れ」って話をしてて。絶対に揉めるんですよ。揉めないとしょうがないんですよ。揉めてないのは健全じゃないんですね。

揉めた時に何が必要か? っていうと、1つは内藤さんがまさにおっしゃった「Purpose(目的)」で、「我々は何のためにこれをやってんだっけ?」っていう、Purposeだけは揃ってる必要がある。そうすると、多少は揉めても「自分の言ってること、今回は通んなかった。揉めた結果、自分より20歳も若い女性の意見が通っちゃったけど、一緒にこういうことやってこうっていう思いは一緒なんだから、彼女の意見も一理あるからやってみるか」みたいになるんですけど、Purposeがないとそのまま割れておしまいなんですよ。そういう意味で、それがすごく重要だっていうこと。

『アメトーーク!』と『さんま御殿!!』に見る、心理的安全性

入山:もう1つ僕が言ってるのは、徹底した管理職研修で。なんでかというと、今までは会社も役所もそうだと思うんですけど、同質性の全会一致で「全員賛成、全員反対」できてたマインドセットなんで、いろんな意見で揉めることに慣れてないんです。しかも揉める相手が、下手すると自分より19か20若い女性だったりするわけですよ。

そうすると「なにを!」みたいになるわけですよね。そこでいかに我慢できるかって、けっこう重要で。これからの管理職、もう管理ってAIがやってくれるじゃないですか。だから、管理職が管理する必要ないんですよ、AIが全部やるんで。代わりに大事なのが、ファシリテーターです。心理的安全性ですね。

僕の話ばっかり長くなるんでもう止めますけど。僕がダイバーシティ系の話でよく言ってるのは「一番わかりやすいのが『アメトーーク!』と『踊る!さんま御殿!!』だ」って話をしてて。あの2つを見比べてみろと。実は『さんま御殿』って、最悪の番組なんですよ。

石原:(笑)。

入山:心理的安全性がゼロなんですよ。さんまが強すぎて、いろんなお笑い芸人とかアイドルとかが来て「なんとかして、さんまさんに拾ってもらおう!」って。「さんまさん!」「さんまさん!」ってなるでしょ? で、さんまもその人にしか返さないから、多様なメンバーがいるのに「さんまと1対1の関係」しか作れないんで、横展開がないんですよ。

だから、さんまとしてはおもしろいんだけど、番組としてはそれだけの番組になっちゃってるんですね。視聴率がどうか知らないけど「これからのダイバーシティの世界では最悪です」って話をしてて。

一方で『アメトーーク!』のほうは、宮迫(博之)が問題起こしていなくなっちゃったじゃないですか。ホトちゃん(蛍原徹)だけになって、みんな「大丈夫かな?」って思ってたんですけど。ホトちゃんが今どうやってるかっていうと、例えば誰かが何か言うと「んー! ○○はどう思う?」ってやってる(話を振ってる)だけなんですよ。またザキヤマ(山崎弘也)がおもしろいこと言ったら「そうか、ザキヤマ。お前はどう思う?」ってやってるだけなんですよ。

石原:(笑)。

入山:これ。これをやると横のつながりができて、心理的安全性が上がるんで。だから『アメトーーク!』はホトちゃんだけになってからのほうが、意外と視聴率高いみたいな。

僕は「日本語で一番簡単なキーワードがある」って話をよくしてて。超便利な日本語があるんですよ。それは「なるほど」っていう言葉。これ、よくダイバーシティ系のイベントで言ってるんですけど「なるほど」って散々言わせるのが重要で。

例えばダイバーシティが高いと「どう考えても自分としてはちょっと違和感ある」みたいな意見が出てくるんですよ。その時に「なるほど」って言うと、どうにかなるんです。僕もよくラジオで「なるほど」って言ってますから。僕が「なるほど」って言うと「入山先生、なんか褒めてくれてんのかな?」みたいな(笑)。(相手が勝手に)勘違いするみたいな。

石原:これから「なるほど」の回数数えちゃいそうです(笑)。

入山:僕の周り、石原さんとかもそうですけど、おもしろい人とかイノベーターってだいたい「なるほど」ってずっと言ってるんで。「なるほど」が溢れる組織にするっていうの、たぶんすごい重要。僕も含めて中年の男性って今まで「なるほど」って言ったことないと思うんですよ。変な違和感あると「それ違うだろ!」ってガガガッてなるんで、「なるほど」って言わせるっていう。

マジョリティはマイノリティ経験がないから、自分ごと化できない

入山:もう1個だけいいですか? 話長くてごめんなさい。これも最近言ってるんですけど、どうしても今まで日本だと、僕も含めて中年の男性がマジョリティだったんで「揉める会議」ってなかなか受け入れられないじゃないですか。

最大のポイントは、はっきりと我々が、僕も含めてマイノリティ経験をしたことがないんですよ。これがすっげえ重要で。マジョリティ側の人たちってマイノリティ側の立場に立ったことがないから、マイノリティ側の感覚がわかんないんで、自分ごと化できないんですよ。なので、マイノリティ側の経験をさせるっていうのはすごい重要で。

僕は大した人間じゃないけど、アメリカに10年いたんで、10年いると日本人ってめっちゃマイノリティだから。日本人は(周りに)僕だけだったんで、そこはそれなりに経験したと。

あと最近だと、僕がおすすめしているのは「子どもの保護者会に行きなさい」って言ってるんですよ。徳島とかはどうかわかんないんですけど、僕、東京の杉並なんですね。それで、東京の杉並区だとまだ残念ながら、専業主婦の方が多いんで。

奥さんが仕事をして行けない時に「俺行くよ」って、たまに僕も保護者会行くんですね。で、行って3年4組とかの扉をガラガラって開けるんです。そしたら全員女性なんですよね。開けた瞬間「ハッ!」って僕のほう見て「ひぃー!」みたいになって(笑)。「男よ!」「男が来たわ!」みたいな感じになるわけですよ。

石原:(笑)。

入山:そっちはそっちで、残念ながら「女性だけの同質性の高い組織」ができてるんですよ。杉並区の小学校って、男性ばっか働いてるから。そこに僕がマイノリティとして行くと、けっこうな“マイノリティ経験”になるんですよ。「学校にポケモンのマークのついた靴を履いて持ってきていいのか!?」みたいな議論を、延々と1時間もやってるわけですよ。「なるほど、こういう世界が繰り広げられてるのか」みたいな中で、隅っこで小さくして聞いてるんですよね。

そうすると「マイノリティってこんな気持ちになるんだな」みたいな。日本の男性って、今までけっこうマイノリティ経験ないんですよ。なので、マイノリティ経験とか、あと圧倒的に多様性の高いところに1回放り込んでみるとか。そういう研修をやるのがすごい大事だと思うし。徳島市の役所の男性は全員子どもの保護者会に自分が出るっていう。義務化みたいな(笑)。すいません、以上です。

Purposeが同じなら、最終的な結論は一緒

石原:内藤市長がよろしければ、女性が7〜8割のSurpassに、徳島市職員の男性方はぜひ出向していただいて。

内藤:そうですね。あと管理職の研修、石原さんにやってもらおうとしてますよね。女性ばかりの中に男性を入れてみるみたいな。

入山:めっちゃいいと思います。

内藤:絶対、それは私も必要だと思っていて。さっき、揉めない会議の話ありましたけど。私、昨日まで実は議会だったんですけど、最後の閉会のあいさつで「もうすり合わせやめましょう」って。「侃侃諤諤の議論をするためには、野党とも与党ともすり合わせをして、ただの台本を読むみたいな感じじゃなくって、やればいいじゃないですか。それが本来の議会でしょ」みたいな話を最後、閉会のあいさつでガツンとブチ込んだんですけど。

やっぱりそういうことをやっていかないと「議会はこんな感じで、きちんと進めていって、荒れないようにしましょう」では、徳島市はよくなっていかないと思うので。「そこは揉めてもいいからやりましょうよ。時間をオーバーしてもなんでもいいじゃないですか」と。お互い言いたいことを言って。さっき入山先生が言ってましたけどPurposeが同じなんだったら「徳島市をよくする」っていうことがもしみんなの中にあるんだったら、最終的な結論は一緒というか。

「ここのゴールは見えてるんで、ここに行きましょうよ」っていうほうになると思うので。やっぱりそういうふうにマインドを変えていかないといけないなと思いますし、絶対的にそれは必要だと思いますね。

石原:就任してからいろいろあるっていうのは、私も聞いてるんですけど。一貫してブレてない、怯んでないところが内藤市長はすごいなと思って。微力ですけどなにか形にして。さっき入山先生が言った、うまくいってくると「『俺もそうだと思ったよ』おじさん」出てくるじゃないですか。

入山:(笑)。

石原:まあまあ反対してた人が「俺もそうだと思ったんだよ、石原ちゃん」みたいな。

入山:「前から応援してた」って言い出しますからね。

石原:でもこの人たちに怒ってもしょうがないんで「いやー、ありがとうございます。おかげさまです」って言って。さっき言った、男性も変わる恐怖がすごく日本は大きい。日本国内で見ると、大学を出てある程度の仕事に就いてらっしゃると、同種同族で同じ学校出たり、それが「正解」として称賛されてきたので。

マイノリティ経験をしてみることはもちろんですけど、そこ(マジョリティ=コンフォートゾーン)を「下りる、外れる」という感覚だったり、それ以外のものを受け入れるっていうのは、しなくてよかったから。それが、急にいろんな社会のルールが変わるわ、今までやってたことを“否”とされたようになり、恐怖を感じている。そのへんが私もいろんな企業さんと関わっていて、大きな矛盾を生んでいる要因だなと、常々感じるんですよね。